
不動産投資は創業融資の対象外?賃貸事業として認められる条件を解説
「創業融資を使えば不動産投資を始められるのでは」と考えて相談に来られる方は少なくありません。しかし、日本政策金融公庫の創業融資と、区分マンションやアパートを買って家賃収入・値上がり益を狙う一般的な「不動産投資」は、そもそも制度の目的が異なります。この記事では、不動産投資と創業融資がかみ合わない理由と、賃貸業として創業融資の対象になり得る条件を整理します。数字は2026年6月時点の情報にもとづいており、制度は変わりやすいため申請前に必ず最新情報を確認してください。
なぜ「不動産投資でも創業融資が使えるはず」と誤解しやすいのか
創業融資は「事業を始める人」を支援する制度で、無担保・無保証人で利用でき、創業した実績がなくても事業計画書と自己資金をもとに審査される点が特徴です。この「実績がなくても借りられる」という間口の広さから、不動産を買って家賃収入を得る不動産投資も同じように使えるはず、と考えてしまう方が一定数います。しかし、公庫の創業融資はあくまで「事業者」を対象にした制度であり、「投資家」を対象にしたものではありません。
日本政策金融公庫の創業融資は「事業者」向け、「投資家」向けではない
日本政策金融公庫の融資は、個人の資産形成や値上がり益を狙う資金需要には応じない設計になっています。区分マンションを購入して賃料収入を得るだけの資産運用、将来の売却益を主目的にした不動産購入といった「投資」目的の資金は、創業融資の対象になりにくいという点をまず押さえておく必要があります。
一方で、複数の物件を管理し、入居者募集・契約・トラブル対応などを自ら行う「賃貸経営を事業として営む」場合は、対象になり得ます。ポイントは、資金の使いみちが「資産を持つこと」ではなく、「賃貸業という事業を運営すること」に向いているかどうかです。
「不動産投資」と「不動産賃貸業」、対象になる・ならないの分かれ目
対象になりにくいケースの傾向
- 区分マンション1室など、値上がり益や家賃収入だけを目的にした物件購入
- 管理をすべて外部の管理会社に任せ、自分は実質的な業務を行わない運用スタイル
- 「投資」「資産形成」「将来の売却益」を主目的として説明する事業計画
対象になり得るケースの傾向
- 複数戸・複数棟の物件を保有・管理し、入居者対応や契約更新業務を自ら(または雇用したスタッフで)継続的に行う事業計画
- 賃貸管理業・仲介業など、賃貸に関するサービスを第三者にも提供する事業モデル
- 「賃貸事業を営む」ことを前提に、収支計画・管理体制・空室対策まで具体的に描けている計画書
面談や事業計画書で「投資」という言葉を前面に出すと、資産運用目的だと受け取られやすくなります。同じ物件購入であっても、「事業として賃貸業を営む」という説明の組み立て方が、審査の入口で重要になります。
民間の不動産投資ローン・アパートローンとの評価軸の違い
民間金融機関が扱う不動産投資ローンやアパートローンは、あらかじめ用途・金利・借入期間などが定型化された商品で、物件そのものの収益性(賃料水準や稼働率)が審査の中心になります。これに対して、公庫の創業融資は、物件の収益性だけでなく、申請者自身の事業計画・自己資金・事業運営体制まで含めて評価される点が異なります。不動産投資ローンで物件を購入する話と、創業融資で賃貸事業を始める話は、同じ「不動産を買う」という行為でも、金融機関が見ているものが違うと理解しておくと、相談先や申請書類の準備方針を誤りにくくなります。
賃貸業として創業融資を申請する際の実務ポイント
賃貸業を事業として創業融資を申請する場合も、基本的な制度の枠組みは他業種の創業と同じです。主力制度である「新規開業・スタートアップ支援資金」の融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、創業期の方は原則として無担保・無保証人で利用できます。2026年6月1日現在の基準利率は、無担保・創業期(税務申告2期未了)で年3.45〜5.15%です。元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いになります。
自己資金についても、制度上「〇分の1が必須」といった固定の要件はありませんが、自己資金の額は審査の重要な判断材料になるため、多いほど有利になりやすい傾向があります。なお、運転資金の対象はあくまで「事業に必要な支出」が前提で、経営者自身の生活費は対象になりません。物件管理のための人件費や事務所家賃などは事業経費として計上できますが、生活費と混同しないよう資金使途を整理しておく必要があります。
申請時の言葉遣い・事業計画の作り方の注意点
事業計画書では、「投資」ではなく「賃貸事業を営む」という前提で、収支計画・管理体制・空室対策・将来の物件拡大計画までを具体的に記述することが重要です。すでに保有している物件がある場合は、その運営実績(入居率、管理業務の実施状況など)を示せると、事業としての実態を裏付ける材料になります。未経験の分野でカバー策を示す場合、「同業のメンターから助言を受けている」「管理業務を外部に委託している」といった説明は経営への関与としては弱く評価されやすいため、自ら運営に関わる体制や、賃貸管理の実務経験者を事業に迎える形を検討する方が説得力を持たせやすくなります。
よくある質問
Q. 1室だけの区分マンション投資でも創業融資は使えますか?
A. 1室のみの区分マンション購入で、管理を外部に任せて家賃収入を得るだけの計画は、資産運用目的とみなされ対象になりにくい傾向があります。事業として賃貸業を営む体制や将来の展開まで具体的に計画できているかがポイントです。
Q. すでに賃貸物件を持っている場合、追加の物件購入に創業融資は使えますか?
A. 既存の賃貸経営の実態や、追加物件を含めた事業計画の内容によって判断が変わります。個人の資産運用の延長ではなく、事業としての賃貸業運営を明確に説明できるかが審査のポイントになります。
Q. 不動産投資ローンと創業融資、どちらを検討すればよいですか?
A. 物件の収益性だけを見てほしい場合は民間の不動産投資ローン、事業として賃貸業を立ち上げ自己資金や事業計画も含めて評価してほしい場合は創業融資が選択肢になります。どちらが向いているかは事業の実態次第のため、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
日本政策金融公庫の創業融資は事業者を対象にした制度であり、資産形成や値上がり益を目的にした不動産投資はなじみにくいのが実情です。一方で、入居者対応や管理業務を自ら担う「賃貸業という事業」として計画を組み立てられれば、創業融資の対象になり得ます。「投資」ではなく「事業」として説明できる事業計画書を用意できるかどうかが、申請の入口を分ける最大のポイントです。制度・金利は変わりやすいため、本記事は執筆時点(2026年6月1日現在)の情報にもとづいており、申請前には必ず最新の公式情報を確認してください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

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中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























