
開業資金の調達内訳を決める手順|自己資金と借入の割合は返済額から逆算
開業資金の総額は見積もれたものの、自己資金・借入・補助金をそれぞれいくらにするかで手が止まっている方は多いのではないでしょうか。「自己資金は総額の何割」という目安は記事ごとに幅があり、どれを信じてよいか迷います。
この記事では、目安の数字をなぞるのではなく、毎月の返済額と手元に残す資金から自分の割合を決める手順を、仮の数字を使って紹介します。制度の数字は2026年9月1日現在のものです。執筆時点(2026年10月)の情報で、制度・金利は変わるため、最新は日本政策金融公庫の公式情報で確認してください。
自己資金・借入・補助金、それぞれの役割を整理する
調達の出どころは大きく3つあります。性質が違うので、まず役割を分けて考えます。
自己資金は審査で見られる材料の一つ
日本政策金融公庫の創業融資では、自己資金の額は審査の重要な判断材料になります。一方で、制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。旧「新創業融資制度」にあった自己資金の固定要件は、制度の廃止とともになくなっています。
自己資金は、面談の時点で口座に確認できる形にしておきます。創業前に自費で取得した資格や設備、テストマーケティング費用などは、一定範囲でみなし自己資金として評価されることがあるため、領収書を保管しておいてください。
借入は返済を前提にした資金
創業期に使いやすい代表的な制度が、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。融資限度額は制度上の枠で、返済期間は設備資金で20年以内、運転資金で10年以内、元金返済の据置は5年以内とされています。ただし、これらは上限の枠です。実際に適用される利率・返済期間・据置期間は、審査のうえ金融機関が決定するもので、申込者が選べるものではありません。
補助金は原則後払い
補助金は、制度ごとに条件は異なりますが、原則として事業を実施して費用を支払ったあとに入金される後払いです。開業時にまとまった現金が入るものではないため、調達内訳での扱いには注意が必要です。この点は後半で詳しく触れます。
「自己資金は何割」の目安が記事ごとに違う理由
調べていくと、自己資金の目安として総額の何割という数字が紹介されていますが、記事によって幅があります。出典を示さない記事も多く、根拠をたどれないのが実情です。
数字が分かれる背景には、事業の種類や総額、借りる人の返済力が人によって違うことがあります。制度に割合の決まりがない以上、万人に当てはまる割合は存在しません。審査では、同じ業種での勤務経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。自己資金の割合そのものよりも、自己資金をどう貯めたかという形成過程と、借りた分を返せる計画かどうかが問われます。
そこで、他人の目安を借りるのではなく、自分の返済負担から割合を決める方法に切り替えます。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
「自己資金10万円でも要件がないから1,000万円借りられるのでは」という質問には、10万円で1,000万円は無理でしょうね、とお答えしています。要件がなくなっても、生活できるのか、事業計画の内容はどうかを、トータルで見るからです(2025年11月時点の私の見解で、公庫の公式基準ではありません)。
割合の決め方は4ステップ
数字を並べる前に、考える順番を固定します。
ステップ1 総額を設備資金と運転資金に分ける
見積もった総額を、店舗の内装や機器などの設備資金と、仕入れや人件費などの運転資金に分けます。融資では返済期間の枠が設備資金と運転資金で違うため、この区分が後の返済額の計算に効いてきます。
ステップ2 開業後に手元へ残す資金を先に決める
調達した資金を全部使い切る計画にすると、売上が立ち上がるまでの支払いに回す現金がなくなります。運転資金に使う分を調達額の中に確保しておき、内訳の中で手元に残す額を先に決めてください。
ステップ3 月の返済額から借入額の上限を逆算する
借入額は、毎月無理なく返せる金額から逆算します。ここが、目安に頼らず割合を決めるいちばん大事な工程です。
以下は、仮の数字による計算例です。実際の利率や返済期間は金融機関が決めるため、あくまで考え方の練習として見てください。
- 開業資金の総額:1,000万円(仮)
- 開業後の見込みから、毎月の返済に回せる額:5万円(仮)
- 返済期間:7年=84か月(仮)
