
採用コストというと、求人媒体の広告費や人材紹介の成功報酬を思い浮かべる方がほとんどでしょう。ただ実際には、社内の面接工数、選考の手戻り、早期離職後の再採用、入社後の教育にかかる時間まで足し上げると、「1人採るのに想定の2〜3倍かかっていた」と気づく中小企業の経営者は珍しくありません。
この記事では、中小企業の経営者・人事担当者向けに、採用コストの全体像を棚卸ししながら、どこから手をつければ無駄を効率よく減らせるかを解説します。求人媒体を乗り換える前に、まず自社のコスト構造を見直すだけで金額が変わることもあります。なお、助成金や労働法制は改正が頻繁です。本記事は2026年春時点の情報をもとにしていますので、実際に制度を利用する際は最新の法令・通達を確認してください。
採用コストには「見えるコスト」と「見えないコスト」がある
見えるコスト
- 求人媒体への掲載料・広告費
- 人材紹介会社への成功報酬(年収の30〜35%が相場)
- 採用イベント・会社説明会の運営費
- 採用管理ツール・スカウトサービスの利用料
見えないコスト
- 応募者対応・書類選考・面接にかける社内の人件費
- 選考リードタイムが長引くことで発生する辞退の機会損失
- 早期離職による再採用・再教育コスト
- 入社後3か月間の立ち上げコスト(教育・受け入れ業務)
- 採用ミスマッチで現場のオペレーションが崩れるコスト
広告費の削減にはすぐ目が行きがちですが、実際にはこの「見えないコスト」の方が金額として大きいことが多いです。1人あたりの採用コストを正しく把握するなら、媒体費・紹介手数料だけでなく、社内の人件費と早期離職のリスクまで含めて計算するところが出発点になります。
採用コストを削減する5ステップ
ステップ1:自社の採用コストを「見える化」する
まずやることは、直近1年の採用をポジションごとに数字で並べることです。
- 応募者数
- 面接実施数
- 内定数
- 入社数
- 媒体費・紹介手数料の合計
- 社内が割いた工数(応募者対応・面接の延べ時間×時給換算)
- 入社後1年以内の離職数
これを一覧にして1人あたりの総コストを出すと、「どこにお金が漏れているか」が見えてきます。媒体費が高いのか、面接に時間を使いすぎているのか、早期離職で再採用が発生しているのか——原因が違えば、打ち手もまったく変わります。
ステップ2:求人媒体の費用対効果を比較する
使っている媒体ごとに、「応募数」「入社数」「1入社あたりコスト」を並べてみてください。やってみると、複数の媒体に広く出しているわりに、実際に入社まで至っているのは1〜2媒体に偏っている、というパターンはよくあります。応募数だけで判断すると見誤るので、入社数まで追うのがポイントです。
媒体の見直しは年に1度くらいのペースで十分です。ただ、求人媒体の勢力図は変わりやすく、半年前は強かった媒体が今はパッとしない、ということは普通に起こります。
ステップ3:選考フローのリードタイムを短くする
応募から内定までの日数が長いほど辞退率は上がります。せっかくの媒体費が辞退で消えるのは一番もったいない。書類選考は24時間以内、1次面接の日程調整は2営業日以内、最終面接後の合否連絡は3営業日以内——このくらいの社内ルールを決めて回すだけで、辞退率はかなり変わります。
求人票も、出しっぱなしにせず定期的に手を入れたいところです。タイトル・冒頭3行・写真を差し替えるだけで応募率が変わることは珍しくありません。
ステップ4:採用ミスマッチを減らして早期離職を防ぐ
採用コストの中で最も痛い無駄は、入社後1年以内の離職です。離職率が15%を超えているなら、媒体費を1割削るよりもミスマッチ対策に力を入れた方が、コストへのインパクトは大きいでしょう。
やることはシンプルで、求人票に書いてある内容と現場の実態を揃える、面接で「入社後にどんな仕事をするか」の期待値をすり合わせる、入社後90日のオンボーディング計画を用意する。この3つを組み合わせるだけで、ミスマッチ由来の退職はかなり減ります。
ステップ5:助成金・公的サービスを使う
