
建設業の2024年問題対策に使える補助金|残業を減らす設備・IT投資の選び方と申請の順番
建設業の2024年問題を補助金で乗り切る手順|残業削減につながる投資の選び方
2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されました。猶予期間が終わったいま、「工期は変わらないのに残業だけ削れと言われても現場が回らない」という声を、専門工事会社や土木会社の経営者の方から数多くうかがいます。
人を増やせないのであれば、1人あたりの作業時間を減らすしかありません。そこで検討されるのが、省力化設備やシステムへの投資と、その費用を軽くする補助金です。ただし補助金の側から見ると、「残業を減らしたい」という動機はそのままでは申請理由になりません。ここを翻訳せずに申請書を書いてしまい、労力をかけたのに採択に届かないケースが少なくありません。
この記事では、残業の発生源を工程ごとに切り分けるところから、どの制度を当てるか、申請の順番をどう組むかまでを、4つのステップで整理します。なお本記事の制度内容・金額・日程は2026年7月時点で公表されている公募要領等にもとづくものです。申請の際は必ず最新の公募要領をご確認ください。
前提の確認:2024年4月から建設業に適用された上限規制の中身
まず、何をどこまで減らさなければならないのかを確認しておきます。
- 原則の上限:時間外労働は月45時間・年360時間まで(36協定の限度)
- 特別条項を結んだ場合:時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満かつ複数月平均80時間以内、月45時間を超えられるのは年6回まで
建設業はこれらの規制が5年間猶予されていましたが、2024年4月以降は原則として一般の業種と同じ基準が適用されています。なお建設業については、災害時における復旧・復興の事業に限り、時間外労働と休日労働の合計に関する月100時間未満・複数月平均80時間以内の要件が適用されない扱いが設けられています。自社の工事がこの扱いに当たるかどうか、36協定の書き方をどうするかといった労務手続きの判断は、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士にご確認ください。
大前提:「2024年問題対策」という名前の補助金はありません
ここが最初のつまずきどころです。経済産業省・中小企業庁系の補助金は、目的が「省力化」「生産性向上」「販路開拓」に置かれています。残業削減そのものを目的に掲げた制度ではありません。
つまり、申請書に「残業時間を減らしたいので設備を入れます」と書いても、審査する側が見たい論点には答えていないことになります。必要なのは、次のような翻訳です。
- この工程に何時間かかっていて、設備・システムを入れると何時間に減るのか
- 浮いた時間を何に振り向けるのか(施工件数を増やす、外注していた工程を内製化する など)
- その結果、付加価値額と労働生産性がどれだけ伸びるのか
なお、労働時間の短縮や雇用環境の整備そのものを支援する助成金は、厚生労働省の体系に別途あります。ただし所管も窓口も要件も経済産業省系の補助金とは別物ですので、そちらを検討する場合は都道府県労働局や社会保険労務士にご相談ください。この記事では、設備・システム投資に使える経済産業省・中小企業庁系の制度に絞って整理します。
ステップ1:残業がどの工程で発生しているかを分ける
「現場が忙しい」とひとくくりにすると、制度選びを間違えます。建設業の残業は、性質の異なる4つの工程に分かれることが多いため、まずはここを分解します。
- 施工作業そのもの:人海戦術・手作業で時間がかかっている工程
- 測量・出来形管理・検査:計測と記録に人数と時間を取られている工程
- 積算・見積・原価管理・工程管理:事務所側の作業で、特定の社員に属人化しやすい工程
- 日報・写真整理・報告・移動:現場と事務所を往復することで発生している時間
直近3か月ほどの残業時間を、この4分類でざっくり配分してみてください。実務では、3と4だけで残業の半分近くを占めている会社が珍しくありません。この場合、高額な建設機械を買う前に、事務・管理側のシステム投資のほうが費用対効果が高いという判断になります。
ステップ2:工程ごとに制度を割り当てる
ステップ1で見えた工程に対して、使える制度を当てはめていきます。
事務・管理系のソフトを入れるなら:デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)
施工管理、原価管理、工程管理、受発注、勤怠管理といったソフトやクラウドサービスの導入に向く制度です。補助上限は通常枠450万円、インボイス枠350万円、複数者連携デジタル化・AI導入枠3,000万円です。クラウド利用料は最大2年分が対象になります。
