
製造業の創業融資、審査で説明が要る5つの論点を一問一答で整理
工場で長く現場を担ってきた方が独立するとき、創業融資の準備で止まりやすいのは書式の埋め方ではありません。機械の見積は取れているのに、その機械で何を作り、誰に売り、いくら入ってくるのかを、まだ数字にできていない段階で申込書に向かってしまうことです。
製造業の創業融資は、飲食店や小売店とくらべて設備資金の比率が高く、開業してから最初の入金までの距離も長くなります。そのぶん、審査で説明を求められる場所も他業種とは少しずれます。この記事では、これから工場や作業場を持つ方から実際に多く寄せられる5つの問いに、日本政策金融公庫の制度内容にもとづいて答えます。制度の数字は執筆時点のもので、公式サイトで最新の情報をご確認ください。
Q1. 受注の見込みは、どこまで固まっていれば説明になりますか
製造業の売上は、店を開ければ人が来るという形では立ちません。相手先があって初めて数字になるため、事業計画書の売上根拠も「見込み客が何人」ではなく「どの相手と、どの段階まで話が進んでいるか」で読まれます。
ここで意識したいのが、受注の確度には段階があるという点です。名刺交換や引き合いの打診、試作の依頼、見積の提出、内示、単価表や基本契約の締結と、相手との距離は少しずつ縮まります。同じ「受注見込みあり」でも、引き合いの段階と単価表が出ている段階では、計画書の重みがまったく違います。
創業前の段階で契約書がそろっていることは多くありません。そのため、いま自分がどの段階にいるのかを正直に区切って書き、段階ごとに金額を分けて示すほうが説明として通ります。単価表のある取引は堅めに、引き合いだけの相手は保守的に見積もる。この作り分けが、数字の根拠として伝わります。
Q2. 勤務先での経験は「実績」として評価されますか
創業融資の審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。ここで問われているのは「本人が事業として創業した経験の有無」であって、技術や業務の経験そのものが否定されるわけではありません。工場での加工経験、工程管理、品質保証の経験は、計画の実現可能性を支える材料として書く価値があります。
一方で、経験のない領域に踏み出す場合の補い方には向き不向きがあります。「同業のメンターから定期的に助言を受けている」「経理や専門技術を業務委託でプロに任せている」といった対策は、経営そのものへの関与としては弱く、有効なカバー策とは言えません。事業経験者を役員として迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整えるほうが説得力を持ちます。
前職の経験を書くときは、勤続年数だけでなく、担当していた工程・扱っていた材質や機械・関わった取引先の業界を具体的に添えると、独立後の事業とのつながりが読み取りやすくなります。
Q3. 新しく設立した会社なので決算書がありません。不利になりますか
ここは誤解が広がっている部分です。創業融資は事業として創業した実績がなくても申し込めますが、決算書をまったく見ないわけではありません。新しく設立した会社であっても、一期でも決算が締まっていれば、その決算書が確認されます。また、代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。
製造業では、独立にあたって法人を先に設立し、設備の手配や取引先への挨拶回りを進めてから融資に動くケースがよくあります。この順番だと、申込の時点で一期目の決算が締まっていることがあります。設立から日が浅いという理由だけで決算書を用意しないでいると、審査の途中で改めて求められることになります。
決算内容と審査結果を直接結びつける説明はできませんが、すでに決算が済んでいる会社がある場合は、その内容も踏まえて説明できるように整理しておくと話が早く進みます。判断は個別の状況によって変わるため、詳細は申請先や専門家にご確認ください。
Q4. 独立前に自分で買った工具や試作の費用は、自己資金として見てもらえますか
まず前提として、公庫の創業融資では自己資金の額が審査の重要な判断材料になりますが、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。かつての新創業融資制度にあった自己資金10分の1のような固定要件は、現行制度にはないためです。額や割合の決まりはないものの、自己資金が多いほど審査で有利になりやすい、という関係で考えます。
そのうえで、製造業の方に効いてくるのが「みなし自己資金」の考え方です。創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入・テストマーケティング費用などは、一定範囲で自己資金として評価されることがあります。独立を決めてから買った測定器や工具、試作品を作るために自費で流した材料費、展示会に自費で出したときの費用などが、これに当たり得ます。
ただし、評価の前提になるのは記録です。領収書を保管しておくこと、そして自己資金は面談時点で口座に確認できる形にしておくこと。この2つが揃っていない支出は、実際に払っていても説明の材料になりません。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
審査する側にいた経験から言うと、返済力が乏しいから減額する、ということはありません。返済は返済期間で調整する話で、まず事業として成り立っているかを見ています。そのうえで製造業は、機械の生産能力から「この投資でどれだけ作れて、いくらの売上になるか」を数字で示しやすい業種です。店舗や小売より効果を書きやすい立場にいる、と考えてよいと思います。
Q5. 金利の引下げや据置期間は、どこまで当てにしてよいですか
数字の前提から整理します。2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、下がる前提で計画を組まず申請先で確認してください。この引下げは担保の有無によって対象が変わるものではありません。
この数字を先に置いたのには理由があります。融資を紹介する記事では「固定金利 年2〜3%台」という表現を見かけますが、これは古い、または概算の目安です。古い数字のまま返済シミュレーションを組むと、機械の返済負担を実際より軽く見積もったまま申込額を決めてしまいます。利率は担保の有無や税務申告の状況によっても変わるため、日付の入った基準利率を使ってください。
元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなります。新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の返済期間は、設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、制度により異なります。
製造業の場合、機械を据え付けてから量産の立ち上げが安定するまでに時間がかかることが多く、据置期間の設定が資金繰りの余裕に直結します。返済期間と据置期間は、機械の稼働が売上に変わるまでの期間から逆算して申込先と相談する項目です。
まとめ
製造業の創業融資で説明を求められるのは、受注の確度、前職の経験と体制、決算書の有無、自己資金として認められる支出、そして返済条件の前提という5か所です。いずれも書式の埋め方ではなく、独立前にどこまで準備が進んでいるかが表に出る場所と言い換えられます。
逆に言えば、申込書に向かう前にこの5点を自分の言葉で説明できる状態になっていれば、計画書の作成そのものは進めやすくなります。個別の事情によって見え方は変わるため、判断に迷う場合は見積書と手元の資料を持って専門家にご相談ください。ここで挙げた制度の数字は執筆時点のもので、金利や制度の内容は変更されることがあるため、申請前に日本政策金融公庫の公式情報でご確認ください。
【無料相談のご案内】
融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