利息を除いた元金だけで考えると、借りられる額の上限の目安は「5万円×84か月=420万円」です。実際は利息がかかるため、借入額はこれより小さくなります。残りの580万円を自己資金などで用意する計算になります。
同じ前提で、毎月の返済額を3万円にすれば252万円、7万円にすれば588万円が元金の目安です。毎月の返済額が決まれば、借入の割合はおのずと決まります。
ステップ4 残りを自己資金と補助金で埋め、内訳表にする
借入額の上限が出たら、足りない分を自己資金で埋めます。ここで自己資金が足りないと分かれば、総額を見直すか、開業時期を後ろにずらして自己資金を貯めるかを選ぶことになります。結果は、次のような表にまとめておくと整理しやすくなります。
| 使い道 | 金額 | 調達元 | 入金の時期 |
|---|---|---|---|
| 内装・設備など | (自分の数字) | 借入/自己資金 | 契約・支払いの前 |
| 運転資金 | (自分の数字) | 借入/自己資金 | 開業後の各月 |
| 補助金で賄う分 | (自分の数字) | 補助金 | 事業実施のあと |
この表は、審査で見られる資金使途と調達額の整合を示す土台にもなります。
借入を増やすと返済負担はどう変わるか
借入の割合を上げるほど、毎月の返済額は増えます。返済期間を長くすれば毎月の負担は下がりますが、その期間を決めるのは金融機関です。希望は申込時に伝えられますが、希望どおりになるとは限りません。
金利も負担に響きます。2026年9月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.75〜5.35%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申込先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内の範囲で認められることがあり、据置中は利息のみの支払いとなります。
以上から、内訳を試算するときは、利率や期間が1つに決まる前提を置かず、複数の条件で毎月の返済額を出しておくのが安全です。借入額を決めたつもりでも、実際の条件が違えば返済額も変わります。
補助金は後払い。調達内訳に入れる時期に注意する
補助金は原則後払いのため、事業に必要な費用は、先に自分で支払う必要があります。たとえば設備の代金を契約時に支払う場合、補助金が入金されるのはその後です。入金までの間の支払いは、自己資金か借入で手当てしなければなりません。
そのため、内訳表では補助金の列に入金の時期を分けて書き、補助金が入る前提で自己資金や借入を減らさないことが大切です。補助金は、制度ごとに対象となる経費や申請の条件が決まっています。調達の予定に入れるときは、公募要領で条件を確認してください。
親族からの借入や出資を内訳に加える場合は、税務上の扱いが関わるため、税理士に確認してください。
よくある質問
Q. 自己資金は総額の何割あればよいですか。
A. 制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。自己資金が多いほど審査で有利になりやすいものの、割合だけで決まるわけではありません。毎月の返済額から借入の上限を出し、残りを自己資金で用意する形で自分の割合を決めてください。
Q. 自己資金が少ないとき、借入を増やせば足りますか。
A. 借入を増やすと、毎月の返済額も増えます。審査では、資金使途と調達額の整合や事業計画の具体性なども見られます。返済額の計算で無理がないかを先に確かめてください。
Q. 据置期間や返済期間は自分で選べますか。
A. 選べません。制度上の上限は枠として示されていますが、適用される内容は審査のうえ金融機関が決定します。
Q. 補助金が受けられるなら、その分だけ借入を減らしてよいですか。
A. 補助金は原則後払いのため、入金までの支払いは別に用意する必要があります。入金の時期を内訳表に書き込み、その間をどう賄うかを決めてから借入額を見直してください。
まとめ 次にやること
割合は、他人の目安ではなく、自分の返済負担から決めます。まず総額を設備資金と運転資金に分け、手元に残す資金を決め、月の返済額から借入額の上限を出します。その残りを自己資金で埋め、補助金は入金の時期を分けて内訳表にまとめてください。
表ができたら、複数の返済条件で毎月の返済額を試算し、無理のない範囲かを確認します。そのうえで、申込を考えている先に内訳表を持って相談してみてください。制度や金利は変わるため、最新の数字は日本政策金融公庫の公式情報で確認をお願いします。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























