
ジムの内装費・床材・鏡は融資でまかなえるか|物件タイプ3分岐で変わる資金使途と返済設計
フィットネスジムの開業準備で、器具の見積は比較的すぐ出ます。ところが内装だけは「物件が決まらないと出せません」と言われて止まります。そのあいだにも、内装費が融資の対象になるのかが分からないままだと、そもそもいくら借りればよいのかが決まりません。
調べると、内装工事費は300万円から1,000万円以上といった相場が出てきます。ただ、その金額は物件の状態によって別物になります。この記事では、テナント物件でパーソナルジム・小規模ジムの開業を準備している方に向けて、内装費を「物件タイプ」で分けたときに融資での扱いがどう変わるかを整理します。数字は2026年8月時点の情報です。
「対象になるか」より「どの資金使途で、何年で返すか」
まず前提として、内装工事費は事業に必要な支出であり、設備資金として資金使途に組み込むものです。資金使途は事業に必要な支出であることが前提になるので、ジムとして使うための床・鏡・空調・給排水の工事は、この考え方に沿った支出にあたります。
実務で効いてくるのは、対象かどうかより、その先の返済設計です。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金を利用する場合の例では、返済期間は次のように分かれています。
- 設備資金:返済期間20年以内/据置期間5年以内
- 運転資金:返済期間原則10年以内/据置期間5年以内
元金返済の据置期間中は利息のみの支払いになります。つまり、同じ総額を借りるとしても、内装(設備資金)の比重が大きい計画と、運転資金の比重が大きい計画とでは、毎月の返済額が変わります。会員数が積み上がるまで時間がかかるジムでは、この差が開業初期のキャッシュフローに直接効いてきます。
融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)で、制度により異なります。小規模ジムの開業でこの上限に当たることはまずありませんが、運転資金側に別枠があるという構造は、内装と運転をどう配分するかを考えるときの前提になります。
内装費の中身は、物件タイプで別物になる
「内装費」と一語でまとめられていますが、契約の相手も、見積書の出どころも、タイプによって変わります。
タイプ1:スケルトン物件からフル内装をつくる
コンクリート躯体の状態から、床・壁・天井・電気・空調・給排水をすべて造ります。内装業者1社(または元請)との工事請負契約になり、工事内訳書がそのまま設備資金の根拠になります。金額は最も大きくなりますが、見積の内訳が細かく出るため、何にいくらかけるのかを説明しやすいのが利点です。
タイプ2:居抜き物件で造作を譲り受ける
前の借主が残した内装設備を引き継ぐ形です。ここで発生する造作譲渡代金は、工事業者ではなく前借主(または仲介する不動産会社)に支払うものなので、工事の見積書とは別の書類になります。譲渡対象に何が含まれるのかを一覧にした資料が必要になります。
加えて、居抜きは「そのまま使える」とは限りません。前がジム以外の業態だった場合、床の仕様や電気容量はジム向けになっていないため、結局は追加工事が乗ります。譲渡代金と追加工事費を合わせた総額で比べないと、判断を誤ります。
タイプ3:既存内装を活かして軽微な改装にとどめる
床の張り替えと鏡の設置、部分的な電気工事だけで開業する形です。設備資金の総額は抑えられますが、抑えた分は運転資金の余裕に回せます。返済期間の短い運転資金の比重が上がる点は意識しておくところです。
| タイプ | 内装費の中身 | 根拠になる書類 | 資金計画への影響 |
|---|---|---|---|
| スケルトンからフル内装 | 工事請負一式(床・壁・電気・空調・給排水) | 工事見積書・工事内訳書 | 設備資金が最大。返済期間20年以内で月額を抑える設計がしやすい |
| 居抜き・造作譲渡 | 造作譲渡代金+不足分の追加工事 | 造作譲渡の対象一覧+追加工事の見積書 | 総額は中間。譲渡と工事で書類が分かれる |
| 軽微な改装 | 床材・鏡・部分電気工事 | 工事見積書(項目数は少ない) | 設備資金は小さいが、運転資金の比重が相対的に上がる |
ジムの内装費が他業種より膨らむ3つの工事項目
同じ広さの店舗でも、ジムは内装費が上振れしやすい業態です。理由は次の3つに集約されます。
1. 床(荷重・衝撃・床材)
ダンベルやバーベルを扱う場合、床は重量と落下衝撃の両方を受けます。床材の敷設だけでなく、下地の補強が必要になることがあります。2階以上の物件では、建物側の積載荷重の条件を先に確認しないと、器具の配置計画そのものが変わります。
2. 防音・防振
プレートの接触音や落下音は、空気を伝わる音と床を伝わる振動の両方で階下・隣戸に届きます。壁の吸音材だけでは振動が止まらないため、防振マットや浮き床といった床側の対策が入ります。音楽をかける業態なら、音響の音量も条件に加わります。
3. 給排水・電気容量
シャワールームを設けるなら給排水の引き込みと排水経路が必要で、これは物件の既存設備に大きく左右されます。有酸素マシンを並べる場合は電気容量、人が集まる空間としては空調能力も見ることになります。
3つとも、共通しているのは物件そのものの素の条件で金額が決まる点です。内装費は業者の腕前で決まるというより、どの物件を選ぶかでおおよそ決まります。つまり物件選定は、そのまま借入額の決定でもあります。
