
放課後等デイサービスと訪問介護を同時に開業できる?複合開業の創業融資と資金計画の組み立て方
「放課後等デイサービスと訪問介護を、いっしょに立ち上げたい。開業資金は創業融資でまかなえるのだろうか」——障害者福祉と介護、両方の分野で開業を検討している方から、こうしたご相談をいただくことがあります。
ネット上にある情報は、放課後等デイサービス単独、あるいは訪問介護単独の開業資金を解説したものがほとんどで、2つの事業を同時に立ち上げる場合の資金計画に踏み込んだものはあまり見当たりません。この記事では、複合開業を検討している方に向けて、創業融資の基本と、2事業を同時に抱えるからこそ生じる資金繰り上の論点を整理します。なお本文の数字は執筆時点(2026年7月)の情報にもとづくもので、制度・金利は変わりやすいため、申請時には必ず日本政策金融公庫等の公式情報をご確認ください。
放課後等デイと訪問介護の複合開業は、創業融資の対象になるのか
まず結論からお伝えすると、複数の事業を同時に始めること自体が、創業融資の対象外になるわけではありません。日本政策金融公庫の創業融資は、これから事業を始める方や、事業開始後に税務申告を2期終えていない方を対象としており、事業の数で線引きされているものではないからです。
ただし、審査では「2つの事業をなぜ同時にやるのか」「その体制で本当に回るのか」を、1つの事業計画として説明できるかが問われます。放課後等デイサービスは児童福祉法にもとづく障害児通所支援、訪問介護は介護保険法にもとづく居宅サービスで、根拠となる制度が異なります。指定基準や人員基準も別建てになるため、「なんとなく福祉分野でまとめて」という説明では、計画の実現性に疑問符がつきやすくなります。
逆に言えば、送迎車両や事務機能を共用できる、同じ地域の家族に一貫して関われる、といった複合だからこその根拠を数字で示せれば、それは計画の強みになります。
複合開業で押さえておきたい創業融資の基本
主力制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」
個人事業主・中小企業の創業時の代表的な選択肢は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月までは「新規開業資金」という名称で、2024年4月から現在の名称に改称・拡充されました。なお、無担保・無保証の特例として知られていた「新創業融資制度」は2024年3月に廃止されており、現在は各融資制度に無担保・無保証の枠組みが組み込まれています。福祉分野の開業を扱う記事でも旧制度名がそのまま残っているケースがあるため、情報の日付には注意してください。
融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。放課後等デイサービスの物件改修・送迎車両と、訪問介護の事務所整備・車両を合わせて考えても、制度上の枠としては十分な設計になっています。
金利・据置期間・返済期間
2026年6月1日現在の基準利率は、無担保で創業期(税務申告を2期終えていない場合)に利用するとき年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則として0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性があります。ただしこれは案内文上の一般的な説明で、実際の適用可否は利用する融資制度・審査・条件により異なる可能性があるため、詳細は申請先でご確認ください。
返済期間は、新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例として、設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内、いずれも据置期間は5年以内とされています。据置期間中は利息のみの支払いになるため、開業初期のキャッシュフローに余裕を持たせることができます。複合開業では立ち上げ期の支出が2事業分になるため、この据置の使い方が資金繰りを大きく左右します。
審査の考え方とスケジュール
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。無担保・無保証人での借り入れが原則として可能な点も、創業期の方に向けた設計です。
申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間〜1か月程度が目安です。創業計画書・自己資金のエビデンス・見積書などを整える時間を含めると、準備に1か月、審査・実行に1か月、合計2か月程度を見ておくと安全です。
複合開業の資金計画で見落としやすい3つのポイント
1.報酬の入金タイムラグが2事業分まとめて発生する
障害福祉サービスも介護保険サービスも、報酬の大部分は利用者の自己負担分ではなく公費でまかなわれ、国民健康保険団体連合会(国保連)に請求します。サービスを提供した月の翌月に請求し、入金はさらにその翌月になるのが一般的です。つまり、売上が立ってから手元にお金が入るまで、およそ2か月のずれがあるということです。
単独開業でも押さえておきたい論点ですが、複合開業ではこのタイムラグが2事業分同時に発生します。その間も人件費・家賃・車両費は毎月出ていきます。運転資金は「数か月分」と漠然と考えるのではなく、2事業それぞれの月次支出を積み上げたうえで、入金開始までの期間に耐えられる金額を計算しておく必要があります。
2.指定申請のスケジュールが2本並走する
放課後等デイサービスも訪問介護も、事業を始めるには行政の指定を受ける必要があります。制度が異なるため、必要書類・人員基準・設備基準はそれぞれ別に確認しなければなりません。指定の効力が発生する日は月初に設定されるのが一般的で、申請の締切から実際に事業を開始できるまでには一定の期間があります。
