
製造業の海外展開・輸出で補助金は使えるのか|対象になる国内投資と外れる境界線
「現地法人の設立費用や輸送費に補助金が出るなら、輸出に踏み出せるのだが」——海外展開を検討し始めた製造業の経営者から、こうしたご相談をいただくことがあります。ただ、ここで期待の掛け違いが起きやすいのが実情です。海外展開をテーマにした補助金の情報は多い一方で、「自社が払う予定のこの費用は出るのか」という問いに正面から答えたものは多くありません。この記事では、従業員20〜50名規模のメーカーを想定して、補助金が届く投資と届かない投資の線引きを整理します。記載内容は2026年8月時点の情報です。
海外展開の補助金は「海外で使うお金」には届きにくい
最初に押さえておきたいのは、補助金の対象経費として並んでいるものが、基本的に国内の設備とシステムだという点です。
補助対象経費に並んでいるのは、国内の設備とシステム
2026年度から「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」は統合され、正式名称は新事業進出・ものづくり商業サービス補助金になりました。この制度で経費として必ず計上しなければならないのは、機械装置・システム構築費(新事業進出枠では建物費でも可)です。技術導入費・知的財産権等関連経費は各3分の1、外注費は4分の1、専門家経費は5分の1が上限とされ、しかも外注費については主たる内容を外部に投げることは認められていません。
つまり、現地法人の設立にかかる費用、海外への輸送や現地での恒常的な販売コストといった「海外側で発生するお金」は、補助対象経費として列挙されている項目のなかに見当たりません。ここを起点に計画を組むと、そもそも申請の土俵に乗らないことになります。
交付決定の前に払った費用は、対象経費でも認められません
もうひとつ、実務でつまずきやすいのが支払いのタイミングです。国の補助金は、交付決定の前に発注・契約・購入したものを対象外としています。採択の通知が届いただけでは事業を始められない、という点も同じです。
海外展開では、展示会の小間の申し込みや渡航の手配など、締め切りが早く先に押さえたくなる支出が並びます。ここで先に払ってしまうと、費目としては対象でも補助の対象から外れます。補助金は後払いですし、補助率も中小企業者は原則2分の1ですから、自己資金と融資で先に立て替えられる体力があるかを、申請の前に確かめておく必要があります。
使えるのは「輸出のために国内側を作り替える投資」
では何も使えないのかというと、そうではありません。視点を「海外でいくらかかるか」から「海外に売るために、国内で何を作り替えるか」に移すと、対象になる投資が見えてきます。
やりたいことを、国内の投資に翻訳する
- 海外の顧客に合う製品がない → 相手先の仕様・規格に合わせた製品を新たに開発するための設備投資
- 海外から来る量に応えられない → 国内の生産ラインそのものを組み替える設備投資
- そもそも引き合いが来ない → 展示会への出展や、多言語の情報発信といった販路開拓の投資
この翻訳ができているかどうかで、申請できる枠も、書ける事業計画の説得力も変わります。逆に言えば、翻訳先が「海外で使う費用」しかない段階では、補助金より先に運転資金の設計を考えたほうが現実的です。
設備投資が計画の中心にないと、そもそも枠に乗りません
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、機械装置・システム構築費が必須かつ計画の主軸です。単価は10万円(税抜)以上とされ、汎用のパソコンや車両、家賃、建物の単なる購入は対象外です。市場調査や商談だけで組み立てた計画は、この必須要件を満たせません。
従業員20〜50名のメーカーが現実的に見る2つの枠
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金には複数の枠があります。ここでは、海外向けの投資と結びつけやすい2つを取り上げます。上限額はいずれも「最大」であり、従業員規模によって異なります。
革新的新製品・サービス枠|海外向けに製品そのものを開発し直す
自社の技術力を活かして、顧客に新たな価値を提供する新製品・新サービスを開発する取組が対象です。従業員21〜50人の場合、補助上限は1,500万円(大幅賃上げ特例の適用時は2,500万円)、補助下限は100万円、補助率は中小企業者で2分の1です。海外の相手先が求める仕様に合わせて製品を作り直す、といった投資はこの枠の考え方に近いといえます。
ただし、単なる設備・システムの導入、既存製品の生産プロセス改善、同業ですでに相当程度普及している開発は対象外とされています。「輸出するために既存ラインを新しくする」だけの説明では、この対象外の定義に直撃します。
新事業進出枠|海外という新しい市場に向けて事業を立ち上げる
既存事業とは異なる新市場・高付加価値事業への進出を支援する枠です。従業員21〜50人で補助上限は4,000万円(大幅賃上げ特例の適用時は5,000万円)、補助下限は750万円、補助率は中小企業者で2分の1です。この枠だけは建物費を計上できるため、輸出向けの生産棟を増設するような投資も検討の対象に入ります(建物の単なる購入・賃貸は対象外です)。
新規性の基準が「日本初・世界初」ではなく「申請者にとっての新規性」である点は、多くの中小メーカーにとって救いになる部分です。なお、新規設立・創業後1年に満たない事業者は対象外で、最低1期分の決算書が必要とされています。
どちらの枠も、付加価値額を年平均4.0%以上、一人当たり給与支給総額を年平均3.5%以上伸ばし、事業場内最低賃金を地域別最低賃金プラス30円以上の水準にする、といった要件があります。未達の場合は返還を求められるため、申請前に自社の数字で確かめておきたいところです。第1回公募は申請締切が2026年9月30日18時、採択発表は2026年12月頃とされています。
申請前に引いておきたい4つの境界線
1. 「輸出=新市場」はそのままでは通りません