この制度の特徴は、事務局に登録されたIT導入支援事業者(ベンダー等)の支援を受けて申請する前提である点です。導入したいツールが登録されているか、支援事業者と組めるかを先に確認する必要があります。
カタログに載っている既製の省力化機器なら:中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)
公的に登録された省力化製品から選んで導入する制度です。補助上限は1,500万円(大幅賃上げ計画を盛る場合)。中小企業等が販売事業者と共同で申請することが前提で、単独申請は原則できません。労働生産性を年平均3.0%以上向上させる計画が必要で、計画未達時には減額の規定があります。
自社の現場に合わせた設備とシステムを組み合わせるなら:中小企業省力化投資補助金(一般型)
補助上限は1億円と大きく、既存事業の省力化・自動化に向く制度です。単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ入れることが必要で、労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす3〜5年の事業計画を求められます。賃上げ目標が要件で、未達の場合は達成率に応じて返還が発生しうる点に注意してください。
小規模事業者で販路開拓とセットなら:小規模事業者持続化補助金
補助率2/3(賃金引上げ特例のうち赤字事業者は3/4)、補助上限は基本50万円です。インボイス特例で50万円、賃金引上げ特例で150万円が上乗せされ、両方の要件を満たす場合は最大250万円になります。建設業は業種区分では「製造業その他」に当たり、常時使用する従業員20人以下が小規模事業者の範囲です。
新しい工法・サービスの開発を伴う設備投資なら:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠
補助下限は100万円、補助上限は従業員規模により異なり、5人以下750万円/6〜20人1,000万円/21〜50人1,500万円/51人以上2,500万円です。大幅賃上げ特例を適用した場合は最大3,500万円まで拡大しますが、この3,500万円という数字は最大の従業員規模かつ特例適用時の最大値であり、無条件の上限ではありません。
ステップ3:賃上げ要件と残業削減が衝突しないかを確認する
ここが、2024年問題対策として補助金を使うときに最も見落とされやすい論点です。
上で挙げた制度の多くには、賃上げや労働生産性向上の要件がついています。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、基本要件として一人当たり給与支給総額を年平均3.5%以上伸ばすことが求められます。中小企業省力化投資補助金(一般型)は労働生産性の年平均4.0%以上の向上と賃上げ要件があり、未達なら返還がありえます。
ここで問題になるのが、残業を減らすと割増賃金(残業代)も減るという当たり前の事実です。一人当たり給与支給総額には残業代も含まれます。残業削減だけを進めると給与支給総額がむしろ下がり、賃上げ要件を割り込んでしまうおそれがあるのです。せっかく補助金を受けたのに、数年後に返還を求められるという最悪の展開になりかねません。
同じことが労働生産性についても言えます。労働生産性は付加価値額を従業員数で割って算出しますが、残業を減らしただけでは付加価値額は増えません。むしろ稼働時間が減って売上が落ちれば、下がることさえあります。
したがって、計画は次の2つをセットで組む必要があります。
- 浮いた時間を付加価値に振り替える設計:工期短縮で年間の施工件数を増やす、外注していた工程を内製化して外注費を粗利に取り込む、単価の高い工事を受けられる体制にする など
- 減った残業代を基本給・手当で補う設計:残業代に依存した賃金構造のままだと、賃上げ要件と現場の手取りの両方が同時に崩れます
なお、賃金体系の設計や就業規則の変更そのものは社会保険労務士の領域です。具体的な制度設計は必ず専門家と一緒に進めてください。
ステップ4:申請の順番を間違えない
制度が決まったら、着手の順番を確認します。ここを間違えると、要件を満たしていても補助対象から外れます。
- 交付決定前の発注・契約・支払は対象外:小規模事業者持続化補助金の公募要領には、交付決定日前に行った発注・契約・支払は対象外と明記されています。採択通知が来ただけでは事業を開始できません。他の制度でも交付決定前の発注は原則として対象外の扱いが一般的です。「工期に間に合わないので先に発注してしまった」は、補助金では取り返しがつきません
- 電子申請の準備:小規模事業者持続化補助金はGビズIDプライムが必須で、電子申請のみの受付です。アカウント取得には時間がかかるため、公募が始まってから動くと間に合いません
