
ゲーム開発会社の設立で陥りやすい資金繰りの失敗パターンと創業融資の使い方
ゲーム開発会社の資金繰りはなぜ行き詰まるのか|創業融資で備える考え方
ゲーム開発会社の資金繰りについて検索すると、開発費に数千万円をかけて資金難に陥った例や、倒産を免れた経営者の体験談が数多く見つかります。ただ、その多くは特定の会社・特定の予算規模での出来事であり、そのまま自分の状況に当てはめられるとは限りません。この記事では個別の事例ではなく、ゲーム開発会社に共通する資金繰りの構造と、創業融資をどう組み合わせて備えるかを整理します。
受託開発と自社IP開発では、資金繰りの崩れ方が違う
ゲーム開発会社の収益モデルは、大きく分けると「受託開発」と「自社IP開発」の2つがあります。この2つは、お金の入り方がまったく違うため、資金繰りで気をつける点も変わってきます。
受託開発:案件ベースで収入が入る
受託開発は、クライアントから開発を請け負い、工程の進捗や納品に応じて対価を受け取るモデルです。案件が継続していれば収入が途切れにくい一方で、入金は契約条件によって数週間から数か月単位で後ろにずれます。案件の切り替え時期に手持ちの案件が薄くなると、その間の人件費や固定費は先に出ていくため、受託だからといって資金繰りが安定するとは限りません。
自社IP開発:完成まで収入が発生しない期間が長い
自社IP開発は、自社で企画したタイトルを開発し、リリース後の販売やダウンロード収益で回収するモデルです。開発期間中は人件費・外注費・ツール利用料などの支出だけが先に発生し、収入はリリース以降にしか入ってきません。開発が当初の想定より長引くほど、無収入の期間も比例して延びるため、開発規模を決める段階で「収入が入るまでに何か月分の支出を用意しておくか」を見積もっておく必要があります。
受託開発と自社IP開発の両方を手がける会社では、受託の収入を自社IP開発の原資として組み込むケースもあります。この組み方自体は珍しくありませんが、受託案件が途切れたときの代わりの資金源を用意していないと、両方の収入が同時に細る場面に対応できなくなります。
開発が長期化すると資金が尽きる、典型的な流れ
個別の会社の体験談をそのまま参考にするのではなく、構造として共通する落とし穴を一般化すると、次のようなパターンが挙げられます。
- 開発着手の時点で、無収入の状態にどれだけ耐えられるかを金額として見積もっていない
- 受託の入金サイクルと、開発中に毎月出ていく人件費・外注費のタイミングのズレを織り込んでいない
- 受託収入を自社IP開発の原資に充てる計画を立てながら、受託案件が途切れた場合の代わりの資金源を用意していない
- 開発期間が延びた際に、追加でいくら・いつまで持ちこたえる必要があるかを都度計算し直していない
これらはいずれも、開発の技術的な失敗ではなく、資金の入り方と出方のタイミングを事前に数字で組んでいなかったことが起点になっています。事業計画の段階で、受託開発と自社IP開発それぞれの入金タイミングを分けて洗い出し、月次でどれだけの支出が先行するかを整理しておくことが、この種のパターンを避ける出発点になります。
💬 執筆者の小峰から一言
信用金庫で融資を出す側にいた立場から見ると、受託開発か自社IP開発かで、資金繰りのどこを先に整理すべきかが変わります。まず収入が入るまでの期間が長いほうの支出を洗い出し、次に運転資金としていくら必要かを計算し、最後に自己資金で裏付けられる範囲を確認するという順番で進めると、書類提出後おおむね3週間〜1か月、準備を含めると合計2か月程度という審査の流れに合わせやすくなります。
創業融資で資金繰りをどこまで補えるか
ゲーム開発会社の設立時に選択肢となるのが、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月に「新創業融資制度」が廃止された後の主制度で、融資限度額は7,200万円、このうち運転資金は4,800万円までとされています。開発規模の大きいタイトルを抱える場合でも、設備資金と運転資金を分けて必要額を積み上げれば、資金使途の説明を組み立てやすくなります。
運転資金として認められる範囲は「事業に必要な支出」であることが前提です。開発チームの人件費や役員報酬は、事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。個別の支出が対象になるかどうか判断に迷う場合は、申込先や専門家に確認しながら計画を整えることになります。
2026年9月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.75〜5.35%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がるとは限らず、申込先での確認が前提になります。元金返済の据置期間は5年以内の範囲で認められることがあり、据置中は利息のみの支払いとなります。適用される利率や据置期間は、審査のうえ金融機関が決定するものであり、申込む側が選んで決められるものではありません。
申込から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間〜1か月程度が目安です。創業計画書・自己資金のエビデンス・見積書などの準備を含めると、申込準備に1か月、審査・実行に1か月、合計2か月程度を見込んでおくと、開発スケジュールとのズレを小さくできます。
法人成りと創業融資の関係
個人でゲーム開発を続けてきた方が、同じ事業をそのまま法人化する「法人成り」の場合、創業融資は原則として対象外になり、通常の融資として扱われます。既に事業の実績があるとみなされるためです。
一方で、個人事業として営んできた事業とは別に、新しいタイトル開発や新しい事業領域を担う法人を新たに設立する場合は、その新しい法人にとっては創業にあたるため、創業融資を利用できます。個人での受託開発の実績を持つ方が、自社IP開発に専念する新会社を別に立ち上げるようなケースがこれにあたります。どちらの形で法人を設立するかによって、使える融資制度の範囲が変わるため、設立の形態を決める段階でこの違いを踏まえておくと、資金調達の選択肢を狭めずに済みます。
まとめ:資金繰りの構造を数字に落としてから動く
ゲーム開発会社の資金繰りは、受託開発と自社IP開発のどちらに軸足を置くかで、注意すべきタイミングが変わります。受託であれば入金サイクルと支出のズレ、自社IP開発であれば無収入期間の長さが、資金繰りを崩す起点になります。事業計画書には、売上・原価・人件費の根拠と、それをどの資金でどこまで賄うのかという返済原資の考え方を、数字の出どころまで書き込んでおく必要があります。
そのうえで、運転資金として認められる範囲や、設立の形態による創業融資の使える・使えないの違いを踏まえ、次に何を準備するかを一つずつ確定させていくことが、資金繰りで行き詰まらないための土台になります。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























