
創業融資を申し込んだのに否決された、あるいは希望額より大幅に減額されてしまった——。
起業準備中の方から寄せられる相談の中で、最も多いお困りごとの一つです。
「自分の計画のどこが悪かったのか」「次に何を直せばいいのか」がわからないまま、再チャレンジを諦めてしまう方も少なくありません。
本記事では、元日本政策金融公庫支店長・多胡藤夫が実際の審査現場で見てきたリアルをもとに、否決・減額されやすいポイントと、それを防ぐための具体的な対策をお伝えします。
そもそも創業融資の審査では何を見ているのか
公庫の創業融資は、民間銀行と比べて「定性的審査」、つまり人の目で判断する割合が高い融資です。スコアリングで一発アウトになることはほぼありません。
では何を見ているかというと、大きく分けて以下の3軸です。
- 数字の妥当性:事業計画の売上・経費・返済の根拠
- 人物の信用:お金の管理能力、誠実さ、日常の生活態度
- 準備の姿勢:経験の蓄積、自己資金の貯め方、説明力
この3軸を念頭に置いて、否決・減額につながる5つのNGを見ていきましょう。
否決されやすい理由5選
NG① 個人の信用情報に傷がある
審査で最初に確認されるのが、申込者の個人信用情報です。
多胡は実際の審査現場についてこう語っています。
「個人情報に、いわゆる”ブラック”と言われるようなものがあったらダメですよね。延滞情報——ローンの支払いが遅れたりとか。非社会的な企業活動をしていた、いわゆる反社に関わる情報があったら、もう全然ダメです」
また見落とされがちなポイントとして、法人を設立する場合は役員全員の信用情報が審査対象になる点も強調しています。共同創業者がいる場合は、相手の信用状態も必ず事前に確認しておきましょう。
過去に多少の延滞があっても、「今はどうなのか」を誠実に説明できれば審査の余地はあります。重要なのは隠すことではなく、きちんと説明できる状態にしておくことです。
▶ 参考動画:創業融資で否決されやすい5つの理由【元公庫支店長が解説】
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NG② 自己資金の出所が説明できない
公庫は「いくら持っているか」だけでなく、「どうやって貯めたか」を通帳で確認します。突然まとまったお金が振り込まれていたり、出所不明の入金があると「見せ金」と判断され、自己資金として認められません。
多胡は支店長時代の経験をこう話しています。
「公庫は自己資金がいくらあるかだけでなく、どうやって貯めたかを非常に細かく見ます。通帳を数年分さかのぼって確認することもあります。毎月少しずつ貯金している跡が見えるのが一番いい。コツコツ貯めてきた形跡が、返済能力の証明になる」
タンス預金や、親族から借りたお金をそのまま入金しただけでは「見せ金」と判断されやすくなります。退職金や親族からの支援がある場合は、その旨を説明できる書類や記録を事前に準備しておきましょう。
▶ 参考動画:公庫融資の減額を防ぐ3つの理由【元公庫支店長が解説】
NG③ 日常の生活態度・お金の使い方が派手
意外に見落とされがちなのが、通帳に映し出される”生活ぶり”です。公共料金の引き落とし漏れ、クレジットの滞納、派手な消費パターンが通帳に見えると、「この人に貸して返済してもらえるか」という不安に直結します。これを審査の現場では「債務観念」と呼びます。
多胡はこの点について次のように解説しています。
「個人の預金通帳を見せてもらうから、その”生活ぶり”ですね。派手でないか、きちっと引き落としはできているか。これは”債務観念”と言って、期日に引き落としをするとか。日常生活が派手でないかということで見させてもらいます」
さらに、面談時の服装や外見も「お金の使い方」の印象に影響します。
「あまりにキラキラした派手なネックレスをしていたり、虚飾が強すぎると、”派手な生活をしているのかな”と、意外なところで審査に影響することがあります。面接の後に担当者が報告書(レポート)を書くんです。その”人物印象”という欄に、お金遣いが派手そうだといった印象も書かれることがある」
TPOに合った服装で、正直に・具体的に話す姿勢が、担当者が「上司に推薦しやすい」状況をつくります。
▶ 参考動画:金融機関が融資を躊躇する社長のNG行動3選【元公庫支店長が解説】
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NG④ 開業動機・経験の説明が曖昧
