
パン屋・洋菓子店の開業融資と菓子製造業許可を同時に進める段取り
「まずは物件を決めて、保健所に相談して、それから公庫に行けばいいのだろうか」。パン屋や洋菓子店の開業を準備している方から、この順番についてのご相談をよくいただきます。
菓子製造業の営業許可と創業融資は、どちらも開業に欠かせない手続きですが、 審査する主体も、判断のタイミングも、必要な材料もまったく違います。そして両方を順番に片づけようとすると、開業が2〜3か月ずれ込み、そのぶん家賃と人件費だけが出ていく期間が伸びてしまいます。
この記事では、パン職人・パティシエとして独立を考えている方に向けて、菓子製造業の営業許可でどこまでできるのか、創業融資はいくらまで・どんな条件で借りられるのか、そして両者をどう並行させるのかを、段取りの形で整理します。融資の数字は2026年7月時点の情報です。制度・金利は変わりやすいため、実際の申請時は日本政策金融公庫の公式情報をご確認ください。
許可と融資は「別々の時計」で動きます
最初に押さえていただきたいのが、この2つが独立して進むという点です。
営業許可は保健所が施設を確認して出すものなので、厨房が完成していることが前提になります。一方の創業融資は、その厨房を作るためのお金を借りる手続きです。つまり「許可が下りてから融資を申し込もう」と考えると、内装工事の資金を自己資金だけで立て替えることになり、多くの方にとって現実的ではありません。
逆に「融資が実行されてから物件を探そう」という順番も成立しません。融資の審査では、どの物件でいくらの設備を入れるのかが分かる見積書が必要になるためです。
結論としては、物件のめどを立てる → 保健所と事前相談する→見積を揃えて融資を申し込む → 融資実行と工事を進める → 工事完了10日くらい前に許可申請という流れになります。この並行の段取りを最初に描けているかどうかで、開業日は大きく変わります。
菓子製造業の営業許可でどこまでできるのか
パンや洋菓子を製造して販売する場合、必要になるのは食品衛生法にもとづく「菓子製造業」の営業許可です。都道府県知事等の許可で、管轄する保健所が窓口になります。
2021年6月1日に施行された食品衛生法の改正で、営業許可の業種区分が見直されました。あん類製造業が菓子製造業に統合され、調理パンについても、そうざい製造業や飲食店営業の許可を別に取らずに製造できるようになっています。「1施設につき1許可」に整理する方向で、ひとつの許可で扱える食品の範囲が広がった形です。
ただし、店内に客席を設けて飲食させる場合など、業態によっては別の許可が必要になることがあります。イートインを併設したベーカリーカフェのような形を考えている場合は、店の設計を固める前の段階で保健所に相談しておくのが安全です。
許可を取るには、施設が定められた基準を満たしていることに加えて、食品衛生責任者を置く必要があります。施設基準は自治体ごとに運用の細部が異なるため、内装業者に図面を引いてもらい、管轄の保健所へ図面を持って事前相談に行くことをおすすめします。工事が終わってから手直しになると、費用も時間も余計にかかります。
許認可の要件や書類の整理でお困りの場合は、行政書士などの専門家に相談すると準備がスムーズです。
創業融資はいくらまで、どんな条件で借りられるのか
主な制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」
個人事業主・中小企業の創業時の代表的な選択肢は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月に「新創業融資制度」が廃止され、現在の主制度となりました。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、パン屋・洋菓子店の開業規模であれば十分にカバーできる設計です。
創業期の方は、原則として無担保・無保証人で利用できます。ここでいう創業期の方とは、新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方を指します。審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。
金利と据置期間の目安
2026年6月1日現在の基準利率は、無担保で創業期(税務申告を2期終えていない場合)に利用するとき年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則として0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性があります。なお「雇用の拡大を図る場合」は対象者の区分ではなく、引下げ幅が大きくなる条件にあたります。実際の適用可否は利用する融資制度・審査・条件により異なる可能性があるため、詳細は申請先でご確認ください。
元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置期間中は利息のみの支払いになります。パン屋・洋菓子店は、開店直後に仕込みの歩留まりが安定せず、ロスが多く出る時期があります。この立ち上がりの数か月をどう乗り切るかを考えるうえで、据置期間は有力な選択肢になります。
設備資金と運転資金は分けて組み立てます
パン屋・洋菓子店の資金計画で見落とされがちなのが、設備資金と運転資金では返済期間が違うという点です。
新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例では、設備資金は返済期間20年以内・据置5年以内、運転資金は原則10年以内・据置5年以内とされています。オーブンやミキサー、ドウコンディショナー、冷凍冷蔵設備といった重い投資は返済を長く取れる一方、仕入れや人件費といった運転資金は返済期間が短くなります。
この違いを踏まえずに全体を一括りにすると、月々の返済額の見通しがずれます。見積を集める段階から、機械設備・内装工事といった設備側と、開店後数か月分の仕入れ・人件費といった運転側を分けて積み上げておくと、申込金額の根拠も説明しやすくなります。
