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コラム

動物病院の麻酔器・生体モニターに使える補助金|設備更新では通らない理由

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麻酔器・生体モニターの補助金は「単体購入」で落ちる|動物病院が申請前に外すべき3つの落とし穴

麻酔器と生体モニターは、動物病院の手術体制を一段引き上げる投資であると同時に、1台あたりの単価が大きく、複数台をそろえると数百万円規模になりやすい設備です。「補助金が使えるなら使いたい」と考えて情報を集めると、「動物病院で使える補助金5選」といった制度の一覧記事は数多く見つかります。

ところが実際に申請の準備に入ると、制度そのものではなく買い方と計画の立て方のところで対象から外れてしまうケースが目立ちます。特に、分院を持つ2院体制の動物病院では、1院だけで考えていたときには見えなかった条件が後から効いてきます。

この記事では、制度をもう一度並べ直すのではなく、麻酔器・生体モニターという設備に固有の「落ちやすいポイント」を3つに絞って整理します。情報は2026年8月時点のもので、公募回によって要件が変わるため、申請時は必ず最新の公募要領をご確認ください。

「機器が対象外」ではなく「買い方が対象外」になっている

まず前提を整理します。麻酔器や生体モニターという機器の種類そのものが、補助金の対象から名指しで除外されているわけではありません。多くの制度で、対象になるかどうかを決めているのは次の3点です。

  • その投資が「何のための投資か」(省力化なのか、新しいサービスの開発なのか、販路開拓なのか)
  • その設備を「どういう構成で」導入するのか(単体か、複数機器の組み合わせか)
  • 誰が申請するのか(事業者の規模・形態)

麻酔器・生体モニターは、この3点すべてで判断が割れやすい設備です。院内で見れば「安全性を高めるための必需品の更新」ですが、補助金の審査から見ると「既存の設備を新しいものに買い替えただけ」に見えてしまいやすい、という構造があります。ここを理解しないまま申請書を書き始めると、制度選びの段階で無理が生じます。

落とし穴1|単体で買うと省力化投資補助金(一般型)の対象から外れる

手術体制の強化を「人手の負担を減らす投資」として整理すると、中小企業省力化投資補助金(一般型)が候補に挙がります。補助上限は1億円と大きく、機械装置・システム構築費が対象経費の必須項目になっている制度です。

ただし、この制度には見落とされやすい要件があります。対象になるのは「オーダーメイド性のある設備」で、次のいずれかに該当する必要があります。

  • 省力化に資する汎用設備を複数組み合わせることで、より高い省力化効果や付加価値を生み出す場合
  • 事業者の導入環境に応じて周辺機器や構成する機器の数、搭載する機能等が変わる場合

逆に言えば、単に汎用設備を単体で導入する事業は対象外です。ここが最大の落とし穴になります。この制度には「単価50万円(税抜)以上の機械装置等を最低1つ入れる」という設備投資要件もありますが、麻酔器や生体モニモニターを1台買えば金額要件は満たせてしまうため、「金額の条件はクリアしているから大丈夫だろう」と考えてしまいがちです。金額要件を満たしていても、オーダーメイド性を示せなければ対象にはなりません。

この落とし穴を避けるには、機器の型番を先に決めてから理由を後付けするのではなく、院内のどの工程の負担をどう減らすのかを先に描くことが必要です。たとえば麻酔器と生体モニターに加えて、麻酔記録の入力を自動化する仕組みや、複数の手術室・処置室のモニターを1か所で確認できる構成まで含めて設計すれば、複数機器を組み合わせて省力化効果を生む形として説明しやすくなります。

あわせて、この制度は3〜5年の事業計画を組み、労働生産性を年平均4.0%以上伸ばす計画が求められます。賃上げ目標も要件で、未達の場合は達成率に応じて返還が発生しうる設計です。獣医師・動物看護師の採用が難しい状況で計画値だけを高く置くと、採択後に負担が残る点にも注意が必要です。

落とし穴2|「既存機の更新」のままでは革新的新製品・サービス枠は通らない

もう一つの候補が、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠です。この枠は、自社の技術力等を活かして顧客等に新たな価値を提供する新製品・新サービスを開発する取組が対象で、単なる設備・システム導入、既存製品・サービスの生産プロセス改善、同業で既に相当程度普及している開発は対象外と公募要領に明記されています。

麻酔器・生体モニターの導入は、放っておくと「安全に配慮した設備更新」という説明に落ち着きます。これは制度が対象外と定めている書き方そのものです。この枠を狙うのであれば、その設備によってこれまで自院で受けられなかった診療を新たに提供できるようになるという筋道が必要になります。高齢個体やリスクの高い症例の麻酔管理、これまで二次診療施設へ紹介していた処置の院内対応など、提供するサービスの中身が変わることを事業計画の主語に据える形です。

