
一人親方の法人成りで使える補助金と融資|申請の順番を間違えないための実務ガイド
建設業の一人親方として数年続けてきて、元請からの要請や取引先の広がりをきっかけに「そろそろ法人にしようか」と考える方は少なくありません。そのときに必ず出てくるのが、「法人成りしたら補助金は使えるのか」「法人になれば創業融資を受けられるのか」という疑問です。
結論から申し上げると、補助金と融資では法人成りの扱いが大きく異なります。とくに融資は、法人成りを「創業」と考えて動くと出だしでつまずきます。この記事では、一人親方が法人成りするときに現実的に使える補助金と融資を整理し、どの順番で動けば取りこぼしが出にくいかを実務の目線でまとめます。なお本記事は2026年7月時点の公表情報にもとづく内容です。制度は変更されることがあるため、申請前に必ず最新の公募要領・公式情報をご確認ください。
法人成りで、補助金と融資の「使える条件」はどう変わるのか
融資:同じ事業の法人成りは、原則として創業融資の対象外です
最初に押さえておきたいのが、個人事業主が今の事業をそのまま法人化する「法人成り」は、原則として創業融資の対象にならないという点です。すでに事業としての実績があるとみなされるため、通常の融資としての扱いになります。「法人になれば創業融資が使える」と書かれた情報を見かけることがありますが、同一事業の法人化についてはこの理解は正確ではありません。
一方で、一人親方として営んでいる事業とは別に、新しい事業を行う法人を新たに設立する場合は、その新法人にとっては創業にあたるため、創業融資を利用できます。たとえば、現場作業を個人で続けながら、それとは別にドローンによる外壁点検サービスを法人で立ち上げるようなケースです。
「同じ事業の法人成り」と「別事業での法人新設」は、資金調達の入口がまったく違います。ご自身がどちらに当てはまるのかを最初に整理しておくと、金融機関との話が早く進みます。
金利や返済条件はどう見ておけばよいか
日本政策金融公庫の創業期向けの主力制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」で、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内で、いずれも据置期間を5年以内で設定できます。据置期間中は利息のみの支払いになるため、入金が遅れがちな建設業の資金繰りとは相性のよい仕組みです。
金利については、2026年6月1日現在の基準利率で、無担保かつ税務申告を2期終えていない創業期の場合が年3.45〜5.15%、無担保で2期以上の申告を終えている場合が年3.50〜5.20%です。一人親方として数年の実績がある方が法人成りする場合は、後者の区分で検討することになります。実際の適用利率や条件は制度・審査・担保の有無によって変わるため、断定はできません。数字は必ず申請時点の公式情報でご確認ください。
法人成り前後の一人親方が現実的に狙える補助金
補助金は「法人になったこと」に対して支給されるものではありません。設備投資や販路開拓など、事業を伸ばすための具体的な取り組みに対して交付されます。したがって、設立にかかる費用や手続き費用そのものを補助金でまかなえるわけではない点は、最初に理解しておく必要があります。
また、主要な補助金の多くは個人事業主でも法人でも申請できます。「法人にならないと補助金が使えない」と考えて法人成りを急ぐ必要は、必ずしもありません。そのうえで、一人親方の規模感で現実的に検討しやすい制度は次のとおりです。
- 小規模事業者持続化補助金:補助率3分の2、補助上限50万円(特例の併用で最大250万円)。販路開拓や広報が中心の場合の入口になります
- 中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型):補助上限1,500万円。あらかじめ登録された省力化機器を導入する場合の選択肢です
- デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金):補助上限3,000万円。施工管理や原価管理のソフト導入が主役になる場合に検討します
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠:従業員5人以下の場合の補助上限は750万円(大幅賃上げ特例の適用時は850万円)。ただし補助下限が100万円あるため、小さな投資では使えません
まずは小規模事業者持続化補助金から考える
一人親方の規模で最も現実的な入口が、小規模事業者持続化補助金です。補助率は3分の2、補助上限は基本50万円で、インボイス特例で50万円、賃金引上げ特例で150万円が上乗せされ、両方の要件を満たす場合は最大250万円になります。
対象となる小規模事業者の範囲は業種によって異なり、建設業は「製造業その他」の区分で常時使用する従業員20人以下です。個人事業主本人や会社役員、同居の親族従業員はこの人数に含めません。つまり一人親方や、法人成り直後で従業員がいない一人法人であっても、人数要件で外れることはまずありません。
