
製造業の新事業進出・ものづくり補助金|対象になる条件と対象経費チェック
「老朽化した工作機械を入れ替えたいが、単なる設備更新では補助金の対象にならないと聞いた」——数年経営してきた町工場の経営者から、こうした相談をよくいただきます。2026年度から、従来の「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」が統合され、「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」という制度になりました。名称が変わっただけでなく、対象となる投資の考え方も改めて確認しておく必要があります。この記事では、製造業が同制度の「革新的新製品・サービス枠」を使うために満たすべき条件、対象経費、賃上げ要件、そして事業計画書作成でつまずきやすいポイントを整理します。数字・要件は2026年6月時点の公募要領(1.0版)に基づいています。申請時は必ず最新の公式情報をご確認ください。
2026年度「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」とは
この制度は、2026年度(令和8年度)に、旧「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」が統合されて生まれました。公募要領上の正式名称は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」で、「革新的新製品・サービス枠」「新事業進出枠」「グローバル枠」の3枠に分かれています(グローバル枠は当社では未整備のため本記事では扱いません)。製造業の設備投資で主に検討されるのは「革新的新製品・サービス枠」です。補助上限は従業員規模に応じて1〜5人750万円、6〜20人1,000万円、21〜50人1,500万円、51人以上2,500万円で、大幅賃上げ特例を適用した場合はそれぞれ850万円、1,250万円、2,500万円、最大3,500万円まで引き上がります。補助下限は100万円、補助率は中小企業者が1/2、小規模事業者・再生事業者・地域別最低賃金引上げ特例適用時は2/3です。「上限3,500万円」という数字だけが独り歩きしがちですが、これは最大規模かつ特例適用時の最大値である点に注意してください。
製造業が対象になる条件|「新製品・新サービス開発」と「単なる設備更新」の境界線
この枠でもっとも判断が分かれるのが、「新製品・新サービスの開発を伴う投資」か「単なる設備更新」かの境界線です。公募要領では、自社の技術力等を活かして顧客等に新たな価値を提供する新製品・新サービスを開発する取組が対象とされ、単なる設備・システム導入、既存製品・サービスの生産プロセス改善、同業で既に相当程度普及している開発は対象外と明記されています。実務上、次のように自問すると判定しやすくなります。
- その設備を入れることで、これまで作れなかった製品・提供できなかったサービスが生まれるか(単なる能力増強・老朽更新にとどまっていないか)
- 同業他社ですでに広く普及している設備・工法ではないか(普及度が高いほど「革新性」は説明しにくくなる)
- 生産プロセスの効率化が目的の中心になっていないか(それだけなら本枠ではなく別制度が筋)
「老朽設備の入れ替え」自体が目的化した計画は、審査で「新規性が弱い」と判断されやすい点に注意してください。
対象経費と対象外経費
対象経費の主軸は機械装置・システム構築費(専用機械・装置、専用ソフト・情報システム等)で、単価10万円(税抜)以上が対象です。このほか、技術導入費・知的財産権等関連経費(それぞれ補助対象経費総額の1/3が上限)、外注費(1/4上限、主たる内容の外注は不可)、専門家経費(1/5上限、1日1人5万円)、運搬費、クラウドサービス利用費、原材料費、広告宣伝・販売促進費(売上見込み等に応じた上限あり)が計上できます。一方で、汎用パソコンやスマートフォン、車両、家賃、建物本体の取得費用など、汎用性の高いものや不動産関連の費用は対象外です。機械装置・システム構築費が「必須かつ主軸」という条件を外れると、そもそも申請の土台が崩れるため、見積もりを取る段階からこの区分を意識しておく必要があります。
中小企業省力化投資補助金との使い分け
