
製造業のBtoCやDtoC参入に使える補助金|下請け脱却・自社ブランド化を後押しする3制度の選び方
「長年、下請けとして図面通りにものを作ってきたが、これからは自社ブランドを立ち上げて消費者に直接売りたい」——そう考える製造業の経営者が増えています。BtoB(企業間取引)中心のビジネスからBtoC(消費者向け)へ舵を切るには、新しい製品開発・販路づくり・設備投資が同時に必要になり、まとまった資金が要ります。そこで検討したいのが補助金の活用です。
ただ、ネット上には「BtoC参入なら補助金が使える」と気軽に書いた記事が多く、どの制度がどんな投資に向くのか、そして自社が本当に対象になるのかまで踏み込んだ情報は多くありません。本記事では、下請け製造業が自社ブランドでBtoC・D2Cに参入する場面を想定し、使える補助金3制度を「目的」と「会社規模」で整理します。あわせて、製造業が申請でつまずきやすい落とし穴も具体的に解説します(情報は2026年7月時点・公募要領1.0版〈令和8年6月〉に基づきます。申請時は必ず最新の公式情報をご確認ください)。
製造業のBtoCやDtoC参入で使える補助金は主に3つ
BtoCやDtoC参入という言葉は広く、たとえば「自社商品を開発して直販する」「既存製品を消費者向けにパッケージし直してEC・直販店で売る」「小さくテスト販売から始める」など、段階も投資額もさまざまです。まずは、投資の目的と規模でおおまかに3つの制度を押さえましょう。
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新事業進出枠……下請けから自社ブランドB2Cへと事業モデルそのものを転換する、大型投資向け
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠……自社の技術を活かして消費者向けの新製品・新サービスを開発する場合向け
- 小規模事業者持続化補助金……従業員20人以下の小規模事業者が、販路開拓を小さく始める場合向け
なお、いずれも「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」が2026年度(令和8年度)に統合され、正式名称が「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」になる点に注意してください。過去記事では旧名称のままの説明も残っていますが、現在の公募要領上の名称はこの統合後のものです。
本命は「新事業進出枠」——下請けから自社ブランドへの転換に効く
下請け(BtoB)から自社ブランドのBtoCへと軸足を移す取り組みは、まさに「新しい市場への進出」にあたるため、新事業進出枠が本命になりやすい制度です。
新事業進出枠の補助上限は、従業員規模によって異なります。従業員20人以下で2,500万円、21〜50人で4,000万円、51〜100人で5,500万円、101人以上で7,000万円が目安で、大幅賃上げ特例を満たした最大規模の場合に最大9,000万円まで拡大します(補助下限は750万円)。補助率は中小企業者で原則2分の1です。つまり「9,000万円」という数字は無条件の上限ではなく、あくまで最大規模かつ特例適用時の最大値である点を押さえておきましょう。
この枠のもう一つの特徴が、建物費が対象経費に含まれることです。他の枠では建物費は原則対象外ですが、新事業進出枠に限っては、直販店舗やショールーム、消費者向けの新ラインを収める建屋の建設・改修などを補助対象にできる可能性があります(建物の単なる購入・賃貸は対象外です)。自社ブランドの世界観を伝える売り場づくりまで視野に入る点は、BtoC転換を目指す製造業にとって大きな意味があります。
ただし注意したいのは、審査で問われる「新市場性」です。公募要領では「申請者にとっての新規性」が求められており、日本初・世界初である必要はない一方、既存事業と同じ市場・同じ製品を、単に売り先だけ消費者に変えただけでは「新事業進出」に該当しないと判断されやすくなります。ここは後半の落とし穴の章で詳しく触れます。
新製品を開発してBtoC参入するなら「革新的新製品・サービス枠」
「事業モデルを丸ごと変えるほどではないが、自社の加工技術を活かして消費者向けの新製品を開発したい」という場合は、革新的新製品・サービス枠が向いています。たとえば、精密加工の技術を応用した生活雑貨や、食品加工の技術を使った新しい消費者向け商品の開発などが典型例です。
補助上限は従業員規模別に、5人以下で750万円、6〜20人で1,000万円、21〜50人で1,500万円、51人以上で2,500万円が目安で、大幅賃上げ特例適用時は最大3,500万円まで拡大します(補助下限は100万円)。補助率は中小企業者で2分の1、小規模企業者・小規模事業者は3分の2です。
この枠は「新製品・新サービスの開発」が主題であり、設備・システムを導入するだけでは対象になりません。また、同業で既に相当程度普及している製品の開発も対象外です。自社の技術で「新しい価値」をどう生み出すのかを、事業計画の中で説明できるかが採択の分かれ目になります。
小さく始めるなら「小規模事業者持続化補助金」
従業員20人以下(商業・サービス業は5人以下)の小規模事業者が、まずは小さくBtoC販売をテストしたい場合は、小規模事業者持続化補助金が使いやすい制度です。補助率は3分の2で、補助上限は基本50万円。インボイス特例で+50万円、賃金引上げ特例で+150万円が上乗せされ、両方の要件を満たすと最大250万円まで拡大します。
チラシ・看板などの広報費、ECサイト制作やネット広告といったウェブサイト関連費、展示会出展費、試作品の新商品開発費などが対象になります。ただし第20回公募からは、広報費・ウェブサイト関連費はそれぞれ交付申請額の上限が30万円(税込)とされ、いずれも単独での申請はできない点に注意が必要です。大規模な設備投資には向きませんが、「まず消費者の反応を見たい」という最初の一歩には相性の良い制度です。
目的・会社規模でどう選ぶ?
