
印刷業・出版業で独立するときの資金計画|設備費と運転資金をどう分けて借りるか
印刷会社の営業やオペレーターとして、あるいは出版社の編集者として経験を積んだ方が独立を考えるとき、最初にぶつかるのが「結局いくら必要なのか」という問題です。ウェブで調べると「印刷業の開業には1,000万円程度」といった数字が出てきますが、この数字をそのまま自分に当てはめてよいとは限りません。
印刷業・出版業は、どの設備を自社で持つかによって必要資金が大きく変わります。この記事では、これから独立を目指す方に向けて、設備の持ち方ごとの資金の考え方と、創業融資の組み立て方を整理します。なお、融資制度の内容や金利は変わりやすいため、本記事は2026年8月時点で確認できる情報にもとづいています。
印刷業の独立は「設備を持つかどうか」で資金額が変わります
ひとくちに印刷業といっても、資金の構造は次の3つに分かれます。どこに自分が位置するのかを決めないと、必要資金も融資の組み方も決まりません。
1. 印刷機を持つタイプ
オンデマンド印刷機を中心に据えるパターンです。版を作らずに必要な分だけ印刷できるため、小ロット・短納期の受注に向いています。機械本体に加えて、断裁機や製本機などの後加工設備、設置スペースの確保が必要になり、設備資金の比重が最も大きくなります。
2. 大判・特殊出力に絞るタイプ
看板・のぼり・パネル・車両装飾といった大判出力に特化するパターンです。汎用の印刷機一式を揃えるより投資範囲を絞りやすい一方、施工や取り付けまで請け負う場合は車両や工具も資金計画に入ってきます。
3. 設備を持たないタイプ
企画・デザイン・進行管理を自社で行い、印刷そのものは協力会社に外注するパターンです。設備資金はほとんど発生しない代わりに、外注先への支払いが先に出ていくため、運転資金の厚みが要になります。「印刷業=装置産業だから多額の設備投資が要る」という思い込みで、この選択肢を最初から外してしまう方は少なくありません。
どのタイプを選ぶかで、必要資金は数百万円規模から数千万円規模まで開きます。融資の相談に行く前に、まずこの前提を自分で決めておくことが出発点になります。
創業融資の基本を押さえる
個人事業主・中小企業の創業時の代表的な選択肢は、日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。2024年3月に「新創業融資制度」が廃止され、現在の主制度となりました。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。
2026年6月1日現在の基準利率は、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合で年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は、原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、必ず下がると考えず申請先で確認してください。元金返済の据置期間は5年以内で設定でき、据置中は利息のみの支払いとなります。
申請から融資実行までは、書類提出後おおむね3週間から1か月程度が目安です。創業計画書・自己資金の裏づけとなる資料・見積書などを整える時間を含めると、合計2か月程度を見ておくと安全です。設備の納期が長い機械を導入する場合は、この2か月を機械の発注スケジュールと重ねて考える必要があります。
設備資金と運転資金は分けて考えると返済が軽くなります
ここが印刷業の資金計画で最も効いてくる部分です。新規開業・スタートアップ資金融資を利用する場合、返済期間は資金使途によって次のように異なります。
- 設備資金:返済期間20年以内(据置期間5年以内)
- 運転資金:返済期間原則10年以内(据置期間5年以内)
印刷機のように長く使う資産は、設備資金として長い返済期間に乗せられる可能性があります。同じ金額を借りても、返済期間が長ければ毎月の元金返済は小さくなります。逆に、設備の購入費まで運転資金としてまとめて申し込んでしまうと、返済期間が短い側の条件で組まれる可能性が出てきます。
そのため、見積書の段階から「機械本体・付帯設備・設置工事」と「開業後の材料仕入れ・外注費・人件費」を分けて整理しておくことが重要です。人件費は事業活動に必要な経費として運転資金の対象になります。どこまでを資金使途に含められるかは事業の実情によって変わるため、判断に迷う場合は申請先や専門家に確認しながら計画を整えることをおすすめします。
設備を融資で買うか、リースにするか
印刷機は金額が大きいため、リースを勧められる場面も多いはずです。初期の持ち出しを抑えられる点は魅力ですが、次のようなデメリットもあります。
- 連帯保証人が必要になる
- 機器の所有権が持てない
- 契約期間中の中途解約が難しい
- 故障時の修理負担が借主側になる契約が多い
