
医療法人の新規開院・増床で補助金を使うなら「建物費」と「医療機器費」を分けて考える
医療法人として2院目、3院目の診療所を新しく開設しようとするとき、「補助金は使えるのか」という疑問が真っ先に浮かびます。結論から言うと、新しい診療所を作る場合も、既存の診療所を増床する場合も、土地の取得費や建設工事費、内装工事費といった建物にかかる費用を対象にできる補助金はありません。一方で、新しく導入する医療機器については、条件を満たせば補助金の対象になります。この記事では、歯科の医療法人が新規開業・増床の場面で使える補助金の全体像を、建物費と医療機器費の違いを軸に整理します。
新しい診療所づくりでは「建物費」と「医療機器費」で補助金の扱いが分かれる
施設整備費に使える補助金は無い
新しい診療所の建設や内装工事、既存診療所の増床にかかる費用は、土地取得費・建設工事費・内装工事費のいずれも、補助金の対象にはなりません。この点は、新規開業と増床のどちらのケースでも共通しています。建物にかかる投資は、自己資金や金融機関からの借り入れで資金計画を立てる前提になります。
一方で「新たに導入する医療機器」には使える補助金がある
建物とは別に、新しい診療所に導入する歯科用ユニットやレントゲン装置などの医療機器については、状況が異なります。中小企業庁が所管する中小企業省力化投資補助金(一般型)が、条件を満たせば対象になる制度として存在します。
歯科の医療法人が新規開業・増床で狙えるのは「中小企業省力化投資補助金(一般型)」
制度の狙いと補助上限
中小企業省力化投資補助金(一般型)は、人手不足の解消に向けてオーダーメイド性のある設備を導入する事業計画を対象にした制度です。補助上限額は従業員5人以下で750万円から、101人以上では8,000万円まであり、大幅な賃上げを行う特例を適用した場合は最大1億円になります。補助率は中小企業で1/2、賃上げ特例を適用すると2/3、小規模事業者は2/3です。
歯科医業を営む医療法人が対象に追加された経緯
経済産業省・中小企業庁が所管する多くの汎用補助金では、保険診療にかかる経費や機器は公的医療保険(診療報酬)との重複を理由に、原則として対象外とされています。中小企業省力化投資補助金(一般型)は、そのなかの例外にあたる制度です。2026年3月の第6回公募要領改訂で「診療報酬・介護報酬との重複がある事業は補助対象外」という規定が撤廃され、さらに第7回公募から歯科医業を営む医療法人が補助対象者に追加されました(従業員300人以下等の要件があります)。歯科医業以外の医療法人は引き続き対象外で、個人開業医は従来から要件を満たせば対象です。V-Spiritsが公募事務局に確認したところ、歯科の医療法人が新しい診療所を作るとき、増床するときのいずれについても、この制度の対象になりうるとの回答を得ています。ただし、実際に対象になるかどうかは個別の投資内容によって変わるため、申請前に最新の公募要領で法人格・診療科・公募回の組み合わせを確認する必要があります。
対象になるのは「オーダーメイド性のある設備」
補助対象になるのは、ICT・IoT・AI・ロボットなどを活用したオーダーメイド性のある設備です。汎用設備であっても、複数の設備を組み合わせることでより高い省力化効果や付加価値を生む場合や、導入環境に応じて周辺機器や搭載機能が変わる場合は、オーダーメイド設備とみなされ対象になります。単に汎用設備を単体で導入するだけの計画は対象外です。単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ組み込む必要もあります。
💬 執筆者の三浦から一言
審査する側にいたころ実感したのですが、補助金は名前だけで判断すると危険です。かつて「ものづくり補助金」と呼ばれていた制度も、今は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」へ名称と枠組みが変わりました。同じように「省力化の補助金」とひとまとめにされがちですが、新規開業で対象になるかは枠の区別まで見て初めて判断できます。
新規開設ならではの実務論点
新しい診療所の内装工事と一体になった医療機器はどう切り分けるか
新規開業では、内装工事と医療機器の導入が同じタイミングで進むため、見積書の段階で費用が一体化しやすい面があります。補助金の対象になるのは機械装置・システム構築費であり、導入と一体の軽微な据付・改良までが対象経費に含まれます。壁や床、配管、電気工事など建物本体に関わる費用は、医療機器と同じ発注書の中に混ざっていても対象経費には含まれません。見積書・契約書の段階から、建物にかかる費用と機器にかかる費用を分けて計上しておくことが、申請手続きを進める土台になります。
新規開設のときの「従業員規模」の数え方
補助上限額は従業員規模によって変わるため、新しい診療所を含めた従業員数をどう数えるかが実務上の論点になります。中小企業向けの補助制度では、規模の判定を法人単位で行う制度が一般的ですが、新規開業のタイミングでは新しい診療所のスタッフをいつの時点の人数として計上するかによって、該当する規模区分が変わる可能性があります。この点は公募回によって解釈が動く部分でもあるため、社内の資料だけで判断せず、公募要領や事務局への確認を通じて、自法人がどの規模区分に該当するかを申請前に確かめる必要があります。
複数院ある医療法人ならではの要件確認の視点
2院目、3院目の開設を検討する医療法人では、法人全体で複数の診療科を持っているケースもあります。中小企業省力化投資補助金(一般型)で対象に追加されたのは歯科医業を営む医療法人であり、歯科医業以外の医療法人は引き続き対象外とされています。歯科以外の診療科を併設する法人の場合、どの診療所・どの事業計画を対象として申請するかによって扱いが変わる可能性があるため、法人全体の診療科構成を踏まえたうえで、対象になる事業の範囲を事務局に確認しておく必要があります。
対象外になりやすいケース・注意点
中小企業省力化投資補助金(一般型)には、事業計画そのものに関わる注意点もあります。労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす3〜5年の事業計画が要件で、賃上げ目標の未達は返還につながる可能性があります。また、汎用設備を単体で導入するだけの計画は対象外になるため、事業計画の段階でオーダーメイド性を示せるかどうかが審査の分かれ目になります。交付決定前に契約や発注を進めてしまうと対象外になる点も、新規開業のスケジュールを組むうえで踏まえておく事柄です。
デジタル化・AI導入補助金という選択肢
医療機関で保険診療・自由診療どちらの業務効率化にも使える制度として、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)もあります。ただしこちらはレセコンや電子カルテ、予約管理システムなどのITツール導入が中心で、歯科用ユニットのような診療機器そのものは対象になりにくい制度です。新しい診療所の医療機器を検討する場面では中小企業省力化投資補助金(一般型)が中心的な選択肢になり、デジタル化・AI導入補助金は診療所の情報システムを整える場面で補完的に検討する制度、という位置づけで整理できます。
まとめ
医療法人が新しい診療所を作る、あるいは増床するとき、建物にかかる費用を補助金で賄うことはできません。一方で、新たに導入する医療機器については、歯科医業を営む医療法人であれば中小企業省力化投資補助金(一般型)の対象になりうる状況です。建物費は自己資金や融資での資金計画を、医療機器費は補助金の活用可能性を、それぞれ分けて検討することが、新規開業・増床の計画を立てるうえでの出発点になります。実際に対象になるかどうかは法人格・診療科・公募回の組み合わせによって変わるため、事業計画の具体化にあわせて最新の公募要領を確認しながら進める必要があります。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