ただし段取りには注意が必要です。申請にはGビズIDプライムのアカウントと、商工会・商工会議所が発行する事業支援計画書(様式4)が必要になります。第20回公募では、申請受付開始が2026年11月5日、様式4の発行受付締切が2026年12月4日、申請締切が2026年12月15日17時です。様式4の締切が本申請の締切より前に設定されており、締切後の発行依頼はいかなる理由でも受け付けられません。窓口への相談は早めに動く必要があります。
経費面では、広報費とウェブサイト関連費にそれぞれ30万円(税込)の上限があり、いずれも単独での申請はできません。また、自動車やフォークリフトなどの車両は原則として対象外です。一人親方の方が最初に思い浮かべる投資はトラックや重機であることが多いのですが、そこは補助金ではなく融資で組み立てるのが現実的です。
法人成りと補助金・融資は「順番」で結果が変わります
補助金と融資は、それぞれ単体で見れば分かりやすい制度です。取りこぼしが起きるのは、ほとんどが順番の設計を誤ったときです。次の流れを目安にしてください。
- 法人成りの時期を先に決める:補助金も融資も申請者の名義が前提になります。個人と法人のどちらで申請するのかを、書類を書き始める前に確定させます
- 投資の中身を分類する:車両・重機のような融資で持つべきもの、販路開拓や省力化機器のような補助金と相性のよいものに分けます
- 融資を先に組む:補助金は原則として後払い(精算払い)です。支払いは先に自社で行うため、手元資金は融資と自己資金で用意しておく必要があります
- 交付決定を待ってから発注する:多くの補助金では、交付決定日より前に行った契約・発注・支払いは対象外になります。採択の通知だけでは事業を始められません
- 実績報告を提出して入金を受ける:事業完了後に実績報告を行い、確定した金額が入金されます
この順番を守るだけで、後述する落とし穴の大半は避けられます。
一人親方の法人成りでつまずきやすい4つの落とし穴
1. 交付決定前に発注してしまう
最も多い失敗です。採択の連絡が来た時点で機器を発注し、後から対象外と分かるケースが実際にあります。発注してよいのは交付決定の後です。設立のタイミングと納期の都合で急ぎたくなりますが、ここは待つ以外にありません。
2. 申請の途中で名義が個人から法人に変わる
個人事業主として申請・採択された補助事業を、事業の途中で法人に引き継ぐ場合、実施主体が変わることになります。この扱いは制度や公募回によって異なり、事務局への相談や所定の手続きが必要になるのが一般的です。法人成りと補助金申請の時期が近いときは、着手前に事務局や支援機関へ確認しておくと安全です。
3. 車両や汎用品を買うつもりで申請する
トラック・重機などの車両は原則として補助対象外の制度が多く、パソコンなどの汎用品も基本的に対象になりません。設備投資の中身によっては、そもそも補助金という手段が合わないこともあります。
4. 補助金の入金を前提に資金繰りを組む
補助金は後払いのため、実際の入金は事業完了と実績報告のあとです。公募から入金まで1年以上かかる制度もあります。入金を待つ間の資金は自社で持つ必要があり、ここを融資で埋めておかないと、採択されたのに事業を進められないという状態になりかねません。
よくある質問
Q. 法人成りしたら創業融資は使えますか
A. 同じ事業をそのまま法人化する法人成りの場合は、原則として創業融資の対象外となり、通常の融資としての扱いになります。一方、これまでの事業とは別の新しい事業を行う法人を設立する場合は、その法人にとっては創業にあたるため創業融資を利用できます。
Q. 法人成りと補助金申請は、どちらを先にすべきですか
A. 制度ごとの公募スケジュールと、法人成りの予定時期を並べて判断します。公募締切が近く、法人成りがまだ先であれば個人事業主として申請する選択もあります。逆に法人成りが目前であれば、法人設立後に法人名義で申請するほうが、途中で実施主体が変わる手間を避けられます。
Q. 法人成りの手続きや税金のことも相談できますか
A. 設立登記の手続きは司法書士、税務の取り扱いは税理士、社会保険の手続きは社会保険労務士がそれぞれ担当する分野です。V-Spiritsグループには各分野の専門家が在籍しており、資金調達の相談とあわせてご案内できます。
まとめ
一人親方の法人成りでは、補助金と融資の扱いが異なる点を最初に押さえることが出発点になります。同じ事業の法人成りは原則として創業融資の対象外で通常の融資扱いとなり、補助金は法人成りそのものではなく具体的な投資に対して交付されます。
そのうえで、車両や重機は融資、販路開拓や省力化機器・ソフト導入は補助金という役割分担で考え、融資を先に組んでから交付決定を待って発注するという順番を守れば、大きな取りこぼしは避けられます。制度の内容や公募スケジュールは毎年見直されるため、動き出す前に最新の公募要領を確認し、判断に迷うところは早めに専門家へ相談することをおすすめします。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























