
勤怠管理システムの導入費を抑えたい飲食店へ|補助金3制度の対象・対象外の境界線
店舗が2つ、3つと増えていくと、シフト作成と打刻の集計が特定の店長に張り付いてしまい、月末になると営業以外の作業で数時間が消えていく——複数店舗を運営する飲食店で、よく聞くお悩みです。勤怠管理システムを入れて仕組みに変えたいけれど、初期費用と月額を考えると踏み切れない。そこで候補に挙がるのが補助金です。
ただ、飲食店向けの補助金記事は「IT導入補助金が使えます」で終わっているものが多く、実際に申請の段になると「自社の規模だと対象外だった」「勤怠管理システム単体では計画が通らなかった」とつまずくケースが少なくありません。この記事では、2026年7月時点で勤怠管理システムの導入に使える可能性がある3つの制度を整理し、1店舗・3店舗・5店舗のモデルケースでどれが筋になるかを当てはめていきます。制度・金額は改正されることがあるため、申請前には必ず最新の公募要領をご確認ください。
勤怠管理システムに使える可能性がある補助金は、大きく3つ
まず押さえておきたいのは、勤怠管理システムは「新しい売り物を作る投資」ではなく「既存の業務を効率化する投資」だという点です。この性格から、候補になる制度は次の3つに絞られます。
1. デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)
事務局に登録されたITツール(ソフト・クラウド等)を導入する投資を支援する制度で、勤怠管理システムのようなクラウドサービスとは最も相性の良い制度です。補助上限は通常枠が450万円、インボイス枠が350万円、複数者連携デジタル化・AI導入枠が3,000万円となっています。
対象経費はソフトウェア購入費とクラウド利用料(最大2年分)で、設定・研修・マニュアル作成・保守サポートといった導入関連費も含められます。月額課金のクラウド勤怠管理システムでも、利用料を2年分まで見られるのは実務上大きな意味があります。
注意したいのは、事務局に登録されたIT導入支援事業者(ベンダー等)の支援を受けて申請する前提であり、ツールも登録品が前提だという点です。「気に入ったサービスを先に契約してから補助金を探す」という順番では乗せられません。また、PC・タブレット等のハード単体購入は対象外です(対象ソフトとセットの類型で一部対象)。打刻用のタブレットを何台も揃えるつもりなら、この線引きは事前に確認しておいてください。
2. 中小企業省力化投資補助金(一般型)
人手不足や工程のムダを減らすための設備・システム導入を支援する制度で、補助上限は1億円と大きめです。ただし勤怠管理システムを主役に据えるには、要件のハードルが高くなります。
対象になるのは「オーダーメイド性のある設備」(ICT・IoT・AI・ロボット等を活用した専用設備等)とされ、単に汎用設備を単体で導入する事業は対象外です。省力化に資する汎用設備を複数組み合わせることでより高い省力化効果を生む場合や、導入環境に応じて周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能等が変わる場合は、汎用設備でもオーダーメイド設備とみなされます。設備投資が必須で、単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ入れる必要もあります。
さらに、3〜5年の事業計画を組み、労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす計画が求められます。賃上げ目標が要件で、未達の場合は達成率に応じて返還が発生しうる設計です。つまりこの制度は「勤怠管理システムを買う」ための制度ではなく、「現場の省力化を設計し直す」ための制度だとご理解ください。
3. 小規模事業者持続化補助金
販路開拓と、それとセットで行う業務効率化を支援する制度です。第20回公募では補助率2/3(賃金引上げ特例のうち赤字事業者は3/4)、補助上限は基本50万円で、インボイス特例で+50万円、賃金引上げ特例で+150万円、両特例の併用で最大250万円まで上乗せされます。
ただし対象は小規模事業者に限られ、飲食店が該当する商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)では、常時使用する従業員が5人以下であることが条件です。会社役員・個人事業主本人・同居の親族従業員・日雇い等はカウントしませんが、複数店舗を運営していると多くの場合この枠を超えます。
また「販路開拓」が主題の制度であり、社内の勤怠管理だけを目的にした申請は筋が通りにくくなります。申請には商工会・商工会議所の支援(事業支援計画書<様式4>の発行)とGビズIDプライムが必要です。
店舗規模別モデルケース3型|どの制度が筋になるか
制度の説明だけでは自社に当てはめにくいので、3つのモデルケースで考えてみます。
ケースA:1店舗・常時使用する従業員4名
個人経営に近い規模です。従業員5人以下という小規模事業者の要件を満たすため、小規模事業者持続化補助金が視野に入ります。ただし前述のとおり販路開拓が主題なので、「新メニューの認知拡大とEC販売の立ち上げ」といった販路開拓の取り組みが軸にあり、その運営を回すための業務効率化として勤怠管理システムを位置づける組み立てが現実的です。勤怠管理単体で申請しようとすると、計画の筋が弱くなります。
ケースB:3店舗・常時使用する従業員12名
複数店舗運営で最も多い規模帯です。従業員12名の時点で小規模事業者持続化補助金の対象からは外れます。省力化投資補助金(一般型)も、勤怠管理システム単体ではオーダーメイド性の要件を満たしにくいため、現実的な本命はデジタル化・AI導入補助金です。勤怠管理システムに加えて、シフト作成、給与計算連携、店舗間のスタッフ融通を含めた業務全体をひとつのITツール導入計画としてまとめられるかがポイントになります。
