
中小企業診断士として独立する人が創業融資で誤解しやすい5つのポイント
企業に勤めながら中小企業診断士の資格を取得し、これから独立を考えている方の中には、「経営の専門家という資格があれば、創業融資の審査でも有利になるはずだ」と考えている方がいらっしゃるかもしれません。しかし、資格の性質と創業融資の審査で見られる点は、必ずしも一致しません。
この記事では、中小企業診断士として独立する方が創業融資について誤解しやすい5つのポイントを整理します。
まず押さえたい前提|創業融資は「事業として創業した実績」がなくても申し込める
判断材料は事業計画書と自己資金など(2つに限定されない)
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。ここでいう「実績」は、あくまで事業として創業した実績を指すという点を、まず押さえておきます。
誤解1|「経営の専門家だから審査で有利になる」
資格は制度上の加点項目として定められているものではない
中小企業診断士は経営に関する幅広い知識を問う資格ですが、創業融資の制度上、資格の保有そのものが加点項目として定められているわけではありません。
資格・専門知識が効くのは「計画の説得力」の側面
資格そのものが直接評価されるわけではなくても、経営に関する知識は、事業計画書の内容に説得力を持たせるという形で間接的に生きてきます。数字の根拠や市場の見立てを具体的に書けることは、審査で見られる事業計画書の質そのものに関わってきます。
誤解2|「実務補習・実務従事は事業経験として評価される」
登録のための実務要件と、事業として創業した実績は別のもの
中小企業診断士として登録するには、実務補習や実務従事といった一定日数の実務要件を満たす必要があります。ただし、これは資格登録のための要件であり、審査で見られる「事業として創業した実績」とは別のものです。実務要件を満たしていることが、そのまま創業実績として扱われるわけではありません。
企業内診断士としての経験はどう位置づけられるか
企業に勤めながら資格を取得し、社内で診断士としての知見を活かしてきた経験は、事業計画書の説得力を補強する材料にはなり得ます。ただし、これも「事業として創業した実績」そのものではないため、計画書の中でどう位置づけて書くかは、別途整理しておく必要があります。
誤解3|「認定経営革新等支援機関になれる資格だから、自分の融資も自分で有利にできる」
特別利率の要件は「指導および助言を受けている方」
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金には、特別利率が適用される要件の一つとして、「『中小企業の会計に関する基本要領』または『中小企業の会計に関する指針』を適用しているまたは適用する予定の方であって、自ら事業計画書の策定を行い、認定経営革新等支援機関(税理士、公認会計士、中小企業診断士など)による指導および助言を受けている方」という条件が示されています。中小企業診断士は認定経営革新等支援機関として指導・助言を行う側になれる資格ですが、この要件は申込者自身が指導・助言を「受けている」ことを指すものです。自分自身の申込において、自分で自分に助言する形でこの要件を満たせるかどうかは、この記載だけでは判断できません。
利率・引下げは時点を確認する
2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなります。
誤解4|「開業費用が小さいから融資は必要ない/少額では借りられない」
診断士の独立は運転資金が中心になりやすい
中小企業診断士としての独立は、店舗や設備を持つ業種と比べて開業時の設備投資が小さく、事務所の家賃や活動費といった運転資金が中心になりやすい特徴があります。設備投資が小さいからといって、融資の対象にならないわけではありません。
限度額・返済期間・据置期間の目安
創業融資の融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円、制度による)です。新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例として、設備資金は返済期間20年以内・据置5年以内、運転資金は返済期間原則10年以内・据置5年以内という数字が示されています(利用する制度により異なります)。
申請から実行までの目安と逆算
申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間〜1か月が目安です。創業計画書・自己資金エビデンス・見積書などの準備を含めると、申請準備に1か月、審査・実行に1か月、合計で約2か月を見込んでおくと安全です。独立予定日から逆算して、準備を始めるタイミングを考えておくとよいでしょう。
誤解5|「副業で診断士活動をしていたから実績になる」
創業融資でも決算書は見られることがある
創業融資は事業として創業した実績がなくても申し込めますが、決算書をまったく見ないわけではありません。新しく設立した会社であっても、一期でも決算が締まっていれば、その決算書が確認されます。また、代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。そのため、事業計画書や自己資金などの準備に加えて、すでに決算が済んでいる会社がある場合はその内容も踏まえて説明できるように整理しておくと安心です。判断は個別の状況によって変わるため、詳細は申請先や専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. 顧客がまだゼロ、実績もゼロの状態でも申し込めますか
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。顧客ゼロ・実績ゼロの状態そのものが、申し込みの妨げになるわけではありません。
Q. 自己資金はいくら必要ですか
制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。ただし自己資金の額は審査の重要な判断材料になるため、多いほど有利になりやすいとされています。
Q. 資格取得にかかった費用は自己資金として見てもらえますか
創業前に自費で取得した資格や、そのための費用は、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。領収書は必ず保管しておきましょう。
Q. 一度審査に落ちると、次回の審査に影響しますか
公庫内には審査に落ちた記録が残ります。そのため次の審査では、落ちたことを考慮に入れた形になるため、慎重に扱われる可能性があります。
まとめ|迷ったら申請先・専門家に確認を
中小企業診断士という資格は、事業計画書の内容に説得力を持たせるうえでは強みになり得ますが、資格そのものが創業融資の審査で直接加点されるわけではありません。実務補習・実務従事といった登録要件と、事業として創業した実績は別のものであり、この違いを整理したうえで、事業計画書に何をどう書くかを考えることが重要です。制度の詳細や個別の状況については、必ず申請先や専門家に確認しながら進めてください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























