
別法人で出店するときの融資は、どの会社が借りるかで変わります
いま1店舗を運営していて、次の店は新しく設立した会社で出そうと考えている。その段階で調べ始めると、検索結果に並ぶのは個人事業をそのまま法人化する「法人成り」の解説か、会社設立のときに使える融資制度の一覧です。どちらも隣の話をしていて、いちばん知りたいところ、つまり別の法人を立てて出店したときに金融機関がその2つの会社をどう見るのかには、正面から答えていません。
ここでは日本政策金融公庫の公開情報と制度上の枠組みをもとに、別法人での出店に融資がどう当てはまるのかを整理します。制度と数字は変わりますので、本文は執筆時点(2026年9月)の内容としてお読みください。
別法人での出店は「法人成り」とは別の枠に入ります
まず、よく似た2つの言葉を分けます。個人事業主がいま営んでいる事業をそのまま法人化するのが法人成りです。この場合はすでに事業実績があるとみなされるため、原則として創業融資の対象外で、通常の融資の扱いになります。
一方、いま営んでいる事業とは別の、新しい事業を行う法人を新たに設立する場合は、その新法人にとっては創業にあたります。つまり創業融資を使うことができます。同じ「法人をつくる」という行為でも、当てはまる制度の枠が違うわけです。
ここで判断が分かれるのが、2店舗目が「別の事業」なのか「同じ事業の拡大」なのかという点です。同業態の2号店を既存の会社で出すのであれば、既存事業の設備投資として通常の融資で組み立てることになります。業態や事業内容が変わり、それを担う法人を新しく立てるのであれば、その法人は創業の側に立ちます。どちらに当たるかは事業の実情によって変わりますので、法人を設立する前に申込先へ相談しておくと、話が早く進みます。
資本金そのものは融資では用意できません
別法人での出店を考えるときに順序として先に来るのが、資本金の扱いです。公庫は融資に関するよくある質問のなかで、資本金の払い込みに使う資金について次のように説明しています。
日本政策金融公庫 国民生活事業は事業資金(店舗、機械などの設備資金、人件費や仕入などの運転資金)を融資する機関ですので、資本金の払い込みに使う資金については対象外となります。したがいまして、法人を設立して創業する場合は、設立登記後の法人がご融資の対象となります。
読み取れることは2つあります。1つは、新しい会社の資本金は自前で用意するものであり、そこを融資で埋める組み立てはできないこと。もう1つは、融資の相手方になるのは設立登記が済んだあとの法人だということです。出店の日程から逆算するときは、設立登記に要する期間を工程に入れておく必要があります。設立手続きそのものは司法書士の業務範囲ですので、日程の詰め方は専門家に確認してください。
別法人にしても、代表者が経営する会社の決算書は見られます
新しく設立した法人には営業実績がありません。ただし、それは「申込法人の書類だけで話が完結する」という意味ではありません。
創業融資だからといって、決算書をまったく見ないわけではないからです。新しく設立した会社であっても、一期でも決算が締まっていれば、その決算書が確認されます。そして、代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。別法人で出店するというのは、まさにこの2つ目に当たる状況です。
すでに運営している会社に決算書または試算表があるのであれば、それは実在する評価材料です。計画どおりに推移していれば、新しい計画の実現可能性を裏づける材料になります。逆に赤字や計画との乖離が続いていれば、その理由の説明を求められます。実績は両方向に効く材料ですので、既存の会社の数字は隠す対象ではなく、新法人の計画とあわせて説明する材料として整理しておくことになります。
💬 執筆者の小峰から一言
別の会社で出せば一度断られた話は仕切り直しになるのか、と聞かれることがあります。分かれ目は記録がどこに残るかです。断られた事実そのものは信用情報機関には登録されません。ただし公庫の内部には審査に落ちた記録が残り、次回はその経緯を踏まえて慎重に扱われることがあります。代表者が同じであれば、続きとして受け取られる前提で臨むほうが話が早いです。
「別法人にすれば有利になる」の置きどころ
別法人を立てる動機として、そのほうが融資で有利になるのではないか、という期待が語られることがあります。この点について公庫は、個人での創業と法人での創業の違いを問われた質問に、次のように答えています。
融資申込について、個人と法人とで大きな違いは特にありません(法人で申し込む際には履歴事項全部証明書または登記簿謄本が必要になるくらいです)。融資を受けるうえでどちらが有利ということはありません。
器の形を変えることで通り方が変わる、という設計にはなっていないということです。別法人にするかどうかは、事業の切り分け方や運営体制の問題として決めるものであり、融資の通りやすさを動かす手段として選ぶものではありません。税務上の扱いについては税理士の業務範囲になりますので、そちらは専門家に確認してください。
見られる項目は、別法人でも同じです
では何が見られるのか。日本政策金融公庫の創業計画書の記載欄に対応させると、審査では斯業経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。別の法人を立てたからといって、この並びが入れ替わるわけではありません。
自己資金については、制度上、額や割合の要件は決まっていません。公庫は自己資金の目安について、融資先の創業企業を対象とした新規開業実態調査の結果として、創業資金総額に占める自己資金の割合は平均で2割程度と説明しています。これは要件ではなく実績の平均値ですので、この割合を満たせば通るという読み方はできません。
資金使途と調達額の整合という点では、別法人での出店には固有の整理が必要になります。新法人が借りる設備資金と運転資金、既存の会社がすでに返している借入、そして資本金として自前で入れる資金。この3つが混ざったまま計画を出すと、どの資金がどの会社の何に使われるのかが読み取りにくくなります。会社ごとに分けて並べておくことが、そのまま説明の準備になります。
利率や返済の条件は、申込者が選ぶものではありません
制度上の枠として、元金返済の据置期間は5年以内の範囲で認められることがあり、据置中は利息のみの支払いとなります。ただし、適用される利率も据置期間も返済期間も、審査のうえ金融機関が決定するものです。希望を申込のときに伝えることはできますが、こちらで選んで決められるものではありません。新法人と既存の会社で条件が揃うとも限りませんので、2社分をまとめた資金繰りは、条件が確定してから引き直すことになります。
まとめ
別法人で出店するときに最初に決めるのは、どの会社が借りるかです。既存の会社で出すのか、新しく設立した法人で出すのかによって、当てはまる制度の枠が変わります。新法人で進めるのであれば、資本金は自前で用意し、設立登記を済ませてから申込に入る順序になります。
手を動かす順番としては、まず2店舗目が別の事業なのか同じ事業の拡大なのかを言葉にすること。次に、既存の会社の直近の決算書または試算表を手元に出し、新法人の計画とあわせて説明できる形に並べること。そのうえで、法人を設立する前の段階で申込先に相談し、どちらの枠で組むのかを確かめることです。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
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- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























