
整形外科診療を院内で完結させたい動物病院の設備投資と補助金の考え方
整形外科の症例を院内で診られるようにしたい、という相談は一次診療の動物病院から多く寄せられます。骨折や関節疾患を紹介に回さず自院で対応できれば、単価の高い診療を院内に持てます。ただ、そのために必要な設備は1台では終わりません。画像診断の機器、手術に使う設備、術後のリハビリ機器と、性格の違う投資が同時に発生します。
ここでつまずくのが、補助金の申請を「機器ごとに1件ずつ出すのか」「まとめて1件にするのか」という点です。制度側には補助下限や設備要件があり、この分け方を先に決めておかないと、途中で使える制度が無くなってしまいます。この記事では2026年8月時点の公募要領をもとに、整形外科まわりの設備投資を補助金にどう乗せるかを整理します。数字と要件は変更されることがあるため、申請前には必ず最新の公募要領をご確認ください。
整形外科の設備投資は性格の違う3つのかたまりに分かれます
整形外科を強化するときに必要になる設備は、おおまかに3つに分かれます。1つ目が骨や関節の状態を見るための画像診断の機器、2つ目が手術台や関節鏡などの手術関連設備、3つ目が術後の回復を支えるリハビリ機器です。
この3つは同じ「整形外科の設備」でも、補助金から見た性格が違います。画像診断の機器は既存の診療でも使うため設備更新に見えやすく、手術関連設備は新しい診療メニューを立ち上げる投資に見えやすい。制度は「何を買うか」ではなく「その投資で何が変わるか」で選ばれるため、この違いが申請単位の決め方に直結します。
申請単位を決める前に見ておく4つの制度
候補になる制度は投資の中身と規模で変わります。それぞれ下限と設備要件が違うため、金額を並べる前にこの4つの前提を押さえておきます。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠
自社の技術等を活かして新しい製品・サービスを開発する取組が対象で、補助下限は100万円です。補助上限は従業員規模別で、1〜5人は750万円、6〜20人は1,000万円、21〜50人は1,500万円、51人以上は2,500万円となります。大幅賃上げ特例を適用した場合はそれぞれ850万円、1,250万円、2,500万円、3,500万円まで上がります。補助率は中小企業者が2分の1、小規模企業者・小規模事業者・再生事業者は3分の2です。機械装置・システム構築費は単価10万円(税抜)以上が条件で、設備投資が必須になります。単なる設備・システム導入や、既存サービスの生産プロセス改善は本枠の対象外とされています。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠
既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する枠です。補助下限が750万円と高く、小さくまとめた申請は乗りません。補助上限は1〜20人が2,500万円、21〜50人が4,000万円と規模別に上がります。この枠だけは建物費が対象経費に入るため、手術室そのものを整備する場合に検討の余地があります。ただし新規設立・創業後1年に満たない事業者は対象外で、最低1期分の決算書が必要です。
中小企業省力化投資補助金(一般型)
現場の人手不足や工程のムダを減らす投資が対象で、補助上限は1億円です。単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ入れる必要がありますが、それだけでは足りません。対象になるのはオーダーメイド性のある設備で、省力化に資する汎用設備を複数組み合わせてより高い省力化効果を生む場合、または導入環境に応じて周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能等が変わる場合に該当します。汎用設備を単体で導入するだけの事業は対象外です。
中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)
登録済みの省力化製品から選んで導入する制度で、販売事業者と共同で申請します。単独申請は原則できません。既製品を素早く入れたい場合に向きますが、補助上限額は改定が入っているため、金額を前提に検討するときは最新の公募要領で確認してください。
まとめて出すか分けて出すかで、崩れやすい3か所
3つのかたまりを1件にまとめるか、年度をまたいで分けるか。この判断で実際に崩れやすいのは次の3か所です。
1. 交付決定より前に発注してしまう
