
創業融資の審査で料理人の経験を伝える書き方|元公庫支店長が回答
料理人の経験は創業融資の審査でどう見られる?経験欄の書き方
料理人として独立を考え始めた方から、こんなご相談をよくいただきます。
💬 料理人の方からのご相談
自分は料理人として長く働いてきましたが、店長でも経営者でもありません。独立する業態の調理経験は十分あるつもりでも、仕入れや接客、スタッフ管理まで全部経験しているわけではないため、融資の審査で『経営できる人ではない』と見られないか心配です。料理人としての経験は、どのように説明すれば評価してもらえますか?

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。
多胡からの回答
結論から言うと、創業計画書の経験欄で見られるのは、同じ業種での勤務経験、勤務年数、役職です。経営した経験を書く欄ではありません。料理人として積み重ねてきた年月は、そのまま経験欄の中心になる材料です。ですから、まず「何を書けば伝わるか」を考えるところから始めてください。
なお、ここでお話しする内容は2026年9月時点の日本政策金融公庫の創業融資を前提にしています。制度は変わることがあるため、申込の前には公式の案内もあわせてご確認ください。
経験欄は「同じ業種での勤務」を書く場所です
公庫で支店長をしていたころは、創業計画書の経験欄を最初に見て、その方がこれから始める事業とどれだけ近い仕事をしてきたのかを確かめていました。審査では、業務経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。斯業経験というのは、これから始める事業と同じ業種で働いてきた経験のことです。
あなたが独立しようとしている業態で調理の経験があるなら、それがまさに経験欄で見られる部分にあたります。店長や経営者という肩書きがあるかどうかを気にして、書く内容を小さくしてしまう方がいますが、それはもったいない書き方です。肩書きの有無で書く量を減らすより、どの店でどれだけの期間、どんな役割を担ってきたのかを具体的に書くほうが、経験が伝わります。
調理の経験は「年数・役割・担当範囲」に分けて書きます
「長く料理人をしてきました」の一文では、経験が長いことしか伝わりません。次のように分けて整理すると、読む側が仕事の中身を思い浮かべやすくなります。
- 勤務先ごとの期間と、その店の業态(どんな料理を、どんな客層に出していたか)
- そこでの立場(調理担当、担当ポジション、後輩への指導など)
- 担当していた業務の範囲(仕込み、メニューの考案、盛り付け、衛生管理など)
- 調理以外に関わっていた業務(食材の発注や検品、接客の補助、シフトの調整、新人の教育など)
四つ目は、実際にやっていたことだけを書いてください。仕入れや接客、スタッフの管理を全部経験しているわけではないとのことですが、それで構いません。関わった範囲を事実のとおりに書くのが基本です。少し関わっただけのことを大きく見せようとすると、面談で掘り下げられたときに答えに詰まります。
もうひとつ大切なのは、記録に残っているものを拾うことです。在籍期間は在職証明や履歴書で、担当した仕事は当時のメモや写真、レシピノートなどで思い出せます。頭の中の記憶だけで書くより、根拠のある書き方になります。
経験していない業務は、計画の具体性で示します
仕入れや接客、スタッフの管理について、これまで担当したことが少ない部分があるのは、調理を中心に働いてきた方にはよくあることです。ここは経験欄で無理に埋めようとせず、事業計画の中で具体的に示すのが筋です。
審査する側から見ると、経験の年数とあわせて、その経験を土台にして計画が組み立てられているかが気になります。たとえば次のような点です。
- 売上をどの根拠で見積もったのか(席数、客単価、営業日数など、数字の出どころ)
- 原価と人件費をどう見込んだのか(仕入先や仕入れ方の想定を含めて)
- 返済の原資をどこから確保するのか
- 必要な資金の金額と、使い道が合っているか
この四つを数字の出どころまで書いておくと、計画の裏づけになります。担当したことのない仕入れであっても、これまで働いていた店で食材がどこからどう届いていたかを思い返し、それを自分の店に置き換えて数字に落とす作業はできます。
また、経理や労務など苦手な分野について、税理士や社会保険労務士、あるいは知り合いの料理店の経営者から助言を受けながら進める方もいらっしゃいます。外部の力を借りること自体は問題ありません。ただ、「専門家に相談しながら進めます」と書くだけでは、計画の裏づけにはなりません。誰に、どの範囲の業務を、いくらで任せるのかまで計画に書いてはじめて、計画の一部として伝わります。
自己資金についても同じです。金額だけでなく、どのようにためてきたのかという形成の過程が見られます。毎月の積み立てなど、続けてきた事実があれば、その過程を書き添えてください。
経験と動機と計画を一本の線でつなぎます
経験欄、創業の動機、事業計画は、別々に書くと、それぞれが良くても全体の印象がばらばらになります。たとえば、ある業態の料理を長く作ってきた経験があり、そこで気づいた客のニーズがあり、だからこの立地でこの価格帯の店を開く、というつながりが読み取れると、計画に説得力が出ます。
反対に、経験欄にはA業態、動機には別のB業態、計画にはさらに別の内容、という状態になると、面談で「結局どの店をやりたいのですか」と尋ねられることになります。書き上げたあとで、三つの欄を続けて読み、話の筋が通っているかを確かめてみてください。
面談の前に手を動かしておきたいこと
面談では、書類に書いたことをあなた自身の言葉で説明できると、話が伝わりやすくなります。次の順で準備しておくと、落ち着いて話しやすくなります。
- 職歴を勤務先ごとに書き出し、期間、役割、担当した業務を並べる
- 調理以外に関わった業務と、関わっていない業務を、自分の中で分けておく
- 関わっていない業務については、開業後に誰がどう進めるのかを、金額や担当範囲まで決める
- 売上、原価、人件費の見積もりに、数字の出どころを添える
- 経験、動機、計画の三つが同じ方向を向いているかを読み返す
面談では、この整理をもとに、自分の言葉で答える練習をしておくと安心です。
まとめ
料理人として積み重ねた年月は、経験欄でそのまま伝わる材料です。年数、役割、担当範囲に分けて事実を書き、足りない部分は事業計画の根拠と自己資金の形成過程で示していく、という順序で準備を進めてください。
職歴の棚卸しや、創業計画書、融資面談で伝える内容の整理は、ひとりで進めると視点が偏りがちです。専門家と一緒に、経験をどう書き分けるか、面談でどこまで説明できるようにしておくかを確かめながら進めてみてはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























