
いまさら聞けない「手元キャッシュ」はいくらあれば安心できるの?
税理士としての経営相談の現場で、「手元キャッシュって、いくらあれば安心なんですか?」という質問をよくいただきます。
売上や利益の話はよく出ますが、意外と現金残高=キャッシュの重要性を軽視している経営者は多いのです。
ズバリ言います——手元キャッシュは、企業の命綱です。
利益が出ていても、キャッシュがなければ会社は続けられません。
1. 手元キャッシュとは?
手元キャッシュとは、すぐに使える現金や預金のことです。
売掛金や在庫は資産ですが、すぐ現金化できるわけではありません。
会社を動かすのはあくまで現金です。
2. なぜ手元キャッシュが重要なのか?
経営は日々の支払いの連続です。
家賃、仕入れ、人件費、税金、借入金返済…。
これらは利益が出ていなくても、毎月必ずやってきます。
たとえ黒字でも、資金繰りが回らなければ倒産します。
この「黒字倒産」を防ぐ最大の武器が手元キャッシュです。
3. 安心できる手元キャッシュの目安
一般的には月商(月の売上)の3か月分がひとつの目安とされています。
理由は、予期せぬ売上減や入金遅延があっても、3か月間は事業を継続できるからです。
例:月商500万円の会社なら
500万円 × 3か月 = 1,500万円が理想ライン。
ただし、業種やビジネスモデルによって必要額は変わります。
4. 業種別の目安
-
飲食業・小売業:在庫や日々の現金取引が多いので1〜2か月分でも回るが、繁忙期・閑散期の差が激しい場合は3か月分推奨。
-
BtoB取引型:入金サイトが長い(2〜3か月後入金)場合は4〜6か月分あると安心。
-
プロジェクト型(建設・システム開発など):大型案件の入金が不定期なため、6か月分以上確保しておく企業も。
5. 手元キャッシュ不足のリスク
-
給与や支払いが遅れる → 致命的な信用低下
-
新規投資や仕入れのチャンスを逃す
-
金融機関からの評価が下がり、融資が受けにくくなる
-
ちょっとした売上減で資金ショートする
6. キャッシュを増やすための実務ポイント
ポイント① 入金を早く、出金を遅く
-
前金や着手金をもらう契約形態にする
-
支払いサイトを長くできるよう交渉する
ポイント② 不要な固定費の削減
-
使っていないサブスクやレンタル品を解約
-
家賃や光熱費の見直し
ポイント③ 在庫管理の徹底
-
売れない在庫を抱えない
-
受注生産に切り替える
ポイント④ 金融機関との関係構築
-
余裕があるうちに融資枠を確保しておく、借りておく
-
決算説明や事業計画を定期的に共有する
7. 実例:キャッシュを守った会社、失った会社
守った会社
ITサービス業A社は、月商の5か月分をキャッシュとして確保。コロナ禍で売上が半減したが、固定費を見直しつつ半年間は自己資金で持ちこたえ、回復時に一気に成長加速。
失った会社
製造業B社は売上が順調だったが、利益をすぐに設備投資へ回してキャッシュ不足に。大口取引先の倒産で入金が止まり、資金ショートで連鎖倒産。
8. 経営者が意識すべきこと
-
利益とキャッシュは別物であることを理解する
-
キャッシュフロー計画(資金繰り表)を毎月見直す
-
「いざ」というときの資金調達ルートを常に確保しておく
まとめ
手元キャッシュは、会社の健康診断でいう「血液」のようなものです。
血液が流れていれば一時的に不調でも持ちこたえられますが、止まれば一瞬で命取りになります。
経営者としては、「売上」「利益」だけでなく、「手元キャッシュ」の額を常に意識し、安心ラインを下回らないよう管理することが重要です。
もし今、あなたの会社の手元キャッシュが何か月分あるか分からないなら——
まずは現状を把握し、目標額を決めることから始めてください。
それが、予期せぬ荒波にも沈まない強い経営の第一歩です。
資金繰りに強い税理士と顧問契約しておくこともお勧めです。
【無料相談のご案内】
起業の手続きって何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!
この記事を書いた人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
起業コンサルタント(R)、経営コンサルタント、税理士、特定社会保険労務士、行政書士、サーティファイドファイナンシャルプランナー・CFP(R)、1 級FP技能士。大正大学招聘教授(起業論、ゼミ等)
V-Spiritsグループ創業者。税理士法人V-Spiritsグループ代表。東京池袋を本拠に全国の起業家・経営者さんを応援!「ベストセラー起業本」の著者。著書20冊、累計25万部超。経済産業省後援「DREAMGATE」で12年連続相談件数日本一。
【まるごと起業支援(R)・経営支援】
起業コンサル(事業計画+融資+補助金+会社設立支援)+起業後の総合サポート(経理 税務 事業計画書 融資 補助金 助成金 人事 給与計算 社会保険 法務 許認可 公庫連携 認定支援機関)など
【略歴】
経営者である父の元に生まれ、幼き頃より経営者になることを目標として過ごす。バブル崩壊の影響を受け経営が悪化。一家離散に近い貧困状況を経験し、「経営者の支援」をライフワークとしたいと決意。それに役立ちそうな各種資格を学生時代を中心に取得。同じく経営者であるメンターの伯父より、単に書類や手続を追求する専門家としてではなく、視野を広げ「ビジネス」の現場での経験を元に経営者の「経営そのもの」を支援できるような専門家を目指すようアドバイスを受け、社会人生活をスタート。大手、中小、ベンチャー企業、会計事務所等で営業、経理、財務、人事、総務、管理職、経営陣等、ビジネスの「現場」での充実した修行の日々を送ったあと、2007年に独立。ほかにはない支援スタイルが起業家・経営者に受け入れられ、経済産業省「DREAM GATE」にて、面談相談12年連続日本一。補助金・助成金支援実績600件超。ベストセラー含む起業・経営本20冊を出版。累計25万部超。無料相談件数は全国から累計3000件を超す。
この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。