
店長時代の実績、創業融資の審査での伝え方を数字と担当範囲で整理する
店長として店舗運営に携わった後に独立を考え始めた方から、こんなご相談をよくいただきます。
💬 店長経験者の方からのご相談
店長として店舗の売上を伸ばした経験はありますが、その成果が立地や会社のブランドのおかげなのか、自分の運営力なのかを融資担当者にどう説明すればよいか悩んでいます。売上改善や原価管理、人材育成の実績は、どんな資料や数字にまとめると創業計画の説得力につながりますか?

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。
多胡からの回答
結論から言うと、実績を「すごさ」として売り込むよりも、「どこを自分が担当し、何をどう変えたか」を数字と手順で書き出し、経験欄の裏付けと事業計画の数字の根拠に振り分けて使う、という順番で考えるのが分かりやすいです。立地や会社のブランドの影響を、面談の場で完全に切り分けて証明する必要があるわけではありません。自分が動かせた部分を区別して書いておけば、説明の筋は通りやすくなります。
審査の中で、実績はどこに位置づくのか
公庫で支店長をしていたころは、創業前の方の資料を見て、面談で話を聞く立場でした。審査では、業務経験、自己資金、事業計画の具体性、資金使途と調達額の整合、信用情報などをもとに判断されます。「実績」という名前の項目が別に立っているわけではありません。ここを取り違えると、資料づくりの方向がずれやすくなります。
創業計画書の経験欄で問われるのは、同じ業種での勤務経験、勤務年数、役職です。店長としての在籍年数や役職、担当した店舗の業態は、まずこの欄に事実として書きます。
一方、売上改善や原価管理、人材育成の中身は、経験欄を具体的にする材料であり、同時に事業計画の売上・原価・人件費の見積もりに根拠を持たせる材料でもあります。実績は、この二つの役割に分けて使うものと考えてください。
立地やブランドのおかげでは、という不安について
審査する側から見ると、分かりにくくなるのは「売上が伸びました」という結果だけが語られ、どこまでが本人の判断だったのかが見えない説明です。立地の良さや会社の知名度が売上に効いていたかどうかを、あとから厳密に測ることはできません。ですから、証明しようとするより、店舗に与えられていた条件と、自分の裁量で動かせた部分を分けて書くほうが実務的です。
- 店舗に与えられていた条件:立地、席数、ブランド、本部が行っていた販促など
- 自分の裁量で動かした部分:シフトの組み方、発注量の調整、メニュー構成の見直し、仕入れ先との条件交渉、スタッフの教育など
独立後は、立地もブランドも自分で用意することになります。だからこそ、前者は「前の店と違う条件」として認め、後者を自分の店でも使える力として説明するほうが、話の筋が通ります。
整理しておきたい三つの軸
資料の形は問いません。ノート一枚でも構いませんので、次の三つを書き出してみてください。
改善前後の数値
売上、客数、客単価、原価率、人件費率など、自分が関わった指標について、いつからいつまでの期間で、何をして、数字がどう動いたのかを書きます。数字は、あとから聞かれても自分で説明できる範囲のものだけにしてください。正確に思い出せない数字を大きく見せると、面談で質問を受けたときに答えに詰まります。
担当範囲
発注、シフト作成、価格設定、採用、スタッフ育成のうち、どこまでを自分の判断で行い、どこからは本部や上長の承認が必要だったのかを整理します。担当範囲が具体的に書かれていると、経験欄の役職と実際の仕事の中身が結びつきます。
再現できる手順
原価を下げたのであれば、棚卸をどのくらいの頻度で行い、ロスをどう記録し、発注量をどんな基準で調整していたのか。人材育成であれば、新人に何をどの順番で教え、独り立ちまでにどんな確認をしていたのか。こうした手順まで書けると、「たまたま結果が出た」のではなく、「自分の店でも同じやり方を回せる」という説明になります。
整理した内容を、事業計画の数字につなげる
審査で見られる事業計画の具体性とは、売上・原価・人件費をどんな根拠で見積もったか、返済の原資をどこから確保するかを、数字の出どころまで説明できることです。店長時代の経験は、この根拠を語るときに役に立ちます。
- 原価:店長時代に管理していた原価の考え方を基に、自分の店のメニューや仕入れ条件に置き換えて見積もる
- 人件費:店の営業時間に必要な人数とシフトの組み方を、店長時代の運営経験から具体的に書く
- 人材育成:採用から戦力になるまでの期間を、人員計画や人件費の見積もりとつなげて説明する
