
日本政策金融公庫と地方銀行はどちらがいいか【専門家が解説】
起業時に融資先を調べていると、「日本政策金融公庫」と「地方銀行」の両方が候補として出てきます。どちらも融資を行う機関ですが、その仕組みや審査の基準は大きく異なります。「どちらに申し込めばいいのか」と迷っている方は少なくないでしょう。
この記事では、2026年5月時点の最新動向をふまえ、日本政策金融公庫と地方銀行の基本的な違いを整理し、創業期にどちらを優先すべきか、また将来的にどう組み合わせていくかについて、実務的な観点から解説します。
日本政策金融公庫と地方銀行の基本的な違い
日本政策金融公庫と地方銀行の最も根本的な違いは、その設立目的です。
日本政策金融公庫は、政府が100%出資する政府系金融機関です。民間の金融機関では対応しにくい創業者や中小零細企業への融資を補完することが、設立の目的のひとつになっています。つまり、「融資が難しい相手にも積極的に融資する」ことが使命のひとつといえます。
一方、地方銀行は民間企業です。利益を上げることが経営の基本であるため、融資先の審査は返済能力を厳密に見ることが中心になります。事業の実績(決算書)や担保の有無、財務の健全性が重要な評価項目となります。
この設立目的の違いが、創業者への対応の差につながっています。
創業時に日本政策金融公庫が選ばれる理由
創業期に日本政策金融公庫が選ばれることが多い理由は明確です。事業の実績がなくても、無担保・無保証人で融資を申し込める制度が用意されているからです。
地方銀行では、通常、数期分の決算書(損益計算書・貸借対照表など)の提出が求められます。創業直後はそもそも決算が1回もないため、書類の面でも審査の土台に乗りにくいのが実情です。
日本政策金融公庫では、決算書の代わりに「創業計画書」と呼ばれる書類(事業計画書)を作成し、自己資金の状況とともに提出します。事業のアイデアや収支の見通し、代表者の経歴などをもとに審査が行われます。
2024年4月の制度改正で、創業者向けの中心制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」(旧・新規開業資金と新創業融資制度を統合)に再編されました。これにより制度上の自己資金要件は撤廃されています。ただし実務上は、自己資金の金額・形成過程が依然として審査で重視されており、2026年5月時点でも自己資金の約2〜3倍程度までの借り入れが検討されることが多く、自己資金が少ないほど融資額も小さくなる傾向があります。自己資金をしっかり積み上げてから申し込むことが、審査を有利に進めるポイントのひとつです。
また、金利は基本的に固定金利で、2026年5月時点では基準金利が概ね年2%台前半〜が中心です。日本銀行のマイナス金利政策解除(2024年3月)後の段階的な利上げを受け、以前より水準は上昇していますが、民間のビジネスローンに比べると依然として大幅に低水準です。審査期間は申し込みから融資実行まで、おおむね1〜2ヶ月程度かかります。
地方銀行の特徴
地方銀行は、その地域に根ざした営業活動を展開しており、地元企業との長期的な関係を重視しています。融資の審査においても、財務諸表の数字だけでなく、取引の継続性や代表者の人柄、経営姿勢なども評価の対象になることがあります。
ただし、創業直後の段階では、地方銀行から融資を受けることは現実的に難しいケースがほとんどです。理由は先ほど述べた通り、実績がなければ審査の判断材料が少なすぎるからです。
地方銀行の融資が現実的になるのは、一般的に創業から1〜2年が経過し、決算書が1〜2期分以上揃い、売上や利益の実績が見えてきた段階です。特に黒字決算が続いている状態であれば、融資の審査を通過できる可能性が大幅に高まります。
地方銀行の融資金利は、2026年5月時点ではマイナス金利政策解除後の利上げ局面を反映し、信用力に応じて概ね2〜4%台が中心です。以前よりやや上昇傾向にあるものの、信用力が積み上がれば公庫並みの条件で借り入れできる可能性もあります。
地方銀行を利用するメリットは、融資限度額の大きさと、長期的な取引関係の安定性にあります。事業が成長し、大きな投資が必要になった際には、地方銀行からの融資が重要な役割を果たします。
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地方銀行との関係構築のタイミング
地方銀行との関係は、融資を申し込む前から少しずつ構築しておくことが大切です。具体的には、創業直後に事業用の口座を地方銀行で開設し、日常的な取引を行うことが第一歩になります。
取引口座があれば、担当者との接点が自然に生まれます。決算が出た際に報告書類を持参したり、経営課題を相談したりすることで、担当者に自分の事業を知ってもらう機会を作ることができます。
融資の相談を切り出すタイミングとしては、黒字決算が1〜2期続いた段階、または日本政策金融公庫での返済実績が1年以上積み上がった段階が一つの目安です。この時点であれば、財務データと返済実績という二つの根拠を持って相談できるため、担当者も前向きに検討しやすくなります。
逆に、創業直後に地方銀行に融資を申し込んでも、「実績がないため対応できない」と断られるケースが多く、審査落ちの記録が残ることになります。急いで申し込むより、適切なタイミングを見計らうことのほうが長い目で見て得策です。
日本政策金融公庫と地方銀行の併用戦略
実際の資金調達では、日本政策金融公庫と地方銀行を段階的に使い分ける戦略が現実的です。
まず、創業時は日本政策金融公庫で融資を受けます。この融資を計画通りに返済することで、「返済実績」が積み上がります。これは金融機関にとって重要な信頼の証です。
創業から1〜2年が経過し、事業の収支が安定してきたら、地方銀行での口座取引を深めながら融資の相談を始めます。日本政策金融公庫の返済実績を示すことで、地方銀行の担当者も事業の継続性を評価しやすくなります。
さらに事業が成長し、設備投資や事業拡大が必要になった段階では、地方銀行から大型の融資を受けながら、日本政策金融公庫との取引も継続するというかたちが理想的です。複数の金融機関と取引を持つことは、資金調達の選択肢を広げ、リスク分散にもつながります。
まとめ
- 日本政策金融公庫:創業直後から利用可能。実績不要、無担保・無保証人が原則。事業計画書の質が勝負。2026年5月時点でも政策金融機関としての低金利優位性は維持。
- 地方銀行:創業実績が必要。黒字決算が1〜2期揃った段階から現実的な選択肢になる。長期的な関係構築が融資の前提。
2026年5月時点では、マイナス金利政策解除後の利上げ局面が続いており、両者ともに以前より金利水準は上昇しています。それでも創業期は日本政策金融公庫を優先し、事業が軌道に乗ってから地方銀行との関係を深めていく、という順序が基本的な戦略です。焦って地方銀行に申し込んで審査落ちを重ねるより、適切なタイミングで申し込むほうが長期的に見てずっと有利になります。
融資の計画は、事業計画と同じくらい重要です。どの金融機関にいつ、いくら申し込むかを事前に整理しておくことで、資金調達の成功率は大きく変わります。不安な点は専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。



