「新しい設備を入れたい」という相談では、革新的新製品・サービス枠と中小企業省力化投資補助金(一般型・カタログ注文型)のどちらが合うか迷うケースが多くあります。判断の軸はシンプルで、投資の主目的が「新製品・新サービスの開発」なら革新的新製品・サービス枠、「既存事業の省力化・生産性向上」(労働生産性を年平均+4.0%以上伸ばす計画)なら中小企業省力化投資補助金(一般型)、公的カタログに登録された既製の省力化機器を即効導入したいなら中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型)が制度設計として合いやすくなります。カタログ注文型は販売事業者との共同申請が前提になる点も、革新的新製品・サービス枠との大きな違いです。同じ工場の投資計画でも、「何を新しく生み出すか」を主軸に据えるか、「今の工程をどう省力化するか」を主軸に据えるかで、選ぶべき制度が変わる点を押さえておきましょう。
賃上げ要件と大幅賃上げ特例
革新的新製品・サービス枠の基本要件は、事業計画期間(3〜5年)で付加価値額を年平均+4.0%以上、一人当たり給与支給総額を年平均+3.5%以上、事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準に伸ばすことです。これらは交付申請時までに従業員へ表明する必要があり、未達の場合は補助金の返還対象になります。さらに上限額を引き上げる「大幅賃上げ特例」を使うには、給与支給総額を年平均+6.0%以上、かつ事業場内最低賃金を地域別最低賃金+50円以上とする、より高いハードルをクリアする必要があります(再生事業者向け特例・地域別最低賴引上げ特例とは併用不可)。上限額の大きさだけを見て特例適用を前提に計画を組むと、賃上げ未達時の返還リスクが重くなる点に注意してください。
事業計画書作成の注意点|外部への丸投げは不採択・交付取消の対象
公募要領では、事業計画は申請者自身が作成することが明記されており、外部専門家への丸投げは不採択や、採択後であっても交付取消の対象になるとされています。専門家に相談すること自体は問題ありませんが、「事業計画の中身を経営者自身が理解し、説明できる状態」にしておくことが前提です。また、交付決定前に発注・契約・購入をしてしまうと、その経費は補助対象から外れます。「採択されたら急いで発注」ではなく、交付決定の通知を待ってから動く順番を徹底してください。国や自治体の他の補助金と同一経費で二重に受給することもできません。
申請スケジュールと流れ
2026年度第1回公募は、公募開始2026年6月29日、申請受付開始8月31日、申請締切9月30日18時、採択発表は12月頃が目安です(公募要領1.0版)。申請はGビズIDプライムが必須の電子申請です。GビズIDプライムの取得には発行まで数週間かかることがあるため、申請を検討し始めた時点で先に取得手続きを進めておくと、スケジュールに余裕が生まれます。次回以降の公募回次・締切は必ず最新の公募要領で確認してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 老朽化した工作機械の入れ替えだけでも申請できますか?
単なる更新・能力増強のみでは対象外になりやすい制度です。入れ替えによってどのような新製品・新サービスが生まれるのかを、事業計画のなかで具体的に説明できるかがポイントになります。
Q. 中小企業省力化投資補助金と同時に申請できますか?
同一の経費を複数の補助金に重複して計上することはできません。投資計画を「新製品開発」と「既存工程の省力化」に切り分けられるかどうかで、使い分けを検討してください。
Q. 賃上げ要件を満たせなかった場合はどうなりますか?
基本要件・大幅賃上げ特例のいずれも、未達の場合は補助金の返還対象です。賃上げ計画は無理のない水準で設計することが重要です。
まとめ
製造業が新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(革新的新製品・サービス枠)を使うには、「新製品・新サービスの開発」という条件を満たしているかが最初の関門になります。対象経費・賃上げ要件・事業計画書の作成ルールを事前に押さえ、中小企業省力化投資補助金など近い制度との使い分けも整理したうえで、交付決定を待ってから発注する順番を守ることが、採択後のトラブルを避けるポイントです。制度の数字や要件は変更されることがあるため、申請前には必ず最新の公募要領をご確認ください。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























