
介護事業の創業融資、相談から実行までに何をするのか|開業準備と並行して進める段取り
介護事業の開業準備は、物件、人員、指定申請、そして資金調達が同時並行で動きます。そのなかで「創業融資は専門家に相談したほうがよいのか」「相談したら実際に何が起きるのか」が見えないまま、後回しになりがちです。
この記事では、V-Spiritsに介護事業の創業融資をご相談いただいた場合を例に、初回相談から融資実行までに何が進むのかを段階ごとに整理します。あわせて、介護事業ならではの論点である介護報酬の入金までの時間差や、指定申請と融資申込の順番についても触れます。なお、制度・金利の数字は執筆時点(2026年8月)で公表されている情報にもとづくものです。
相談の場で最初に確認するのは「開業予定日」です
創業融資の相談で最初に確認するのは、資金の希望額ではなく開業予定日です。日本政策金融公庫の創業融資は、書類提出後おおむね3週間から1か月で実行されるのが目安で、創業計画書や自己資金の資料、見積書などの準備期間を含めると合計で2か月程度を見ておく形になります。
介護事業の場合はここに指定申請のスケジュールが重なります。指定を受けるには事前に人員や設備を整えておく必要があり、その準備には費用がかかります。つまり、指定が下りて売上が立ち始めるより前に、支出だけが先行する期間が生まれます。開業予定日が決まると、この先行支出の山がいつ来るかが逆算でき、融資の申込時期も自然に決まります。
初回相談から融資実行までの5ステップ
相談から融資実行までは、おおむね次の順に進みます。それぞれ「ご自身で用意していただくもの」と「専門家側で組み立てる部分」があります。
- ステップ1:初回相談で現状を整理する
開業予定日、提供予定のサービス種別、想定する利用者数と職員数、手元の自己資金、すでに動いている契約(物件など)を伺います。この段階では資料が揃っていなくても構いません。何が決まっていて何が未定かを切り分けるのが目的です。 - ステップ2:資金の必要額と調達の組み立てを決める
設備資金(内装、送迎車両、備品、介護ソフトなど)と運転資金(人件費、家賃、その他の固定費)を分けて積み上げます。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金では、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)とされています。 - ステップ3:創業計画書と根拠資料を作る
利用者数の見込み、単価、稼働率、人員配置と人件費を数字でつなぎます。ここが審査で最も読まれる部分です。数字の作り方はご自身の想定を土台にし、金融機関に伝わる形へ整理していきます。 - ステップ4:申込・面談の準備をする
必要書類を揃え、面談で聞かれる論点を事前に洗い出します。介護事業では、指定申請の進捗、職員の採用状況、利用者獲得の見通しが論点になりやすい部分です。 - ステップ5:融資実行、そして開業後
実行後は、計画と実績のズレを早めに把握できる状態にしておきます。据置期間の使い方や、開業後の追加調達の可否もこの時期に見えてきます。
介護事業だからこそ論点になること
介護事業の資金計画で他業種と大きく違うのが、売上が入金されるまでの時間差です。介護保険サービスでは、利用者負担分を除いた部分を国民健康保険団体連合会(国保連)へ請求します。一般的な流れとして、サービス提供月の翌月10日までに請求し、入金は翌々月末になります。サービスを提供してから手元にお金が入るまで、およそ2か月かかる計算です。
開業初月は、この2か月分の人件費と固定費を自前で回すことになります。しかも介護事業は人員基準を満たすために職員の採用が先行しやすく、利用者が増える前から人件費が発生します。運転資金をどれだけ厚く見ておくかが、創業融資の申込額を決める要素になります。
元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなります。返済期間は、新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例として設備資金20年以内、運転資金は原則10年以内とされています。入金が始まるまでの立ち上がり期間をどう据置に織り込むかは、相談の場で必ず話題になる部分です。