ここで注意したいのは、前の店の数字をそのまま転記しないことです。席数、家賃、客層、仕入れ先が違えば、数字は変わります。「前の店ではこうだった、自分の店では条件がこう違うので、こう見積もった」という形で、差の理由まで書いてください。実績の数字は、そのまま計画の数字になるものではなく、計画の数字を組み立てる際の出発点として使うものです。
手元資料にまとめるときの注意点
面談の場では、長い資料よりも、要点を一枚か二枚にまとめた整理のほうが説明しやすくなります。これらを必ず提出しなければならないというものではなく、自分の言葉で説明するための準備として作るものです。
面談では、書いた内容について「その数字は、どの期間の何を指していますか」「その判断は誰が決めたのですか」といった確認を受けることがあります。書き出した整理は、こうした質問に自分の言葉で答えるための下地にもなります。事前に声に出して説明してみて、詰まる箇所があれば、その部分の根拠を見直しておくとよいでしょう。
もう一点、「売上を大きく伸ばしました」「スタッフをしっかり育てました」といった形容だけでは、経験欄の裏付けにも計画の根拠にもなりにくいものです。期間、担当範囲、やったこと、数字の動きの四点が揃っているかを、書き終えたあとに見直してみてください。制度の運用や必要書類は変わることがありますので、申込前には日本政策金融公庫の公式情報や申込先でも確認しておくと安心です。
まとめ
まずは改善前後の数値、担当範囲、再現できる手順の三つを書き出し、経験欄の内容と、事業計画の売上・原価・人件費の根拠に振り分けるところから始めてみてください。
店長としての経験をどう整理し、事業計画の数字にどう落とし込むかは、一人で考えていると手が止まりやすい部分です。実績の整理から事業計画書の作成、面談で説明する準備までを、専門家と一緒に進められる窓口がありますので、数字の組み立て方から相談してみるのもひとつの方法です。
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この記事を書いた人
小峰精公/Kiyotaka Komine
元朝日信用金庫 法人営業
資金繰り解決コンサルタント
V-Spirits総合研究所株式会社 常務取締役
大学卒業後、朝日信用金庫に入庫。朝日信用金庫での経験が原点となり、「銀行融資取引」や「資金繰り」の本質を企業へ伝えていくことがミッションだと確信する。
日本の99%は中小零細企業で成り立っている現状を痛感し、1社でも多くの企業の「資金繰り」の課題を解決していくことに専念する。
クライアント様がより良い商品やサービスを提供することができる環境づくりの一助となれるよう全身全霊を尽くす。

この記事を監修した人
多胡藤夫/Fujio Tago
元日本政策金融公庫支店長、社会生産性本部認定経営コンサルタント、ファイナンシャルプランナーCFP(R)、V-Spirits総合研究所株式会社 取締役
同志社大学法学部卒業後、日本政策金融公庫(旧国民金融公庫)に入行。約63,000社の中小企業や起業家への融資業務に従事し審査に精通する。
支店長時代にはベンチャー企業支援審査会委員長、企業再生協議会委員など数々の要職を歴任したあと、定年退職。
日本の起業家、中小企業を支援すべく独立し、その後、V-Spiritsグループに合流。
長年融資をする側の立場にいた経験、ノウハウをフル活用し、融資を受けるためのコツを本音で伝えている。
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この記事を監修した人
中野裕哲/Nakano Hiroaki
税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授
税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。
経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。
【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。
中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。
【主な実績】
- 起業支援・経営支援の豊富な実績
- 起業相談件数3,000件以上
- 資金調達支援1,000件以上
- 大企業Webサイト多数監修
- 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)
V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。
税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。





























