
アプリ開発・スタートアップの創業融資審査の難易度|通すための実務ポイント
「アプリ開発で起業したいが、売上ゼロの状態で創業融資は通るのか」「スタートアップは審査が厳しいと聞くが本当か」——IT・アプリ開発分野で起業する方から、こうした不安の声をよく耳にします。たしかにアプリ開発やスタートアップは、飲食店や物販などと比べて審査で説明が難しい面があります。一方で、ポイントを押さえれば日本政策金融公庫などの創業融資は十分に活用できます。この記事では、なぜ「難しい」と言われるのかを整理したうえで、IT・アプリ開発の創業融資を通すための実務的なコツを、起業直後の個人事業主・中小企業の目線でわかりやすく解説します。
アプリ開発・スタートアップの創業融資が「難しい」と言われる3つの理由
まず、なぜIT・アプリ開発分野の創業融資が難しいと感じられるのか、その構造的な理由を理解しておきましょう。理由がわかれば、対策も立てやすくなります。
1. 売上実績がなく、将来予測に頼らざるを得ない
アプリやWebサービスは、リリースしてユーザーが付くまで売上が立たないビジネスモデルが多くあります。開発期間が数か月〜1年に及ぶこともあり、「まだ1円も売上がない段階」で融資を申し込むケースが珍しくありません。金融機関は過去の実績で返済力を判断したいため、実績がなく将来の予測に頼る計画は、どうしても審査の難度が上がります。
2. 担保にできる資産が乏しい
製造業なら機械設備、飲食店なら内装や厨房機器といった形のある資産が残りますが、アプリ開発の主な支出は人件費や外注開発費です。お金を使った結果が「ソースコード」や「ノウハウ」といった無形資産になるため、担保評価が難しく、貸し手から見ると回収リスクが読みにくくなります。
3. 開発費・人件費が先行し、資金需要が大きくなりやすい
エンジニアの人件費やサーバー費用、外注費は開発初期に集中します。売上が立つ前にまとまった資金が必要になるため、申込金額が大きくなりがちで、その分だけ計画の妥当性をより丁寧に問われます。
それでもアプリ開発・スタートアップの創業融資は十分に狙える
「難しい」と聞くと諦めてしまいそうになりますが、IT・アプリ開発分野でも創業融資の活用例は数多くあります。特に公的融資は、実績の乏しい創業期を支援する目的で設計されているため、まず検討すべき選択肢です。
日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
創業期の資金調達でまず候補になるのが、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年4月の制度改定で、従来の「新創業融資制度」の要素を引き継ぐ形に整理され、創業者は原則として無担保・無保証人で利用できます。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、運転資金の返済期間は最長10年、据置期間は最長5年と、売上が立つまで時間のかかるアプリ開発と相性のよい条件になっています。なお、従来あった自己資金要件は撤廃されましたが、実務上は自己資金が極端に少ないと審査で不利になりやすい点に注意が必要です。(制度内容は改定されることがあるため、申込前に必ず公式の最新情報をご確認ください。)
自治体の制度融資
都道府県や市区町村が信用保証協会・金融機関と連携して提供する「制度融資」も、創業者向けの選択肢です。金利の一部を自治体が補助したり、信用保証料の補助があったりと、創業者の負担を抑える設計のものが多くあります。お住まいの自治体名と「創業 制度融資」で検索し、対象要件を確認してみましょう。
IT・アプリ開発で審査を通すための5つのポイント
同じアプリ開発の創業でも、準備の仕方で審査結果は大きく変わります。実務上、特に効果が大きい5つのポイントを紹介します。
1. 経歴・開発実績で「やり切れる人」だと示す
審査では「この人なら計画を実行できるか」が重視されます。前職での開発経験、担当したプロジェクトの規模、受託開発の実績などを具体的に示し、自分(またはチーム)が技術的・事業的にやり切れる根拠を伝えましょう。代表者にエンジニアリングの経験が乏しい場合は、開発を担うメンバーや外注先の体制を明確にしておくことが重要です。
2. 事業計画書の売上予測に「根拠」を持たせる
IT・アプリ開発の審査で最大の関門が、売上予測の説得力です。「ユーザー数×課金率×単価」のように積み上げ方式で計算し、その各数値の根拠(類似サービスのデータ、テスト配信の反応、見込み顧客の声など)を添えましょう。希望的観測だけの右肩上がりグラフは、かえって信頼を損ないます。慎重・標準・強気の複数シナリオを示すと、計画の現実性が伝わりやすくなります。
3. 自己資金をできるだけ準備する
自己資金要件が撤廃されたとはいえ、自己資金は「計画的に準備してきた証拠」として今も重視されます。コツコツ貯めてきた預金の通帳履歴は、事業への本気度を示す材料になります。逆に、出所の不明な「見せ金」は信頼を一気に失うため避けましょう。
4. 受注・契約・引き合いなど「実需」の証拠を集める
売上ゼロでも、受託開発の契約書、基本合意書(LOI)、導入を検討している企業からのメール、事前登録ユーザー数といった「実需」を示せれば、将来予測の説得力が大きく高まります。リリース前でも集められる材料は積極的に準備しましょう。
5. 資金使途を具体的に説明する
「何にいくら使うのか」を、開発費・人件費・サーバー費・広告費などの内訳で明確に示します。設備資金と運転資金を分け、見積書などの裏付けを添えると、金額の妥当性が伝わりやすくなります。
アプリ開発・スタートアップ特有の注意点
最後に、IT・スタートアップならではの注意点を押さえておきましょう。
- 赤字先行を前提にしすぎない:融資はあくまで返済が前提です。「数年は赤字でいい」という計画ではなく、いつ・どうやって返済原資を生むのかを明確にしましょう。
- エクイティ(出資)との役割分担を考える:急成長を狙うスタートアップはVCからの出資も選択肢ですが、出資が決まるまで時間がかかります。当面の開発資金は融資で確保し、出資と組み合わせる設計も有効です。
- 無形サービスは「伝え方」が9割:形のない事業ほど、審査担当者にビジネスモデルを理解してもらう説明力が結果を左右します。専門用語を避け、誰が読んでも仕組みと収益源がわかる事業計画書に仕上げることが大切です。
よくある質問(FAQ)
Q. 売上がまったくない開発中の段階でも融資は申し込めますか?
はい、創業前・売上ゼロの段階でも申し込めます。その場合は実績の代わりに、経歴・自己資金・事業計画の説得力・実需の証拠で返済可能性を示すことになります。
Q. 一人で開発するフリーランスでも対象になりますか?
個人事業主・フリーランスでも創業融資の対象です。法人化していなくても申し込めますが、開発・営業・経理を一人で担う体制で計画を実行できるか、根拠をもって説明できると有利です。
Q. 補助金と創業融資は併用できますか?
制度上、併用できるケースは多くあります。ただし補助金は原則「後払い(精算払い)」のため、立替期間の資金を融資で確保するといった資金繰りの設計が重要です。
まとめ
アプリ開発・スタートアップの創業融資は、売上実績の乏しさや担保の少なさから「難しい」と言われがちです。しかし、その理由を理解したうえで、(1)経歴・実績、(2)根拠ある売上予測、(3)自己資金、(4)実需の証拠、(5)明確な資金使途、という5つのポイントを丁寧に準備すれば、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」をはじめ、創業期でも十分に活用できます。無形の事業だからこそ「伝え方」が結果を左右します。事業計画書の作り込みに不安がある場合は、創業融資に強い専門家に早めに相談することが、採択への近道です。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























