
建設業の補助金申請|審査項目から逆算する事業計画の作り方【2026年度】
設備投資に補助金を使おうと調べ始めると、「事業計画書の書き方」を解説したページがいくつも見つかります。ところが建設業の経営者が実際にキーボードに向かうと、最初の事業概要の欄で手が止まりがちです。工事を請け負う仕事は、製造業のように「新しい製品を開発する」という枠に当てはめにくいからです。
この記事は、2026年度の新事業進出・ものづくり商業サービス補助金に、建設業・専門工事会社が自社で申請書を書いて臨む場合を想定しています。制度の一覧ではなく、審査で見られる項目から逆算して計画を組み立てる順番を整理しました。数字は公募要領1.0版(令和8年6月・初版2026年6月29日)に基づく執筆時点の内容です。
まず前提:2026年度から「枠の名前」で語る制度になりました
「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」は、2026年度に統合され、公募要領上の正式名称は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金になりました。建設業の設備投資で候補になるのは、主に次の2つの枠です。
- 革新的新製品・サービス枠:自社の技術力等を活かして顧客等に新たな価値を提供する新製品・新サービスを開発する取組が対象。補助下限100万円、補助上限は従業員規模別で1〜5人750万円/6〜20人1,000万円/21〜50人1,500万円/51人以上2,500万円
- 新事業進出枠:既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出が対象。補助下限750万円、補助上限は1〜20人2,500万円/21〜50人4,000万円/51〜100人5,500万円/101人以上7,000万円
よく見かける「上限3,500万円」「上限9,000万円」という数字は、最大の従業員規模で、なおかつ大幅賃上げ特例を適用した場合の最大値です。従業員規模により金額は変わりますので、自社の人数で上限がいくらになるかを最初に確認してから計画の規模感を決めてください。補助率は中小企業者が2分の1、小規模企業・小規模事業者・再生事業者は3分の2(革新的新製品・サービス枠の場合)、地域別最低賃金引上げ特例の適用時は3分の2です。
💬 執筆者の三浦から一言
ご相談の場では今も「ものづくり補助金」という呼び方が使われますが、2026年度からは新事業進出補助金と統合され、制度上は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の各枠という扱いになりました。検索で出てくる過去の解説や上限額をそのまま流用すると、書き出しの前提からずれます。枠の名称と自社規模の上限額を確認してから、計画の骨組みに入っていただくと手戻りが減ります。
建設業がつまずくのは「開発」をどう翻訳するかです
革新的新製品・サービス枠は、公募要領で「単なる設備・システム導入、既存製品・サービスの生産プロセス改善、同業で既に相当程度普及している開発は対象外」と定められています。ここが建設業の計画で最初に効いてきます。
重機やICT建機を買って自社の施工効率を上げる、という筋書きは、読み方によっては「既存サービスの生産プロセス改善」に寄ります。施工そのものを速くする話で終わっているうちは、この枠の趣旨と噛み合いません。逆に、その設備によってこれまで受注できなかった工事や、外注に出していた工程を自社サービスとして提供できるようになるのであれば、顧客に新たな価値を提供する新サービスとして書ける余地が出てきます。
もう一つ気をつけたいのが「同業で既に相当程度普及している」という規定です。業界内で導入事例が積み上がっている技術をそのまま「開発」として置くと、この規定に当たるかどうかを問われることになります。同じ設備を入れる場合でも、自社の対象工種・現場条件に合わせてどう組み立て直すのかを説明できるかどうかで、計画の説得力が変わります。
一方の新事業進出枠は、新たに製造・提供する製品等が申請者にとって新規性を有し、かつその市場が申請者にとって新たな市場であることが必要とされています。日本初・世界初ではなく「申請者にとっての新規性」で判断される点は、建設業にとって現実的な入口です。ただし、既存事業と同一市場、既存製品の増産・再製造、単なる製法変更、単なるメニュー追加、単に商圏が違うだけといったものは新事業進出に該当しないと明記されています。「隣県まで営業範囲を広げます」だけでは通りません。
枠を決める前に、投資額と補助下限を突き合わせる
枠の選定でもう一つ先に確認しておきたいのが補助下限です。革新的新製品・サービス枠は100万円、新事業進出枠は750万円が下限で、これを下回る事業規模では枠に乗りません。新事業進出枠は補助率2分の1が基本ですから、補助額750万円ということは補助対象経費でおおむね1,500万円規模の投資が前提になります。
建設業の投資は、機械そのものより周辺の工事費・付帯費が膨らみやすい分野です。ところが対象経費には区分ごとの制約があります。機械装置・システム構築費は単価10万円(税抜)以上が条件で、技術導入費と知的財産権等関連経費はそれぞれ補助対象経費総額の3分の1、外注費は4分の1(主たる内容の外注は不可)、専門家経費は5分の1(1日1人5万円)が上限です。建物費が対象になるのは新事業進出枠だけで、そこでも建物の単純購入・賃貸や不動産購入費は対象外です。
見積書を並べて、どの費目がどの区分に入り、そのうち対象外がいくらあるのかを先に出しておくと、事業計画の投資額と補助額の整合が取りやすくなります。
審査項目から逆算して計画を組み立てる5つの手順
旧ものづくり補助金では、適格性・経営力・事業性・実現可能性・政策面という観点で計画が読まれていました。この観点は統合後の制度にも引き継がれている可能性がありますので、書く順番もこれに合わせると抜けが出にくくなります。
💬 執筆者の三浦から一言