新事業進出枠では、既存事業と同一の市場、既存製品の増産・再製造、単なる製法変更、そして単に商圏が違うだけの取組は「新事業進出」に該当せず対象外と整理されています。既存製品をそのまま海外で売り始める計画は、まさにこの「商圏が違うだけ」に読まれやすい構図です。顧客層や地域を変えることで新しく見せようとする書き方は弱く、新市場性か高付加価値性のどちらかで筋を通す必要があります。
2. 補助下限に届かない投資は、そもそも申請できません
見落とされがちなのが下限額です。新事業進出枠の補助下限は750万円で、補助率2分の1で考えると総事業費で1,500万円規模の投資が前提になります。輸出のための小さな改良では、この下限に届きません。一方、革新的新製品・サービス枠の下限は100万円なので、入口の高さはかなり違います。
3. 小規模事業者持続化補助金は「製造業その他 従業員20人以下」まで
展示会出展や多言語サイトの整備に使いやすいのが小規模事業者持続化補助金です。補助率は3分の2、補助上限は50万円で、インボイス特例や賃金引上げ特例の要件を満たす場合は最大250万円まで上乗せされます。展示会等出展費にはオンラインの展示会・商談会も含まれます。
ただし対象は「製造業その他は常時使用する従業員20人以下」です。従業員20〜50名の会社の多くは、ここで対象から外れます。もっとも、会社役員・個人事業主本人・同居の親族従業員・日雇い等はこの人数に数えないため、名目の人数が20人を少し超える会社でも該当する場合があります。まず自社の数え方を確認してみてください。
該当する場合も、ウェブサイト関連費と広報費はそれぞれ30万円(税込)が上限で、しかもそれだけを単独で申請することはできません。旅費は「販路開拓のための出張に限る」とされており、海外での商談出張が該当するかは公募要領での確認が必要です。第20回公募では、商工会・商工会議所が発行する事業支援計画書(様式4)の受付締切が2026年12月4日、申請締切が2026年12月15日17時とされています。様式4は締切以降の発行依頼が受け付けられないため、窓口には余裕を持って相談してください。
4. 東京都 展示会出展助成事業は、都内の中小企業者に限られます
展示会への出展を後押しする制度として東京都 展示会出展助成事業があります。助成限度額は150万円、助成率は助成対象経費の3分の2以内です。対象は東京都内で実質的に事業を営む中小企業者に限られ、都外の事業者は使えません。
注意したいのは要件の重さです。出展小間料またはEC出店初期登録料のいずれかが必須経費で、資材費・輸送費・販売促進費だけでは申請できません。加えて、所定の無料経営分析を受けたうえで、直近決算期の売上高が1期前より減少している、直近決算期で損失を計上している、所定の証明書を提出できる、のいずれかに該当する必要があります。さらに、試作品のPRや市場調査を主目的とした出展は対象外とされているため、海外展開の初期段階の出展とは相性が悪い場合があります。
よくある質問
海外の認証取得や、現地の代理店に支払う手数料は対象になりますか
いずれも、ここで取り上げた制度の補助対象経費として列挙されている項目には見当たりません。必須経費が機械装置・システム構築費(または建物費)である以上、これらを計画の中心に据えることは難しいとお考えください。個別の費目の可否は、必ず該当する公募要領でご確認ください。
まだ売る製品が決まっていない段階でも申請できますか
難しいのが実情です。革新的新製品・サービス枠は新製品・新サービスの開発が前提であり、新事業進出枠も新市場性か高付加価値性を示す必要があります。市場調査の段階であれば、補助金の申請より先に、何を作るかを固める工程に時間を使うほうが結果的に近道になります。
社内システムの入れ替えも一緒にやりたいのですが
デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)という選択肢もありますが、こちらは事務局に登録されたIT導入支援事業者の支援を受け、登録されたツールを導入することが前提です。新しい事業を立ち上げる投資の文脈では主役になりにくく、海外展開の計画では脇役として位置づけるのが現実的です。
補助金と融資はどちらを先に動かすべきですか
補助金は後払いで、交付決定の前に払った費用は対象外です。設備の発注から入金までの期間は手元資金で立て替えることになるため、資金調達の設計を先に済ませ、そのうえで補助金を組み込む順番が現実的です。
まとめ
海外展開・輸出をテーマにした補助金は、「海外で使うお金」に直接効くものではありません。効くのは、海外に売るために国内側を作り替える投資です。従業員20〜50名のメーカーであれば、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の革新的新製品・サービス枠と新事業進出枠が現実的な検討先になり、小規模事業者持続化補助金は従業員数の要件で外れることが多く、東京都 展示会出展助成事業は都内の事業者に限られます。まずは自社の投資計画を「国内で何を作り替えるか」に翻訳するところから始めてみてください。制度の内容は変更されることがあるため、申請時は必ず最新の公募要領をご確認ください。
【無料相談のご案内】
弊社では、補助金専門行政書士法人V-Spiritsが補助金支援を行っております。元補助金審査員の三浦を中心とした各種専門家チームが全面的にサポートいたします。このケースは補助金の対象になるのか?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。無料相談も行っているので、ぜひいちどご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
三浦高/Takashi Miura
元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者
産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。
融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























