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コラム

訪問診療クリニックの開業融資|必要資金の内訳と見落としやすい4つの落とし穴

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訪問診療クリニックの開業融資|必要資金の内訳と見落としやすい4つの落とし穴

訪問診療クリニックの開業資金はいくら必要?創業融資で見落としやすい運転資金の考え方

訪問診療の需要が高まるなか、勤務医として在宅医療に携わってきた方が、往診・訪問診療を専門とするクリニックで独立するケースが増えています。外来中心のクリニックと違い、広い待合室も多くの診察室も要らないため、「開業資金は少なくて済むはず」と考えて資金計画を組み始める方が多いのですが、ここに落とし穴があります。

訪問診療専門のクリニックは、たしかに設備投資は軽くなります。一方で、収入が立ち上がるまでの期間を支える運転資金の重みは、外来型より大きくなりやすい構造を持っています。この記事では、必要資金の内訳の考え方と、日本政策金融公庫の創業融資を使うときに押さえておきたい条件、そして見落としやすい落とし穴を整理します。

なお、本記事に記載した制度・金利は執筆時点(2026年7月)で公表されている情報にもとづくものです。融資の制度や利率は変わりやすいため、申請時は日本政策金融公庫の公式情報で必ずご確認ください。

訪問診療専門クリニックは「設備が軽く、運転資金が重い」

訪問診療専門であれば、テナントは事務所機能を中心とした小さな区画で足り、大がかりな内装工事も必要ありません。外来型のクリニックと比べれば、初期の設備投資が抑えられるのは事実です。

ただし、資金計画で本当に効いてくるのは、収入が入ってくるまでの時間差です。保険診療の収入は、診療した月の分がその月のうちに入金されるわけではなく、レセプト請求を経て入金されるまでに時間がかかります。開業から実際に現金が回り始めるまでの数か月間、家賃・人件費・車両費・システム利用料といった支出は先に出ていきます。

さらに訪問診療の場合、患者数の積み上がり方が外来と異なります。地域の病院・ケアマネジャー・訪問看護ステーションとの関係づくりを通じて紹介が増えていくため、立ち上がりは緩やかになりやすい傾向があります。この「支出は先、収入は後」という構造こそが、訪問診療の資金計画で最も慎重に見るべき部分です。

必要資金の内訳を「設備資金」と「運転資金」に分ける

創業融資を申請するときは、必要資金を設備資金と運転資金に分けて整理します。この区分は書類上の形式ではなく、後述する返済期間にも関わる実務上の要になります。

設備資金にあたるもの

  • 訪問用の車両
  • ポータブルエコー、携帯型心電計、パルスオキシメーターなどの携行できる医療機器
  • 電子カルテ・訪問診療向けのシステム、タブレット・モバイル通信環境
  • 事務所として使う物件の設備・什器

運転資金にあたるもの

  • 医師・看護師・事務スタッフの人件費(法人の場合、代表者への役員報酬も事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります)
  • 家賃、車両の維持費・燃料費
  • 医薬品・衛生材料の仕入れ
  • システムの月額利用料、通信費
  • 収入が安定するまでの期間をつなぐ資金

資金使途はあくまで「事業に必要な支出」であることが前提です。個別の支出が資金使途として認められるかどうか判断に迷う場合は、申請先や専門家に確認しながら計画を整えることをおすすめします。

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創業融資の基本|日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金

個人事業主・中小企業の創業時の代表的な選択肢は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月に「新創業融資制度」が廃止され、現在の主制度となりました。制度名は2024年4月に「新規開業資金」から改称されているため、古い記事を参考にすると旧名称のまま情報を集めてしまう点に注意してください。

融資限度額と返済期間

融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。返済期間は、この制度を利用する場合の例として、設備資金が20年以内、運転資金が10年以内とされています。据置期間はいずれも5年以内で、据置期間中は利息のみの支払いになります。

設備資金と運転資金で返済期間が違うということは、同じ借入額でも内訳の組み方によって毎月の返済負担が変わるということです。訪問診療のように立ち上がりが緩やかな事業では、据置期間をどう使うかも含めて、資金繰り表と突き合わせながら組み立てる意味があります。

金利と創業期の引下げ

2026年6月1日現在の基準利率は、無担保で創業期(税務申告を2期終えていない場合)に利用するとき年3.45〜5.15%です。創業期の方が無担保で利用する場合は、原則として0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用されます。

ここでいう「創業期の方」とは、新たに事業を始める方、または事業開始後に税務申告を2期終えていない方を指します。なお「雇用の拡大を図る場合」は対象者の区分ではなく、引下げ幅が大きくなる条件にあたります。実際の適用可否は利用する融資制度・審査・条件により異なる可能性があるため、詳細は申請先でご確認ください。

申請から融資実行までの目安

申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間〜1か月程度が目安です。創業計画書・自己資金のエビデンス・見積書などの書類を整える時間を含めると、申請準備に1か月、審査・実行に1か月、合計2か月程度を見ておくと安全です。訪問診療の場合は、診療所の開設届や保険医療機関の指定申請といった行政手続きも並行します。融資の実行時期と、車両や機器の納品時期、開業予定日がずれないように逆算しておきましょう。

