
金属加工・機械加工の独立開業で、創業融資と設備投資計画をどう組み立てるか
勤めていた加工会社から独立するとき、いちばん先に決まらないのが設備です。旋盤やマシニングセンタを自社で持つのか、しばらくは持たずに始めるのか。ここが決まらないと必要な資金の総額が出ず、総額が出ないと創業融資の申込内容も固まりません。
ところが「金属加工 独立 融資」で検索して出てくる記事の多くは、補助金の一覧か、業種を問わない創業融資の一般解説です。工作機械という高額で据え付けの要る設備が資金計画の中心を占める、という金属加工固有の事情に踏み込んだものは多くありません。この記事では、独立の型を2つに分けたうえで、それぞれ設備投資計画と資金使途がどう変わるのかを整理します。数字は2026年8月時点で公表されている情報にもとづいています。
設備投資計画は「工作機械を自社で持つか」で二分します
金属加工・機械加工の独立は、大きく次の2つの型に分かれます。どちらが正しいという話ではなく、どちらを選ぶかで借りる金額の内訳と返済の組み方が変わるという点が計画づくりの起点になります。
- 型A:自社で工場を構え、工作機械を自社で持つ。設備資金の比重が大きくなり、初期の借入額が膨らむ一方、加工の内製率が上がって単価も自社で決めやすくなります
- 型B:機械を持たずに始める。協力工場への外注、レンタル工場やシェア工場の利用、設計・段取りの受託などから入る形です。設備資金は小さくなり、代わりに外注加工費や材料仕入といった運転資金の比重が上がります
判断材料になるのは、独立時点で見えている受注の中身です。同じ加工を継続して受けられる見込みがあるのか、材質や精度が案件ごとにばらつくのか。ここが計画書の説得力に直結します。以下、型ごとに資金使途の組み立てを見ていきます。
型A:機械を自社で持つ場合の資金使途の組み立て
見積は「機械本体の価格」だけでは足りません
設備資金の申込内容は、見積書に出ている費目でしか組めません。工作機械は本体を買えば動くものではないため、次のような費用が本体価格とは別に発生します。
- 搬入・搬入経路の養生・クレーンやフォークリフトの手配
- 据付、レベル出し、アンカー打ち、必要に応じた基礎工事
- 動力の引き込み・分電盤の増設などの電気工事
- 集塵機、切削油まわり、エアコンプレッサなどの周辺設備
- チャック・治具・工具ホルダ・測定器といった、機械と組で必要になる備品
- CAD/CAMや工程管理まわりのソフトウェア
これらが見積に出ていないと、申込時の資金使途の内訳にも書けません。足りない分をあとから追加で借りる場合は、改めて審査を受けることになります。設備の仕様を固めてから見積を取り、そのうえで申し込むという順番を崩さないでください。仕様が固まらないと見積が出ず、見積が出ないと申込が進まないため、この「仕様確定から見積取得まで」の区間を、準備期間の手前に見込んでおく必要があります。
設備資金と運転資金は最長の返済期間が違います
資金使途を設備と運転に分けるのは、書類の体裁の問題ではありません。返済条件そのものが変わります。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例では、次のとおりです。
- 設備資金:返済期間20年以内、据置期間5年以内
- 運転資金:返済期間は原則10年以内、据置期間5年以内
- 融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)
長く使う工作機械は、長い期間で返せる設備資金として組むほうが月々の負担は軽くなります。逆に、手元資金を機械の頭金に使い切ってしまうと、あとから必要になる材料仕入や外注費を原則10年以内の運転資金で借りることになり、返済のペースが重くなります。設備と運転の配分は、返済期間の違いを踏まえて決めてください。
中古機械とリースをどう扱うか
初期投資を抑えるために中古機を選ぶ、あるいはリースを使うという選択肢もあります。中古機を設備資金に含める場合も、金額の根拠となる見積書が必要になる点は新品と変わりません。
リースには初期費用を抑えられるメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。
- 連帯保証人が必要になる
- 機器の所有権が持てない
- 契約期間中の中途解約が難しい
- 故障時の修理負担が借主側になる契約が多い
加工機は稼働年数が長く、償却が終わったあとも使い続ける前提の設備です。所有権を持てるかどうかが後々効いてくるため、賃貸借費用の負担も含めて、税理士や金融機関に相談しながら判断してください。
型B:機械を持たずに始める場合の設備投資計画
