
飲食店のキャッシュレス決済導入に補助金は使えるか|制度側の金額の線で判定する
カードやスマートフォンのコード決済に対応したい、と考えて調べ始めると、「キャッシュレス導入に使える補助金◯選」という記事がいくつも出てきます。ところが自分の見積を当てはめようとすると、どれが自分の店の話なのか分からなくなります。決済端末そのものは数万円規模で手配できてしまうのに、記事に並ぶ制度の上限額は数百万円から数千万円だからです。
この記事では、制度の一覧をもう一度並べ直すのではなく、制度側があらかじめ決めている「金額の線」を先に置き、開業して間もない小規模な飲食店の投資額がその線のどちら側に来るのかで判定していきます。数字はすべて執筆時点(2026年8月)の公募要領にもとづくもので、回次が変われば動きます。
「キャッシュレス補助金」という名前の制度は存在しない
最初に前提を一つ。国の制度に「キャッシュレス決済導入補助金」という名前のものはありません。過去にあった国のキャッシュレス関連事業は消費税率引き上げに伴う期間限定の措置で、いまも同じ名前で検索すると終了した制度の解説にたどり着きます。
いま使えるのは、目的の広い制度に決済まわりの投資を乗せていく形です。乗せ先の候補は、小規模事業者持続化補助金、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)、中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)あたりになります。名前から探すと止まってしまうので、投資の金額と目的から絞るほうが早く着きます。
💬 執筆者の三浦から一言
事務局で申請書を見ていた立場から言うと、制度名から入った相談は遠回りになりがちです。補助金は投資の規模と目的で絞るほうが早く、数十億円なら大規模成長投資、250万円までなら持続化、ツール導入ならデジタル化・AI導入という順に候補が決まります。決済の話も、まず金額を置いてから制度名を当てはめてください。
下限の線は100万円と750万円。端末だけの投資は土俵に乗らない
補助金には上限額だけでなく補助下限があります。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は2026年度に制度が統合され、枠ごとに下限が設定されています。公募要領1.0版(令和8年6月)によれば、革新的新製品・サービス枠の補助下限は100万円、新事業進出枠の補助下限は750万円です。
決済端末を数台入れる、レジと一体になった機種に入れ替える、という投資はこの線に届きません。届かない投資は審査で落ちるのではなく、そもそも申請の土俵に上がらないという扱いになります。上限額の大きさに目が行きがちですが、小規模な投資ほど効いてくるのは下限の側です。
なお、この2つの枠は上限額も「最大」の値である点に注意してください。革新的新製品・サービス枠の3,500万円、新事業進出枠の9,000万円は、いずれも最大の従業員規模で大幅賃上げ特例を適用した場合の数字で、実際の上限は従業員規模により異なります。革新的新製品・サービス枠なら従業員5人以下で750万円が上限です。
規模が合うのは持続化補助金。ただし3本の線を越える必要がある
投資額の規模から見て候補に残るのが小規模事業者持続化補助金です。第20回公募(公募要領 第7版・2026年5月27日公開)の条件では、補助率は3分の2、補助上限は基本50万円。インボイス特例で50万円、賃金引上げ特例で150万円が上乗せされ、両方の要件を満たすと最大250万円になります。数十万円規模の投資と噛み合う数字です。
ただしこの制度には、飲食店が引っかかりやすい線が3本あります。
1本目は対象者の線です。持続化補助金の対象は小規模事業者に限られ、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は常時使用する従業員が5人以下という基準です。飲食店はこの区分に入ります。会社役員・個人事業主本人・同居の親族従業員・日雇いはカウントしませんが、常時使用する従業員が基準を超えていれば、その時点で対象から外れます。
2本目は経費区分の線です。第20回では、広報費の補助金交付申請額に30万円(税込)の上限が設けられ、広報費のみの申請はできません。ウェブサイト関連費も同じく30万円(税込)の上限があり、単独では申請できません。決済まわりの案内物や告知ページだけを積み上げる組み立て方は成立しない、ということです。
3本目は主題の線です。持続化補助金は販路開拓が主題で、通常の営業活動の範囲と見なされると対象外になりやすい制度です。事業効果の報告時に売上高・売上総利益の増加が見込める事業であることも求められます。決済手段を増やすこと自体を目的に据えるのではなく、新しい客層や販売のかたちにどうつながるのかを、自分の経営計画の言葉で書けるかどうかが分かれ目になります。