3制度は、投資の目的と規模で使い分けるのが基本です。ざっくりと以下のように整理できます。
- 事業モデルをBtoBからBtoCへ転換する大型投資(数千万円規模、建物・設備を含む)→ 新事業進出枠
- 技術を活かして消費者向けの新製品を開発する(設備投資が主軸)→ 革新的新製品・サービス枠
- 小さくテスト販売・販路開拓から始める(数十万〜250万円規模)→ 小規模事業者持続化補助金
なお、ECサイトや受注管理システムなどITツールの導入が投資の中心になる場合は、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)が選択肢になることもあります。どの制度も「交付決定前に発注・契約・購入したものは対象外」という共通ルールがあるため、補助金の採択を待たずに設備を発注してしまわないよう、スケジュール設計が重要です。
製造業がBtoC補助金でつまずきやすい3つの落とし穴
最後に、製造業がBtoC参入で補助金を申請する際に、特につまずきやすいポイントを3つ挙げます。
1. 「新市場性」の誤解——売り先を変えただけでは通りにくい
新事業進出枠でもっとも多い誤解が、「既存の製品を、これまでの取引先ではなく消費者に売る」だけで新市場進出になると考えてしまうことです。公募要領では、既存事業と同一市場・既存製品の増産・単なる商圏の違いなどは「新事業進出」に該当しないとされています。BtoCという売り先の違いだけでなく、「申請者にとって新しい製品・新しい市場」といえる中身があるかを、事業計画で筋道立てて説明する必要があります。売り先を変えるだけの構想であれば、新製品開発を伴う革新的新製品・サービス枠のほうが自然なこともあります。
2. 賃上げ要件の未達による返還リスク
新事業進出枠・革新的新製品・サービス枠には共通の基本要件があり、代表的なのが「一人当たり給与支給総額を年平均3.5%以上増やす」「事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上に保つ」という賃上げ関連の要件です。これらを未達だと補助金の返還を求められる場合があります。加えて付加価値額を年平均4.0%以上伸ばす計画も求められます。BtoC参入は初期に売上が読みにくいため、賃上げと利益計画を無理のない水準で描けているかが、事業計画の実現性評価にも直結します。
3. 設備投資が必須——広告・ECだけでは大型枠に通らない
新事業進出枠・革新的新製品・サービス枠はいずれも、機械装置・システム構築費などの設備投資が必須(単価10万円税抜以上)です。「広告を打ってECサイトを作れば消費者に売れる」という発想で、販促費・ウェブ費だけの計画を組むと、大型枠の要件を満たしません。逆に、投資が販路開拓・広報中心で設備投資が小さいなら、小規模事業者持続化補助金のほうが適していることになります。何にいくら投資するのかを先に固め、そこから制度を選ぶ順番が大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. 下請けをやめずにBtoCを始める場合でも補助金は使えますか?
A. 既存のB2B事業を続けながら、新たにBtoC事業を立ち上げる形でも申請は可能です。重要なのは事業の存廃ではなく、新たに取り組む事業が「申請者にとって新しい市場・新しい製品」といえるかどうかです。
Q. 創業したばかりでも新事業進出枠に申請できますか?
A. 新事業進出枠は、新規設立・創業後1年に満たない事業者は対象外とされており、最低1期分の決算書が必要です。開業間もない段階では対象にならない場合があります。
Q. 補助金と融資は併用できますか?
A. 補助金は原則として後払い(実績報告後の精算払い)のため、設備の支払いを先に自己資金や融資でまかない、後から補助金を受け取る流れになるのが一般的です。日本政策金融公庫などの創業・設備資金融資と補助金を組み合わせる資金計画も選択肢になります。ただし国の同一制度との二重受給は認められないため、組み合わせ方は事前に確認しましょう。
まとめ
製造業がBtoC・自社ブランドに参入する際に使える補助金は、投資の目的と規模で選ぶのが基本です。事業モデルの転換なら新事業進出枠、消費者向け新製品の開発なら革新的新製品・サービス枠、小さな販路開拓なら小規模事業者持続化補助金がそれぞれの受け皿になります。特に新事業進出枠は建物費まで対象にできる一方、「新市場性」「賃上げ要件」「設備投資必須」という三つの関門があり、事業計画の作り込みが採択を左右します。
自社の投資計画がどの制度に当てはまるのか、要件を満たせるのかは、個別の事業内容によって判断が変わります。補助金の選定から事業計画づくり、融資との組み合わせまで、専門家に相談しながら進めることで、採択の可能性と資金繰りの両面から現実的なプランを描きやすくなります。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























