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コラム

事業性融資推進法とは?経営者保証なしで融資を受ける新制度を元公庫支店長が解説【2026年5月施行】

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事業性融資推進法とは?経営者保証なしで融資を受けられる新制度をわかりやすく解説

事業性融資推進法(事業性融資の推進等に関する法律)は、2026年(令和8年)5月25日に施行された新しい法律です。これまで日本の融資は、不動産担保や経営者保証に大きく依存してきました。この法律は、その慣行を見直し、事業そのものの価値(技術・ブランド・将来性など)を担保にして資金を調達できる道を新たに開くものです。土地や建物を持たない中小企業や創業期のスタートアップにとって、資金調達の選択肢を広げる可能性があります。

この記事でわかることは次のとおりです。

  • 事業性融資推進法と「企業価値担保権」の基本的な仕組み
  • 従来の融資・創業融資と何が違うのか(比較表つき)
  • 中小企業・スタートアップにとってのメリットと注意点
  • 実際に活用するための準備5ステップ

本記事は、元日本政策金融公庫の支店長と元信用金庫の融資担当が、借り手である経営者の目線で整理しています。なお、本記事は執筆時点(2026年6月)の法令・公表資料に基づく情報です。

事業性融資推進法とは?まず3行で理解する

事業性融資推進法とは、不動産担保や経営者保証に頼らず、事業の実態や将来性に着目した融資(事業性融資)を社会に広げるための法律です。要点を3行で押さえましょう。

  • 正式名称・施行日:正式名称は「事業性融資の推進等に関する法律」(令和6年法律第52号)。2024年(令和6年)6月7日に成立し、2026年(令和8年)5月25日に施行されました。施行令やガイドラインも同日に適用されています(出典:金融庁)。
  • 目的(第1条):不動産担保・個人保証に依存した融資慣行を是正し、事業価値に着目した資金調達を円滑にして、事業の継続・成長を支援することです。
  • 4本柱:①基本理念(第3条)と国の責務(第4条)、②事業性融資推進本部の設置(第242条)、③企業価値担保権の創設、④認定事業性融資推進支援機関の制度――この4つで構成されています。

このうち、借り手にとって最もインパクトが大きいのが「企業価値担保権」です。まずは、なぜこの法律が必要とされたのかから見ていきましょう。

なぜ生まれた?従来の「不動産担保・経営者保証」の限界

この法律が生まれた背景には、不動産担保と経営者保証に偏った日本の融資慣行が、事業の成長を後押ししきれていないという問題意識があります。

従来の融資では、土地や建物といった有形資産が担保評価の中心でした。そのため、優れた技術やサービス、顧客基盤を持っていても、担保となる不動産を持たない企業は、希望する資金を借りにくいという現実がありました。とくに、設備よりも人材やソフトウェアに価値があるスタートアップや、サービス業の中小企業にとっては、評価されにくい構造だったといえます。

もう一つの論点が経営者保証です。経営者個人が会社の借入金を保証する慣行は、貸し手にとっては回収手段である一方、借り手側では「事業に失敗すれば個人の財産も失う」という心理的な負担が、新規投資や事業承継への一歩をためらわせる一因になり得ると指摘されてきました。

元信用金庫・元公庫の現場でも、決算書上の数字や担保の有無だけでは、その会社の本当の底力――取引先との信頼関係や、経営者の構想力――を十分にすくい上げられないもどかしさがありました。事業性融資推進法は、こうした「有形資産と個人保証」に依存しすぎた仕組みを補い、事業価値そのものを評価する選択肢を加えるために整備されたものです。

企業価値担保権とは?事業全体を担保にする仕組み

企業価値担保権とは、会社の総財産を一体として担保にできる新しい担保権で、無形資産を含む「事業全体」を担保の対象にできる点が最大の特徴です。これが事業性融資推進法の中核です。

従来の担保が「この土地」「この建物」といった個別の財産を対象にしたのに対し、企業価値担保権は会社の総財産(将来取得する財産を含む)をまとめて担保の目的にできます(第7条)。ここには、ノウハウ・顧客基盤・ブランド・のれん・将来キャッシュフローといった無形資産も含まれ、事業全体を一つの価値として捉える点で、担保の発想を大きく転換するものです。