なお、人件費や役員報酬は事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。どこまでを資金使途に含められるかは事業の実情によって変わるため、判断に迷う場合は申請先や税理士等の専門家に確認することをおすすめします。
許可取得と融資申請を並行させる約2か月の段取り
申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間〜1か月程度が目安です。創業計画書・自己資金のエビデンス・見積書などの書類を整える時間を含めると、申請準備に1か月、審査・実行に1か月、合計2か月程度を見ておくと安全です。
この2か月に、許可側の動きを重ねます。
- 物件のめどを立てる:候補物件が決まったら、契約前に図面を持って保健所へ事前相談に行きます。ここで施設基準に合わない点が見つかれば、内装設計に反映できます
- 設備・工事の見積を取る:厨房機器と内装工事の見積を、設備資金と運転資金に分けられる粒度で出してもらいます。融資申請の根拠資料になります
- 創業計画書を作り込む:実績がない分、計画の説得力が評価軸になります。1日あたりの焼成数・客単価・想定客数といった数字を、根拠とセットで書きます
- 融資を申し込み、面談を受ける:自己資金は面談時点で口座に確認できる形にしておきます
- 融資実行後に工事を進め、完成後に許可申請:施設検査を受けて許可が下りたら営業開始です
食品衛生責任者の資格は、講習会の開催日程が地域によって限られています。調理師・製菓衛生師などの資格をお持ちでない場合は、講習の予約状況を早めに確認しておくと、最後の詰めで待たされずに済みます。
パン屋・洋菓子店の開業融資でつまずきやすい点
自己資金は「割合の要件」ではなく判断材料です
創業融資では、自己資金の額が審査の重要な判断材料になります。一方で、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。「総額の10分の1が必須」といった固定の要件があるわけではなく、自己資金が多いほど審査で有利になりやすい、という理解が正確です。
また、創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入・テストマーケティング費用などは、みなし自己資金として一定範囲で評価されることがあります。製菓学校の学費、修業中に買い揃えた道具、イベント出店で試作品を販売した費用などが該当し得ますので、領収書は必ず保管しておいてください。
未経験からの開業はカバーの仕方に注意します
製菓・製パンの実務経験がない状態で開業する場合、事業計画書の中でどう経験不足を補うかが審査のポイントになります。「同業のメンターから定期的に助言を受けている」「経理や専門技術を業務委託でプロに任せている」といった対策は、経営そのものへの関与としては弱く、有効なカバー策とはいえません。より説得力を持たせるには、事業経験者を役員として迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整えることが有効です。
「法人成り」は創業融資の対象外です
すでに個人事業として菓子の製造販売を営んでいて、その事業をそのまま法人化する「法人成り」の場合は、原則として創業融資の対象外になります。既に事業実績があるとみなされ、通常の融資の扱いになるためです。一方、いま営んでいる事業とは別の新しい事業を行う法人を新たに設立する場合は、その新法人にとっては創業にあたるため、創業融資を利用できます。
よくある質問
自宅の一部を改装して開業できますか
菓子製造業の営業許可は施設基準を満たすことが前提で、住居部分と明確に区画されているかなどが確認されます。自治体によって運用の細部が異なるため、改装の設計に入る前に管轄の保健所へご相談ください。融資側でも、住居兼用の物件は資金使途の切り分けについて説明を求められることがあります。
製造した商品を通信販売したい場合、追加の許可は必要ですか
取り扱う商品や包装の形態によって必要な手続きが変わります。表示のルールも関わってきますので、販売チャネルを広げる計画がある場合は、その構想も含めて事前相談の段階で保健所に伝えておくと、あとから設備を作り直す事態を避けられます。
一度審査に落ちると、次回の審査に影響しますか?
日本政策金融公庫は個人信用情報機関に加盟していますが、審査に落ちたこと自体が信用情報に記録されることはありません。一方で、公庫内には審査に落ちた記録が残ります。そのため次の審査では、落ちたことを考慮に入れた形になるため、慎重に扱われる可能性があります。
否決された直後にすぐ再申請してもよいですか?
原因を潰さずに再申請しても、結果は変わりません。自己資金不足、事業計画の説得力不足、業界未経験への対策不足など、否決の理由を具体的に特定し、そこを改善したうえで再申請することが必要です。
まとめ
パン屋・洋菓子店の開業では、菓子製造業の営業許可と創業融資を並行して動かすことが、開業日を早める最短ルートになります。押さえるポイントを整理します。
- 許可は施設の完成が前提、融資はその施設を作る資金。順番に片づけようとしない
- 2021年6月の食品衛生法改正であん類製造業が菓子製造業に統合され、調理パンも菓子製造業許可で製造できるようになった
- 図面を持って保健所へ事前相談に行く
- 創業融資は限度額7,200万円(うち運転資金4,800万円)。無担保・無保証人が原則で、据置期間は5年以内
- 設備資金は返済20年以内、運転資金は原則10年以内。分けて積み上げる
- 準備1か月+審査・実行1か月の合計約2か月を見込む
制度・金利は変わりやすいため、本記事の数字は執筆時点のものとしてお読みください。物件を決める前の段階からご相談いただければ、許可の要件と資金計画を突き合わせながら、無理のない開業スケジュールを組み立てられます。開業準備でお悩みの点があれば、お気軽にご相談ください。
【無料相談のご案内】
融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























