
保育士の独立で使う創業融資と自己資金|申請5ステップと準備の順番
保育士として現場を経験したあと、自分で保育施設やサービスを立ち上げたいと考えたとき、最初に向き合うことになるのが資金の問題です。手元の貯蓄でどこまで賄えるのか、足りない分を創業融資で補えるのか、自己資金は「いくら」用意すれば申し込めるのか。インターネット上には「事業費の3割」「10分の1は必須」といった数字が並んでいますが、現在の日本政策金融公庫の制度は、その説明とは前提が異なります。この記事では、創業前の検討段階にいる保育士の方に向けて、自己資金の準備方法と申請までの手順を、実際に動く順番どおりに整理します。金利などの数字は2026年6月1日現在の情報です。
保育士の独立で必要になる資金と、創業融資の位置づけ
保育施設を開く場合の資金は、大きく設備資金と運転資金に分かれます。設備資金は物件の確保や内装工事、遊具・寝具・調理設備といった備品の購入など、開園前に一度だけ発生する支出です。運転資金は、開園後に在籍する子どもの数が計画どおりに埋まるまでの期間、保育士の人件費や光熱費、給食材料費などを払い続けるための資金です。
保育事業は、開園してすぐに定員が埋まるとは限らず、収入が立ち上がるまでに時間がかかりやすい事業です。そのため、開業前の支出だけを見て自己資金の額を決めてしまうと、開園後の数か月で手元資金が細っていく形になりがちです。自己資金と創業融資の組み合わせを考えるときは、開園後の運転資金まで含めた総額から逆算していきます。
創業融資とは
創業融資とは、主に日本政策金融公庫が提供する、起業時の資金調達を目的とした融資制度のことです。政府系金融機関が提供するため、民間金融機関では対応できないような場合でも積極的に取り組むのが大きな特徴です。無担保・無保証人での借り入れが原則として可能です。審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。融資限度額は最大7,200万円程度(制度による)です。
現在の主力制度は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月までの名称は「新規開業資金」で、2024年4月から現在の名称に改称・拡充されました。無担保・無保証の特例だった「新創業融資制度」は2024年3月に廃止されています。保育の開業情報の中には廃止済みの制度名のまま解説しているものもあるため、制度名を手がかりに情報を集めるときは、その記事がいつ書かれたものかを確認してください。
金利・据置期間・スケジュールの目安
2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなります。
ここでいう「雇用の拡大を図る場合」は対象者の区分ではなく、引下げ幅が0.65%から0.9%に変わる条件にあたります。保育士を採用して施設を運営する形の独立では関わってくる可能性があるため、採用計画も含めて相談してみてください。なお、この引下げは担保の有無によって対象が変わるものではありません。
新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内で、いずれも据置期間は5年以内です。申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間〜1か月程度が目安で、創業計画書や自己資金の資料をそろえる準備期間を含めると、合計で2か月程度を見込んでおくと安全です。物件の契約時期や開園予定日から逆算して動きます。
自己資金の準備方法は「割合」から考えない
制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません
保育の開業情報では「事業費の3割の自己資金が必要」「10分の1は必須」といった説明を見かけますが、現行の創業融資では、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。かつての「新創業融資制度」にあった自己資金10分の1の要件は、その制度自体が2024年3月に廃止されているため、いまの申込みの前提にはなりません。
一方で、自己資金の額が審査の重要な判断材料になることは変わりません。額や割合の決まりはないものの、自己資金が多いほど審査で有利になりやすいという関係にあります。つまり「◯割たまるまで動けない」のではなく、「いま用意できる額を前提に、返済していける計画が立つかどうか」を組み立てていく形になります。
面談の時点で口座に確認できる形にしておく
自己資金は、面談の時点で口座に確認できる形にしておきます。原則として全額を入金した状態です。手元に現金で置いてある分や、家族から「あとで入れてもらう予定」の資金は、その時点では確認ができません。
みなし自己資金になる支出を整理する
創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入・テストマーケティング費用などは、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。領収書を必ず保管しておきましょう。
保育士として独立する方の場合、開業を意識してから自費で受けた研修や資格の取得費用、先に買いそろえた保育用品、開園前に試験的に行った一時預かりやイベント保育にかかった費用などが、この整理の対象になり得ます。通帳から出ていったきりで領収書が残っていないと説明ができないため、開業を考え始めた時点から支出の証跡を残しておくと、後の説明が楽になります。
保育士が創業融資を申し込むまでの5ステップ
ステップ1:事業の形と規模を決める
認可を受ける保育所として運営するのか、認可外の小規模な施設や居宅訪問型のサービスとして始めるのかによって、必要な設備・人員・手続き、そして必要資金の規模が変わります。自治体によって求められる基準や届出の内容が異なるため、資金の話を詰める前に、開園予定地の自治体窓口で、その形態に必要な手続きを確認しておきます。個人事業として始めるか法人を設立するかも、この段階で方向性を決めます(法人設立の登記手続きの詳細は司法書士にご相談ください)。
ステップ2:設備資金と運転資金を分けて総額を出す
