
認可外保育園の自己資金に「3分の1」という決まりはありません|数え方と見られ方
認可外保育園の開設を考えて資金の情報を集めていると、「自己資金は総額の3分の1くらい必要」という表現によく出会います。この数字を手元の預金と見比べて、そこで検討が止まってしまうことがあります。
ただ、この「3分の1」は制度が定めた要件ではありません。日本政策金融公庫の現行の創業融資では、自己資金の額や割合の要件そのものが決められていないためです。この記事では、その目安がどこから来たのかを整理したうえで、認可外保育園の自己資金を実際にどう数え、面談でどう見られるのかを4つの手順に分けて説明します。数字は2026年8月時点で確認できる情報に基づいています。
「自己資金は3分の1」という目安はどこから来たのか
かつて日本政策金融公庫には「新創業融資制度」という無担保・無保証の特例制度があり、そこに自己資金要件が設けられていました。この制度は2024年3月に廃止されています。現在の主力は「新規開業・スタートアップ支援資金」で、2024年3月までは「新規開業資金」という名称でした。
そして現行制度では、自己資金の額や割合について制度上の要件は決まっていません。ネット上に残る「10分の1」「3分の1」といった数字は、廃止された制度の要件や、書き手の経験則が独り歩きしたものです。
とはいえ、自己資金が審査でまったく見られないわけではありません。自己資金の額は審査の重要な判断材料で、多いほど有利になりやすいという関係は残っています。要件ではないけれど材料ではある、という位置づけを押さえておくと、以降の準備の考え方が変わってきます。
💬 執筆者の小峰から一言
自己資金は総額の10分の1、という数字を挙げてご相談に来られる方がいます。これは2024年3月に廃止された新創業融資制度の要件で、現行の新規開業・スタートアップ支援資金には額も割合も決まりがありません。信用金庫で融資を出す側にいたころの感覚で言えば、割合そのものより、その資金がどう貯まったのかを説明できるかどうかを見ています。
手順1:定員と物件の条件から必要資金の総額を出す
自己資金の話は、必要資金の総額が決まって初めて成立します。認可外保育園の場合、その総額を左右するのは定員と物件の条件です。何人を預かる施設にするのかで必要な面積が変わり、面積が変われば物件の候補も工事の規模も変わります。
認可外保育施設は自治体への届出が必要で、施設の設備や職員配置については指導監督基準が定められています。基準の内容や運用は自治体によって異なるため、物件を探す前に管轄の保育担当課で確認しておくと、後戻りが減ります。
必要資金を洗い出すときは、設備資金と運転資金に分けて整理します。新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内で、いずれも据置期間は5年以内です。返済期間が違うということは、同じ金額を借りても月々の負担が変わるということです。物件取得費や内装工事、遊具・家具の購入といった設備側と、開所後しばらくの人件費などの運転側を最初から分けておくと、この差を計算に入れられます。
手順2:手元の自己資金を棚卸しする
必要資金の総額が見えたら、次は手元の自己資金を数えます。ここで押さえておきたいのは、自己資金は面談の時点で口座に確認できる形にしておくという点です。原則として全額を入金した状態にしておきます。
そして、金額と同じくらい見られているのが、その資金がどう貯まったのかという経緯です。毎月の給与から積み立ててきたのか、退職金なのか、家族からの贈与なのか。経緯を自分の言葉で説明できる状態にしておくと、面談で数字の話が前に進みやすくなります。
手順3:みなし自己資金になり得る支出を拾い直す
預金残高だけを見て「足りない」と判断する前に、もう一段の棚卸しがあります。創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入・テストマーケティング費用などは、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。
保育事業の準備では、開設に向けて先に済ませている支出が意外な範囲に及びます。研修や資格の受講料、先に買い揃えた保育備品や遊具、一時預かりの形で試験的に運営したときの費用などが候補になります。
ここでの前提条件は、領収書が残っていることです。支払った事実を示せなければ数えようがありません。開設の準備を始めた時点から、事業に関する支出の領収書は分けて保管しておいてください。すでに走り出している方は、過去の支出をさかのぼって集められるものがないか確認する価値があります。
手順4:不足分をどう埋めるかを決める
総額と自己資金の差が、調達すべき金額になります。認可外保育園の場合、認可施設のように開設前の整備費が公的に手当てされる前提を置きにくいため、この差額を融資でどう埋めるかが計画の中心になります。
創業期の代表的な選択肢は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、創業期の方は原則として無担保・無保証人で利用できます。
2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなります。
あわせて、時間の見積もりも立てておきます。申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間から1か月が目安です。創業計画書や自己資金のエビデンス、見積書などを整える期間を含めると、合計で2か月程度を見ておくと安全です。物件の契約時期から逆算して、この2か月をどこに置くかを先に決めておくと、資金が間に合わないという事態を避けやすくなります。
💬 執筆者の小峰から一言
信用金庫で融資を出す側にいたころは、自己資金と事業計画書の2つだけで結論を出すことはありませんでした。経験や資金使途、面談でのやり取りなど、複数の材料を合わせて判断します。自己資金が思うように積み上がらないから諦める、と決める前に、ほかの材料で説明できるものが残っていないかを一度並べてみてください。
自己資金を数えるときにありがちな3つの誤解
誤解1:自己資金の割合を満たせば審査が通る
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。判断材料は自己資金だけではありませんし、自己資金だけでもありません。割合を満たすことを目標にすると、肝心の事業計画の作り込みが後回しになりがちです。
誤解2:創業融資なら決算書は関係ない
創業融資は事業として創業した実績がなくても申し込めますが、決算書をまったく見ないわけではありません。新しく設立した法人であっても、一期でも決算が締まっていればその決算書が確認されます。また、代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。
誤解3:「新創業融資制度」で申し込む
すでに触れたとおり、新創業融資制度は2024年3月に廃止されています。古い記事やテンプレートを参考に準備を進めていると、存在しない制度名で書類を用意してしまうことがあります。制度名は申請の直前に公式サイトで確認しておくと確実です。
準備チェックリスト
- 定員を決め、管轄自治体の保育担当課で届出と指導監督基準の内容を確認したか
- 必要資金を設備資金と運転資金に分けて洗い出したか
- 自己資金を面談時点で口座に確認できる形にしているか
- その資金がどう貯まったのかを自分の言葉で説明できるか
- 創業前に自費で払った資格・備品・試験運営の費用の領収書を保管しているか
- 物件の契約時期から逆算して、準備と審査に約2か月を置けているか
- 参照している制度名が現行のものか(新創業融資制度は2024年3月廃止)
まとめ
認可外保育園の自己資金は、「総額の何分の1」という割合から決まるものではありません。定員と物件から必要資金の総額を出し、手元の資金とみなし自己資金を数え、その差を融資でどう埋めるかを決める。この順番で組み立てると、いくら必要かという問いは自分の計画の中で答えが出ます。
本記事の数字や制度の内容は2026年8月時点で確認できる情報です。金利・限度額・要件は変わることがあるため、申請前には日本政策金融公庫の公式情報で最新の内容をご確認ください。自己資金の数え方や資金計画の組み立てで判断に迷う場合は、専門家に相談しながら進めることをご検討ください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























