
飲食店が製造業へ進出するときの補助金|営業許可と申請の順番を4ステップで整える
店で出しているケーキや惣菜を、持ち帰り用に袋詰めして売りたい。近隣のスーパーや直売所に卸したい。そう考えて調べ始めると、菓子製造業許可やそうざい製造業許可という言葉と、補助金の情報が同時に出てきます。ところが、この2つを別々に調べると、着工の順番を間違えて補助金が使えなくなる形になりがちです。
飲食店営業許可のまま製造・包装して外に売ることはできないため、施設を作り替える工事や機械の購入が先に必要になります。一方で補助金の側には「交付決定より前に発注・契約したものは対象外」という共通のルールがあります。この記事では、制度の一覧比較ではなく、許可と申請をどの順番で並べるかを4つのステップに整理します。
ステップ1:どの「進出」に当たるのかを先に決める
最初に決めるのは、投資額でも制度名でもなく、自社の取り組みが制度上どの類型に当たるかです。ここで入口が分かれます。
新事業進出枠が向くケース
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠は、既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する枠です。新たに製造・提供する製品等が申請者にとって新規性を有し、かつその市場が申請者にとって新たな市場であることが求められます。日本初・世界初である必要はなく、申請者にとっての新規性という考え方です。
ただし公募要領は、既存事業と同一市場、既存製品の増産・再製造、単なる製法変更、単なるメニュー追加、単に商圏が違うだけといったものは「新事業進出」に該当せず対象外としています。店内の商品をそのまま容器に詰めて店頭で売るだけ、という組み立て方では入口に立てません。小売店やスーパーへの卸に踏み出す、通信販売という別の販路を立てるといった形で、売る相手が変わることを説明できるかが分かれ目です。なお、この枠は新規設立・創業後1年に満たない事業者が対象外で、最低1期分の決算書が必要になります。
革新的新製品・サービス枠が向くケース
革新的新製品・サービス枠は、自社の技術力等を活かして顧客等に新たな価値を提供する新製品・新サービスを開発する取組が対象で、既存の販路のなかで新しい商品を作り出す場合に筋が通りやすい枠です。ただし、単なる設備・システム導入、既存製品・サービスの生産プロセス改善、同業で既に相当程度普及している開発は対象外です。機械を入れて同じものを速く多く作る、という書き方では通りません。
小規模事業者持続化補助金が向くケース
小規模事業者持続化補助金は、販路開拓とそれにセットで行う業務効率化を支援する制度で、商工会・商工会議所の伴走支援を受ける前提の設計です。包装資材の試作やパッケージ設計、ウェブ販売の立ち上げが中心ならこちらが現実的です。ただし従業員数の上限があり、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は常時使用する従業員5人以下、製造業その他は20人以下です。どちらの業種で判定されるかで人数が変わるため、申請前に窓口で確認する形になります。
ステップ2:投資額を出して、補助下限に届くかを確認する
類型が決まったら、見積の総額を概算します。補助金は上限額だけが話題になりますが、実務では下限で落ちる形のほうが起こります。
新事業進出枠の補助下限は750万円、補助上限は従業員1〜20人で2,500万円、21〜50人で4,000万円、51〜100人で5,500万円、101人以上で7,000万円です。大幅賃上げ特例を適用すると各3,000万円・5,000万円・7,000万円・9,000万円になります。よく目にする9,000万円は、最大の従業員規模かつ特例適用時の最大値です。
革新的新製品・サービス枠の補助下限は100万円、補助上限は1〜5人で750万円、6〜20人で1,000万円、21〜50人で1,500万円、51人以上で2,500万円(特例適用時は各850万円・1,250万円・2,500万円・3,500万円)です。補助率はいずれも中小企業者で2分の1、革新枠の小規模企業・小規模事業者・再生事業者は3分の2です。小規模事業者持続化補助金は補助率3分の2、補助上限は基本50万円で、特例の要件を満たす場合の上乗せを含めて最大250万円です。
対象になる経費区分にも差があります。新事業進出枠は機械装置・システム構築費または建物費のいずれかが必須で、建物費が対象になるのはこの枠だけです(建物の単なる購入・賃貸は対象外)。革新的新製品・サービス枠は機械装置・システム構築費が必須かつ主軸で、単価10万円(税抜)以上という条件が付きます。
💬 執筆者の三浦から一言
事務局で申請書を見ていた立場から言うと、上限額から制度を選ぶ方ほど下限額を見落とします。新事業進出枠は補助下限が750万円なので、加工場を小さく始めるほど枠から外れていきます。投資を小さく抑える判断と、その枠を使う判断は同時には成り立ちません。どちらを優先するかを先に決めておくと迷いが減ります。