「なぜこの事業をやりたいのか」「なぜ今なのか」——この問いに対して、具体性のある答えができないと審査は前に進みません。
多胡は「ストーリー性」の重要性をこう語っています。
「どうしてすぐに起業しないのか、という理由をはっきり示してほしい。自分がその期間でどういうことに取り組み、どういう実績を残してきたかという証拠を残すことが大事。例えば『今月の売上目標をこれだけ達成した』というような数字ですね。大事なのは”どうしてその経験が必要だったのか”というストーリーです。”自分にはこういう不得意な部分があったから、それをカバーするためにこの技術を身につけた”と言われれば納得感があります」
特に、今の会社員経験と起業する業種が一致しているかどうかは非常に重視されます。経験のない業種への転換であれば、「なぜその業種を選んだのか」を論理的に説明できる準備が必要です。
また、準備期間中の実績は、公的な証明でなくても自身のメモ書きで十分です。「こういう会社と話をまとめて受注率をこれだけ上げた」といった記録があれば、担当者も計画の信頼性を評価しやすくなります。
▶ 参考動画:創業融資における事業経験の重要性と起業前の準備期間の活かし方【元公庫支店長が解説】
NG⑤ 事業計画書が”借り物”になっている
事業計画書の分量や見た目の完成度よりも、自分の言葉で書かれているかどうかが重要です。
多胡はこの点について明確に述べています。
「公庫に提出するのは1本でいい。しかも分厚さはいらない。要所を書いて出す、それで結構です。出来合いの、綺麗すぎるのはよくない。事業計画書は自分の言葉で書いてください。計画書を作ることによって自分の考えがまとまるというのもあるから、作りながら考えられたらいいですから」
出来合いのテンプレートをそのまま提出したり、専門家に丸投げして自分が内容を把握していない状態で面談に臨むと、質疑応答の中でたちまち露呈します。
公庫の審査担当者は面談の印象を「人物報告書」にまとめて上司に提出します。計画書の内容を自分の言葉で話せる経営者かどうかが、その報告書の評価を左右するのです。
計画書は「まとめる力」の証明でもあります。分厚さよりも、根拠のある数字と一貫したストーリーが求められます。
▶ 参考動画:創業融資の5つの大きな誤解【元公庫支店長が正す】
減額を防ぐための3つのポイント
否決を免れても、希望額より大幅に減額されてしまうケースも多くあります。減額の主な理由は次の3点です。
ポイント① 資金使途の妥当性を明確にする
「この規模の事業にその設備が本当に必要か」を審査担当者は精査します。
「必要なものしか書かないってことね。吹っかけたような金額はまずダメ。いわゆるお店だったら、物を使いすぎない、高級すぎるものを使わない。場合によってはリースに変えるとかね。什器備品でもリースに変えたり、中古品に変えるということができるから。まず自分の必要なもの、最低限のものを書いてみるということ」
必要以上に高額な設備、一等地でなくても成立するのに一等地のテナント費用を計上している——こうした計画は減額の対象になります。中古品やリースの活用で初期費用を抑えること、必要最低限の設備に絞ることが、計画の説得力を高めます。
ポイント② 投資対効果を論理的に示す
「これだけ投資して、これだけの売上が見込める」という因果関係を数字で示すことが重要です。
「”効果を示す”は大事。これだけの投資をして、これだけの売り上げが上がって、収益はこれだけです、ということね。製造業とかは分かりやすい。この機械だったら最大これぐらいの生産ができる、ということも分かるけど、なかなか店舗の場合とか小売業の場合は分かりにくいけどね」
製造業であれば機械の生産能力から売上を逆算できますが、サービス業・小売業の場合は客数・単価・回転率などの根拠を丁寧に積み上げる必要があります。
ポイント③ 返済力は「収益計画」で証明する
「返済については返済期間ということで考えればいい。その中で十分な収益があって、資金繰りの中でしっかり返せますよ、ということを示してあげればいい。返済力がないから減額するということはない。まず事業がしっかりしているかどうかがポイントですから。やっぱり収益の中から返済金がしっかり出せることを、計画で出された方がいいです」
役員報酬・生活費・住宅ローンなどを差し引いた上で、毎月の返済額を賄える収益が残るかどうかを計画書の中で明示してください。