もう一つの論点が、指定申請と融資申込の順番です。指定を受けるための要件は自治体によって運用が異なり、書類の様式や事前協議の要否も変わります。手続きそのものは行政書士などの専門家の領域になりますが、資金の面から見ると「指定が下りる時期」と「資金が必要になる時期」がずれていないかを確認しておく形になります。
💬 執筆者の小峰から一言
信用金庫で融資を出す側にいたころは、自己資金を金額そのものより、その残高がどう積み上がってきたのかという目で見ていました。面談の時点で口座に確認できる形になっていれば、経緯もあわせて説明できます。ご相談の段階から通帳を一緒に見ておくと、後の整理が楽になります。
相談に持ってきていただくと、話が具体的になるもの
初回相談は手ぶらでも構いませんが、次のものがあると、その場で数字の話まで進められます。
- 自己資金の状況が分かる通帳(金額の多寡ではなく、いつどこから入ったかが分かる形)
- 物件の候補と、内装・設備のおおよその見積
- 提供予定のサービス種別と、想定している利用定員・稼働の見込み
- 職員の採用計画(何人を、いつまでに、いくらで)
- 介護業界での勤務経験が分かるもの(職務経歴など)
自己資金については、制度上、額や割合の要件が決まっているわけではありません。旧制度にあった自己資金10分の1の要件が今もあると思っている方が時々いらっしゃいますが、現行制度にその固定要件はありません。とはいえ自己資金の額は審査の判断材料のひとつなので、面談の時点で口座に確認できる形にしておく流れになります。
相談したその日に融資が決まるわけではありません
創業融資は、審査に一定の時間がかかります。書類提出後おおむね3週間から1か月、準備期間を含めると合計2か月程度が目安です。「来月には開業したい」という段階からの相談では、資金の受け取りが開業に間に合わないことも起こります。
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。ここで見られるのは1つや2つの項目ではなく、経験、資金使途、面談での説明も含めた全体です。なお、創業融資だから決算書を見ないということはありません。新しく設立した法人でも一期でも決算が締まっていればその決算書が確認されますし、代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。
2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。
よくある質問
Q. 指定申請がまだ済んでいない段階でも相談できますか
A. できます。むしろ指定申請の準備と資金計画は同じ時期に動くため、早い段階のほうが調整の幅が広くなります。指定の見込み時期が決まっていれば、そこから逆算して融資の申込時期を組めます。
Q. 介護業界での勤務経験がない場合はどうなりますか
A. 未経験の分野で創業する場合、計画のなかで経験不足をどう補うかが論点になります。同業の方から助言を受けている、専門的な業務を外部に委託している、といった形は経営への関与としては弱く、カバー策としては十分とは言えません。事業経験者を役員に迎えるなど、運営に直接関わる体制を整える方向で補うほうが説明しやすくなります。
Q. 一度公庫の審査に落ちていますが、相談しても意味はありますか
A. 否決の原因を特定せずに再申請しても、結果は変わりません。自己資金の状況、計画の説得力、未経験への対策など、どこが評価されなかったのかを整理してから出し直す形になります。なお、審査に落ちたこと自体が信用情報機関に記録されることはありませんが、公庫内には審査に落ちた記録が残るため、次の審査ではその経緯を踏まえて慎重に扱われる可能性があります。
まとめ
介護事業の創業融資は、開業予定日と指定申請のスケジュール、そして介護報酬が入金されるまでの約2か月の時間差を、資金計画のなかでどうつなぐかが中心になります。相談の場で進めるのは、この3つを並べて必要額と申込時期を決め、創業計画書の数字を根拠のある形に整えていく作業です。
V-Spiritsグループでは、これまでに712件(2026年6月時点)の創業融資を支援してきました。開業準備のどの段階からでもご相談いただけます。本記事の数字は執筆時点(2026年8月)のものですので、実際の制度内容は申請先で最新の情報をご確認ください。
【無料相談のご案内】
融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