ステップ3:許可のための工事と「交付決定前の発注」を突き合わせる
ここが、飲食店の製造業進出でいちばん順番を間違えやすい部分です。
飲食店営業許可と、菓子製造業許可・そうざい製造業許可は別の許可で、それぞれに施設基準が定められています。保健所の施設検査は設備を設置したあとに受ける流れで、既存の厨房を転用できるかは施設ごとに判断が変わります。着工前に管轄の保健所へ図面を持ち込んで事前相談を受ける形が一般的です。許可の要否や区分の判断そのものは行政書士の業務領域にあたるため、判断が割れそうなときは専門家にご相談ください。
問題は、この工事と補助金の時間軸が逆を向いていることです。新事業進出枠・革新的新製品・サービス枠のいずれも、国・公的制度との二重受給、交付決定前の発注・契約・購入は対象外とされています。小規模事業者持続化補助金でも、交付決定日前に行った発注・契約・支払は対象外で、採択通知だけでは事業を開始できません。つまり、許可を取りたい一心で先に工事契約を結ぶと、その工事費も機械代も補助の対象から外れます。
実務上は、次の順番になります。
- 保健所に事前相談し、必要な施設改修と機械の内容を固める
- その内容で見積を取り、事業計画を作って補助金に申請する(見積の段階では契約しない)
- 採択後、交付決定の通知を受ける
- 交付決定後に工事と機械を発注し、施工する
- 設備が整ってから営業許可を申請し、施設検査を受ける
この流れをたどると、申請から営業開始まで相応の期間がかかります。開店日は先に固定せず、公募スケジュールから逆算して置く形にしてください。
ステップ4:公募の締切から逆算して申請時期を決める
制度ごとに公募の時期が違うため、どれを狙うかで動き出す時期も変わります。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募は、2026年6月29日に公募が開始され、申請受付は2026年8月31日から、締切は2026年10月30日18時、採択発表は2027年1月頃です。電子申請で、GビズIDプライムの取得が前提になります。
小規模事業者持続化補助金の第20回公募は、申請受付開始が2026年11月5日、締切が2026年12月15日17時です。見落とされやすいのが、商工会・商工会議所が発行する事業支援計画書(様式4)の受付締切が2026年12月4日に設定されていることです。この締切以降の発行依頼は、いかなる理由でも受け付けられません。申請締切の日付だけを見て動くと、必要書類が揃わない形になります。
補助事業の実施期間にも差があり、革新的新製品・サービス枠は交付決定日から10か月以内、新事業進出枠は交付決定日から14か月以内です。工事と機械の納品、許可の取得、稼働開始までをこの期間に収める設計にしてください。
💬 執筆者の三浦から一言
相談でよく聞かれるのが「いつ申請すればいいですか」という質問です。制度ごとに公募の時期がずれているので、許可がいつ取れそうかを起点に考えると締切に間に合わない形になります。狙う制度を先に1つ決めて、その締切から逆算して保健所への事前相談の時期を置く。この順で並べると全体が動きます。
申請前に確認しておきたい項目
- 売る相手が変わるのか商品が変わるのか、どちらを主軸にするかを決めたか
- 直近の決算が1期分そろっているか(新事業進出枠を狙う場合)
- 見積の総額が、狙う枠の補助下限を上回っているか
- 保健所への事前相談を、工事の契約より前に済ませているか
- 交付決定の通知を受けるまで、発注・契約・支払をしない段取りになっているか
- GビズIDプライムの取得を申請までに終える予定になっているか
- 実施期間内に、工事・納品・許可取得・稼働までが収まるか
なお事業計画は申請者自身が作成することが求められており、外部への丸投げは不採択・取消の対象とされています。
まとめ
飲食店が菓子製造業・そうざい製造業へ広がるときの補助金は、制度を比べる前に順番を決めるところから始まります。①店内提供の延長なのか販路そのものが変わるのかで枠を決める、②見積の総額が補助下限に届くかを確認する、③保健所への事前相談を先に、工事の発注は交付決定後に置く、④公募の締切から逆算して開店日を置く、という4つです。
特に③は、いったん契約すると後から取り返しがつきません。どちらを優先するかを決めたうえで、開店日のほうを動かす前提で組み立ててください。
ここで挙げた数字や日程は2026年度の公募要領時点のものです。制度の改定や公募回次によって変わるため、申請時は必ず最新の公募要領で確認してください。自社の投資がどの枠に當たるか判断がつかない場合は、見積を取る前の段階でご相談ください。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
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