
日本政策金融公庫の創業計画書を書き始めると、いきなり1つ目の項目に登場するのが「創業の動機」です。冒頭の数行で何を書くかは、計画書全体の第一印象を大きく左右します。「とにかく自分の想いを書けばいい」と感じる方もいますが、融資担当者は動機の文面から、創業者の準備度と事業の現実性を読み取ろうとしています。
本記事では、創業計画書の「創業の動機」欄について、書く目的、評価される視点、書き方のフレームワーク、業種別の記入例、よくある失敗パターンまでを、起業直後の個人事業主・中小企業の経営者向けにわかりやすく整理します。
創業計画書「創業の動機」とは
創業の動機は、日本政策金融公庫の創業計画書の最初の項目に配置された欄で、なぜこの事業で創業するのかを記述するスペースです。A4・2枚程度のフォーマットの中で、4〜5行程度の枠が確保されています。
「気持ち」だけでなく「事業構想の入口」を示す欄
この欄は、感情的なエピソードを書く場所ではなく、創業に至った経緯と事業構想のつながりを示す入口です。「昔から飲食店をやりたかった」だけでは弱く、「なぜ今このタイミングで、この業種で、このエリアなのか」までを示せると、後続の項目との一貫性が出ます。
記入欄の特徴
4〜5行という限られたスペースの中で、創業者の人物像と事業の妥当性を担当者に伝える必要があります。スペースが小さい分、「何を残して何を捨てるか」の取捨選択が問われる項目です。
融資担当者が創業の動機で見ているポイント
公庫の担当者は、動機の文面を通じて次のような要素を確認しています。
創業のきっかけに具体性があるか
「以前から興味があった」「夢だった」だけでは具体性に欠けます。いつ、どんな経験から、どう構想が固まったのかを時系列で示せると、創業の必然性が伝わります。
業種選定の合理性
選んだ業種が、自分の経験・スキル・人脈とつながっているか。動機の段階で「これまでの経験を活かせる」「業界知識がある」と示せていれば、後続の「経営者の略歴」と一貫性が取れます。
準備状況の進度
すでに開業準備が進んでいる場合、その状況を動機の中で軽く触れると、計画の本気度が伝わります。物件・パートナー・顧客見込みなどの具体的な進捗を1行加えるだけで印象が変わります。
事業に対する責任感
融資は返済を伴います。担当者は、動機の中に「やりきる覚悟」が透けて見えるかを必ず見ています。家族構成や生活設計まで踏まえた決意が読み取れると、安心感を与えます。
創業の動機を書くフレームワーク
限られたスペースで説得力のある動機を書くために、次の4要素を意識して構成すると整理しやすくなります。
1. きっかけ(過去)
どんな経験・出会い・気づきから創業を意識したかを、具体的なエピソードで示します。前職での体験、お客様からの声、家族の状況など、リアリティのある一次情報が好まれます。
2. 業種選定の理由(現在)
なぜこの業種なのかを、経験・スキル・市場性の観点から書きます。「自分にできる」「市場に需要がある」「競合と差別化できる」のいずれかを必ず示しましょう。
3. 創業のタイミング(現在)
なぜ今このタイミングで創業するのかを補足します。市場環境の変化、ライフステージ、資金準備の完了など、合理的な理由を1つ示せると説得力が増します。
4. 目指す姿(未来)
創業後にどのような事業に育てたいのか、簡潔にビジョンを示します。長文は不要で、1文程度で十分です。
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業種別の創業の動機 記入例
例1:飲食店(カフェ)開業
「前職の飲食チェーンで8年間、店長として店舗運営に携わるなかで、地域に根ざした個人経営の小さなカフェの需要を強く感じてきました。担当エリアで実施した顧客アンケートでも、画一的なチェーン店ではなく地元食材を活かしたカフェを求める声が多く、独立の構想を固めました。物件契約と内装計画を完了し、自己資金も準備が整ったため、このタイミングでの開業を決断しました。地域に長く愛されるカフェを目指します。」
例2:美容室開業
「美容師として12年間勤務し、うち4年は店長として運営を経験してきました。指名顧客約180名のうち約60名が独立希望エリアに在住しており、独立後も継続利用の意向を頂いていることが独立を後押ししました。物販比率の向上やSNS集客のノウハウも前職で蓄積しており、今が独立に最適なタイミングと判断しました。技術と接客の両面で地域一番店を目指します。」
例3:士業・コンサル独立
「会社員時代に同業事務所で6年間、年間50件以上の案件を担当し、専門領域での実務経験を積んできました。前職経由で3社の業務委託契約と継続案件の受託見込みが固まり、独立の現実性が高まったため、起業を決断しました。1年間続けてきたSNS発信からも月10件規模の問い合わせが入っており、自己資金の準備も整っています。中小企業の◯◯領域に特化した実務支援を展開していきます。」
創業の動機でよくある失敗例
抽象的な「夢」だけで終わる
「子供のころからの夢でした」「お客様を笑顔にしたい」だけでは、事業計画として弱く映ります。夢の背景にある具体的な経験・準備を必ず添えましょう。
業界選定の根拠が不在
「飲食店をやりたい」「サロンを開きたい」と書きながら、経験や市場分析の裏づけがないと、思いつきと判断されます。経験との接点を必ず1行入れましょう。
感情論が長すぎる
家族の状況や生い立ちなど、感情面の記述に行数を使いすぎると、事業の根拠を書くスペースが足りなくなります。感情1割・事実9割のバランスが目安です。
後続の項目と矛盾する
動機で「地元密着の店舗」と書きながら、売上見通しの欄では「ネット販売中心」と書いてしまうケースが見られます。動機は計画書全体の入口なので、後続項目と矛盾しないよう必ず読み合わせます。
準備状況にまったく触れない
「これから検討します」では、準備不足と映ります。すでに進んでいる物件選定、許認可申請、研修受講などを1行で触れるだけで印象が変わります。
記入時のチェックポイント
創業の動機を書き終えたら、提出前に次の項目を確認します。本記事の情報は2026年5月時点の公庫様式・運用を前提としているため、最新の様式は公庫公式サイトで必ず確認してください。
- きっかけ・業種選定理由・タイミング・目指す姿の4要素が含まれているか
- 具体的な経験や数字が示されているか
- 経営者の略歴・事業の見通しと矛盾しないか
- 感情論に偏りすぎず、事実中心の構成になっているか
- 4〜5行に収まる長さに整理されているか
まとめ
創業計画書の「創業の動機」は、計画書全体の第一印象を決定づける重要な欄です。書き方のポイントは以下の通りです。
- きっかけ・業種選定理由・タイミング・目指す姿の4要素で構成する
- 抽象的な夢ではなく、経験・行動・準備状況を具体的に示す
- 後続の略歴・事業見通しと一貫性を持たせる
- 感情論に偏らず、事実ベースで簡潔にまとめる
動機欄は短いながらも、計画書全体の説得力を左右する起点です。書き方に迷ったら、過去の融資審査の現場を熟知した専門家に相談することで、担当者目線で響く動機文に仕上げられます。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























