
フリーランスからIT法人設立時の創業融資の流れ
IT・Web系のフリーランスとして実績を積み、いよいよ法人化(法人成り)を考えるタイミングで、多くの方が気になるのが「会社にしたら創業融資は受けられるのか」「どんな流れで進めればいいのか」という点です。法人成りは資金調達の絶好のタイミングである一方、進め方を間違えると本来受けられたはずの融資を逃してしまうこともあります。
この記事では、起業直後の個人事業主・ITフリーランスの方に向けて、法人化してから日本政策金融公庫の創業融資を受けるまでの流れを、制度の基礎から審査のポイントまでわかりやすく整理します。なお制度内容や金額は変更されることがあるため、申込前に必ず公式情報をご確認ください(本記事は2026年6月時点の情報をもとにしています)。
フリーランスが法人化して創業融資を受けるとはどういうことか
「法人成り」と創業融資の関係
法人成りとは、個人事業主が会社を設立し、それまで個人で行っていた事業を法人に引き継ぐことを指します。法人としては設立して間もない1期目でも、実態としては個人事業時代からの事業実績がある状態です。この「実績はあるが法人としては新しい」という状態は、創業融資の審査において決してマイナスではなく、むしろ売上や利益の裏付けを示せる強みになります。
事業開始のタイミングは「個人事業の開始日」で見る
ここで最も注意したいのが、創業融資における「事業開始の時期」の数え方です。法人成りの場合、事業開始のタイミングは法人を設立した日ではなく、個人事業主として事業を始めた日でカウントされます。
日本政策金融公庫の創業融資(新規開業・スタートアップ支援資金など)は、事業開始からおおむね7年以内の方を対象としています。つまり、個人事業主として長く活動してから法人化した場合、個人時代の開始から7年を超えていると創業融資の対象にならないことがあります。フリーランス歴が長い方ほど、早めに確認しておくことが大切です。なお7年を超えていても、一般の事業資金融資など別の制度を活用できる可能性はあります。
法人化したフリーランスが使える主な創業融資制度
法人成りしたITフリーランスが利用を検討しやすいのが、日本政策金融公庫の融資制度です。代表的なものを整理します。
新規開業・スタートアップ支援資金
2025年3月に「新規開業資金」から名称が統一された制度で、これから事業を始める方や事業開始後おおむね7年以内の方が対象です。主な条件は次のとおりです。
- 融資限度額:7,200万円(うち運転資金は4,800万円まで)
- 返済期間:設備資金は20年以内、運転資金は10年以内(いずれも据置期間は5年以内)
- 資金使途:設備資金・運転資金
IT・Web系は大きな設備投資が不要なケースが多く、人件費・外注費・広告費といった運転資金が中心になりやすいため、運転資金枠の使い方が一つのポイントになります。
自己資金要件は撤廃。ただし審査では見られる
かつて創業融資には「自己資金が一定割合必要」という要件がありましたが、制度上の自己資金要件は撤廃されています。とはいえ実際の審査では、自己資金の額や貯め方は返済能力や計画性を判断する材料として見られるのが一般的です。「要件がないから準備しなくてよい」わけではなく、コツコツ貯めた自己資金があるほど審査では有利に働きやすい、と理解しておきましょう。
フリーランスの法人化から創業融資までの流れ(5ステップ)
法人成り後に創業融資を申し込み、入金されるまでの基本的な流れは次の5ステップです。
ステップ1:事前相談・準備
まずは資金がいくら必要か(設備資金・運転資金の内訳)を洗い出します。法人化のタイミングや、個人事業時代の確定申告書・通帳の整理もこの段階で進めておくとスムーズです。日本政策金融公庫の窓口や認定支援機関への事前相談も有効です。
ステップ2:申し込み(事業計画書の提出)
借入申込書とあわせて、創業計画書(事業計画書)を提出します。IT・Web系は無形商材で事業内容が伝わりにくいため、この事業計画書の出来が審査を大きく左右します。
ステップ3:面談
担当者との面談で、事業内容・売上の根拠・資金使途・返済計画などを説明します。個人事業時代の取引実績や継続的な受注の見込みを、数字とともに具体的に伝えられるかがポイントです。
ステップ4:審査
提出書類と面談内容をもとに審査が行われます。自己資金、過去の信用情報、計画の妥当性などが総合的に判断されます。
ステップ5:契約・入金
審査に通れば契約手続きを行い、指定口座へ融資金が入金されます。申し込みから入金までは、書類が整っていればおおむね数週間〜1か月程度が一つの目安です。
IT系フリーランスが創業融資で押さえるべきポイント
無形商材だからこそ事業内容を「見える化」する
SES、受託開発、Web制作、アプリ開発、SaaSなどIT系の事業は、在庫や店舗のような目に見える資産がありません。そのため、ポートフォリオ、過去の受注実績、継続契約や見込み案件の一覧などを使って、「誰に・何を・いくらで提供し、どう売上が立つのか」を具体的に示すことが重要です。
売上予測は「根拠」とセットで示す
「月商◯◯万円を見込む」と書くだけでは説得力に欠けます。個人事業時代の平均月商、既存クライアントとの契約単価×件数、稼働可能時間など、積み上げの根拠を添えて売上予測を組み立てましょう。実績のある法人成りは、この点で新規創業より有利です。
確定申告と自己資金の履歴を整えておく
個人事業主時代の確定申告をきちんと行い、所得をある程度計上できていると、事業の継続性と返済能力の裏付けになります。あわせて、自己資金を計画的に準備してきた通帳の履歴があると、審査での印象が良くなります。
断定的な期待は禁物
創業融資は「必ず借りられる」というものではありません。計画の妥当性や信用情報によって結果は変わります。だからこそ、準備の段階で専門家の視点を入れておくことが、通過率を高める現実的な近道になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 法人化する前と後、どちらで申し込むのが有利ですか?
A. 一概には言えませんが、すでに法人化を決めているなら設立後に法人として申し込むケースが一般的です。タイミングは資金が必要になる時期や事業計画と合わせて判断するため、迷う場合は事前相談がおすすめです。
Q. フリーランス歴が7年を超えていると融資は受けられませんか?
A. 創業融資(新規開業・スタートアップ支援資金など)の対象にはならない可能性がありますが、一般の事業資金融資など別の制度を検討できます。まずは現状を専門家に確認するとよいでしょう。
Q. 自己資金がほとんどなくても申し込めますか?
A. 制度上の自己資金要件は撤廃されているため申し込み自体は可能です。ただし審査では自己資金の有無が見られるため、可能な範囲で準備しておくことをおすすめします。
まとめ
ITフリーランスが法人化して創業融資を受ける際は、(1)事業開始は個人事業の開始日で数え7年以内かを確認する、(2)新規開業・スタートアップ支援資金などの制度を理解する、(3)無形商材の事業内容と売上根拠を事業計画書で見える化する、という3点が要になります。法人成りは個人時代の実績を強みに変えられる好機です。準備を丁寧に進め、必要に応じて専門家の力も借りながら、資金調達を次の成長につなげましょう。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























