
D2C・自社ブランドの創業融資|在庫・広告費をどう借りる?申請の流れと事業計画書のポイント
自社ブランドの商品を企画し、ECを軸に直接お客様へ届けるD2C(Direct to Consumer)で起業する方が増えています。ただ、D2Cは初回の製造ロットや広告費、サイト構築費など、売上が立つ前にまとまった資金が先行しがちです。「実店舗がないと融資は受けにくいのでは」と不安に思う方もいますが、事業計画がしっかりしていれば、創業融資は十分に選択肢になります。この記事では、D2C・自社ブランドの立ち上げで使える創業融資について、制度の基本から自己資金の考え方、事業計画書の作り方、申請の流れまでを、これから起業する方向けに整理します。なお、融資制度や金利は変わりやすいため、本記事は執筆時点の情報をもとにしています。
D2C起業で資金が先行する理由を押さえる
D2Cは、店舗の内装費が不要な一方で、別のところに資金が必要になります。代表的なのは、①初回の製造ロット(在庫)、②広告・集客費(新規顧客の獲得)、③ECサイトやブランドサイトの構築費、④撮影・パッケージ・サンプル制作費です。とくに広告費と在庫は、売上が立つ前に支払いが先行し、回収まで時間差があります。この「先に払って、あとから回収する」構造を理解しておくと、なぜ運転資金を厚めに見ておく必要があるのかが腑に落ちます。創業融資は、この立ち上げ期のキャッシュフローの谷を埋める手段として活用できます。
D2Cの創業融資で中心になる制度
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」
個人事業主・中小企業の創業時の代表的な選択肢が、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年4月に従来の「新規開業資金」から改称・拡充され、現在の主力制度になっています(かつての「新創業融資制度」は2024年3月に廃止されています)。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、原則として無担保・無保証人での借入が可能です。創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金をもとに審査される点が、創業者にとって心強い特徴です。
金利・据置期間の目安(執筆時点)
基準利率は、2026年6月1日現在、無担保で創業期(税務申告を2期終えていない場合)に利用するとき年3.45〜5.15%です。創業期の方が無担保で利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性があります。ただし適用可否は利用する制度・審査・条件により異なるため、必ず申請先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなるため、売上が安定するまでの初期の資金繰りに余裕を持たせられます。D2Cのように立ち上げ初期の赤字期間が想定される事業では、この据置をどう使うかが計画のポイントになります。
自己資金とみなし自己資金の考え方
「自己資金がいくら必要か」は多くの方が気にする点ですが、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。一方で、自己資金の額は審査の重要な判断材料で、多いほど計画の実現性が高く見えるのは事実です。「○分の1が必須」といった固定ルールがあるわけではない、と理解しておきましょう。
D2Cの場合、起業前にかけた費用が「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。たとえば、試作品やサンプルの制作費、商品撮影費、ブランドロゴ・パッケージのデザイン費、テストマーケティング(少量販売やクラウドファンディング検証)にかけた費用などです。こうした支出は領収書を必ず保管しておき、申請時に説明できるようにしておくと有利に働く可能性があります。自己資金は、面談時点で口座に確認できる形にしておくことも大切です。
事業計画書で押さえるべきポイント
実績のない創業期は、事業計画書の作り込みが審査結果を大きく左右します。D2Cでは、次の点を数字の根拠とともに示せると説得力が高まります。
- 商品と市場:誰のどんな悩みに、どの価格帯で、なぜ自社ブランドが選ばれるのか
- 初回ロットと在庫計画:最初にいくつ作り、どのくらいの期間で売り切る想定か。在庫が現金化されるまでの期間も意識する
- 集客の見通し:広告費をいくらかけ、どのくらいの顧客を獲得する想定か。リピート購入の見込みも示せると望ましい
- 月次の資金繰り:仕入れ・広告費の先行支払いと、入金のタイミングのズレを月単位で示す
資金使途の整理にも注意が必要です。運転資金には、人件費や役員報酬など事業に必要な経費は含められますが、創業者個人の生活費は対象になりません。
申請から融資実行までの流れ(チェックリスト)
D2Cの創業融資は、おおむね次のステップで進みます。書類提出後の審査・実行は3週間〜1か月程度が目安ですが、準備期間を含めると合計2か月程度を見込んでおくと安全です。
- ① 事業計画の整理:商品・市場・収支・資金繰りを数字で固める
- ② 必要書類の準備:創業計画書、自己資金が確認できる資料、設備・仕入れの見積書、本人確認書類などを揃える
- ③ 申し込み・面談:計画の根拠を自分の言葉で説明できるようにしておく
- ④ 審査・融資実行:提出後おおむね3週間〜1か月。実行後は計画どおりの資金使途で使う
準備にかかる時間を逆算し、在庫の発注や広告出稿のタイミングと資金実行の時期がずれないように、早めに動き出すことが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. 審査に落ちると信用情報に傷がつきますか?
公庫は個人信用情報機関に加盟しています。実は、日本政策金融公庫の審査に落ちても、そのこと自体が信用情報に記録されることはありません。ただ、残された記録から推測することは可能です。日本政策金融公庫が信用情報の閲覧の請求、融資の実行は記録されます。つまり、公庫が閲覧の請求をした記録がありながら融資の実行の記録がない場合、もしかして否決されているのでは?と推測することができます。
Q. 在庫の仕入れ費用は融資の対象になりますか?
商品の仕入れ(在庫)は、事業に必要な支出として運転資金の資金使途に計上できます。初回ロットの根拠(販売見込みとの整合)を事業計画書で示せると、説得力が高まります。
Q. 自己資金はどのくらい用意すべきですか?
制度上の決まりはありませんが、自己資金が多いほど審査では有利になりやすい傾向があります。試作・撮影・テスト販売などにかけた費用がみなし自己資金として評価されることもあるため、領収書を残しておきましょう。
まとめ:先行投資の構造を計画書で示し、据置も活用する
D2C・自社ブランドの立ち上げは、在庫や広告費が先行しやすい一方で、その構造を事業計画書で明確に示せれば、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金などの創業融資は有力な選択肢になります。限度額や金利、自己資金の考え方を押さえ、初回ロット・集客・月次資金繰りを数字で語れる計画を用意しましょう。据置期間を立ち上げ初期の資金繰りに活かす視点も有効です。金利・要件は変わりやすいため、申請時は必ず最新の公式情報を確認し、計画の立て方や資金使途の整理に迷うときは、創業融資に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