💬 執筆者の小峰から一言
信用金庫で融資を出す側にいたころ、内装の見積書は金額の大きさそのものより、なぜその仕様なのかを説明できるかという観点で見ていました。同じ400万円でも、床の補強と防振がなぜ要るのかを話せる方と、工事一式でまとまっている方とでは、面談での進み方が変わります。内訳が項目ごとに割れている見積書をもらっておくと、この説明が自然にできます。
見積書と物件の「鶏と卵」をどう解くか
ここで多くの方が止まります。融資の申込には工事の見積書が要る、見積を出してもらうには物件を確定させる必要がある、物件を押さえるには資金の目処が要る、という循環です。
実際には、次の順序で進めると詰まりません。
- 候補物件を内見し、条件を記録する:面積・階数・天井高・電気容量・給排水の位置・既存の床仕様・上下階と隣戸の用途。この6〜7項目があれば概算は出せます
- 内装業者に概算見積を依頼する:契約前でも、条件を渡せばレンジで出してもらえます。この段階で複数社に当たっておきます
- 概算をもとに創業計画書を組み、事前相談に行く:設備資金と運転資金の配分、返済期間の目安をここで固めます
- 物件を確定させ、本見積を取る:正式な見積書を添えて申込に進みます
時間の見積もりも先に立てておきます。申請から融資実行までは書類提出後おおむね3週間〜1か月が目安で、創業計画書や自己資金の資料、見積書を整える期間を含めると合計で約2か月を見ておくと安全です。物件の賃貸借契約の開始日と、この2か月が重なるかどうかが、資金繰り上の実際の論点になります。
内装をリースや分割で手当てする場合のトレードオフ
内装に付帯する設備(空調・音響・一部の造作)をリースで導入する選択肢もあります。初期の借入額を抑えられる一方で、リースには次のようなデメリットがあります。
- 連帯保証人が必要になる
- 機器の所有権が持てない
- 契約期間中の中途解約が難しい
- 故障時の修理負担が借主側になる契約が多い
また、リースは借入額が減る代わりに毎月の固定費が増えます。会員数が積み上がるまでの期間は、その固定費が運転資金を削っていきます。融資とリースのどちらが有利かは、資産計上の考え方や資金繰りの状況によっても変わるため、賃貸借費用の負担も含めて税理士や金融機関に相談しながら判断することをおすすめします。
よくある質問
Q. 内装費の何割かは自己資金で用意しないといけませんか
A. 制度上、自己資金の額や割合の要件は決まっていません。「総額の3割」といった目安が紹介されることがありますが、これは要件ではありません。一方で、自己資金の額は審査の重要な判断材料になり、多いほど有利になりやすいという関係はあります。自己資金は、面談の時点で口座に確認できる形にしておきます。
Q. 開業前に自費で買ったものは考慮されますか
A. 創業前に自費で取得した資格・設備や備品の購入、テストマーケティング費用などは、みなし自己資金として一定範囲で評価されることがあります。トレーナー資格の取得費や、先に買ったトレーニング器具などが該当し得ます。領収書を必ず保管しておきましょう。
Q. 未経験の業態でジムを開業する場合、内装計画で補えますか
A. 内装計画の精度は説得材料の一つになりますが、経験不足そのものを埋めるものではありません。同業のメンターから助言を受ける、業務委託でプロに任せるといった対策は、経営への関与としては弱いと見られます。事業経験者を役員に迎えるなど、事業運営に直接関わる体制を整えるほうが有効です。
Q. 着工後に内装費が想定を超えたらどうなりますか
A. 追加の資金が必要になった場合の対応は、実行済みの融資の状況や事業の進捗によって変わります。判断は個別の状況で変わるため、金額が動きそうな段階で早い段階から申請先や専門家に相談しながら進めてください。見積の段階で、追加工事が発生し得る項目を業者に確認しておくと、幅を持った計画が組めます。
まとめ
ジムの内装費・床材・鏡は、事業に必要な支出として設備資金の枠組みで考えるものです。判断の分かれ目は、対象かどうかではなく次の3点でした。
- 物件タイプ(スケルトン/居抜き・造作譲渡/軽微改装)で、内装費の中身も根拠書類も変わる
- 床・防音・給排水という3項目は物件の素の条件で決まるため、物件選定がそのまま借入額を決める
- 設備資金20年以内と運転資金原則10年以内という返済期間の差が、開業初期の月々の負担を左右する
本記事の数字・条件は2026年8月時点の情報にもとづくもので、制度・利率は変わることがあります。適用可否は利用する制度や審査・条件により異なるため、詳細は申請先でご確認ください。物件が固まる前の段階でも、候補物件の条件と器具の構成が分かれば、資金計画のたたき台は作れます。
【無料相談のご案内】
融資を受けるには何から始めればいいの?といった疑問に対して適切なアドバイスを無料にて行っております。
無料相談も行っているので、ぜひ一度、ご相談ください。お問い合わせお待ちしております!

この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。 約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。

この記事を監修した人

中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