ケースC:5店舗・従業員30名/店舗オペレーション全体を作り替える
この規模になると、勤怠管理だけを切り出すより、セルフオーダー端末やモバイルPOS、券売機などを含めた省力化投資として設計する余地が出てきます。省力化に資する汎用設備を複数組み合わせて高い省力化効果を生む構成にできれば、省力化投資補助金(一般型)の土俵に乗る可能性があります。ただし労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす計画と賃上げ要件がセットで、未達時は返還がありうる点は必ず織り込んでください。「上限が大きいから」という理由だけで選ぶ制度ではありません。
なお、カタログに登録された省力化製品から選んで導入する中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)という選択肢もあります。こちらは補助上限1,500万円(大幅賃上げ計画を盛る場合)で、カタログ登録製品であることと、中小企業等が販売事業者と共同で申請すること(単独申請は原則不可)が前提です。導入したいシステムがカタログに載っているかどうかが、最初の分かれ目になります。
制度選びで外しやすい4つの落とし穴
落とし穴1:勤怠管理システム単体で省力化投資補助金(一般型)を狙う
繰り返しになりますが、単に汎用設備を単体で導入する事業は対象外です。単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つという要件を満たしていても、それだけでは足りません。複数設備の組み合わせなどでオーダーメイド性を示す事業計画が必要になります。
落とし穴2:従業員数のカウントで持続化補助金の対象を読み違える
飲食店は商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)に該当し、常時使用する従業員5人以下が条件です。2店舗目を出した時点で外れているケースは珍しくありません。制度を探す前に、自社がどちらの土俠にいるかを先に確定させてください。
落とし穴3:交付決定前に契約・発注してしまう
小規模事業者持続化補助金では、交付決定日前に行った発注・契約・支払は対象外です。採択通知だけでは事業を開始できません。システムの営業担当から「今月中の契約なら初期費用無料」と言われても、補助金を使う前提なら順番を崩さないことが最優先です。
落とし穴4:スケジュールの逆算をしていない
小規模事業者持続化補助金の第20回公募は、申請受付開始が2026年11月5日(木)、事業支援計画書(様式4)発行の受付締切が2026年12月4日(金)、申請受付締切が2026年12月15日(火)17:00です。様式4は受付締切以降の発行依頼はいかなる理由でも不可とされているため、商工会・商工会議所への依頼は余裕を持って進める必要があります。
申請前に整理しておきたい3つのこと
制度選びの前に、次の3点を自社で言語化しておくと、専門家への相談も申請書づくりも一気に進みます。
- いま何時間が消えているか:シフト作成・打刻集計・給与計算への受け渡しに、誰の時間が月何時間使われているかを店舗別に洗い出します。省力化の効果を数字で示す土台になります。
- 投資の主役はどれか:勤怠管理システムだけなのか、POSやセルフオーダーを含む店舗オペレーション全体なのか。ここが決まると候補の制度は自然に絞られます。
- いつまでに動かしたいか:公募の締切と交付決定のタイミングから逆算し、契約・発注の時期を決めます。
なお、労働時間の管理方法や就業規則・各種届出といった労務手続きそのものについては、社会保険労務士の専門領域になります。システムの導入と並行して運用ルールを整えたい場合は、社会保険労務士へご相談ください。V-Spiritsグループには各分野の専門家が在籍しており、補助金の制度選びと合わせてご案内できます。
よくある質問
Q. すでに使っている勤怠管理システムの月額利用料も対象になりますか?
デジタル化・AI導入補助金の対象経費はクラウド利用料(最大2年分)とされていますが、いずれの制度も交付決定前に契約・支払を済ませたものは対象外になるのが原則です。既存契約の継続分を後から補助対象に含めることは想定されていないとお考えください。
Q. 複数の補助金を同時に使えますか?
同一の経費に複数の補助金を重ねて充てることはできません。ただし、投資の中身を分けて別々の制度に申請すること自体は制度上あり得ます。どこまでを1つの事業として括るかで判断が変わるため、計画段階での整理が重要です。
Q. 補助金は導入時にもらえますか?
補助金は原則として後払いです。事業を実施し、実績報告を経てから入金されます。導入費用はいったん自社で立て替える必要があるため、資金繰りの計画も併せて組んでおくと安心です。
まとめ
飲食店が勤怠管理システムを導入する際に候補となるのは、デジタル化・AI導入補助金、中小企業省力化投資補助金(一般型・カタログ注文型)、小規模事業者持続化補助金です。1店舗・従業員5人以下なら販路開拓と組み合わせた持続化補助金、3店舗規模ならITツール導入としてのデジタル化・AI導入補助金、5店舗規模で店舗オペレーション全体を作り替えるなら省力化投資補助金という順に、投資の主役と事業規模で自然に絞り込めます。
制度ごとに対象外の線引きと申請の前提条件が異なり、順番を間違えると補助対象から外れてしまいます。本記事の情報は2026年7月時点のものです。申請にあたっては最新の公募要領を確認し、迷ったら早めに専門家へご相談ください。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























