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コラム

士業の自己資金はいくら必要?創業融資の目安と金額別シミュレーション

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士業の独立開業に自己資金はいくら必要か|「最低ライン」の正体と金額別の試算

行政書士・税理士・社会保険労務士・中小企業診断士など、資格を取って独立を考えるときに必ず出てくるのが「自己資金はいくら用意すればよいのか」という疑問です。ネット上には「総額の10分の1は必須」「300万円は最低ライン」といった数字が並んでいますが、根拠が示されていないものも少なくありません。

結論から言えば、日本政策金融公庫の現行の創業融資では自己資金の額や割合の要件は決まっていません。それでも自己資金は審査の重要な判断材料であり、金額の違いは開業後の返済負担にそのまま跳ね返ります。

この記事では、なぜ「最低ライン」という数字が出回るのかを整理したうえで、自己資金0円・100万円・300万円の3ケースで何が変わるのかを数字で並べます。士業だからこそ効いてくる「みなし自己資金」の話もあわせて解説します。なお制度・数字はいずれも執筆時点(2026年7月)のもので、申請前には最新の公式情報をご確認ください。

結論:制度上、自己資金の「最低ライン」は決められていません

日本政策金融公庫の創業融資の主力制度は「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月までの名称は「新規開業資金」で、2024年4月から現在の名称に改称・拡充されました。

この制度では、自己資金の額や割合について制度上の要件が定められていません。「自己資金がいくら以下なら申し込めない」という線は引かれていないということです。

一方で、自己資金の額は審査の重要な判断材料になります。審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。つまり「要件はないが、多いほど有利になりやすい」という関係です。ここを「1円もなくても同じ」と読み替えるのは危険で、「決まった最低ラインを1円超えれば通る」と読むのも誤りです。

なぜ「総額の10分の1」という数字が今も出回るのか

「自己資金は必要資金の10分の1」という数字には出どころがあります。かつて存在した「新創業融資制度」という無担保・無保証の特例制度に、自己資金の要件が置かれていたためです。

この新創業融資制度は2024年3月に廃止されました。現在は各融資制度のなかに無担保・無保証人の枠組みが組み込まれる形になっており、廃止された制度の自己資金要件がそのまま生きているわけではありません。

「最低ライン」という検索語自体が、この旧制度の記憶に引っ張られたものだと考えると分かりやすいと思います。古い解説記事を見て「10分の1しかないから無理だ」と諦めてしまうのは、事実に基づかない判断になってしまいます。逆に、廃止された制度名で相談してくる方に対して、その点をきちんと説明してくれるかどうかは、相談先の情報が新しいかを測る材料にもなります。

自己資金0円・100万円・300万円で何が変わるか

要件がないのであれば、自己資金の額は「審査でどう見えるか」と「開業後にどれだけ返済が重くなるか」から逆算して考えるのが現実的です。ここでは士業の開業に必要な資金の総額を600万円と仮に置いて、自己資金の額別に何が変わるかを並べます。

※以下はモデルケースとしての想定であり、実在の個別事例ではありません。金額・条件は事業内容や地域によって変わります。

ケースA:自己資金0円(借入600万円)

必要な資金の全額を借入で賄う形になります。運転資金の返済期間は原則10年以内ですが、仮に7年(84回)で返すとすると、元金の部分だけで月あたり約7万1,000円です。これに利息が加わります。

審査の面では、開業準備にどう向き合ってきたかを示す材料が乏しくなります。加えて、開業後に想定より売上が遅れたときの余裕もありません。

ケースB:自己資金100万円(借入500万円)

同じ7年(84回)で返す場合、元金の部分は月あたり約5万9,500円です。ケースAとの差は月約1万1,500円、年で約14万円になります。

ケースC:自己資金300万円(借入300万円)

元金の部分は月あたり約3万5,700円まで下がります。ケースAとの差は月約3万5,000円、年で約42万円です。

士業事務所の毎月の固定費は、事務所費・所属する会の会費・業務システムの利用料・書籍や判例情報の費用などで構成されます。月3万5,000円の差は、この固定費の一項目を丸ごと吸収できる規模です。「自己資金をいくら用意するか」は、審査の話である以上に開業後の毎月の余裕を決める話だとご理解ください。

なお金利は、2026年6月1日現在の基準利率で、創業期(税務申告を2期終えていない場合)は年3.45〜5.15%です。創業期に利用する場合は原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度・審査・条件により異なるため、申請先での確認が必要です。

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自己資金は「面談時点で口座に確認できる形」にしておく

金額と並んで大事なのが、自己資金をどう示すかです。自己資金は面談の時点で口座に確認できる形にしておきます。原則として全額が入金されている状態です。

士業の独立では、退職金や勤務時代の貯蓄が自己資金の中心になることが多いと思います。退職金の入金日と面談日の前後関係は、あらかじめ確認しておくと安心です。「入る予定のお金」は、その時点では確認できる自己資金として扱いにくいためです。

見落としやすい「みなし自己資金」:資格取得にかけた費用

ここが、士業の独立で最も取りこぼしが多い部分です。

自己資金として評価されるのは、口座に残っている現金だけではありません。創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入・テストマーケティング費用などは、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります

