
飲食店の独立時に採用人数と人件費を売上計画へ落とし込む考え方
店長経験者として独立を考え始めた方から、こんなご相談をよくいただきます。
💬 店長経験者の方からのご相談
独立後は自分を含めて3〜4人で店を始めたいと思っています。現場経験上、人が少なすぎるとサービスが回らないことは分かりますが、最初から正社員を雇うと売上が伸びる前から人件費が固定で出ていきます。採用人数や雇用形態は、売上計画と資金繰りにどう落とし込めばいでしょうか?

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。
小峰からの回答
結論から言うと、採用人数は「人数」から決めるのではなく、営業時間と必要な工数から逆算して決めます。そのうえで、開業時から固定で持つ人数と、売上の立ち上がりを見て後から足す人数に分けておくと、サービス品質と人件費リスクの両方に備えやすくなります。信用金庫で融資を出す側にいたころは、人件費が売上の推移と結びついて説明されているかを、資金繰りの筋が通っているかを見る一つの材料にしていました。
ステップ1:営業時間と必要工数から要員計画を組む
最初にやるのは、1日の営業を回すのに何人時(人数×時間)が要るかを書き出すことです。式にすると次のとおりです。
- 1日の必要工数=時間帯ごとの必要人数×その時間帯の長さ、を全部足したもの
- 月の必要工数=1日の必要工数×月の営業日数
- スタッフに頼む工数=月の必要工数−オーナー自身が入る時間
ここでは仮の数字で流れを見てみます。あくまで仕組みを示すための仮置きで、相場ではありません。仮に、仕込みから閉店作業まで含めて1日10時間の稼働で、ピークの3時間は3人、残りの7時間は2人が要るとします。1日の必要工数は3時間×3人+7時間×2人で23人時です。オーナーが毎日10時間入るなら、スタッフに頼むのは13人時になります。月の営業日数が26日なら338人時です。
この338人時を、誰がどの形で埋めるかを考えるのが採用計画です。質問にある「自分を含めて3〜4人」という人数は、この工数を埋めた結果として出てくるものです。先に人数を決めてから工数に合わせようとすると、ピークに人が足りない、あるいはアイドルタイムに人が余る、といったズレが起きやすくなります。
ポイントは、時間帯ごとに必要人数を分けて考えることです。ピークだけ3人必要な店と、終日2人で足りる店では、同じ営業時間でも工数が大きく変わります。店長として現場を見てきた方は、この時間帯ごとの人の動きを具体的に想像できる強みがあります。席数、メニューの提供オペレーション、仕込みの分担から、時間帯別の必要人数を実感ベースで書き出してみてください。
ステップ2:工数を人件費に換算し、売上と並べる
工数が出たら、人件費に換算します。
- 月の人件費=スタッフに頼む工数×平均の時間単価+給与に連動して支払いが発生する費用
- 人件費の負担感=月の人件費÷その月の売上
時間単価は、募集する地域の条件や求める役割で変わります。求人媒体や周辺の飲食店の募集条件を見て、自分の店の条件として置いてください。給与に連動して発生する社会保険料などの支払いは、発生するタイミングを資金繰り表に織り込んでおく、という位置づけで押さえます。金額の計算や手続きは社会保険労務士や税理士の領域なので、ここでは踏み込みません。
大事なのは、人件費を1本の数字で置かず、月ごとの売上計画の隣に並べることです。開業月から数か月は、お店の認知が広がる途中なので、売上は計画の満額に届かない月も出てきます。一方で必要工数の大半は、営業時間を開けている以上、売上の大小にかかわらず必要です。この「売上に連動しない部分」と「連動させられる部分」を分けると、次の採用時期の判断がしやすくなります。
ステップ3:固定で持つ人数と、後から足す人数に分ける
雇用形態は、資金繰りの観点では「固定費になりやすいか、調整しやすいか」の違いとして捉えると整理できます。
- 月給で契約する働き方:毎月ほぼ一定額の支払いが続くため、固定費として見る。営業が回る最低ラインに絞って置くのが基本
- 時間給でシフトを組む働き方:働いた時間に応じて支払いが変わるため、客数の波に合わせて調整しやすい。ただし調整には限度があり、ピークの戦力を確保できる人数は別に考える