融資とリースのどちらが有利かは、資産計上の考え方や資金繰りの状況によっても変わるため、賃貸借費用の負担も含めて税理士や金融機関に相談しながら判断することをおすすめします。特に印刷機は稼働率で採算が決まる設備のため、受注量の見込みが固まる前に長期契約を確定させるかどうかは慎重に考えたいところです。
中古機や、先に自費で買った機材の扱い
印刷業では中古機の流通があり、新品より抑えた金額で立ち上げる選択肢もあります。中古機を選ぶ場合は、購入価格だけでなく、保守契約の可否や消耗部品の供給状況まで含めて見積もりを取り、その内容を計画書で説明できるようにしておきましょう。
また、独立準備として自費で購入した機材がある方もいるかもしれません。創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入・テストマーケティング費用などは、「みなし自己資金」として一定範囲で評価されることがあります。領収書を必ず保管しておきましょう。前職の在職中に少しずつ機材を揃えていたケースでは、この整理が自己資金の説明に効いてきます。
出版業で独立する場合は資金の性格が変わります
出版社を立ち上げる場合、印刷業とは資金の出方が大きく異なります。自社で印刷機を持つことはまれで、設備資金はパソコンや事務所まわりに限られることが多いためです。
その代わりに大きくなるのが、制作にかかる費用です。企画・執筆料・編集・デザイン・印刷の外注費は刊行前に出ていき、売上が立つのはその後になります。つまり出版業は、設備投資型というより運転資金型の事業として資金計画を組むことになります。刊行点数を増やすほど先行して出る費用が積み上がるため、初年度に何点出すのかという計画そのものが、必要な運転資金の額を決めます。
印刷と出版の両方を手がける想定であれば、この2つの資金の性格の違いを計画書の中で分けて説明できると、資金使途の説得力が上がります。
審査で見られることと、準備しておきたいこと
審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。判断材料はこの2つだけではなく、経験・資金使途・面談の内容などを含めて総合的に見られます。
制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていませんが、自己資金の額は審査の重要な判断材料です。面談の時点で口座に確認できる形にしておきましょう。
また、創業融資だからといって決算書をまったく見ないわけではありません。新しく設立した会社であっても、一期でも決算が締まっていれば、その決算書が確認されます。代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認の対象になります。
印刷業の営業出身で製造工程の経験が浅い、あるいはその逆というケースでは、経験不足をどう補うかが論点になります。同業のメンターから助言を受ける、専門技術を業務委託でプロに任せるといった対策は、経営そのものへの関与としては弱く、有効なカバー策とは言えません。より説得力を持たせるには、事業経験者を役員として迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整えることが有効です。
よくある質問
Q. 個人事業で始めた印刷業を法人化する場合も創業融資は使えますか
A. 今の事業をそのまま法人化する、いわゆる法人成りの場合は、原則として創業融資の対象外になります。すでに事業実績があるとみなされ、通常の融資の扱いになります。一方で、個人事業主が営んでいる事業とは別の、新しい事業を行う法人を新たに設立する場合は、その新法人にとっては創業にあたるため創業融資を使うことができます。
Q. 一度審査に落ちると、次回の審査に影響しますか
A. 公庫内には審査に落ちた記録が残ります。そのため次の審査では、落ちたことを考慮に入れた形になるため、慎重に扱われる可能性があります。
Q. 否決された直後にすぐ再申請してもよいですか
A. 原因を潰さずに再申請しても、結果は変わりません。自己資金不足、事業計画の説得力不足、業界未経験への対策不足など、否決の理由を具体的に特定し、そこを改善したうえで再申請することが必要です。
まとめ
印刷業・出版業の独立資金は、相場の数字を探すよりも、自分がどのタイプで始めるのかを先に決めるほうが早く固まります。印刷機を持つのか、大判出力に絞るのか、設備を持たずに外注で回すのか。出版であれば、初年度に何点出すのか。ここが決まれば、設備資金と運転資金の内訳が書けるようになり、返済期間の違いを活かした申し込み方も見えてきます。
制度や金利は変更される場合があるため、実際の申請にあたっては日本政策金融公庫などの公式情報で最新の内容を確認してください。設備の選び方と資金の組み立てを同時に考えたい段階であれば、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
【無料相談のご案内】
融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