見積書や物件の条件をもとに、開園前に出ていく設備資金と、開園後に回していく運転資金を分けて積み上げます。人件費や役員報酬は、事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。保育は人員配置が運営の前提になる事業のため、採用予定の保育士の人件費を何か月分見込むかで必要額が大きく変わります。資金使途はあくまで「事業に必要な支出」であることが前提のため、個別の支出が資金使途として認められるかどうか判断に迷う場合は、申請先や専門家に確認しながら計画を整えてください。
ステップ3:自己資金を説明できる状態にする
ステップ2で出した総額から、自己資金でカバーする部分と融資で調達する部分を分けます。あわせて、通帳の入出金がどういう経緯でその残高になったのかを、自分の言葉で説明できるようにしておきます。みなし自己資金として整理できる支出があれば、領収書をまとめておきます。
ステップ4:創業計画書を作り込む
創業期は営業の実績が乏しいため、計画の説得力が評価の中心になります。定員と想定稼働率、保育料の設定、人員配置、開園からの月別の収支見通しといった数字を、根拠とセットで書いていきます。保育事業は、周辺の子どもの数や競合施設の状況、自治体の保育ニーズの動向によって前提が変わるため、地域の状況を踏まえた説明を用意しておくと、計画の信頼性が上がります。
ステップ5:申込み・面談・融資実行
書類を提出したあと、面談を経て融資実行に進みます。書類提出後の目安は、2026年6月1日現在でおおむね3週間〜1か月です。面談では、創業計画書に書いた数字の根拠と、自己資金の出どころが問われます。物件の賃貸借契約や内装工事の発注時期と融資実行の時期がずれると資金繰りが苦しくなるため、契約を結ぶ前にスケジュールをすり合わせておきます。
申請前チェックリスト
- 開園予定地の自治体で、その事業形態に必要な手続きと基準を確認したか
- 設備資金と運転資金を分けて、開園後の運営費まで含めた総額を出したか
- 自己資金は面談時点で口座に確認できる状態になっているか
- みなし自己資金になり得る支出の領収書を保管しているか
- 創業計画書の数字(定員・稼働率・保育料・人員配置)に根拠を添えられるか
- 保育の実務経験に加えて、運営面をどう担うのかを説明できるか
- 物件契約・工事発注のタイミングと、融資実行の時期を突き合わせたか
- 従業員を雇用する場合の労務手続きについて、社会保険労務士に相談する予定を立てたか
保育士の独立で論点になりやすいこと
希望額どおりに出ないことがあります
創業融資は、申し込んだ金額がそのまま実行されるとは限りません。減額されたときに「自己資金が少なかったからだ」と受け取ってしまいがちですが、実際に見られている観点は別のところにあります。
💬 執筆者の多胡から一言
審査する側にいたころ、返済力が乏しいから機械的に減額する、という運用はしていませんでした。減額を判断するときに見ていたのは、その資金が本当に必要か、他の手段で調達できないか、という二つの観点です。返済の負担は返済期間で調整できますので、収益の中から返済金が出せることを計画で示したうえで、まずは保育事業そのものの組み立てを説明できる状態にしてください。
保育の実務経験と、運営を回す体制は分けて見られます
保育士としての勤務経験は、事業の中身を語るうえで強い材料になります。一方で、シフトの組み立てや収支の管理、集客といった運営面は、現場経験とは別の領域です。ここを補う方法として「同業の知人から定期的に助言を受けている」「経理を業務委託で外部に任せている」といった対策を挙げる方がいますが、経営そのものへの関与としては弱く、有効なカバー策とは言えません。より説得力を持たせるには、事業経験者を役員として迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整えることが有効です。
法人で申し込む場合、決算書が見られることがあります
創業融資は事業として創業した実績がなくても申し込めますが、決算書をまったく見ないわけではありません。新しく設立した会社であっても、一期でも決算が締まっていれば、その決算書が確認されます。また、代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。すでに決算が済んでいる会社がある場合は、その内容も踏まえて説明できるように整理しておくと安心です。
よくある質問
Q. 自己資金は面談時点で全額入金しておくべきですか
A. はい、原則として面談時点で口座に確認できる形にしておきます。
Q. 一度審査に落ちると、次回の審査に影響しますか?
A. 日本政策金融公庫は個人信用情報機関に加盟していますが、審査に落ちたこと自体が信用情報公庫内には審査に落ちた記録が残ります。そのため次の審査では、落ちたことを考慮に入れた形になるため、慎重に扱われる可能性があります。
Q. 否決された直後にすぐ再申請してもよいですか?
A. 原因を潰さずに再申請しても、結果は変わりません。自己資金不足、事業計画の説得力不足、業界未経験への対策不足など、否決の理由を具体的に特定し、そこを改善したうえで再申請することが必要です。
まとめ
保育士の独立で創業融資を使うとき、出発点になるのは「自己資金を何割ためるか」ではありません。現行の制度に自己資金の額・割合の要件はなく、いま用意できる額を前提に、開園後の運転資金まで含めた総額を組み立て、返済していける計画を示せるかどうかが問われます。あわせて、開業前に自費で支出した資格取得費や保育用品の購入費が、みなし自己資金として一定範囲で評価されることがある点も、準備の材料になります。
準備の順番は、事業の形を決める、設備資金と運転資金を分けて総額を出す、自己資金を口座で説明できる形にする、創業計画書を作り込む、申込みから融資実行までのスケジュールを物件契約や工事の時期と合わせる、という流れです。書類提出後はおおむね3週間〜1か月、準備を含めると2か月程度を見込みます。ここで挙げた数字はいずれも2026年6月1日現在の情報です。制度や金利は変わることがあるため、申込みの前に日本政策金融公庫の公式情報で最新の条件をご確認ください。
【無料相談のご案内】
融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























