
創業準備中の方や、創業後に資金調達を考えている経営者の方から「創業計画書と事業計画書はどう違うのか」「自分はどちらを作ればよいのか」というご相談をよくいただきます。名前が似ていて混同しやすい書類ですが、それぞれ「想定している場面」と「読み手の期待値」が異なります。
この記事では、起業直後の個人事業主・中小企業の方に向けて、創業計画書と事業計画書の違いを「どちらを使うかの判断軸」に絞って整理し、自分のケースで何を作ればよいかを判断できるようにまとめました。執筆時点(2026年5月)の実務に即した内容です。
結論:「公庫の創業融資なら創業計画書」「それ以外は事業計画書」がベース
まず結論からお伝えすると、ざっくりとした判断軸は次のとおりです。
- 日本政策金融公庫の創業融資(新規開業・スタートアップ支援資金など)を申し込む → 創業計画書(公庫所定書式)
- 創業後の銀行融資、補助金、投資家提案、社内資料など → 事業計画書(自由形式)
創業計画書は、金融機関が創業融資の審査に必要な情報を網羅できるよう設計した、所定書式の書類です。一方の事業計画書は、用途や読み手に応じて自由に章立てを組み立てる書類で、創業前・創業後を問わずあらゆる場面で使われます。
つまり、創業計画書は「事業計画書の中でも、創業融資審査向けに簡略化された定型フォーマット版」とイメージするとつかみやすくなります。
両者の違いを4つの観点で整理する
1. 想定される利用シーン
創業計画書は、ほぼ「創業期の資金調達」に用途が限定されます。代表例は次のとおりです。
- 日本政策金融公庫の創業融資
- 自治体の制度融資
- 創業期向け補助金の補助資料
事業計画書は、創業前・創業後を問わず、幅広い場面で使われます。
- 創業後の追加融資(運転資金・設備資金)
- 補助金・助成金の申請
- 取引先や投資家への提案
- 社内の予算策定・経営管理
- 新規事業の社内承認
つまり、創業計画書は「特定の場面に特化した書類」、事業計画書は「汎用の書類」と整理できます。
2. 書式の自由度
創業計画書は、提出先(公庫や自治体)が用意した所定書式に従って記入する書類です。記入欄・項目があらかじめ決まっており、書き手が章立てを工夫する余地は限られています。
事業計画書は、自由形式が基本です。WordやPowerPointで自分の好きな構成で作成でき、補助金申請であれば公募要領に沿った様式で組み立てます。ページ数も自由で、5〜30ページ程度の事業計画書が一般的です。
3. 求められる情報の深さ
創業計画書は、決められた枠内に簡潔に書き込む形式のため、情報量はコンパクトです。「創業の動機」「経歴」「商品・サービス概要」「取引先」「資金計画」「収支見通し」といった必要最低限の情報を、要点中心に記載します。
事業計画書では、これに加えて「市場規模」「競合分析」「自社の強みと差別化要因」「KPI」「収益モデル」「リスク対策」「人員計画」「中長期の数値計画(3〜5年)」など、より踏み込んだ分析を盛り込むのが一般的です。とくに補助金や成長期の融資では、数値計画の精度・市場性の妥当性が厳しく問われます。
4. 読み手の関心の違い
創業計画書の主な読み手は、創業融資を担当する金融機関の担当者です。読み手の関心は「返済できる事業か」「経営者本人に事業を運営できる適性・覚悟があるか」に集中しています。創業時点では実績がないため、書類の中身と面談での説明から「この人なら任せられる」と判断してもらうための材料を提供する書類です。
事業計画書の読み手は、用途によって異なります。金融機関、補助金審査員、投資家、社内幹部など、それぞれが見ているポイントが違うため、書き手は「誰に読まれるか」を意識して構成を変える必要があります。
どちらを作るかの判断フロー
「自分のケースではどちらを作ればよいか」を判断するために、次のフローで考えるとシンプルです。
- これから創業する/創業して間もない(おおむね2年以内)?
- はい → 創業融資を申し込む可能性がある
- いいえ → 事業計画書(用途に応じて作成)
- 創業融資を申し込む先は日本政策金融公庫または自治体の制度融資?
- はい → 創業計画書(所定書式)が必要。必要に応じて事業計画書を添付して補足
- いいえ → 自治体の制度融資の創業計画書を中心に作成
- 融資以外の用途(補助金・投資家提案・社内資料)がある?