採用・定着に使える助成金は意外と多く、キャリアアップ助成金、特定求職者雇用開発助成金、人材確保等支援助成金などが代表的です。要件を満たせば実費の負担をそのまま減らせます。ただし、要件・対象・申請期限は頻繁に変わるので、自力で追いかけるよりも社労士や採用定着士に相談して、自社の採用計画と助成金要件を突き合わせてもらう方が確実です。
ハローワークや商工会議所、地域の産業振興機関が提供する無料・低額の採用支援サービスも、自社の規模に合えばコストを下げる手段になります。
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削減効果が出やすい順序
1. 早期離職の抑制(最優先)
1人の早期離職は、再採用と再教育まで含めると数十万〜数百万円の出費につながります。求人票と現場の情報をそろえる、入社後90日のフォロー計画をつくる、といった「定着」側の手を打つ方が、媒体費を削るよりも効果が出やすい領域です。
2. 選考リードタイムの短縮
同じ媒体費をかけていても、リードタイムが長ければ辞退で消えます。応募から内定までの日数を縮めるのは追加費用ゼロでできる改善なので、優先度は高めです。
3. 媒体ポートフォリオの整理
中小企業の採用では、媒体を「広く浅く」出すよりも「狭く深く」使い込む方が成果につながりやすい傾向があります。直近1年の入社実績を媒体別に集計して、効果の薄い媒体から順に切るだけです。
4. 助成金の活用
助成金は要件さえ満たせば確実にコストを下げられますが、業務フローの調整に手間がかかることもあります。すぐ使えるものから着手して、中長期で活用の幅を広げていくのが現実的です。
採用代行・外部支援を使う判断軸
採用代行やコンサルティングを使うかどうかは、社内に採用を回す時間があるか、採用ノウハウを持っているか、採用したいポジションの難易度はどのくらいか、の3点で考えます。
- 採用に割く時間が社内にない → 応募者対応やスカウト送信といったオペレーション部分を外注する
- 求人票や面接基準を一から組み直したい → 採用コンサル・採用定着士に部分支援を依頼する
- 経営幹部や専門職など難易度が高いポジション → 人材紹介会社を併用する
ただし、すべてを外に丸投げすると、自社の魅力が候補者に伝わりにくくなり、かえってミスマッチと早期離職が増えるリスクがあります。求人票の方向性や面接の判断基準は社内で握っておき、オペレーション部分だけ外に出すのが、バランスとしてはうまくいきやすいやり方です。
外部支援を前提にするなら、求人原稿の改善から応募後の初動対応、定着の仕組みづくりまで一気通貫で伴走してくれるサービスを選ぶと、コスト構造の見直しと採用力の底上げを同時に進められます。
採用・定着の戦略と仕組みづくりをまるごとサポート
V-Spiritsの採用定着支援サービスでは、給与・条件の競合リサーチ、求人原稿の改善、応募後24時間以内の初動対応など、採用がうまくいく会社が実践している型を全国2,000社超の支援実績をもとに採用定着士が伴走で組み立てます。「なぜ採れないのか」「なぜ辞めるのか」を現場目線で診断し、5ステップで仕組み化します。
よくある質問
Q. 1人当たりの採用コストの「目安」はありますか?
正直なところ、業種・職種・地域によってまったく違います。同じ業種でもエリアと媒体の組み合わせで2〜3倍の差がつくことはザラなので、他社の平均値を気にするよりも、自社の過去1年の実績を基準に「ここから何%下げる」と目標を立てる方が実用的です。
Q. 媒体を全部やめて、自社サイトとSNSだけで採用できますか?
長い目で見ればあり得ますが、いきなりゼロにするのはリスクが高いです。自社サイトやSNSからの流入は、認知度が積み上がるまでどうしても時間がかかります。SNSで最短でも1年、サイトだと数年かかっても実現しないことは多々あります。いま使っている媒体を段階的に絞りながら、並行して新しいチャネルを育てていく形が現実的です。
Q. 人材紹介会社の手数料は交渉できますか?
会社やポジション次第ですが、交渉の余地はありますがほぼほぼ不可能と考えていいでしょう。複数社を並走させる、返金保証の期間を延ばしてもらう、紹介枠の優先確保を条件にする、といった方法が考えられます。手数料率だけでなく、保証条件の調整で実質コストを下げるやり方もあるので、率の交渉に絞らない方がうまくいきやすいです。