いずれの制度も、交付決定前の契約・発注・購入は対象外です。「まず画像診断の機器だけ先に入れて、手術設備は後から補助金で」という進め方をすると、先に入れた分は補助の対象から外れます。採択の通知が来ただけでは着手できず、交付決定を待つ必要がある点にも注意が必要です。
2. 分けたことで補助下限を割る
革新的新製品・サービス枠の下限は100万円、新事業進出枠の下限は750万円です。整形外科の設備一式であれば新事業進出枠の下限に届く規模になることもありますが、機器ごとに分けて申請すると1件あたりの金額が下限を割り、枠に乗らなくなります。また省力化投資補助金(一般型)は汎用設備の単体導入を対象外としているため、1台だけを切り出す出し方とは相性がよくありません。
3. 実施期間に収まらない
補助事業には実施期間があります。革新的新製品・サービス枠は交付決定日から10か月以内、新事業進出枠は交付決定日から14か月以内です。「3年かけて少しずつ整えていく」という段階導入の計画は、1件の補助事業としては期間内に収まりません。長期で整える方針なら、補助金に乗せる範囲と自己資金で進める範囲を最初に線引きしておく必要があります。
採択された後に残る要件から逆算する
制度選びで見落とされやすいのが、採択された後に何年も残る要件です。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の基本要件は、付加価値額が事業計画期間で年平均成長率4.0%以上、一人当たり給与支給総額が年平均成長率3.5%以上、事業場内最低賃金が毎年地域別最低賃金プラス30円以上の水準というものです。給与と最低賃金の要件は未達の場合に返還が生じます。
省力化投資補助金(一般型)は労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす計画が要件で、賃上げ目標の未達時には達成率に応じた返還が生じ得ます。カタログ注文型は労働生産性を年平均3.0%以上向上させる計画が求められ、計画未達時には減額の規定があります。
💬 執筆者の三浦から一言
審査する側にいたころ、賃上げの目標は「達成できそうか」ばかり見られがちだと感じていました。実は未達のときの扱いが制度で違います。返還になる制度と減額で済む制度があるので、同じ設備が複数の制度に乗るなら、通りやすさではなく未達だったときにどちらが軽いかで比べるほうが後から効きます。
どちらの方向で計画を組むかは投資の中身から決まります。新しい診療メニューとして整形外科を立ち上げ、紹介に回していた症例を院内で受けるのであれば、新規性と新しい市場で説明する方向になります。すでに症例を受けていて体制の負担を減らすために設備を組み替えるのであれば、省力化の方向が筋が通ります。
申請前に確認しておきたいこと
- 画像診断・手術・リハビリのどこまでを1件の補助事業に含めるかを決めたか
- その範囲の合計額が、選ぼうとしている枠の補助下限を超えているか
- 機械装置の単価要件(革新的新製品・サービス枠は10万円税抜以上、省力化一般型は50万円税抜以上)を満たす機器が入っているか
- 省力化一般型を狙う場合、複数設備の組み合わせや構成の変更でオーダーメイド性を説明できるか
- 交付決定前に発注する予定の機器が計画に混ざっていないか
- 実施期間(革新的10か月以内、新事業進出14か月以内)に導入と支払いが収まるか
- 採択後の賃上げ・付加価値額・労働生産性の目標を、院の人員規模で置けるか
なお、2026年度の第1回公募は2026年6月29日に開始され、申請締切は2026年9月30日18時、採択発表は2026年12月頃とされています。電子申請にはGビズIDプライムのアカウントが要るため、取得に時間がかかる点も見込んでおいてください。
まとめ
整形外科に強い動物病院を目指す設備投資は、機器を1台ずつ買い足す話ではなく、画像診断から手術、リハビリまでをどの単位で1つの事業として組むかという話になります。申請単位を先に決めると、補助下限・単価要件・実施期間・交付決定前の発注という4つの制約が絞り込まれ、候補の制度が見えてきます。逆に買う順番から決めると、後から制度に合わせて計画を組み直すことになります。
本記事は2026年8月時点の公募要領等をもとにしています。制度の要件・金額・スケジュールは改定されることがあるため、実際の申請にあたっては最新の公募要領と申請先の案内をご確認いただき、判断に迷う場合は専門家にご相談ください。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