雇用契約の内容や社会保険の加入の考え方など、労務の具体的な取り決めは、社会保険労務士に確認してください。ここで押さえたいのは、資金繰りの観点でどちらが重いか、という一点だけです。
あわせて、開業時に固定で持つ人数の決め方も、工数から考えます。オーナー1人と、営業時間の大半を支える核のスタッフ1人だけを固定枠に置き、ピークの工数は時間給のスタッフで埋める、という組み方が一つの例です。この場合、売上が想定を下回った月でも、固定で出ていくのは核の1人分に抑えられます。ただし、これは考え方の一例です。席数や業態、仕込みの重さによって、最適な組み方は店ごとに変わります。
ステップ4:売上の立ち上がりに合わせて、採用時期のルールを決める
採用時期は、気分や忙しさの感覚ではなく、事前に決めた基準で動かすと迷いません。売上計画が月ごとに立ててあれば、次のように使えます。
- 売上が計画のどの水準を何か月続けて超えたら、1人増やすかを、開業前に決めておく
- 増員した後の月次の人件費が、売上に対して重くなりすぎないかを、先に試算しておく
- 反対に、売上が計画を下回り続けた場合は、時間給のシフトを減らす、営業時間を見直す、といった調整の手順を先に決めておく
基準の数字は、店の業態や家賃、原価の構成で変わるので、一般的な目安は置きません。自分の損益分岐点から逆算して決めるのが筋です。損益分岐の売上は、固定費÷(1−変動費率)で求めます。このとき、固定で持つ人件費は固定費に入れ、時間給で調整できる分は変動費側に入れて考えます。こうすると、固定枠を1人増やすと損益分岐が上がる、ということが数字で見えるようになります。
「人が少なすぎるとサービスが回らない」という現場感覚は正しいです。ただ、開業直後に必要なのは、ピーク時の品質を守れる人数であって、将来の繁盛を見込んだ人数ではありません。立ち上がりの見通しが外れたときにも耐えられるように、増員は売上の実績を確認してから行う形にしておくと、資金繰りが崩れにくくなります。
ステップ5:立ち上がり期間の人件費を、運転資金に含めて資金繰りを組む
開業から売上が計画に届くまでの間は、人件費や家賃などの支払いが先に出ていきます。売上があっても手元の現金が足りなくなり、店を続けられなくなるケースは飲食店でも起こり得ます。立ち上がり期間の月次の収支を試算し、赤字になる月の分は、事前に用意する運転資金で賄えるようにしておきます。
従業員の給与は、事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。日本政策金融公庫の創業融資でも、人件費は運転資金として資金使途に計上できます。そのため、採用計画を作ったうえで、開業から数か月分の人件費を運転資金として資金計画に入れておくと、計画全体の整合が取れます。資金使途はあくまで事業に必要な支出であることが前提なので、個別の支出が認められるかどうか迷う場合は、申込先や専門家に確認しながら整えてください。
金融機関側から見ると、「人が増える月にいくら出ていくか」が月次の資金繰りで確認できる計画書は、説明の一貫性が伝わります。人件費だけが別枠で曖昧なまま、売上と家賃と原価だけが並んでいる計画書よりも、人件費の根拠が工数から説明できるほうが、面談でも答えやすくなります。
まとめ
採用は、営業時間と必要工数から要員を組み、固定で持つ人数と後から足す人数に分け、増員の基準を売上の実績で決めておく、という順序で考えると、サービス品質と人件費リスクを両立させやすくなります。まずは時間帯ごとの必要人数を書き出し、月の工数を計算するところから始めてみてください。
工数の出し方、月次の人件費と売上の並べ方、増員の基準の決め方は、一人で数字を組むと抜けが出やすい部分です。当社では、人件費計画や月次予算の作り方といった数字の組み立て方から、専門家と一緒に進められる相談窓口を設けています。計画を作るのはご自身で、その判断を裏付ける数字の整え方を一緒に確認していく形です。
【無料相談のご案内】
融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























