
動物病院の入院室・ICU整備、補助金は工事と機器で扱いが変わります
入院できる頭数を増やしたい、夜間も預かれる体制を作りたい。動物病院の院長先生からは、こうした設備投資に補助金が使えるかというご相談をいただきます。先に結論をお伝えすると、「入院室の整備一式」という単位で出る補助金は、国の制度には見当たりません。ただし同じ投資でも、建物に手を入れる部分と、機器やシステムを入れる部分に分けて考えると、後者には届く制度があります。ここでは2026年度の制度をもとに、よくいただく質問の順に整理していきます。
Q1.入院室やICUの整備に、そのまま使える補助金はありますか
「入院設備を整えるための補助金」という名前の制度はありません。国の補助金は、建物を建てることではなく、事業者の生産性が上がる投資を後押しする設計になっているためです。
そこで実務では、見積書を次の3つに分けるところから始めます。
- 建物に手を入れる部分(増築、間仕切り、床・壁の改修、給排水や電気の工事)
- 機器を入れる部分(酸素室、輸液ポンプ、生体モニター、保温ユニット、観察用カメラ)
- システムを入れる部分(入院管理や記録、アラート通知などのソフト・クラウド)
この3つは、それぞれ乗る制度が違います。まとめて1つの制度に載せようとすると、対象外の経費が混ざったまま申請することになり、審査の途中で説明が行き詰まります。
Q2.増築して入院室を広げる工事は対象になりますか
建物を増やす方向の工事は、対象から外れやすい部分です。小規模事業者持続化補助金では、建物の増築・増床や「不動産の取得」にあたる工事は対象外になりやすく、外気分断性・土地への定着性・用途性の3つの要件で判定されます。屋外に新しく箱を作るような工事は、この3要件をそろって満たしてしまうため、判断としては厳しい側に振れます。
一方で、既存の院内を作り替える改装工事は、同じ制度の委託・外注費として対象になり得ます。店舗改装やバリアフリー化の工事が、対象経費の例として挙げられているためです。「増やす工事」か「作り替える工事」かで、入口が変わると考えてください。
中小企業省力化投資補助金(一般型)の側から見ると、対象経費の柱は機械装置・システム構築費です。工事にあたる費用が入る余地は、機器の導入と一体になった軽微な据付や改良までにとどまります。壁を動かす規模の工事を、この制度に載せるのは難しいと考えるのが現実的です。
Q3.酸素室や生体モニターなどの機器は対象になりますか
機器側は、制度に乗せられる可能性がある部分です。中小企業省力化投資補助金(一般型)は、単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ入れることが要件で、補助上限は1億円です。
ただし金額の条件を満たすだけでは足りません。この制度が対象とするのは「オーダーメイド性のある設備」で、汎用の設備を単体で入れるだけの事業は対象外とされています。オーダーメイド性は、次のいずれかに当てはまれば認められます。
- 省力化に資する汎用設備を複数組み合わせて、より高い省力化効果や付加価値を生み出す場合
- 導入する環境に応じて、周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能などが変わる場合
入院室でいえば、生体モニターを1台買って終わりではなく、複数のケージに設置したモニターと記録・通知の仕組みを組み合わせ、観察の手順そのものを変える構成にする、といった組み立てになります。記録や通知のソフト側が中心になる投資であれば、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)が合う場合もあります。こちらは登録されたITツールを、登録支援事業者と組んで導入する前提の制度です。
Q4.「入院頭数を増やしたい」という理由で申請できますか
この理由の立て方は、省力化の制度とは相性がよくありません。中小企業省力化投資補助金(一般型)は、既存事業の省力化・生産性向上を主題にした制度で、3〜5年の事業計画で労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす計画が求められます。賃上げの目標も要件に含まれ、未達の場合は達成率に応じた返還が生じ得ます。
