
日本政策金融公庫の創業計画書を書くとき、項目「7 必要な資金と調達方法」の運転資金欄に「家賃」をどう計上するかで迷う方は多くいます。家賃は毎月発生する固定費の代表格でありながら、創業時には「初月の家賃」「保証金・敷金」「保証会社の費用」などが複雑に絡み、どの項目に振り分けるべきか分かりにくい費用です。
この記事では、創業計画書における運転資金欄の家賃の扱い方について、設備資金との切り分け、月数の目安、計上時の根拠の示し方、よくある失敗パターンまでを、起業直後の個人事業主・中小企業の経営者向けに整理します。創業融資の審査で違和感のない資金計画の組み立て方をご紹介します。
創業計画書「必要な資金と調達方法」とは
日本政策金融公庫の創業計画書には、「必要な資金と調達方法」という項目があります。これは創業に必要な資金の使い道(左側)と、調達源(右側)を一覧化する欄で、両者の合計が必ず一致する設計になっています。
設備資金と運転資金の違い
左側の「必要な資金」は、設備資金と運転資金の2区分に分かれます。
- 設備資金:1回限りの初期投資(内装工事、什器備品、保証金など)
- 運転資金:事業を回し続けるための継続的な費用(家賃、人件費、仕入、光熱費など)
家賃に関しては、毎月発生する家賃そのものは運転資金、入居時に支払う保証金は設備資金として整理するのが基本ルールです。
運転資金における家賃の計上ルール
原則:3〜6か月分を見込む
創業時の運転資金として家賃を計上する場合、月額家賃の3〜6か月分を見込むのが一般的です。創業初期は売上が立ち上がりきらないため、家賃を含む固定費を一定期間分手元に確保しておく必要があります。
業種による調整
業種によって売上が安定するまでの期間が異なるため、月数も調整が必要です。
- 飲食店・小売業:3〜6か月分(立ち上がりに時間がかかるため、長めに見込むのが安全)
- 美容室・サロン:3か月分前後(指名顧客の引き継ぎがあれば短めでも可)
- 士業・コンサル:3か月分前後(既存顧客の確保状況による)
- BtoB事業:6か月分以上(売掛回収まで時間がかかるため厚めに)
面積・立地と家賃の妥当性
家賃水準が、想定する売上規模や事業内容と釣り合っているかも審査ポイントです。家賃比率(家賃÷売上)の業界目安を意識すると、過大な家賃の物件選定を避けられます。一般的に飲食店であれば売上の10%以下、美容室であれば10〜15%以下が目安です。
家賃の関連費用の正しい振り分け方
家賃と聞くと毎月の支払額だけをイメージしがちですが、創業時には次のような関連費用も発生します。それぞれの振り分けを整理しましょう。
保証金・敷金 → 設備資金
入居時に大家へ預ける保証金・敷金は、退去時に一部または全額が戻ってくる前提の費用ですが、初期投資として設備資金に計上します。商用物件では家賃の6〜10か月分が相場です。
共益費・管理費 → 運転資金
家賃と一緒に毎月支払う共益費・管理費は、家賃と合算して運転資金に計上します。「家賃○○万円×6か月+共益費△△万円×6か月」のような形で記載すると分かりやすくなります。
融資・創業支援の無料相談はこちら
【無料相談のご案内】
起業の手続きって何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!
運転資金欄の家賃を書くときの記入例
例1:カフェ開業(家賃月18万円)
運転資金の欄には、家賃を含めた固定費・変動費を一覧で記載します。記入例は次のようになります。
- 家賃(18万円×6か月):108万円
- 共益費(2万円×6か月):12万円
- 人件費(パート2名×月20万円×3か月):120万円
- 仕入(月60万円×3か月):180万円
- 水道光熱費(月8万円×3か月):24万円
- 合計運転資金:444万円
家賃と共益費を6か月分、人件費・仕入・水光熱を3か月分というように、支払いリスクと売上連動性に応じて月数を変えるのが実務的なやり方です。
例2:美容室開業(家賃月12万円)
- 家賃(12万円×4か月):48万円
- 共益費(1.5万円×4か月):6万円
- 材料費(月8万円×3か月):24万円
- 水道光熱費(月3万円×3か月):9万円
- 広告宣伝費(月5万円×3か月):15万円
- 合計運転資金:102万円
家賃計上でよくある失敗例
家賃を1か月分しか計上しない
「初月の家賃しか必要ない」と考えて1か月分だけ計上すると、創業直後の売上不振時に運転資金が枯渇します。最低3か月分は必ず計上しましょう。
保証金を運転資金に入れてしまう
保証金は1回限りの初期投資なので、設備資金に計上します。運転資金に混ぜると、月次の固定費構造が見えなくなり、計画の精度が下がります。
共益費・管理費を忘れる
家賃のみを計上し、共益費・管理費を見落とすケースが頻発します。毎月の支払い総額で運転資金を組み立てましょう。
家賃水準が事業規模と合っていない
想定売上に対して家賃が高すぎる物件を選ぶと、家賃比率が常に高水準となり、利益が出にくい構造になります。物件選定の段階から家賃比率を意識することが重要です。
家賃の根拠を口頭で説明できない
面談で「なぜこの家賃水準ですか」と聞かれて即答できないと、物件選定が場当たり的だと判断されます。同エリアの相場・周辺競合の家賃水準を調べておきましょう。
記入時のチェックポイント
運転資金欄に家賃を書き終えたら、提出前に次の項目を確認します。本記事の情報は2026年5月時点の公庫様式・運用を前提としているため、最新の様式は公庫公式サイトで必ず確認してください。
- 家賃は運転資金、保証金は設備資金に分けているか
- 月数は業種に応じて3〜6か月分の範囲で適切に設定しているか
- 共益費・管理費を漏れなく計上しているか
- 家賃比率(家賃÷売上)が業界水準から外れていないか
- 事業の見通し(月平均)欄の家賃水準と整合しているか
まとめ
創業計画書の運転資金欄で家賃を計上する際は、「いつ・どれだけ・なぜその水準なのか」を明確にすることが重要です。書き方のポイントは以下の通りです。
- 毎月の家賃は運転資金、保証金は設備資金として切り分ける
- 業種に応じて3〜6か月分を見込み、立ち上がり期間の長い業種は厚めに
- 共益費・管理費を含めた毎月の実支払額で計算する
- 家賃水準は売上計画とのバランス(家賃比率)で検証する
- 事業の見通し欄と整合性を取る
家賃の計上は、運転資金の中でも特に審査担当者の目が留まりやすい項目です。書き方に迷ったら、過去の融資審査の現場を熟知した専門家に相談することで、担当者目線で違和感のない資金計画に仕上げられます。
【無料相談のご案内】
起業の手続きって何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