訪問診療の開業融資で見落としやすい4つのポイント

1. 収入までの時間差を運転資金に織り込んでいない

もっとも多いのが、設備資金は精緻に積み上げたのに、運転資金を「数か月分の家賃と人件費」だけで見積もってしまうケースです。訪問診療は紹介経由で患者数が積み上がるため、想定より立ち上がりが遅れることもあります。収入がゼロに近い期間が続いても事業を続けられる期間を、月次の資金繰り表で確認しておくことが欠かせません。

2. 設備資金と運転資金の区分が曖昧なまま申請している

前述のとおり、設備資金と運転資金では返済期間の考え方が違います。訪問用の車両や医療機器は設備資金、燃料費や維持費は運転資金というように、同じ「車両にかかるお金」でも区分が分かれます。区分が曖昧なまま総額だけを出すと、計画の妥当性を説明しにくくなります。

3. 自己資金を面談時点で説明できる形にしていない

現行制度では、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。ただし自己資金の額は審査の重要な判断材料であり、多いほど有利になりやすいのは確かです。自己資金は、面談時点で口座に確認できる形にしておきます。

また、創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入、テストマーケティングの費用などは、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。領収書を必ず保管しておきましょう。

医療機器・車両はリースと融資のどちらで揃えるか

訪問診療では車両と携行機器が中心になるため、リースを勧められる場面もあります。リースには初期費用を抑えられるメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。

  • 連帯保証人が必要になる
  • 機器の所有権が持てない
  • 契約期間中の中途解約が難しい
  • 故障時の修理負担が借主側になる契約が多い

融資とリースのどちらが有利かは、資産計上の考え方や資金繰りの状況によっても変わるため、賃貸借費用の負担も含めて税理士や金融機関に相談しながら判断することをおすすめします。

審査で見られること

審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。勤務医としての診療経験があっても、経営者として事業を立ち上げた実績は別に見られる、と考えておくとよいでしょう。

訪問診療のクリニックであれば、次のような点を計画書のなかで具体的に示せると説得力が増します。

  • 在宅医療の診療経験と、独立後に想定している診療体制
  • 診療圏の設定と、その地域における在宅医療の需要の根拠
  • 連携先(病院の地域連携室、ケアマネジャー、訪問看護ステーション、薬局)の見込みと、紹介が増えていく道筋
  • 訪問件数の積み上がりを踏まえた売上計画と、その前提となる患者数の推移
  • 24時間対応の体制をどう組むか(医師の応援体制、オンコールの分担)

よくある質問

自己資金は面談時点で全額入金しておくべきですか

はい、原則として面談時点で口座に確認できる形にしておきます。

一度審査に落ちると、次回の審査に影響しますか

日本政策金融公庫は個人信用情報機関に加盟していますが、審査に落ちたこと自体が信用情報に記録されることはありません。一方で、公庫内には審査に落ちた記録が残ります。そのため次の審査では、落ちたことを考慮に入れた形になるため、慎重に扱われる可能性があります。

否決された直後にすぐ再申請してもよいですか

原因を潰さずに再申請しても、結果は変わりません。自己資金不足、事業計画の説得力不足、業界未経験への対策不足など、否決の理由を具体的に特定し、そこを改善したうえで再申請することが必要です。

訪問診療と外来を併設する予定でも同じように考えてよいですか

併設する場合は、内装工事や診療設備の分だけ設備資金が増え、必要な借入額の水準そのものが変わります。一方で、外来からの収入が早い段階で立ち上がる可能性もあるため、運転資金の必要月数の見方も変わります。どちらの形で始めるかを先に決めてから、資金計画を組むことをおすすめします。

まとめ

訪問診療専門クリニックの開業は、設備投資が軽く済む一方で、収入が立ち上がるまでを支える運転資金の重みが大きくなりやすい事業です。必要資金を設備資金と運転資金に分けて整理し、返済期間や据置期間の違いを踏まえて借入の内訳を組み立てることが、開業後の資金繰りを安定させる第一歩になります。

日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、融資限度額7,200万円(うち運転資金4,800万円)、設備資金20年以内・運転資金10年以内の返済期間、5年以内の据置期間という設計で、立ち上がりに時間のかかる事業とも組み合わせやすい制度です。ただし利率や適用条件は制度・審査・条件によって変わるため、数字は必ず申請時点の公式情報で確認してください。

診療圏の見立て、連携先の広げ方、訪問件数の積み上がりをどう売上計画に落とすかは、訪問診療ならではの論点です。計画書の作り込みに不安がある場合は、早い段階で専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

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小峰

この記事を書いた人

小峰精公/Kiyotaka Komine

元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人

多胡藤夫/Fujio Tago

元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

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この記事を監修した人


中野裕哲

中野裕哲/Nakano Hiroaki

税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授

税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。

経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。

【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。

中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。

【主な実績】

  • 起業支援・経営支援の豊富な実績
  • 起業相談件数3,000件以上
  • 資金調達支援1000件以上
  • 大企業Webサイト多数監修
  • 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)

V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。

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