この仕組みは、次の3者によるスキームで成り立ちます。

  • 設定者(担保を出す側):株式会社・持分会社。自己の債務のためにのみ設定でき、他人の債務のために設定する物上保証は認められていません(第13条)。設定には取締役会決議等の手続が必要です(第10条)。
  • 担保権者:企業価値担保権信託会社。内閣総理大臣の免許を受け、監督される会社です(免許権者は内閣総理大臣・第32条、資本金1,000万円以上・第36条)。会社との間で企業価値担保権信託契約を結びます(第8条)。なお、銀行が届出により受託者を兼ねることも想定されています。
  • 貸し手(受益者):制限はありません。銀行だけでなく、ベンチャーファンドや再生ファンド、事業会社などからの融資にも利用できます。

第三者に権利を主張するための対抗要件は、債務者の本店所在地での商業登記です(第15条)。信託会社という専門の担保権者を間に置き、貸し手の幅を広げている点が、従来の担保とは大きく異なるところです。

普通の融資・創業融資と何が違う?【比較表】

企業価値担保権が従来の融資と最も違うのは、「個別の不動産+経営者保証」ではなく「無形資産を含む事業全体の価値」を担保の軸にする点です。観点ごとに整理すると、違いが見えてきます。

観点 従来の融資(不動産担保・経営者保証) 企業価値担保権
担保の対象 土地・建物など個別の有形資産 会社の総財産(無形資産・将来キャッシュフローを含む事業全体)
経営者保証 求められることが多い 原則として制限される(第12条/ただし例外あり)
対象事業者 会社・個人事業主 会社法上の会社のみ(個人事業主は対象外・第2条)
評価の軸 担保資産の処分価値・決算実績 事業の実態・将来性・キャッシュフロー
向いている企業 担保不動産を持つ企業 有形資産は乏しいが技術・将来性のある企業
実行時の扱い 担保物の個別売却が中心 事業を解体せず原則一体として承継(第157条)

ただし、この制度はすべての企業に最適というわけではありません。とくに創業まもない時期は、対応する金融機関や評価の実務がまだ広がりきっていないため、まずは日本政策金融公庫の創業融資(「新規開業・スタートアップ支援資金」。2026年3月時点で原則無担保・無保証人)を活用するのが現実的な選択肢になり得ます。企業価値担保権は、事業がある程度立ち上がり、将来性を具体的に示せる段階で検討するとよいでしょう。

中小企業・スタートアップにとってのメリット

中小企業やスタートアップにとっての一番のメリットは、有形資産が乏しくても、技術や将来性といった事業価値で資金調達できる可能性が広がることです。主なメリットを整理します。

  • 無形資産で勝負できる:不動産を持たなくても、技術力・顧客基盤・将来キャッシュフローを評価対象にできるため、これまで担保不足で諦めていた調達に道が開ける可能性があります。
  • 経営者保証の負担が軽くなり得る:企業価値担保権が設定されている場合、個人保証は原則として制限されます(第12条)。経営者が過度なリスクを負わずに、思い切った投資へ踏み出しやすくなることが期待されます。
  • 事業承継で後継者の負担を抑えられる:後継者に個人保証を引き継がせずに事業を渡せる余地が生まれ、承継のハードルを下げる選択肢になり得ます。
  • 金融機関の伴走が期待できる:事業価値を評価する性質上、金融機関による継続的なモニタリングや経営支援(伴走)が伴いやすく、経営の壁打ち相手を得られる側面もあります。
  • 将来性を踏まえた評価:足元が赤字でも、将来の見込みを示すことで対象になり得る点は、成長途上の企業にとって心強い特徴です。

もっとも、これらは「必ず融資が受けられる」ことを保証するものではありません。あくまで、事業の将来性を説明できる企業にとって選択肢が広がる、という位置づけで捉えることが大切です。

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経営者保証は本当に外れる?例外と注意点

結論として、企業価値担保権の下では個人保証は原則制限されますが、粉飾決算や虚偽報告などの例外では制限されない場合があります。「無条件で必ず外れる」わけではない点に注意が必要です。

事業性融資推進法では、特定の被担保債権について、個人(法人でない者)による保証契約等の権利行使が制限されます(第12条)。一方で、法人による保証は原則として有効です。さらに例外として、債務者が自らの事業や財産の状況について虚偽の報告をした場合など、一定の停止条件付きの場面では、保証の制限が及ばないとされています(第12条第4項)。

現場の視点で補足すると、経営者保証が制限されるということは、貸し手から見れば「個人保証という最後の歯止め」が外れることを意味します。その分、借り手側には事業や財務の状況を正確に説明する責任がより強く求められます。保証を外すことは、説明責任が借り手に移ることと表裏一体だと理解しておくとよいでしょう。