ツール導入として通すなら、デジタル化・AI導入補助金の枠を見る
会計や受発注、決済といった業務のデジタル化を主題に置くなら、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)が候補になります。補助上限は通常枠450万円、インボイス枠350万円、複数者連携の枠で3,000万円という設定です。
この制度の特徴は、入口が製品の側に置かれていることです。事務局に登録されたツールを、事務局に登録された支援事業者と組んで導入することが前提となっており、対象はソフトウェア購入費やクラウド利用料(最大2年分)、設定・研修・保守などの導入関連費が中心です。ハードウェアは、対象ソフトとセットになる類型で一部が対象になり、類型ごとに上限が設定されています。端末だけを単体で買う話にすると、対象の外に出ます。
言い換えると、この制度を使うかどうかは、店側が「どの機械を買うか」ではなく「候補の製品が登録されているか、その販売元が登録された支援事業者か」で先に決まります。見積を取る前に、取引先に登録の有無を確認しておくほうが手戻りが少なくて済みます。
💬 執筆者の三浦から一言
制度選びの陰で抜けやすいのが、交付決定前の契約・発注・支払は対象外という共通の決まりです。決済端末は申し込めば短期間で届いてしまうため、他の設備投資より先に手配が終わってしまいます。導入を急ぐ事情があるなら、補助金に乗せる部分と自費で進める部分を最初に分けておくと、あとで困りません。
省力化投資補助金(カタログ注文型)を検討するときの条件
人手不足への対応を主題にするなら、中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)も候補に挙がります。補助上限は大幅賃上げ計画を盛る場合で1,500万円です。
この制度も入口が製品の側にあります。公的に登録された省力化製品をカタログから選ぶことが前提で、中小企業が販売事業者と共同で申請する形になり、単独申請は原則できません。加えて、省力化投資によって労働生産性(付加価値を従業員数で割った値)を年平均成長率3.0パーセント以上向上させる計画が求められ、計画未達時には減額の規定があります。賃上げ目標を盛り込むと上限枠は広がりますが、未達なら同じく減額の対象です。
決済のスピードを上げる投資が、この労働生産性の指標にどう効くのかを数字で書けるかどうかが判断の分かれ目になります。人の作業がどれだけ減るのかを説明しにくい場合は、無理にこの制度へ寄せず、他の候補を先に検討したほうが計画は組みやすくなります。
金額以外にも線がある:時間と支払い方
最後に、金額の線と並べて確認しておきたい手続き上の線をまとめます。いずれも持続化補助金の公募要領(第20回)で明記されているものです。
- 時間の線:交付決定日前に行った発注・契約・支払は対象外です。採択の通知だけでは事業を開始できません
- 相見積の線:単価50万円(税抜)を超える機械装置等、50万円(税込)を超える発注は、2者以上の相見積が求められます
- 支払い方の線:支払は銀行振込が原則で、1取引10万円(税抜)を超える現金払いは認められません
- 日程の線:第20回は申請受付開始が2026年11月5日、事業支援計画書(様式4)の発行受付締切が12月4日、申請受付締切が12月15日17時、採択発表は2027年3月頃の予定です
様式4は商工会・商工会議所が発行するもので、受付締切以降の発行依頼はいかなる理由でも受け付けられません。申請そのものの締切より2週間近く手前に、窓口側の締切があるという構造です。
まとめ:判定は「下限」「対象者」「時間」の順で
飲食店のキャッシュレス決済導入に補助金を使えるかどうかは、次の順で見ていくと短時間で判定できます。
- 投資の総額が100万円・750万円という補助下限に届くか。届かないなら大型の枠は候補から外れます
- 常時使用する従業員が5人以下か。持続化補助金の対象者要件を満たすかどうかで、規模の合う候補が残るかが決まります
- 導入を交付決定日より後ろに置けるか。置けないなら、その部分は自費と割り切る判断になります
制度の区分や要件は公募回次ごとに見直されます。ここに挙げた数字は執筆時点のもので、申請前には最新の公募要領で確認してください。自店の見積をどの制度に当てはめるか、経費区分をどう割り振るかで迷う場合は、計画の組み立て段階から専門家に相談すると判断が早くなります。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