▶ 参考動画:創業融資の減額を防ぐ対策【元公庫支店長が解説】
一度落ちても再チャレンジは可能
否決されたからといって「二度と借りられない」わけではありません。
「断られたらずっと借りられないということはないです。2〜3ヶ月経ってから、再度計画を練り直して申し込みされても、それは問題ない。ずっとダメということはないからね。1回ダメだったら(一生)ダメということはないです。3ヶ月、または1年後でもいいし。公庫ってそんなに”貸し手上位(高圧的)”じゃないと思う。随時相談、ですね」
再チャレンジで通過するためのポイントは次の通りです。
- 否決理由を正確に把握する(担当者への直接確認は難しいため、第三者の専門家に診断してもらうのが現実的)
- 不足していた自己資金を積み増す
- 協力者(共同出資者など)を加える
- 出店場所や事業内容を見直す
また、公庫は事業が苦しくなった際の返済条件変更にも比較的柔軟です。
「他の金融機関に比べると、商売を始めてうまくいかなくなった時に、早く相談(手上げ)をすること。早く相談すれば、返済方法の変更や条件変更などに親身に乗ってくれます。やめたらやめたで、また相談に乗ってくれる。民間の金融機関のように厳しすぎることはないですね」
困る前に相談する姿勢が、長期的な関係構築につながります。
▶ 参考動画:創業融資に一度落ちた場合の再チャレンジ方法【元公庫支店長が解説】
よくある質問(FAQ)
Q. 申し込み金額は多めに書いた方がよいですか?
A. 減額されるのを見越して多めに書くのは逆効果です。
「審査担当者は”本当に必要な金額かどうか”で判断しています。最初から大きな金額を書くのではなく、適正な金額を書くべきです。よく減る理由としては”運転資金”の部分ですね。設備資金は絶対に必要ですが、運転資金の見方が少なくなったりして減ることがあります」
根拠のない過大申請は計画全体の信頼性を損ないます。適正な金額を根拠とともに提示することが満額回答への近道です。
▶ 参考動画:創業融資の5つの大きな誤解【元公庫支店長が正す】
Q. 申し込みに有利な時期はありますか?
A. 政策融資であるため、時期によって審査基準が変わることはありません。
「こういう時期はないです。政策(融資)ですから。借りやすい時期とかそういうのがあると、それはおかしくなっちゃうから。判断基準は変わらない。時間がかかるということはあるかもしれないが、借りやすさは関係ないです」
夏前・年末のボーナス期は申し込みが集中して審査に時間がかかる(通常2〜3週間が1ヶ月以上になるケースも)ことはありますが、「借りやすい時期」は存在しません。計画書の完成度を上げることが最も確実な対策です。
▶ 参考動画:創業融資が借りやすくなる時期はあるのか?【元公庫支店長が解説】
Q. 事業計画書は専門家に作ってもらった方がよいですか?
A. 専門家のアドバイスを受けながら作成することは有効ですが、最終的には「自分の言葉で話せる内容」にしておく必要があります。
「計画書が完璧すぎることはいらない。提出するのはこれ1本でいきます、という強い意志が伝わるものがいい。ただ、審査担当者との質疑応答の中で”実はこういうことも考えています”と控えとして持っておくのはいい。まとめる力も経営能力、ということですね」
面談で内容を把握していないと判断されると、計画書の完成度に関わらずマイナス評価になります。
▶ 参考動画:創業融資の5つの大きな誤解【元公庫支店長が正す】
まとめ
創業融資で否決・減額されやすい理由は、大きく5つに整理できます。
- 個人の信用情報に傷がある
- 自己資金の出所が説明できない
- 日常の生活態度・お金の使い方が派手
- 開業動機・経験の説明が曖昧
- 事業計画書が自分の言葉になっていない
いずれも「事前の準備と説明力」で対処できるものです。
一度断られた方も、理由を正確に把握して2〜3ヶ月で再申込みすることで通過するケースは少なくありません。
「何が足りなかったのか」がわからない方は、まず専門家への相談から始めることをお勧めします。
【無料相談のご案内】
起業の手続きって何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。
この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