- はい → 事業計画書を別途用意(用途に応じて章立てを調整)
- いいえ → 創業計画書のみで対応可
多くの場合、「創業融資 → 創業計画書」「それ以外 → 事業計画書」を基本に、必要に応じて両方を組み合わせる、という運用になります。
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創業計画書を作成するときに押さえておきたいポイント
創業計画書は限られた枠内で勝負する書類のため、書き方の精度が重要になります。
1. 動機は具体的なエピソードで語る
「お客様の役に立ちたい」「世の中に貢献したい」といった抽象的な動機ではなく、「前職での原体験」「自分が困った経験」「家族や知人の声」など、自分にしか書けないエピソードを織り交ぜましょう。経営者本人の覚悟が伝わる動機は、面談での会話にもつながりやすくなります。
2. 経歴は事業との関連性を意識して書く
これまでの職歴の中で、「これから始める事業と関係のある業務経験」「身につけたスキル」「業界の人脈」などを優先して書くと、事業の信頼性が高まります。単なる職歴の羅列にしないよう注意しましょう。
3. 必要資金と調達方法は1円単位まで整合させる
「必要な資金合計=自己資金+融資希望額」の式が崩れていない状態にしておきます。設備資金・運転資金それぞれの内訳と、金融機関ごとの調達方針を明示できると説得力が増します。
4. 売上計画は計算式を示せる状態にしておく
月商の見込み額は、「単価×客数×営業日数」「席数×回転率×客単価×営業日数」など、計算式で説明できるレベルまで分解しておきましょう。面談でも、「どうやってその数字を出しましたか」と必ず聞かれます。
事業計画書を作成するときに押さえておきたいポイント
事業計画書は自由度が高いぶん、読み手が「何を」「どの順番で」読みたいかを意識して組み立てる必要があります。
1. 読み手と目的を最初に固める
銀行向けなら返済能力と財務の健全性、補助金向けなら新規性・市場性・実行可能性、投資家向けなら成長余地と収益モデル、というように、読み手によって重視するポイントが違います。最初に「誰に何を伝えるための書類か」を定義してから書き始めましょう。
2. 章立てはオーソドックスな構成から始める
慣れていない段階で凝った構成を組むと、かえって読みにくくなります。次のようなオーソドックスな章立てから入るのが安全です。
- 事業概要(エグゼクティブサマリー)
- 創業者・経営チーム
- 商品・サービスの内容
- 市場・顧客・競合分析
- マーケティング・販売戦略
- 運営体制・人員計画
- リスクと対策
- 資金計画と数値計画
3. 数字部分は別ファイル(Excel)で管理する
収支計画・キャッシュフロー・資金繰り表などは、Excelで作成しておき、本文には要約を入れる形が運用しやすくなります。修正のたびに整合性を取りやすく、提出先ごとの差し替えもスムーズです。
4. リスクと対策は省略しない
「想定リスク」「対策」を書類に盛り込むと、読み手から見て信頼できる印象になります。経営者がリスクをきちんと認識していること、対応策を準備していることが伝わる構成にしましょう。
創業計画書と事業計画書を「両方」作るのがおすすめな場合
実務では、創業融資の申込み時に「公庫所定の創業計画書」と「自由形式の事業計画書」を両方提出するケースも珍しくありません。次のような場合は、両方の準備をおすすめします。
- 融資希望額が大きい(1,000万円以上など)
- 事業内容が一般的でなく、丁寧な説明が必要
- 競合との差別化要因を強くアピールしたい
- 創業前後で複数の金融機関・補助金にチャレンジする予定がある
- 創業時点ですでに取引先・顧客の見込みが具体的に決まっている
創業計画書だけでは伝えきれない市場分析・差別化要因・中長期計画を、事業計画書で補完する形にすると、面談時の説明にも厚みが出ます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 創業計画書だけで創業融資の審査は通りますか?
必要事項が網羅されていれば、創業計画書だけで審査を受けることはできます。ただし、書ききれない情報(市場分析・競合・販売チャネルの詳細・中長期の数値計画など)がある場合は、別紙で事業計画書を添付したほうが伝わりやすくなります。
Q2. 事業計画書は何ページくらいが目安ですか?
用途によりますが、創業時の融資・補助金用なら10〜20ページ程度が一般的です。投資家向けや社内資料では、さらに分厚くなることもあります。重要なのはページ数ではなく、必要な情報が網羅されていて、読みやすい構成になっているかどうかです。
Q3. 創業計画書も事業計画書も、テンプレートを使ってよいですか?
テンプレートをベースにすること自体は問題ありません。ただし、テンプレートに書かれた文言をそのまま流用するのは避け、自分の事業内容・自分の言葉に置き換えて書きましょう。テンプレートが透けて見える書類は、読み手の印象を損ねます。
Q4. 創業計画書と事業計画書、どちらを先に作るべきですか?
事業の全体像を整理する意味でも、まず自由形式の事業計画書をたたき台として作成し、そこから創業計画書の所定枠に当てはめていくと、両方の整合性が取りやすくなります。とくに数字計画は、事業計画書で詳細を組み立てたうえで、創業計画書の収支見通しに反映する流れが進めやすいでしょう。
まとめ
創業計画書と事業計画書は、似た名前ながら、想定している場面と書式が異なる書類です。創業計画書は「日本政策金融公庫などの創業融資の所定書式」、事業計画書は「創業前後を問わず使える自由形式の書類」と覚えておけば、基本的な使い分けには困りません。
創業期の資金調達であれば、創業計画書をベースに事業計画書で補足するのが基本パターンです。創業後の融資・補助金・投資家提案などでは、事業計画書を中心に組み立てましょう。両方を作成する場合は、まず事業計画書をたたき台として整え、そこから創業計画書に必要事項を落とし込む流れが効率的です。
「自分のケースではどちらを作るべきか」「公庫の創業融資に通る計画書にしたい」といったご相談は、ぜひ無料相談をご活用ください。元日本政策金融公庫支店長や元信用金庫融資担当の専門家が、書類の作り込みから面談対策まで実務目線でサポートします。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























