
事業計画書 日本政策金融公庫活用ガイド|制度の特徴と申請のポイント
日本政策金融公庫(以下、公庫)に追加融資や設備資金を申し込むとき、決算書・試算表とあわせて「事業計画書」の提出を求められることがあります。創業時の「創業計画書」と違い、すでに数字が動いている事業者向けの計画書には、独特の作り込みが必要です。本記事では、起業から数年経った個人事業主・中小企業の方が、公庫向けの事業計画書をどう組み立てれば審査担当者の納得を得られるかを、具体的に整理します。
公庫に出す「事業計画書」とは
公庫が言う「事業計画書」は、決算書・試算表に表れていない事業の方向性・改善策・投資計画を、文章と数値で説明する資料です。創業計画書のような公庫指定のA3用紙形式があるわけではなく、提出形式は比較的自由ですが、内容として求められるポイントはほぼ決まっています。
主に次の場面で提出を求められます。
- 追加運転資金・設備資金を申し込むとき
- 既存借入のリスケジュール(条件変更)を相談するとき
- セーフティネット貸付など、業績悪化を要件とする融資を申し込むとき
- 創業期から成長期に移行し、まとまった投資を行うとき
過去の決算書が「これまでの実績」、事業計画書が「これからの絵姿」。両者の整合性が取れていることが、追加融資審査の第一条件です。
創業計画書との違い
創業計画書と事業計画書は似ているようで、見られるポイントが異なります。
- 創業計画書:過去の実績がない前提で「将来見込み」と「経営者の信用」を主に評価する
- 事業計画書:直近の決算書・試算表という「実績ベース」のうえに、「計画の合理性」と「改善余地」を上乗せ評価する
つまり事業計画書では、現状の数字を直視したうえで、「これまで何が良くて、何が課題で、これからどう変えるか」を一連のストーリーで語れることが求められます。
公庫向け事業計画書に盛り込むべき要素
提出形式は自由でも、公庫担当者が確認したい情報はほぼ共通しています。最低限、次の項目は盛り込んでおきましょう。
- 会社(事業)概要:設立、業種、本社、店舗、従業員数、主要事業
- 経営者・主要メンバーの略歴と役割
- 事業の沿革と直近数期の業績推移
- 事業環境と市場動向(顧客・競合・外部要因)
- 自社のSWOT分析・差別化要素
- 今回の借入目的(設備・運転)と必要額の積算
- 3〜5か年の収支計画・資金繰り計画
- 借入返済計画(既存借入とあわせた負担シミュレーション)
- リスクシナリオと対応策
過剰な装飾は不要です。決算書の数字と、計画書の数字が「同じ言葉」で語られていることのほうが、圧倒的に評価されます。
書き方のポイント|既存決算書との整合性を取る
1. 直近3期の実績を時系列で並べる
売上・粗利率・営業利益・経常利益・自己資本比率・借入金月商倍率などを、3〜5期分の推移として並べます。よい数字も悪い数字も隠さず提示し、その変化の理由を一言ずつ添えると説得力が増します。
2. 課題と打ち手を1対1で書く
「売上が前年比10%減」という事実に対して、「主要顧客の発注減を、新規開拓5社で補う」「営業人員を1名増員し、Webリード対応を強化」など、課題と打ち手を1対1で結びます。原因分析と対策が噛み合っていないと、計画自体の信頼が落ちます。
3. 借入後の月商倍率・債務償還年数を意識する
追加融資の場合、既存借入+新規借入の合計が「月商の何か月分」「営業キャッシュフロー何年分」になるかを必ず確認します。一般的に、借入金月商倍率3〜6か月、債務償還年数10年以内が一つの目安です。これを超える計画は、相応の根拠が必要になります。
4. 設備投資には回収計画を必ず添える
設備投資の借入は、その設備が「何年でいくら稼ぐか」を必ず示します。「年間粗利増加◯◯円×耐用年数◯年=累計増加◯◯円」のように、投資額との対応関係が明示されていると、審査担当者は安心して稟議に乗せられます。
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数値計画(収支・資金繰り)の組み立て方
数値計画は、文章よりも先に審査担当者の目に入る部分です。次の3点を満たしているかを必ずセルフチェックしましょう。
- 過去実績との地続き感:今期見込み→翌期計画→翌々期計画と、滑らかにつながっているか。突然売上が倍になるような根拠不明のジャンプは厳禁
- 固定費と人件費の整合性:人員計画・店舗計画と人件費・家賃が一致しているか
- 資金繰り表まで作る:損益計算書だけでなく、月次の入出金ベース資金繰り表を添付すると説得力が一段上がる
収支計画と資金繰り計画は「儲けと現金は別物」という大前提に立ち、両方を並行して作るのが鉄則です。
公庫担当者が見ているポイント
元公庫支店長の知見も踏まえると、担当者は以下のような視点で事業計画書を読んでいます。
- 経営者が自社の数字を正確に把握しているか
- 計画の前提(市場・競合・顧客)が現実的か
- 悪化シナリオへの備え(売上が計画の◯%減ならどう対応するか)があるか
- 既存借入を含めた返済能力が確保されているか
- 計画書の数字と決算書・試算表の数字が一致しているか
「会ったときの説明と、計画書の数字がずれていないか」も大事なチェック項目です。面談に臨む前に、自分の口で計画書を読み返し、3分で要約できる状態にしておきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 事業計画書はパソコンで作るべきですか?
パソコンでの作成を推奨します。WordやExcelで、数値部分はExcel、文章はWordで作り、最終的にPDF化して提出する形が一般的です。数値計算が誤っていない・きれいに整列していることが、信頼感の第一歩です。
Q2. 何ページくらいが適切ですか?
概ね10〜20ページ程度に収まることが多いです。重要なのは枚数ではなく、必要な要素が漏れなく、過不足なく整理されているかどうかです。冗長な記述は審査担当者の集中力を奪うため避けましょう。
Q3. 自社で作るのが難しい場合、誰に相談すればよいですか?
顧問税理士、認定支援機関、商工会議所、資金調達に強い専門家などが相談先になります。特に追加融資・設備資金など金額が大きい案件では、外部の目を入れたほうが計画の精度が上がります。
Q4. 業績が悪い時期に事業計画書を出しても通りますか?
業績悪化時にこそ、事業計画書の質が問われます。悪化要因を客観的に分析し、回復シナリオと当面の資金繰りを示せれば、セーフティネット貸付やリスケ後の支援につながる可能性があります。
まとめ|事業計画書は「経営者の地図」
公庫向けの事業計画書は、決算書という「過去の地図」のうえに、「これから進む道筋」を描き加える作業です。実績と計画が一本線でつながり、課題と打ち手、リスクと対応策が噛み合っているほど、審査担当者は安心して稟議に乗せられます。経営者本人が数字を理解し、自分の言葉で語れる計画書を仕上げることが、公庫との長期的な信頼関係の出発点です。難しいと感じたら、無料相談などを活用して、専門家と一緒に組み立てる方法も検討してみてください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























