
IT・Web系の創業融資で必要な事業計画書の書き方
IT・Web系で起業するとき、「在庫も店舗もないのに、どうやって融資審査を通せばいいのか」と悩む方は少なくありません。エンジニアやWebクリエイターの独立は、設備が軽い分だけ「数字の裏づけ」を示しにくく、事業計画書の書き方ひとつで審査結果が大きく変わります。この記事では、起業直後の個人事業主・中小企業の方に向けて、IT・Web系の創業融資で評価される事業計画書の作り方を、実務目線で整理します。
なぜIT・Web系の創業融資では事業計画書が重視されるのか
飲食店や小売業であれば、店舗の立地や設備、想定客単価などから売上をイメージしやすく、審査担当者も「事業の形」を把握しやすいものです。一方、IT・Web系のビジネスは提供物が無形で、受注がまだ無い状態で申し込むケースも多く、外から見ると「本当に売上が立つのか」が伝わりにくいという特徴があります。
だからこそ、事業計画書が果たす役割が大きくなります。日本政策金融公庫などの金融機関は、提出された創業計画書と面談を通じて、「この事業は返済できるだけの収益を生み出すか」を判断します。設備という担保的な裏づけが薄いIT・Web系では、計画書の説得力がそのまま評価につながると考えてよいでしょう。
IT・Web系が使える主な創業融資制度
創業期のIT・Web系がまず検討したいのが、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。従来の「新創業融資制度」は2024年3月で廃止され、現在はこの制度に一本化されています(2026年6月時点)。
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金は4,800万円)
- 対象:新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方
- 自己資金要件:制度上の数値要件は撤廃され、形式上は自己資金ゼロでも申し込みが可能
ただし、自己資金要件が撤廃されたからといって、自己資金が不要になったわけではありません。自己資金は「計画的に準備してきた証拠」として今も重視され、実務上は希望額の3分の1程度を用意しておくと審査で有利に働きやすいといわれています。金利や返済期間などの具体的な条件は制度改定で変わることがあるため、申込み前に必ず公式情報を確認してください。
IT・Web系の事業計画書で押さえる5つのポイント
1. 無形のビジネスモデルを「お金の流れ」で説明する
「誰に・何を・いくらで・どう届けるか」を、できるだけ具体的に言語化します。受託開発なのか、自社サービスのサブスクなのか、広告収益型なのかで、売上の立ち方はまったく異なります。フロー型(都度受注)なのかストック型(継続課金)なのかを明確にし、収益が積み上がる仕組みを文章と簡単な図で示すと、担当者の理解が一気に進みます。
2. 受注がなくても売上根拠を数字で示す
IT・Web系は「まだ顧客がいない段階」で申し込むことが多いため、売上予測の根拠が問われます。前職での取引先からの引き合い、見込み客リスト、すでに進行中の商談、既存の副業実績などを、可能な限り客観的な資料として添えましょう。「単価×件数×稼働率」のように、売上を分解して根拠を積み上げると、希望的観測ではなく現実的な計画だと伝わります。
3. 原価・経費の構造を正直に書く
IT・Web系のコストは、外注費や自分自身を含む人件費が中心になりがちです。在庫を持たない分、利益率は高く見えますが、稼働できる工数には上限があります。月にこなせる案件数、外注に出す割合、サーバー・ツールなどの固定費を具体的に書き出し、「売上が伸びてもコストが破綻しない」構造を示すことが大切です。
4. 資金使途と自己資金の整合性をとる
借りたお金を何に使うのか(PC・開発機材、当面の運転資金、広告宣伝費など)を、金額の根拠とともに明記します。設備が軽いIT・Web系では、運転資金の比重が大きくなる傾向があります。「売上が安定するまでの生活費・固定費を何か月分見込むか」を明確にし、自己資金とのバランスがとれていることを示しましょう。
5. 代表者の経歴・スキルで信頼性を補強する
無形サービスでは、「誰がやるか」が事業の成否に直結します。これまでの開発実績、担当した案件規模、保有スキルや資格、前職での役割などは、計画の実現可能性を裏づける重要な材料です。技術に明るくない審査担当者にも伝わるよう、専門用語はかみ砕いて、実績は数字や具体例で書くことを心がけてください。
IT・Web系の事業計画書でよくある失敗
審査でつまずきやすいのは、次のようなパターンです。
- 専門用語が多すぎて伝わらない:技術的に正確でも、担当者が事業内容をイメージできなければ評価につながりません。中学生でも分かる言葉に置き換える意識が必要です。
- 売上が右肩上がりすぎる:根拠のない急成長カーブは、かえって計画の信頼性を下げます。保守的なシナリオも併記すると誠実さが伝わります。
- 資金使途があいまい:「運転資金一式」だけでは説得力に欠けます。何に・いくら・なぜ必要かを分解しましょう。
- 自分の生活費を見込んでいない:軌道に乗るまでの代表者自身の生活費を計画に織り込んでいないと、途中で資金繰りが行き詰まります。
よくある質問(FAQ)
Q. 受注がまだゼロでも創業融資は申し込めますか?
A. 申し込み自体は可能です。ただし売上の根拠が問われるため、見込み客や商談状況、前職での実績など、客観的な裏づけを準備しておくことが重要です。
Q. 自己資金がほとんどなくても大丈夫ですか?
A. 制度上の自己資金要件は撤廃されましたが、計画性や返済能力の評価材料として自己資金は今も重視されます。可能な範囲で準備しておくほうが審査では有利です。
Q. 事業計画書は自分で作るべきですか、専門家に頼むべきですか?
A. ご自身で事業を理解して書くことが基本ですが、数字の組み立てや表現に不安がある場合は、創業融資に詳しい専門家に相談しながら仕上げると、抜け漏れや過度な楽観を防ぎやすくなります。
まとめ
IT・Web系の創業融資では、設備という裏づけが薄いぶん、事業計画書の説得力が審査結果を左右します。無形のビジネスモデルを「お金の流れ」で示し、受注前でも売上根拠を数字で積み上げ、原価構造・資金使途・代表者の経歴で計画の実現可能性を補強することがポイントです。最新の制度内容は変わることがあるため、公式情報を確認しながら、現実的で一貫性のある計画書を作り込んでいきましょう。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