- 第三者を巻き込む工程を先に押さえる:小規模事業者持続化補助金では商工会・商工会議所が発行する事業支援計画書(様式4)が必要です。第20回公募では、様式4の発行受付締切が2026年12月4日(金)、申請受付締切が2026年12月15日(火)17時とされています。発行受付締切以降の依頼は、いかなる理由でも受け付けられません。中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)は販売事業者との共同申請、デジタル化・AI導入補助金は登録されたIT導入支援事業者との連携が前提です
- 相見積の準備:小規模事業者持続化補助金では、単価50万円(税抜)超の機械装置等や50万円(税込)超の発注には2者以上の相見積が必要です
建設業がつまずきやすい5つの落とし穴
最後に、建設業特有の要注意ポイントをチェックリストにまとめます。
- 機械を1台だけ買う計画になっていないか:中小企業省力化投資補助金(一般型)は、単に汎用設備を単体で導入する事業は対象外とされています。単価50万円(税抜)以上という要件を満たすだけでは足りません。複数の設備を組み合わせて高い省力化効果を出す、または導入環境に応じて周辺機器や構成する機器の数・搭載する機能が変わる、といった形でオーダーメイド性を示す事業計画が必要です
- カタログ掲載品か、オーダーメイドかの線引き:カタログに登録された製品をそのまま導入するならカタログ注文型、カタログにない独自構成なら一般型と、制度設計が分かれます。どちらでも通ると考えて両方に時間をかけると、どちらも中途半端になります
- 従業員数のカウント:小規模事業者持続化補助金の「常時使用する従業員」には、会社役員・個人事業主本人・同居の親族従業員・日雇い等は含めません。建設業は家族経営の割合が高く、数え方で対象/対象外が変わります
- 広報費・ウェブサイト関連費の上限:小規模事業者持続化補助金(第20回)では、広報費・ウェブサイト関連費はそれぞれ補助金交付申請額の上限が30万円(税込)で、いずれも単独での申請はできません。採用のための会社案内やホームページ刷新だけを目的にすると、この枠に阻まれます
- 車両は原則対象外:小規模事業者持続化補助金では、自動車・フォークリフト等の車両は原則として補助対象外です。建設業は車両への投資が多いため、投資計画のうちどこまでが対象になるかを事前に切り分けておく必要があります
よくある質問
Q. 一人親方や従業員がいない事業者でも申請できますか
制度によります。中小企業省力化投資補助金(一般型)では、従業員0名の場合が対象外になりやすい例として挙げられています。労働生産性は付加価値額を従業員数で割って算出するため、そもそも計算が成り立たないという事情もあります。まずは自社の体制で申請要件を満たすかを確認するところから始めてください。
Q. 補助金と融資はどちらを先に進めるべきですか
補助金は原則として後払いです。交付決定後に自社でいったん支払い、実績報告を経て入金されます。つまり、設備代金は自己資金か融資でいったん立て替える前提になります。工期に合わせて設備を入れるなら、補助金の申請と並行して資金の手当てを進めておくのが現実的です。
Q. どの制度が一番採択されやすいですか
採択されやすさで選ぶと、多くの場合うまくいきません。投資の中身(既製品か独自構成か、設備かソフトか、金額規模はどれくらいか)で自然に決まる制度が1つに絞られるためです。逆に言えば、投資の中身が固まっていない段階で制度から選ぼうとすると、どの制度にも当てはまらない計画になりがちです。
まとめ
建設業の2024年問題に対して、補助金は「残業削減の対価」としては出ません。出るのは、あくまで省力化・生産性向上への投資に対してです。だからこそ、次の順番で進めることが重要になります。
- 残業がどの工程で発生しているかを4分類で切り分ける
- 工程の性質に合った制度を選ぶ(ソフトならデジタル化・AI導入補助金、既製の省力化機器ならカタログ注文型、独自構成なら一般型、小規模事業者の販路開拓とセットなら持続化補助金)
- 浮いた時間を付加価値に振り替える設計と、残業代減少を織り込んだ賃金設計をセットで組む
- 交付決定前に発注しない、電子申請の準備と第三者を巻き込む工程を先に押さえる
とくにステップ3の賃上げ要件との整合は、申請書を書き始めてからでは組み替えが難しい部分です。設備の選定と同じタイミングで検討を始めることをおすすめします。制度の選び方や事業計画の組み立てに迷われる場合は、早い段階でご相談ください。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























