
学習塾の開業資金、融資と補助金はどちらで賄うべきかを順番で整理
学習塾を開業する方の中には、「創業融資と補助金、どちらも使えばコストを抑えられるはず」と考えている方が少なくありません。ただし、この2つは使える時期も、お金が入るタイミングもまったく違います。順番を間違えると、開業直前になって資金が足りないことに気づく、という事态になりかねません。
この記事では、学習塾の開業を想定して、融資でまかなう部分と補助金でまかなう部分をどう切り分け、どの順番で動けばよいかを整理します。
学習塾の開業では「融資でまかなう部分」と「補助金でまかなう部分」が分かれる
開業時にまとまった資金が必要になるのは、教室の内装・什器・教材などの設備資金と、生徒が集まるまでの運転資金です。これらは開業前に確保しておく必要があるため、基本的に融資でまかないます。
一方、補助金は原則として「精算払い」です。経費を先に支払い、事業を実施した後に実績報告をしてから補助金が入金される仕組みのため、開業資金そのものには使えません。この前提を押さえておかないと、資金計画の組み方を間違えてしまいます。
ステップ1:開業前に動かせるのは融資だと切り分ける
小規模事業者持続化補助金は「申請時点で未開業の創業予定者」が対象外
学習塾は、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)で常時使用する従業員5人以下であれば、小規模事業者持続化補助金の対象になり得ます(会社役員・個人事業主本人・同居の親族従業員・日雇い等はカウントしません)。ただし、対象外になりやすい形態として「申請時点で未開業の創業予定者」が挙げられています。学校法人も対象外です。これから開業する段階では、この補助金をあてにして開業資金を組むことはできません。
交付決定日前に発注・契約・支払をした経費は補助対象外
採択されたとしても、交付決定日より前に行った発注・契約・支払は補助対象外です。開業準備のために先に内装工事や教材を発注してしまうと、後から補助金の対象にはできません。補助金を使う予定がある経費は、交付決定を待ってから動く必要があります。
開業前の自費支出は「みなし自己資金」として領収書を残す
開業前に自費で購入した教材や、開業前のテストマーケティング費用などは、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。領収書は必ず保管しておきましょう。
ステップ2:融資で確保する額を設備資金と運転資金に分けて決める
日本政策金融公庫の創業融資の枠組み(2026年6月1日現在)
創業融資の融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円、制度による)です。2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなります。
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。塾講師や教室運営の経験がない場合は、事業経験者を役員として迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整える方が、同業のメンターに助言を受けるだけの対策よりも説得力を持たせやすくなります。
返済期間の設計
新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例として、設備資金は返済期間20年以内・据置5年以内、運転資金は返済期間原則10年以内・据置5年以内という数字が示されています(利用する制度により異なります)。教室の内装や什器といった設備は長めの返済期間で、生徒が集まるまでの運転資金は据置期間をうまく使う、という設計がしやすくなっています。
資金使途は「事業に必要な支出」であることが前提です。人件費や役員報酬は事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。個別の支出が資金使途として認められるか判断に迷う場合は、申請先や専門家に確認しながら計画を整えることをおすすめします。
ステップ3:開業後に補助金で回収できる経費を見極める
対象経費の区分と、学習塾で使いやすい費目
小規模事業者持続化補助金の補助率は2/3(賃金引上げ特例のうち赤字事業者は3/4)、補助上限は基本50万円です。インボイス特例で50万円上乗せ(最大100万円)、賃金引上げ特例で150万円上乗せ(最大200万円)、両特例の併用で200万円上乗せ(最大250万円)となりますが、いずれも要件を満たす場合のみです。学習塾では、生徒募集のチラシやウェブサイト、教室の備品などが対象経費の候補になります。
見落としやすい上限:広報費・ウェブサイト関連費はそれぞれ30万円
広報費は補助金交付申請額の上限が30万円(税込)で、広報費のみの申請はできません。ウェブサイト関連費も同じく上限30万円(税込)で、こちらも単独申請はできません。学習塾は生徒募集のチラシとホームページに支出が集中しやすい業種ですが、この2つだけで申請することはできない点に注意が必要です。
申請の前提条件
申請は電子申請のみで、GビズIDプライムが必須です(郵送不可)。また、商工会・商工会議所の支援を受けて進める仕組みで、事業支援計画書(様式4)の発行が必要です。今回の公募集(第20回)では、様式4の発行依頼は受付締切(2026年12月4日)以降はいかなる理由でも受け付けられません。開業後、余裕を持って窓口に相談しておく必要があります。
ステップ4:融資と補助金のスケジュールを重ねて資金ショートを防ぐ
創業融資は、書類提出後おおむね3週間〜1か月で実行され、準備を含めると合計で約2か月を見ておくと安全です。一方、小規模事業者持続化補助金(第20回)は、申請受付開始が2026年11月5日、申請受付締切が2026年12月15日17:00、採択発表が2027年3月頃(予定)、事業実施期限が2028年3月31日、実績報告書の提出期限が2028年4月10日というスケジュールです。
つまり、補助金は申請から入金まで1年前後の期間が空きます。開業資金は融資で確保したうえで、補助金の対象になりそうな経費(生徒募集のチラシやウェブサイトなど)は交付決定を待ってから発注し、精算払いまでの立替資金を別途見込んでおくという順序が安全です。融資額を補助金をあてにして削りすぎると、立替の原資が不足することがあります。
開業コストを抑えるための順序つきチェックリスト
- 開業届・法人登記の時期を決める
- 開業前の自費支出の領収書を保管しておく
- 融資の必要額を設備資金・運転資金に分けて算出する
- 日本政策金融公庫へ申し込む(実行まで約2か月を見込んで前倒しする)
- 開業後にGビズIDプライムを取得する
- 商工会・商工会議所へ相談し、事業支援計画書の発行を依頼する
- 補助金の交付決定を待ってから、対象経費を発注する
- 実績報告・精算払いまでの立替資金を確保しておく
学習塾の開業費用と資金調達でよくある質問
Q. 補助金が採択されれば融資は受けなくてよいですか
小規模事業者持続化補助金は精算払いのため、開業時にまとまった資金として使うことはできません。開業資金は融資で確保したうえで、補助金は開業後の販路開拓費の回収に充てる、という位置づけで考える必要があります。
Q. 塾講師や教室運営の経験がなくても創業融資は申し込めますか
未経験の業種で創業する場合、事業計画書の中でどう経験不足を補うかが審査のポイントになります。「同業のメンターから定期的に助言を受けている」「経理や専門技術を業務委託でプロに任せている」といった対策は、経営そのものへの関与としては弱く、有効なカバー策とは言えません。より説得力を持たせるには、事業経験者を役員として迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整えることが有効です。
Q. 補助金と融資は同時に進めてよいですか
進め方自体は可能ですが、対象になる時期とお金が入るタイミングが異なるため、同じ資金として扱わないことが重要です。融資は開業前の設備資金・運転資金、補助金は交付決定後に発生させる経費の一部回収、という役割分担で計画を立てます。
まとめ|順序を間違えなければ開業コストは抑えられる
学習塾の開業では、融資と補助金を同じ「資金調達」として一緒くたに考えると、資金計画がずれてしまいます。開業前に必要な資金は融資で確保し、補助金は交付決定後に発生させる経費の一部回収として、開業後のタイミングで動かす。この順序を守ることが、結果的に開業コストを抑えることにつながります。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