「規模を増やす」という説明は、この計画の形に落ちにくいものです。同じ投資でも、夜間の見回りや観察記録、投薬のタイミング管理といった作業が、機器の導入でどう変わるのかを軸に置くと、制度の趣旨と噛み合います。頭数が増えるのは結果であって、申請書の主語ではありません。
なお、これまで扱っていなかった診療領域に踏み出す投資が主役であれば、省力化の枠ではなく別の制度を検討する流れになります。その場合は補助下限額や新規性の判定が絡むため、投資の中身を決める前に、どの制度で組むかを先に相談されることをお勧めします。

💬 執筆者の三浦から一言
事務局で申請書を見ていた立場から言うと、入院室まわりの見積は一枚に色々なものが載ってきます。診療に使う機器と、記録用の端末や事務用の備品のような汎用品が同じ行に並んでいると、どこまでが対象なのかの確認に時間がかかります。汎用品は基本的に補助の対象になりませんので、見積を依頼する段階で行を分けてもらうと、あとの説明が短く済みます。
Q5.小規模な院ですが、持続化補助金は使えますか
小規模事業者持続化補助金は、対象になる事業者の範囲が従業員数で決まります。商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)は、常時使用する従業員が5人以下です。会社役員や個人事業主本人、同居の親族従業員、日雇いなどは人数に数えません。
補助率は3分の2、補助上限は50万円が基本で、インボイス特例で50万円、賃金引上げ特例で150万円が上乗せされ、両方の要件を満たすと最大250万円になります。赤字事業者が賃金引上げ特例を使う場合の補助率は4分の3です。ただし上乗せ部分だけでなく、通常枠や特例の要件を1つでも満たさないと全体が交付対象外になります。
手続き面では、GビズIDプライムのアカウントと、商工会・商工会議所が発行する事業支援計画書(様式4)が前提になります。第20回公募のスケジュールは、申請受付開始が2026年11月5日、様式4の発行受付締切が2026年12月4日、申請締切が2026年12月15日17時です。様式4は受付締切を過ぎるとどのような理由でも発行されないため、窓口への相談は締切から逆算して動くことになります(2026年5月27日公開の公募要領第7版時点)。
Q6.「保険診療は対象外」という記載は、動物病院にも当てはまりますか
人の医療機関向けの解説を読んで、この一文で申請をあきらめてしまう先生がいらっしゃいます。持続化補助金の対象外経費には確かに「保険適用診療にかかる経費」が明記されており、薬局や整骨院、鍼灸院などが保険診療で使う機械や、保険診療の宣伝を兼ねるチラシが例として挙がっています。これは国が助成するほかの制度、つまり公的医療保険と経費が重複するためです。
動物の診療は公的医療保険の対象ではないため、この重複という考え方はそのままは当てはまりません。対象外となる事業者の形態として挙げられているのも、医師・歯科医師・助産師と医療法人であり、獣医師や動物病院は列挙に含まれていません。とはいえ個別の経費が対象になるかは公募回や事業の中身で変わりますので、申請前に最新の公募要領で確認する前提でお考えください。
申請の前に決めておきたい4項目
- 投資の目的を1つに絞る。「人手を減らす」のか「新しい診療を始める」のかで、乗る制度が変わります。
- 建物工事と機器・システムの境目を先に引く。Q1の3分割を、設計や施工の打ち合わせの段階で共有しておきます。
- 交付決定の前に発注しない。採択の連絡があっても、交付決定前の契約・発注・支払は対象外です。工事は業者の日程が先に決まりやすいため、ここで外れる例が出ます。
- 生産性の説明を数字で書けるようにする。夜間の見回り回数、記録にかかる時間など、導入前の状態を先に測っておくと計画が書きやすくなります。
まとめ
入院室・ICUの整備は、動物病院の投資のなかでも建物と機器が混ざりやすい領域です。増築にあたる工事は制度の対象から外れやすく、機器やシステムの側は、組み方しだいで中小企業省力化投資補助金(一般型)やデジタル化・AI導入補助金の対象になり得ます。小規模な院であれば、小規模事業者持続化補助金で改装や備品の一部を賄う組み立ても考えられます。制度ごとの要件は公募回で変わりますので、投資の中身を固める前に、どの制度で申請するかを決めておくと手戻りが減ります。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























