
今回は、日本政策金融公庫で取り扱いが難しい資金使途について解説します。
起業を目指す方にとって、創業時の資金調達は非常に重要なテーマのひとつです。中でも、「どのような目的で資金を使うのか?」という点は、公庫の融資審査においても非常に重視されます。今回は、日本政策金融公庫において、取り扱いが難しいとされる資金使途について、わかりやすく解説いたします。
一般的に事業資金として融資を受ける際は、資金使途が「運転資金」と「設備資金」に分類されます。それぞれの内容や注意点を、詳しく見ていきましょう。
【目次】
- はじめに:資金使途とは何か?
- 運転資金とは?具体例でわかりやすく解説
- 設備資金とは?初期投資に必要な費用とは
- 要注意!公庫が取り扱いに慎重な資金使途とは
- なぜ投資用不動産はNGなのか?公庫の使命と背景
- 例外となるケースとは?融資が検討される可能性
- よくある質問(FAQ)
- まとめ:融資申請前に確認しておきたいポイント
はじめに:資金使途とは何か?
「資金使途」とは、簡単に言えば「借りたお金を何に使うのか?」ということを示す言葉です。融資を受ける際、この使途があいまいだったり、事業性が認められない使い方だったりすると、融資が却下される可能性があります。
特に日本政策金融公庫は、創業者や小規模事業者の支援を目的とした政府系金融機関です。そのため、資金使途がきちんとした事業目的に沿っていることが前提となります。明確かつ実現可能な計画を持つことが、融資審査における第一歩です。
運転資金とは?具体例でわかりやすく解説
「運転資金」とは、事業を継続して運営するために日常的に必要となる費用のことです。具体的には以下のような費用が該当します:
- スタッフの給与や社会保険料などの人件費
- 商品や原材料の仕入れにかかる費用
- 店舗や事務所の家賃、水道光熱費
- 宣伝広告費(チラシやSNS広告など)
- 通信費や交通費、交際費などの諸経費
これらは、事業の売上が立ち始める前や、季節変動などで収支のバランスが崩れやすい時期において、安定した運営を支えるために不可欠です。特に創業初期には、売上よりも先に出費が先行する傾向にありますので、しっかりと運転資金を見積もっておくことが肝要です。
設備資金とは?初期投資に必要な費用とは
「設備資金」とは、店舗の開業や業務開始に向けて必要な初期投資、または固定資産の購入にかかる費用です。以下のような費目が一般的です:
- 店舗やオフィスの内外装工事費
- 厨房機器、製造機械、工作機械などの導入費
- パソコン、プリンター、什器備品などの事務用設備
- 営業車などの車両購入費
これらは、長期にわたって使用される資産であり、事業の基盤を整えるためのものです。したがって、設備資金の申請においては、具体的な見積書や購入計画を提示できることが重要です。
要注意!公庫が取り扱いに慎重な資金使途とは
ここで注意しておきたいのが、「公庫が取り扱いを慎重にしている資金使途」です。代表例が「投資用不動産の購入」です。
投資用不動産とは、例えば次のようなものです:
- アパートやマンションなどの賃貸収入を目的とした物件
- 自ら使用しないテナント物件
- 空室率の高いエリアでの投機的な不動産取得
このような資金使途は、一般的に「事業性が弱い」「資産運用目的と見なされやすい」として、公庫の制度趣旨に合わないと判断されることが多くなります。
なぜ投資用不動産はNGなのか?公庫の使命と背景
日本政策金融公庫がこのような使途を敬遠する背景には、ズバリ、公庫の持つ「公共的な役割」があります。
公庫のなかでも「国民生活事業」という部門は、個人事業主や小規模企業、創業者を支援することが主な使命です。つまり、地域に根ざし、実態のある事業を後押しするための機関なのです。
そのため、純粋に収益を目的とした資産形成的な不動産投資は、制度趣旨と合致せず、融資の対象とはなりづらいというわけです。
例外となるケースとは?融資が検討される可能性
ただし、全ての不動産購入がNGというわけではありません。以下のようなケースでは、融資が検討される可能性もあります:
- 物件を自らの店舗や事務所として利用する場合
- 古い物件を購入し、リフォームして事業用として活用する場合
- 建設業、リフォーム業など、不動産取得自体が事業の一部である場合
このように、ポイントは「その不動産が事業にどう活用されるか?」という実態です。事業の一環として明確な使途説明ができれば、融資審査の土台に乗る可能性があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自宅兼事務所の購入資金は融資対象になりますか?
→ 事業に使用する部分が明確であれば、融資の対象となる可能性があります。使用割合や間取りの説明資料があると説得力が増します。
Q2. 賃貸用マンションの購入はどうしてもダメですか?
→ 原則としてNGです。あくまで資産運用目的であると判断されやすく、事業性の説明が困難なためです。
Q3. 既に物件購入の契約をしてしまったのですが、融資申請できますか?
→ 契約済み案件は「事後資金」となり、融資対象外とされるケースが多いです。購入前に相談することが大切です。
Q4. 自宅の一部をオフィスとして使用予定ですが、設備費はどうなりますか?
→ 明確に区分された設備(たとえば仕事専用の什器や機材)であれば対象になります。共用部分は慎重な判断が必要です。
まとめ:融資申請前に確認しておきたいポイント
- 公庫の融資対象は基本的に「運転資金」または「設備資金」に限定される
- 投資用不動産の購入は原則NG。ただし、事業性が明確なケースは例外的に検討される
- 融資の判断は「そのお金が実際にどんな事業に使われるのか?」が鍵
- 自己判断せず、事前に公庫や専門家への相談を必ず行いましょう
不安な点がある場合には、お近くの日本政策金融公庫窓口や、創業支援に詳しい専門家に相談することで、融資の可能性を広げることができます。

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura 元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員 中小企業診断士、起業コンサルタント®、 1級販売士、宅地建物取引主任者、 補助金コンサルタント、融資・資金調達コンサルタント、 産業能率大学 兼任教員 2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。 融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago 元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役 同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。 支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。 日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。 長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


























