
信用金庫の融資相談で最初に確認される4つのこと
信用金庫に事業性融資の相談をすると、決算書や事業計画の数字から話が始まると考える方は一定数います。実際には、その手前に法律で決められた確認手続きがあり、数字の話に進むのはそのあとになります。本記事では、この最初の手続きの中身と、確認される4つの事項、応じなかった場合の扱いを、相談前の準備の順番に沿って整理します。
相談の最初に確認されるのは「数字」ではない
信用金庫での融資相談というと、自己資金の額や事業計画の売上見込みなど、数字に関するやり取りを思い浮かべる方が多いかもしれません。ただし、相談の入口には数字とは別の確認手続きがあります。これは信用金庫が独自に定めた社内手続きではなく、法律で義務づけられている手続きです。
この手続きは、融資に限らず、口座の開設や一定額を超える取引など、金融機関との間で特定の取引を行う際に共通して行われます。事業性融資の相談であれば、まずこの手続きが済んでから、事業計画や資金の使いみちといった会話に移っていきます。
取引時確認とは何か
この確認手続きは「取引時確認」と呼ばれ、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)第4条第1項に根拠があります。同項では、特定事業者が顧客等との間で特定取引を行う際に、次に掲げる事項の確認を行わなければならないと定めています。信用金庫はこの法律でいう特定事業者にあたります。
確認される4つの事項
犯罪収益移転防止法第4条第1項が定める確認事項は、次の4つです。
- 本人特定事項:自然人であれば氏名・住居・生年月日、法人であれば名称と本店または主たる事務所の所在地です。
- 取引を行う目的:その取引を何のために行うのかという確認です。
- 職業または事業の内容:相談者が個人であれば職業、法人であれば事業の内容です。
- 実質的支配者の本人特定事項:相談者が法人の場合、その法人の事業経営を実質的に支配できる関係にある者について、氏名や住所などの本人特定事項です。
法人として相談する場合は、法人自体の情報に加えて、実質的支配者にあたる人物の情報も確認の対象になります。誰が実質的支配者にあたるかは法人の構成によって変わるため、代表者以外の出資者や役員がいる場合は、相談前に整理しておくと手続きが進めやすくなります。
確認に応じないとどうなるか
犯罪収益移転防止法第4条第7項では、顧客等または代表者等が特定取引等を行う際に取引時確認に応じないときは、これに応ずるまでの間、金融機関はその特定取引等に係る義務の履行を拒むことができると定められています。つまり、取引時確認は相談者側が任意で省略できる手続きではなく、応じなければ融資の話そのものが先に進みません。
また、同条第6項では、顧客等や代表者等は取引時確認に関わる事項を偽ってはならないとされています。確認事項を実態と異なる内容で伝えることは、この規定に反する行為にあたります。
ここまでの内容は、融資を受けられるかどうかという評価とは別の話です。取引時確認は、事業性融資を相談するすべての方が通る法律上の手続きであり、これを済ませたからといって審査で有利になるものでも、確認に時間がかかったからといって不利になるものでもありません。相談者の属性にかかわらず一律に求められる手続きとして押さえておくと、相談当日の流れがつかみやすくなります。
相談前に準備しておくとスムーズなもの
取引時確認の内容が分かると、相談前に用意しておくものも見えてきます。
本人確認書類
本人特定事項の確認には、運転免許証やマイナンバーカードなど、氏名・住居・生年月日が記載された本人確認書類が使われます。法人として相談する場合は、法人自体の名称と所在地を確認できる書類とあわせて、代表者個人の本人確認書類も必要になります。
取引の目的と事業の内容を説明できる状態にしておく
取引を行う目的、職業または事業の内容は、口頭での説明が求められる事項です。何のために資金を借り入れたいのか、どのような事業を営んでいる、または営む予定なのかを、その場で説明できるように整理しておくと、確認の手続きがとどこおりなく進みます。
法人の場合は実質的支配者の情報
法人として相談する場合は、実質的支配者にあたる人物の氏名や住所などの本人特定事項も確認されます。出資比率や議決権の状況によって実質的支配者にあたる人物は変わるため、法人の構成を事前に整理しておくと、相談当日に慌てずに済みます。
取引時確認のあと、契約が近づくと確認されること
取引時確認を終えたあとは、事業計画の内容や資金の使いみちなど、相談を進めるための会話に移っていきます。そこから話が進み、実際に契約を結ぶ段階に近づくと、取引時確認とは別に、契約内容そのものについての確認も行われます。
借入意思・保証意思の確認と同意の記録
金融機関の監督指針では、貸付契約や保証契約を締結する際、契約の内容を説明したうえで、借入意思や保証意思があることを確認し、契約者本人から契約内容への同意の記録を求めることを原則とする態勢が求められています。保証意思の確認にあたっては、契約者本人が経営にどの程度関与しているかも確認の対象になります。
契約書等の書面は交付される
同じ監督指針では、貸付契約や担保設定契約、保証契約を締結したときは、契約者本人に契約内容を記載した書面を交付することとしているかという点も、金融機関の態勢として確認されています。口頭でのやり取りだけで契約が完結するわけではなく、契約内容を記載した書面を受け取る手続きが伴います。
相談・手続きの中で知っておきたいこと
相談から契約までの手続きを進めるにあたって、相談者側が知っておくと安心につながる仕組みもあります。
苦情・相談を受け付ける窓口がある
金融機関の監督指針では、苦情等の事例を蓄積・分析し、契約時点等における説明態勢の改善につなげる取組みや、説明態勢を改善したあとに苦情相談等を確認して効果を検証する取組みが求められています。相談や契約の過程で疑問や不満が生じた場合、金融機関側にこうした苦情処理の体制が置かれていることは知っておいてよい点です。
不当な要求は問題となる行為として明示されている
同じ監督指針では、独占禁止法上の優越的な地位の濫用と誤認されかねない説明を防止する態勢についても定められています。具体例として、借り手企業に対し、正当な理由がないのに要請に応じなければ今後の融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆して金利の引上げを受け入れさせること、返済期限が到来する前に返済させること、債権保全に必要な限度を超えて過剰な追加担保を差し入れさせることが、問題となる行為の例として示されています。こうした行為が行われない態勢を金融機関側が整えることは、監督指針の中で明文化されています。
💬 執筆者の小峰から一言
過去に自己破産をされた方から「10年は借入ができないと聞いた」と相談されることがありますが、この基準は古いものです。信用情報機関の官報情報は2022年11月に10年から7年へ短縮され、CIC・JICCでは5年で登録が消えます。まずは現状を確認するところから始められます。
まとめ|最初の相談までにやっておくこと
信用金庫での事業性融資の相談は、数字の話の前に取引時確認という法律上の手続きから始まります。確認される事項は、本人特定事項、取引を行う目的、職業または事業の内容、法人であれば実質的支配者の本人特定事項の4つです。これに応じない限り、金融機関は特定取引等に係る義務の履行を拒むことができるとされており、確認そのものを飛ばして先に進むことはできません。
相談前には、本人確認書類を用意し、取引の目的と事業の内容を自分の言葉で説明できるように整理し、法人であれば実質的支配者にあたる人物の情報もまとめておきます。契約が近づく段階では、借入意思や保証意思の確認と、契約書等の書面の交付という手続きが控えています。あわせて、苦情を受け付ける窓口があることや、不当な要求が問題となる行為として明示されていることも、相談を進めるうえで知っておくと役立ちます。まずは、本人確認書類と、取引の目的・事業の内容を説明できる状態を整えるところから始めてみてください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