Q. 採用コスト削減と採用の質、どちらを優先すべきですか?
コストを下げるために質を妥協すると、早期離職が増えて結局コストが上がるしかも、退職が増えて社内の不満も増えていく——これは典型的な失敗パターンです。質を維持したまま、ミスマッチ・リードタイム・媒体の無駄を削る方向で進めてください。社内にこういったことを行える人材がいないのであれば専門家に依頼することも視野に入れるべきです。
まとめ
採用コスト削減の基本は、「広告費を削る」ことではなく、「見えないコストを含めた1人あたりの総コストを下げる」ことです。コストの見える化、媒体の費用対効果の比較、選考リードタイムの短縮、早期離職の抑制、助成金の活用——この5つを優先順位をつけて回せば、無理なくコストは下がっていきます。
採用と定着は切り離せないので、コスト削減と並行して入社後の定着施策まで整えることが、回り道に見えて実は一番の近道です。自社だけで進めにくい部分があれば、採用・定着の実務を知っている専門家に相談するのも手です。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP技能士。大正大学招聘教授(起業論、ゼミ等)
V-Spiritsグループ創業者。税理士法人V-Spiritsグループ代表。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「ベストセラー起業本」の著者。著書20冊、累計25万部超。経済産業省後援「DREAMGATE」で12年連続相談件数日本一。
【まるごと起業支援(R)・経営支援】
起業コンサル(事業計画+融資+補助金+会社設立支援)+起業後の総合サポート(経理 税務 事業計画書 融資 補助金 助成金 人事 給与計算 社会保険 法務 許認可 公庫連携 認定支援機関)など
【略歴】
経営者である父の元に生まれ、幼き頃より経営者になることを目標として過ごす。バブル崩壊の影響を受け経営が悪化。一家離散に近い貧婚状況を経験し、「経営者の支援」をライフワークとしたいと決意。それに役立ちそうな各種資格を学生時代を中心に取得。
同じく経営者であるメンターの伯父より、単に書類や手続を追求する専門家としてではなく、視野を広げ「ビジネス」の現場での経験を元に経営者の「経営そのもの」を支援できるような専門家を目指すようアドバイスを受け、社会人生活をスタート。
大手、中小、ベンチャー企業、会計事務所等で営業、経理、財務、人事、総務、管理職、経営陣等、ビジネスの「現場」での充実した修行の日々を送ったあと、2007年に独立。
ほかにはない支援スタイルが起業家・経営者に受け入れられ、数々の実績を残しています。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。
- 経済産業省「DREAM GATE」にて、面談相談12年連続日本一
- 補助金・助成金支援実績600件超
- ベストセラー含む起業・経営本20冊を出版(累計25万部超)
- 無料相談件数は全国から累計3,000件超
この記事を書いた人
坂井 優介(Yusuke Sakai)
起業コンサルタント® / 採用定着士 / 行政書士法人V-Spirits 補助者
1988年東京都生まれ。転勤族の父の影響で幼少期を愛知・長野・岩手・埼玉で過ごす。転入するたびに方言や文化の違いをからかわれつつも、1週間もあれば現地に溶け込む適応力を身につける。
大学在学中に公認会計士試験にチャレンジするも挫折し、アルバイト先だった埼玉の大手学習塾に就職。塾業界特有の過酷な労働環境の中でも10年間勤務を続けるが、成果を上げても給与が変わらない状況に限界を感じ、在職中に会計士試験に再挑戦。再び挫折するも、学んだ会計知識を活かせる職場を求めて転職活動を開始。2021年にV-Spiritsグループに参画し、2022年よりV-Spirits総合研究所の常務取締役に就任。
現在は、中小企業の経営者向けに補助金・助成金の支援から採用定着の仕組みづくりまで幅広く担当。「制度を使いこなす中小企業を増やす」をテーマに、現場に寄り添ったサポートを行っている。
役職:V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役 / 税理士法人V-Spirits 業務部長 / 社会保険労務士法人V-Spirits 業務部長
担当業務:経済産業省系補助金支援・厚生労働省系助成金支援・マーケティング・人事労務・採用定着支援



























