
フランチャイズ開業の公庫融資は「加盟のかたち」で対象が変わる
フランチャイズ本部の説明会や資料で「開業資金は日本政策金融公庫で借りられます」と案内されることがあります。しかし、この案内がそのまま自分のケースに当てはまるかどうかは別の話です。日本政策金融公庫の創業向け融資制度は「新たに事業を始める」ことを前提に設計されており、実際に本部から提示される加盟の選択肢には、この前提に当てはまるものと当てはまらないものが混在しています。
この記事では、公庫の融資が使えるかどうかを制度の存在ではなく、自分の加盟のかたちが創業向け制度の対象に含まれるかという視点から整理します。対象に含まれる場合の限度額や返済条件、含まれない場合の扱い、どちらでも共通して必要になる準備の順に説明します。本文の数字は2026年8月時点でまとめた社内情報にもとづきます。制度や金利は変わることがあるため、実際の申し込みでは最新情報を日本政策金融公庫に確認してください。
まず、自分の加盟がどのかたちに当たるかを確認する
フランチャイズ本部から提示される選択肢には、次のような幅があります。
新規に加盟して自分で店を出す
もっとも一般的な加盟のかたちです。契約後に物件を探し、新たに店舗や事業を立ち上げます。
本部の直営店を譲り受ける
本部がすでに運営している直営店の経営を、加盟者として引き継ぐかたちです。設備や立地が整った状態からのスタートになります。
既存加盟店を引き継ぐ
他の加盟者が運営していた店舗を、事業承継のようなかたちで引き継ぐケースです。
個人事業からの法人化と同時に加盟する
すでに個人事業として同じような事業を営んでいる方が、法人を設立するタイミングで加盟契約を結ぶケースです。
業務委託や代理店に近い契約形態
本部と雇用に近い業務委託契約を結び、独立した事業主というより本部の業務の一部を担うかたちで関わる契約もあります。
この5つのうち、どれに当てはまるかによって、公庫の創業向け制度の対象になるかどうかが変わってきます。次の章から、対象になる場合とならない場合を分けて見ていきます。
「創業」に当たる場合に使える制度の中身
制度の名称と沿革
日本政策金融公庫の創業向け融資の中心となる制度は、「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月までは「新規開業資金」という名称でしたが、2024年4月から現在の名称に改称・拡充されています。これとは別に、無担保・無保証の特例だった「新創業融資制度」は2024年3月に廃止されており、現在は無担保・無保証の枠組みが各融資制度に組み込まれています。フランチャイズの資金相談では旧称のまま案内されることもあるため、現行の正式名称で確認しておくと話が食い違いません。
融資限度額・返済期間・据置期間
新規開業・スタートアップ支援資金の融資限度額は7,200万円で、このうち運転資金は4,800万円です。返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内で、いずれも元金返済の据置を5年以内で設定できます。据置期間中は利息のみの支払いになるため、開業直後で売上が安定しない時期の負担を抑えられます。これらの数字は新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例で、利用する制度によって条件は異なります。
金利と創業期の引下げ
2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。「創業期の方」とは、新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方を指します。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性があります。この引下げは無担保で借りる場合に限った優遇ではなく、担保の有無を問わず対象になります。ただし適用可否は利用する制度や審査、条件によって異なるため、必ず下がるとは考えず、申し込み先で確認してください。
自己資金は要件ではなく判断材料
公庫の創業融資では、自己資金の額や割合について、制度上の固定要件は決まっていません。かつての新創業融資制度にあった自己資金1/10という要件のような決まりは、現行制度にはない扱いです。ただし自己資金の額は審査における判断材料の一つとして扱われるため、金額の多さを目安のように考えるのではなく、事業計画とのつながりを説明できる状態にしておくことが求められます。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
審査では、必要な資金をすべて公庫の融資でまかなう前提にしなくてよい場合があります。本部の提携ローンなど他の調達手段が使える状況だと、そちらの利用を前提に融資額が抑えられることがあります。加盟の相談を進める際は、提示された調達手段もあわせて資金計画に入れておくと、審査の場で話がかみ合いやすくなります。
「創業」に当たらない場合はどう扱われるか
加盟のかたちによっては、公庫の創業向け制度の対象から外れる場合があります。特に確認しておきたいのが、個人事業からの法人化と同時に加盟するケースです。
同一事業の法人化は原則、通常の融資の扱いになる
個人事業主がすでに営んでいる事業を、そのまま法人化する「法人成り」は、原則として創業融資の対象外です。すでに事業として実績があるとみなされ、通常の融資の扱いになります。フランチャイズ加盟のタイミングで法人化する場合、これまで営んでいた事業と加盟先の事業が同じ内容であれば、この扱いに当てはまる可能性があります。
別事業として法人を新設する場合は創業融資の対象になる
一方で、個人事業主が営んでいる事業とは別の、新しい事業を行う法人を新たに設立する場合は、その新法人にとっては創業にあたるため、創業融資を利用できます。フランチャイズ加盟を、今の事業とは異なる新しい柱として法人で始める場合はこちらに当たります。自分のケースが「同一事業の延長」なのか「別事業の新規開始」なのかは、契約前に整理しておく価値があります。なお、法人の設立手続きそのものについては、税理士や司法書士など専門家への相談が前提になります。
どちらでも共通して必要になる準備と時間の目安
審査で見られるもの
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。判断材料はこの2つに限られるわけではなく、経験や資金使途、面談の内容なども含めて総合的に見られます。また、創業融資だからといって決算書を見ないわけではありません。新しく設立した会社であっても、一期でも決算が締まっていればその決算書が確認されますし、代表者が他に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
融資額が計画より抑えられる主な理由は、大きく分けて資金使途の妥当性と、資金調達の代替性の2つです。どちらも加盟の相談段階から意識しておける論点で、加盟のかたちを整理したうえで資金使途を具体的に説明できるようにしておくと、審査する側にとっても判断がしやすくなります。
申請から実行までの時間の目安
申し込みから融資の実行までは、書類提出後おおむね3週間から1か月が目安です(2026年8月時点でまとめた情報)。事業計画書や自己資金の確認資料、見積書などの準備にかかる時間を含めると、合計で2か月程度を見ておくと安全です。加盟契約のスケジュールと資金調達のスケジュールがずれないよう、加盟のかたちを判定した段階で、この期間を逆算しておくことができます。
よくある質問
Q. 直営店の譲受や既存加盟店の引継ぎも、創業向け制度の対象になりますか
A. 譲受や引継ぎであっても、譲り受ける側にとって新たに事業を始めることに当たるかどうかが判断の軸になります。個別のケースによって扱いが変わるため、契約前に加盟のかたちを整理したうえで、申し込み先に確認する流れが安全です。
Q. 制度融資も候補になりますか
A. 制度融資は自治体・金融機関・信用保証協会の三者が連携する仕組みで、実際の融資の実行主体は民間金融機関です。信用保証協会が直接貸し付けるわけではなく、保証を付ける役割を担います。公庫の創業融資とあわせて候補になり得ますが、仕組みが異なるため別の選択肢として整理しておくと、比較がしやすくなります。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