ここで問題になるのが融資のタイミングとの整合です。物件の確保や人員の採用は指定申請より前に進める必要がある一方、融資の実行には2か月程度を見込みます。どちらか一方の指定が遅れると、片方の事業だけ費用が先行して発生する状態になりかねません。事業ごとの開始予定月を決めたうえで、そこから逆算して融資の申込時期を組み立てることが大切です。
3.人員基準を2事業分満たす必要がある
放課後等デイサービスには児童発達支援管理責任者など、訪問介護にはサービス提供責任者など、それぞれの制度で配置が求められる職種があります。有資格者の採用は開業準備のなかでも時間がかかりやすく、採用が遅れれば開業そのものが後ろ倒しになります。
資金計画の観点では、開業前から発生する人件費を見落とさないことが重要です。指定申請の時点で人員体制を整えておく必要があるため、売上が立つ前の段階から給与の支払いが始まります。なお、人件費は事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。どこまでを資金使途に含められるかは事業の実情によって変わるため、判断に迷う場合は申請先や専門家に確認しながら計画を整えることをおすすめします。
「同時開業」と「段階開業+追加融資」を比べる
複合開業には、2事業を同時に立ち上げる方法と、まず1事業を軌道に乗せてから2事業目を追加する方法があります。それぞれ資金面での性格が異なります。
- 同時開業:必要資金を一度にまとめて調達できるため、申込・面談の手間が1回で済みます。事務所・車両・管理部門を共用する前提で計画を組めば、投資効率の高さを説明しやすくなります。一方で、必要資金の総額が大きくなり、実績のない状態で2事業分の計画の説得力を求められる点は負担です
- 段階開業+追加融資:初回の借入額を抑えられ、1事業目の実績を持って2事業目の相談に臨めます。ただし、1事業目の業績が芳しくない場合はその影響を受けます
どちらが有利かは、自己資金の厚み、有資格者の採用見込み、対象地域の需要によって変わります。「早く2事業そろえたい」という気持ちだけで同時開業を選ぶのではなく、2事業分の運転資金を確保できるかどうかを基準に判断することをおすすめします。
審査で説得力を出すために準備したいこと
自己資金の位置づけを理解しておく
公庫の創業融資では、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。かつての「新創業融資制度」にあった自己資金要件のような固定のルールは、現行制度にはありません。とはいえ自己資金の額は審査の重要な判断材料であり、多いほど有利になりやすいのが実情です。自己資金は面談時点で口座に確認できる形にしておきましょう。
みなし自己資金になる支出を整理する
創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入・テストマーケティング費用などは、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。領収書を必ず保管しておきましょう。福祉分野では、開業前に取得した資格の受講料などが該当する可能性があります。
未経験分野をどうカバーするか
複合開業では、少なくとも一方の分野が未経験というケースが少なくありません。未経験の業種で創業する場合、事業計画書の中でどう経験不足を補うかが審査のポイントになります。「同業のメンターから定期的に助言を受けている」「経理や専門技術を業務委託でプロに任せている」といった対策は、経営そのものへの関与としては弱く、有効なカバー策とは言えません。より説得力を持たせるには、事業経験者を役員として迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整えることが有効です。
よくある質問
Q. 2事業分をまとめて申し込むと、審査は厳しくなりますか
事業数そのもので審査基準が変わるわけではありませんが、借入額が大きくなるほど返済計画の裏付けは丁寧に求められます。2事業を1つの計画として説明できるか、必要な人員を確保できる見込みがあるかが、実質的な論点になります。
Q. 一度審査に落ちると、次回の審査に影響しますか?
A. 日本政策金融公庫は個人信用情報機関に加盟していますが、審査に落ちたこと自体が信用情報に記録されることはありません。一方で、公庫内には審査に落ちた記録が残ります。そのため次の審査では、落ちたことを考慮に入れた形になるため、慎重に扱われる可能性があります。
Q. 否決された直後にすぐ再申請してもよいですか?
原因を潰さずに再申請しても、結果は変わりません。自己資金不足、事業計画の説得力不足、業界未経験への対策不足など、否決の理由を具体的に特定し、そこを改善したうえで再申請することが必要です。
まとめ
放課後等デイサービスと訪問介護の複合開業は、創業融資の対象外になるものではありません。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は限度額7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、据置期間も5年以内で設定できるため、立ち上げ期の負担をならしやすい設計になっています。
一方で、国保連からの報酬の入金までにおよそ2か月のずれがあること、指定申請のスケジュールが2本並走すること、有資格者の人件費が売上より先に発生することは、複合開業ならではの重い論点です。ここを織り込まずに「2事業分の初期費用」だけで資金計画を組むと、開業後に資金繰りが詰まりかねません。同時開業にするか段階開業にするかも含めて、早い段階で専門家に相談しながら計画を組み立てることをおすすめします。
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融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