知っておくべきデメリット・注意点【正直枠】

メリットの大きい制度ですが、施行されたばかりであり、現時点では注意すべき点も少なくありません。借り手として正直に知っておきたいポイントを挙げます。

  • 対応する金融機関がまだ限られる:担保権者となる企業価値担保権信託会社や、これを扱う金融機関の体制整備はこれからの段階です。すぐに身近な金融機関で使えるとは限りません。
  • 認知度が高くない:制度自体が新しく、借り手・貸し手の双方で理解が広がる途上にあります(普及の具体的な統計は、確かな出典のない数字を断定しません)。
  • 金利負担が生じ得る:継続的な伴走支援やモニタリングを伴うため、一定の金利負担が生じ得るとされています(金融庁の資料の趣旨)。コストと利点のバランスを見る必要があります。
  • 重要財産の処分に同意が必要:通常の事業活動の範囲内であれば財産の使用・収益・処分は自由ですが(第20条第1項)、重要な財産の処分や事業譲渡など範囲を超える行為には担保権者の同意が必要です(第20条第2項)。
  • 設定の手続が複雑:信託契約の締結、商業登記、取締役会決議などが必要で、準備の手間は小さくありません。
  • 評価手法が確立途上:事業価値・無形資産の評価方法は、実務での蓄積がこれから進む段階にあります。
  • 実行時は管財人が選任される:債務不履行に陥った場合、担保権者の申立て(第83条)により手続が始まり、管財人が選任されます(第88条)。ただし、商取引債権や労働債権(直近6か月分等)は共益債権として優先的に弁済される仕組みが設けられています(第129条・第130条)。

事業性融資推進法を活用するには?準備5ステップ

実際に企業価値担保権の活用を検討する場合、いきなり金融機関に行くのではなく、自社の事業価値を説明できる準備を整えることが第一歩です。現実的な流れを5つのステップで示します。

  1. 企業価値の可視化:自社の強み――技術、顧客基盤、ブランド、ノウハウなど無形資産を含む――を棚卸しし、第三者に伝わる形で整理します。
  2. 事業計画の策定:将来の成長シナリオと、その根拠を盛り込んだ事業計画を作成します。担保が「将来性」である以上、計画の説得力が鍵になります。
  3. キャッシュフローを説明できるようにする:簡易なもので構わないので、将来のキャッシュフローの見通しと前提を、自分の言葉で説明できる状態にしておきます。
  4. 認定事業性融資推進支援機関に相談する:事業計画の策定支援や、企業価値の把握について助言を行う認定支援機関に相談します(第232条)。実務では税理士・中小企業診断士等の関与が想定されます。なお、認定を受けられる法人は原則として一般社団法人・一般財団法人その他主務省令で定める法人とされ(第233条)、株式会社等が認定対象になるかは今後の主務省令次第です(2026年6月時点で未確定)。
  5. 信託会社との契約・商業登記:企業価値担保権信託会社との信託契約、取締役会決議、商業登記といった実務へ進みます。

とくに①〜③の「価値の可視化と計画づくり」は、自社だけで完結させるより、専門家と一緒に進めるほうが現実的で、金融機関への説得力も高まります。なお、商業登記の具体的な申請手続は司法書士、税務処理は税理士、労務手続は社会保険労務士といった各専門家の領域です。手続面は専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 事業性融資推進法はいつから施行された?
2026年(令和8年)5月25日に施行されました。施行令・ガイドラインも同日から適用されています。

Q2. 個人事業主も使える?
使えません。対象は会社法上の「会社」(株式会社・合名・合資・合同会社)で、個人事業主は対象外です(第2条)。

Q3. 普通の融資・創業融資と何が違う?
不動産担保や経営者保証ではなく、無形資産を含む事業全体の価値を担保にする点が異なります。

Q4. 金利は高くなる?
伴走支援等に伴い一定の金利負担が生じ得ますが、有形資産が乏しくても調達できる利点があります(金融庁の資料の趣旨)。

Q5. 経営者保証は本当に外れる?
原則として制限されますが、粉飾決算や虚偽報告などの例外では外れない場合があります(第12条)。

Q6. 誰に相談すればいい?
認定事業性融資推進支援機関(税理士・中小企業診断士等)への相談が有効です。まずは事業計画づくりから始めるとよいでしょう。

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小峰

この記事を書いた人

小峰精公/Kiyotaka Komine

元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

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多胡藤夫/Fujio Tago

元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

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中野裕哲

中野裕哲/Nakano Hiroaki

税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授

税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。

経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。

【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。

中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。

【主な実績】

  • 起業支援・経営支援の豊富な実績
  • 起業相談件数3,000件以上
  • 資金調達支援1000件以上
  • 大企業Webサイト多数監修
  • 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)

V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。

税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。

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