
清掃業の開業資金を削られずに借りるために|申し込む前に整える5つの論点
清掃・ハウスクリーニングの独立は、店舗を構える商売にくらべて初期投資が小さく収まります。そのぶん「この金額なら通るだろう」と考えて申し込み、審査は通ったのに希望した額よりも少ない金額で決まった、という結果になることがあります。融資の審査は借りられるかどうかだけでなく、いくら貸すかという額の調整も含んでいるためです。ここでは、清掃業で創業融資を申し込む前に手当てできる論点を5つに分けて整理します。数字は2026年6月1日現在の公表値をもとにした執筆時点の情報で、実際の条件は申請先でご確認ください。
前提:清掃業で使う創業融資の枠組み
個人事業・小さな法人での独立で中心になるのは、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金です。2024年3月に新創業融資制度が廃止されて以降の主力にあたり、それ以前の名称は新規開業資金でした。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、清掃業の規模であれば枠が足りなくなる場面はほとんどありません。創業期の方は原則として無担保・無保証人で利用でき、審査では、事業として創業した実績がなくても、事業計画書と自己資金などをもとに判断されます。
金利は、2026年6月1日現在の基準利率で、創業期(税務申告を2期終えていない時期)に利用する場合が年3.45〜5.15%です。創業期の方が利用する場合は原則0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)の引下げが適用される可能性がありますが、適用の可否は利用する制度や審査・条件によって異なりますので、申請先で確認しながら進めてください。返済期間は、新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例として、設備資金が20年以内、運転資金が原則10年以内とされています。申し込みから実行までは書類提出後おおむね3週間から1か月が目安で、書類をそろえる時間を含めると全体で2か月ほどを見ておくと動きやすくなります。
論点1:見積を大きめに積んでおく
手元に余裕がほしいという気持ちから、機材や車両の金額を実際の必要額より大きく置いてしまうことがあります。これは金額の調整が入る典型的な入口です。清掃業は品目の数が多く、高圧洗浄機、ポリッシャー、掃除機、洗剤・資材、運搬用の車両と積み上げていくと、一つひとつの根拠が薄いまま総額だけが膨らみやすい構造にあります。
やることは反対で、必要なものだけを、実際に取れる見積で細かく積み上げる形にします。品目ごとに型番と金額の出どころが説明できる状態になっていれば、総額の根拠はそのまま説明できます。逆に、まとめて一式と書いた見積が並んでいると、その部分から順に精査されることになります。
あわせて考えておきたいのが、中古品で足りる部分があるかどうかです。同じ作業ができる中古の機材で代替できるのではないか、という見方をされる場面があります。新品でそろえる理由があるなら、耐久性や保守の受けやすさといった形で書き添えておくと、金額の説明が一段はっきりします。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
審査する側から見ると、金額が調整される理由は大きく2つに分かれます。資金使途の妥当性と、資金調達の代替性です。前者は申込む側でも想像がつきますが、後者は気づかれにくいところで、ほかに使える調達手段があるならそちらでという判断になることもあります。協調融資の話が並行しているようなときは、その状況も含めて説明しておくほうが話が早く進みます。
論点2:業種に対して過剰なスペックの機材を並べる
設備については、本当にその機材が必要なのかという見方をされます。業種の実態に対して高級すぎる什器や、過剰なスペックの機械は、金額の調整が入りやすい部分です。コンサルティング業に極端に高性能なパソコンを載せるような例が分かりやすく、清掃業でも同じことが起こります。
たとえば受注の中心が居住用のハウスクリーニングであれば、大型施設向けの機材を初年度からそろえる理由は説明しにくくなります。反対に、外壁や貯水槽など特定の作業を請ける前提であれば、その作業に必要な性能として説明がつきます。判断の順番としては、機材を選んでから受注先を考えるのではなく、初年度に受ける仕事の中身を決めてから、それに要る機材を書き出すほうが筋が通ります。
論点3:投資でいくら売上が増えるのかを書いていない
もう一つ求められるのが、その投資でどれだけ売上が上がり、収益がどれだけ出るのかというところまで示すことです。製造業であれば機械の生産能力から計算できますが、清掃業のように人の作業が中心の業種では、この説明が抜けたまま金額だけが並びがちです。
清掃業で数字に落とすなら、機材の性能そのものより、作業時間と回せる現場の数に置き換える形になります。1件あたりの作業時間が短くなれば1日に入れる件数が変わり、運搬用の車両があれば移動の制約が変わります。そこから月間の受注可能件数と単価を掛けて売上に落とし、その売上から返済していく流れまでを書いておけば、投資と収益がつながった状態になります。
この売上の説明には、作業を回せる裏づけが要ります。未経験から清掃業に入る場合、同業の知り合いから定期的に助言を受けている、経理や専門作業を業務委託で任せる、といった対策は経営そのものへの関与としては弱く、補いとしては物足りません。事業経験者を役員として迎えるなど、運営に直接関わる体制を作るほうが説明の芯が通ります。
論点4:自己資金が面談の時点で確認できる形になっていない
創業融資では、制度上、自己資金の額や割合の要件は決められていません。旧制度にあった自己資金の割合要件のような固定のきまりは、現行制度にはない形です。一方で、自己資金の額は審査の判断材料として重く見られており、多いほど有利になりやすいという関係にあります。
そのため、面談の時点で口座に確認できる状態にしておきます。あわせて整理しておきたいのがみなし自己資金です。創業前に自費で取得した資格や、先に買った備品、試験的な営業にかけた費用などは、一定の範囲で自己資金として評価されることがあります。清掃業は開業前に資格の講習を受けたり、資材を先に買いそろえたりする場面が多い業種ですので、領収書を保管しておくと説明できる材料が増えます。
💬 監修者の元日本政策金融公庫の支店長の多胡から一言
返済力が乏しいから金額を削る、という見方はしていません。返済は返済期間のほうで調整する話であって、収益の中から返済金が出せることが計画で示せていれば足ります。先に見られているのは、事業そのものが無理なく組み立てられているかどうかです。返済表の見栄えを整えるより、受注の見込みを説明できる状態にしておくほうが順番として先になります。
論点5:創業融資だから決算書は関係ないと考えている
創業融資は事業として創業した実績がなくても申し込めますが、決算書をまったく見ないわけではありません。清掃業は法人を作って始める方も、すでに別の会社を持っている方が新しく清掃部門を立ち上げる形も見られる業種です。
確認の対象になるのは2つの場面です。新しく設立した会社であっても、一期でも決算が締まっていれば、その決算書が見られます。また、代表者が別に会社を経営している場合は、その会社の決算書も確認されます。決算の内容と審査の結果が直結するわけではありませんが、すでに決算が済んでいる会社があるなら、その中身を説明できるように整理しておくと話が滞りません。個人事業として始める場合でも、直近の確定申告の状況は聞かれる前提で準備しておくと落ち着いて臨めます。
まとめ
清掃業の創業融資でつまずきやすい5つの論点は、見積の積み方、機材のスペック、投資と売上のつながり、自己資金の見せ方、そして決算書の扱いでした。いずれも申し込んだ後ではなく、書類を作る段階で手当てできるものです。金額を通すための工夫を探すというより、自分の計画がどうなっているのかをそのまま説明できる形に整える、という順番で考えると迷いが減ります。制度の条件や金利は改定されますので、最新の内容は日本政策金融公庫の公式情報と申請先で確認しながら進めてください。判断に迷う場面があれば、創業融資の支援に慣れた専門家に相談しながら組み立てる方法もあります。
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融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。


この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。




