士業はこの点で特に有利な立場にあります。独立に至るまでに、受験のための講座費用、登録や開業の準備にかかった費用、実務講習や研修の費用、業務用の書籍や判例情報、パソコンや複合機といった機器を、すべて自費で用意してきた方が多いはずです。これらは開業のための自己投資そのものです。

ただし評価してもらうには領収書が必要です。合格してから開業を決めるまでに何年か空くケースもあり、その間に領収書を処分してしまう方が少なくありません。独立を意識した時点から、開業準備に関わる支出の領収書はまとめて保管しておいてください。

自己資金が薄いときに何で補うか

自己資金を今から急に増やすことは難しいので、現実的には他の材料で計画の説得力を高める方向になります。

これまでの実務経験を、売上の根拠として翻訳する

士業の独立は「業界未経験の起業」とは事情が違います。事務所勤務や企業の管理部門で実務を積んでいれば、業務の内容と単価の相場は体感として持っているはずです。その経験を、どの業務を・いくらで・月に何件受けるつもりなのかという形に落とすと、計画の説得力が上がります。「経験があります」と書くだけでは根拠になりません。

取り扱う分野が未経験なら、体制で補う

資格は持っているものの、独立後に扱いたい分野の実務経験が乏しい場合もあります。その場合、事業経験者を役員として迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整えることが有効です。逆に「同業のメンターから定期的に助言を受けている」「専門業務を業務委託でプロに任せている」といった対策は、経営そのものへの関与としては弱く、有効なカバー策とは言えません。

融資の条件を数字で押さえておく

自己資金の検討と並行して、借入側の条件も把握しておきましょう。いずれも執筆時点の情報です。

  • 融資限度額:7,200万円(うち運転資金4,800万円)※制度による
  • 担保・保証人:創業期の方は原則として無担保・無保証人で利用可能
  • 基準利率:2026年6月1日現在、創業期(2期未了)で年3.45〜5.15%
  • 返済期間:設備資金20年以内/運転資金は原則10年以内(新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例)
  • 据置期間:5年以内で設定可能。据置中は利息のみの支払い
  • スケジュール:書類提出後おおむね3週間〜1か月で実行。準備を含めると合計約2か月を見込むと安全

士業の独立は、開業した月から顧客がいる状態ではありません。紹介や問い合わせが積み上がるまでの期間をどう乗り切るかが、実際の資金需要を決めます。据置期間を使えば、その間は元金の返済を止めて利息のみの支払いにできます。自己資金が心もとない場合、金額を増やす代わりに据置期間の設計で立ち上がり期を支える、という組み立て方も検討の余地があります。

よくある質問

自己資金が0円でも申し込めますか

制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていないため、金額そのものが理由で申し込みができないわけではありません。ただし自己資金は審査の重要な判断材料であり、少ないほど計画書や経験の説明で補う必要が大きくなります。「通らない」とも「通る」とも言い切れないため、手元の状況を整理したうえで早めに相談することをおすすめします。

親族から借りたお金は自己資金になりますか

返済義務のある借入金は、性質としては自己資金と同じ扱いにはなりません。贈与として受け取ったのか、返す前提で預かっているのかで見方が変わります。資金の出どころは面談で確認される部分ですので、経緯を説明できる形にしておくことが大切です。

開業してから何期か経ってしまった場合はどうなりますか

創業期の方とは「新たに事業を始める方」または「事業開始後、税務申告を2期終えていない方」を指します。2期を終えた後は、無担保・無保証人の扱いや利率の区分が変わってきます。2026年6月1日現在の基準利率でも、無担保で2期未了の場合と2期以上完了している場合で数字が分かれています。独立を決めたら、この区切りも意識しておくとよいと思います。

士業の開業でも創業融資の実績はありますか

V-Spiritsグループは、これまでに712件(2026年6月時点)の創業融資を支援してきました。そのうちコンサルティング分野は51件(7.2%)で、士業・コンサルタントとして独立される方の支援も継続的に行っています。

まとめ

士業の独立開業における自己資金には、制度上の「最低ライン」はありません。よく見かける「総額の10分の1」という数字は、2024年3月に廃止された新創業融資制度の要件が残ったものです。

そのうえで押さえておきたいのは3点です。第一に、自己資金は要件ではないものの審査の重要な判断材料であること。第二に、金額の違いは審査以上に開業後の毎月の返済負担に効くこと(総額600万円のモデルケースでは、自己資金0円と300万円で元金部分に月約3万5,000円の差)。第三に、資格取得や開業準備にかけた自費の支出はみなし自己資金として評価されることがあるため、領収書を保管しておくことです。

自己資金をいくら用意すべきかは、必要資金の総額・立ち上がりまでの期間・これまでの実務経験の組み合わせで変わります。数字を一律に当てはめるより、ご自身の計画で判断するのが確実です。判断に迷う段階でこそ、早めに専門家へご相談ください。

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小峰

この記事を書いた人

小峰精公/Kiyotaka Komine

元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人

多胡藤夫/Fujio Tago

元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

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中野裕哲

中野裕哲/Nakano Hiroaki

税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授

税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。

経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。

【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。

中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。

【主な実績】

  • 起業支援・経営支援の豊富な実績
  • 起業相談件数3,000件以上
  • 資金調達支援1000件以上
  • 大企業Webサイト多数監修
  • 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)

V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。

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