受注が固まりきっていない段階では、協力工場への外注やレンタル工場の利用から入る型もあります。この型では設備資金が小さくなるぶん、計画の重心が運転資金側に移ります。
運転資金として計上するのは、外注加工費、材料の仕入、人件費などです。法人の場合、代表者への役員報酬は事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。資金使途はあくまで事業に必要な支出であることが前提のため、個別の支出が資金使途として認められるかどうか判断に迷う場合は、申請先や専門家に確認しながら計画を整えるとよいでしょう。
この型で意識したいのが据置期間の使い方です。元金返済の据置は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いになります。受注が安定するまでの立ち上がり期間と据置期間を重ねておくと、初期のキャッシュフローに余裕が生まれます。
もう1点、型Bで始めて後から自社設備を持つ場合、その設備資金は改めて申し込むことになります。最初の計画書のなかで「どの段階で内製化に進むのか」という道筋を書いておくと、次に相談するときの説明がつながります。
💬 執筆者の小峰から一言
よく聞かれるのが「独立前に自分で買った測定器や工具は、自己資金として見てもらえますか」という質問です。創業前に自費で取得した資格や、購入した設備・備品の費用は、みなし自己資金として一定の範囲で評価されることがあります。判断は個別の状況によりますので、購入時の領収書は分けて保管しておいてください。
どちらの型でも共通して見られること
型が決まったら、次は審査の共通項を押さえます。ここは型Aでも型Bでも変わりません。
審査の判断材料
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。判断材料はこの2つに限られるわけではなく、経験や資金使途、面談の内容も含めて総合的に見られます。
また、創業融資だからといって決算書をまったく見ないわけではありません。新しく設立した会社であっても、一期でも決算が締まっていればその決算書が確認されます。代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。
自己資金の考え方
制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。旧「新創業融資制度」にあった10分の1要件のような固定の条件は、現行制度にはありません。ただし自己資金の額は審査の重要な判断材料になるため、面談の時点で口座に確認できる形にしておいてください。
法人で始める場合の扱い
すでに個人事業として加工を請け負っていて、それをそのまま法人化する「法人成り」の場合は、原則として創業融資の対象外となり、通常の融資の扱いになります。一方、個人事業とは別の新しい事業を行う法人を新たに設立する場合は、その新法人にとっては創業にあたるため、創業融資を利用できます。設立の登記手続きは司法書士、税務の取り扱いは税理士にご相談ください。
金利とスケジュール
2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。担保を提供する場合は年2.50〜4.80%と水準が変わります。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。この引下げは担保の有無によって対象が変わるものではありません。
申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間から1か月が目安です。創業計画書や見積書などの準備期間を含めると、合計で2か月程度を見ておくと安全です。機械の納期や工場の引き渡し時期から逆算して、支払期日の2か月以上前には着手してください。
まとめ
金属加工・機械加工の独立で設備投資計画を組むときは、次の順で考えると迷いません。
- 工作機械を自社で持つ型か、持たずに始める型かを先に決める
- 型Aなら、機械本体だけでなく搬入・据付・電気工事・治具・測定器まで含めた見積を取り、設備資金と運転資金に分けて申し込む
- 型Bなら、外注加工費や材料仕入を運転資金として組み、据置期間を立ち上がり期間に重ねる
- どちらの型でも、事業計画書と自己資金などが判断材料になり、決算書がある場合は確認の対象になる
本記事の数字は2026年8月時点で公表されている情報にもとづいています。制度や金利は変わりやすいため、申し込みの際は日本政策金融公庫など申請先の最新情報をご確認ください。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