審査する側にいたころは、事業計画書を数ページ読んだ段階で、書いた人が自社の現場をどこまで把握しているかが見えてきました。公募要領でも事業計画は申請者自身が作成することとされていて、外部への丸投げは不採択や取消の対象です。専門家の手を借りる場合でも、現場で何が起きているかを話せる方が中心に立つほうが、結果として計画は早く固まります。
- 適格性を先に確定する:自社が補助対象者に当たるか、設備投資が必要な事業か、そして新事業進出枠であれば創業後1年に満たない事業者は対象外(最低1期分の決算書が必要)という要件に引っかからないかを確認します
- 経営力を自社の言葉で書く:外部環境(工種別の受注動向、担い手の状況、発注者からの要求)と内部環境(技術者の構成、設備の稼働状況、原価管理の実態)を並べ、そこから経営課題を1つに絞ります
- 事業性を数字でつなぐ:誰にどの工事・サービスを、いくらで、年間何件提供するのか。競合となる同業他社に対して何が違うのかを、価格ではなく提供できる工種・工期・品質で説明します
- 実現可能性を体制で示す:担当する技術者、資格、必要な許可、設備の納期、資金調達の見通し、月単位のスケジュールを書きます。ここが薄いと、計画が良くても実行できないと読まれます
- 政策面を最後に載せる:地域の担い手確保、雇用と賃上げ、デジタル活用といった要素は、無理に足すのではなく、1〜4で書いた事業の結果として自然につながる形にします
このうち建設業で最も差がつくのは3つ目です。工事は受注生産なので、売上予測を「なんとなく増える」で書きがちですが、対象工種の年間発注件数、自社の受注できる件数、1件あたりの請負金額という形に分解しておくと、付加価値額の計画とも接続しやすくなります。付加価値額は営業利益・人件費・減価償却費の合計で、事業計画期間(3〜5年)で年平均成長率プラス4.0パーセント以上が基本要件です。
賃上げ要件は「書く」だけでなく「積む」必要があります
この補助金には、全枠共通の基本要件として賃上げが組み込まれています。一人当たり給与支給総額の年平均成長率がプラス3.5パーセント以上(交付申請時までに従業員へ表明が必要)、事業場内最低賃金は毎年、地域別最低賃金プラス30円以上の水準です。いずれも未達の場合は返還の対象になります。
さらに上限額を引き上げる大幅賃上げ特例を使う場合は、給与支給総額が年平均プラス6.0パーセント以上、事業場内最低賃金が地域別最低賃金プラス50円以上という水準になります(再生事業者・地域別最低賃金引上げ特例とは併用できません)。
建設業は技能労務者の比率が高く、現場の稼働に応じて支給額が動く会社も多い業種です。上限額の大きさだけを見て特例を選ぶと、3〜5年にわたって返還リスクを抱えることになります。計画上の売上・粗利の伸びと、賃金原資の伸びを同じ表の中で並べて、無理のない水準を先に決めてから枠と特例を選ぶ順番をおすすめします。なお、賃金規程や社会保険の実務そのものは社会保険労務士の領域ですので、制度設計に踏み込む場合は有資格の専門家に確認してください。
計画の前提になる時間軸を外さない
事業計画は中身だけでなく、時間軸が合っていないと成立しません。押さえておく前提は次の3つです。
- 交付決定前の発注・契約・購入は対象外:見積りを取るところまでは進められますが、交付決定より前に契約してしまうと補助の対象外になります。国・公的制度との二重受給も対象外です
- 補助事業実施期間:革新的新製品・サービス枠は交付決定日から10か月以内(ただし採択発表日から12か月以内)、新事業進出枠は交付決定日から14か月以内(ただし採択発表日から16か月以内)です。設備の納期が長い場合は、この期間内に導入から検収まで収まるかを逆算します
- 公募スケジュール:第1回公募は2026年6月29日開始、申請受付が2026年8月31日から、締切が2026年9月30日18時、採択発表は2026年12月頃です。電子申請にはGビズIDプライムが必要ですので、未取得の場合は取得にかかる期間も見込んでおきます
よくある質問
Q. 重機やICT建機の購入だけでも申請できますか
A. 設備を買うこと自体が目的の計画は、革新的新製品・サービス枠が対象外としている「単なる設備・システム導入」に寄ります。その設備で新しく提供できるようになる工事・サービスは何か、という形に置き換えられるかが分かれ目です。省力化が主目的であれば、別の制度が合う場合もありますので、投資の目的から制度を選び直すことをご検討ください。
Q. 事業計画書は専門家に作ってもらってもよいのでしょうか
A. 公募要領では、事業計画は申請者自身が作成することとされており、外部への丸投げは不採択・取消の対象と明記されています。相談や助言を受けることと、作成そのものを委ねることは別ですので、自社が主体になる形を保ってください。
Q. 従業員が5人の会社です。上限3,500万円で計画してよいですか
A. 3,500万円は最大の従業員規模かつ大幅賃上げ特例を適用した場合の最大値です。革新的新製品・サービス枠で従業員1〜5人の場合の上限は750万円(大幅賃上げ特例の適用時は850万円)ですので、この金額を前提に投資規模を組み立ててください。
まとめ
建設業がこの補助金で採択される事業計画を作るには、制度の選択と計画の中身を分けて考えると進めやすくなります。先に自社の従業員規模で上限額と補助下限を確認し、投資が「開発」や「新市場への進出」として説明できるかを判断してから、適格性・経営力・事業性・実現可能性・政策面の順に書き進める形です。
そのうえで、賃上げ要件は3〜5年の返還リスクとセットであること、交付決定前の発注は対象外であること、実施期間と公募スケジュールに設備の納期が収まることを確認しておけば、計画が途中で崩れる要因はかなり減らせます。制度の内容や公募条件は変更されることがありますので、申請の際は必ず最新の公募要領で確認してください。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