ただし「同業で既に相当程度普及している開発は対象外」という条件もあるため、近隣で一般化している内容をそのまま書いても評価されにくくなります。自院の症例構成や紹介元との関係を踏まえて、どこが新しいのかを具体的に示す必要があります。

数字の目安も押さえておきます。補助上限は従業員規模別で、1〜5人は750万円、6〜20人は1,000万円、21〜50人は1,500万円、51人以上は2,500万円です(大幅賃上げ特例を適用する場合は各850万円/1,250万円/2,500万円/3,500万円)。補助下限は100万円、補助率は中小企業者が2分の1、小規模企業・小規模事業者・再生事業者は3分の2です。機械装置・システム構築費は単価10万円(税抜)以上が対象になります。第1回公募は2026年6月29日から始まり、締切は2026年9月30日18時、採択発表は2026年12月頃の予定です。

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落とし穴3|2院体制だと「事業者単位」の判定で上限区分と小規模判定が変わる

分院を持っている場合に、最も見落とされやすいのがこの点です。補助金の申請と要件判定は、原則として院ごとではなく事業者単位で行われます。2院で同じ麻酔器・生体モニターを1台ずつ導入したいという計画でも、申請は事業者として1本にまとめる形が基本です。ここから、3つの影響が生じます。

1つ目は、補助上限の区分です。前述のとおり革新的新製品・サービス枠の上限は従業員規模で段階的に決まります。1院あたりの人数で考えていると区分を読み違えますが、実際には両院の従業員を合算した規模で判定されます。区分が上がれば上限も上がるため、これは有利に働くこともあります。

2つ目は、小規模事業者持続化補助金の対象判定です。この制度の小規模事業者は、商業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)で常時使用する従業員5人以下と定められています。会社役員・個人事業主本人・同居の親族従業員・日雇い等はカウントしませんが、それでも2院分の常勤スタッフを合算すると5人を超える動物病院は珍しくありません。「1院あたりでは5人以下だから使える」という前提で準備を進めると、申請の直前で対象外と分かることになります。

3つ目は、効果の説明です。同じ設備を2台そろえる計画は、審査側から見ると「同じものを増やしただけ」に映りやすくなります。両院で症例をどう振り分けるのか、どちらかを高度な麻酔管理の受け皿にするのかなど、2台であることに意味がある構成を示せるかどうかで説得力が変わります。

「保険診療は対象外」という情報は動物病院にそのまま当てはまらない

補助金を調べていると、歯科医院や薬局、整骨院向けの解説で「保険適用診療にかかる経費は補助対象外」という記述に行き当たります。小規模事業者持続化補助金の公募要領でも、国が助成するほかの制度を利用している事業と重複する経費は補助対象外とされ、その具体例として保険診療で使用する機械や、保険診療の宣伝も兼ねるチラシ等が挙げられています。

これは公的医療保険(診療報酬)との重複を避けるための規定です。獣医療には人の医療のような公的医療保険の仕組みがないため、この規定を理由に動物病院の設備が一律で外れる、という読み方は当てはまりません。同じく、持続化補助金で対象外になりやすい形態として挙げられているのは医師・歯科医師・助産師、および医療法人・宗教法人・学校法人などで、獣医師はこの列挙に含まれていません。

つまり、人の医療機関向けの記事を読んで「うちも同じように無理だろう」と早々に諦めてしまうのは、動物病院にとってはもったいない判断になり得ます。とはいえ、対象者の要件は公募回ごとに更新されるため、実際の申請にあたっては最新の公募要領と、商工会・商工会議所や支援機関への確認を必ず行ってください。

麻酔器・生体モニターで検討したい制度の整理

制度 向いている投資の形 注意点
中小企業省力化投資補助金(一般型) 複数機器を組み合わせて院内の作業負担を減らす構成 汎用設備の単体導入は対象外。労働生産性年平均4.0%以上と賃上げ要件
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠 これまで提供できなかった診療を新たに始める投資 単なる設備導入・既存プロセス改善は対象外。補助下限100万円
中小企業省力化投資補助金(カタログ注文型) 登録済みの省力化製品をそのまま導入する場合 カタログに登録された製品が前提で、販売事業者との共同申請が原則。上限額は公募回により異なるため要確認
デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) 麻酔記録・電子カルテ・予約管理などのソフト側 登録されたITツールが中心で、診療機器そのものは対象になりにくい
小規模事業者持続化補助金 販路開拓とセットの小規模な設備・広報投資 常時使用する従業員5人以下などの小規模判定。補助上限は基本50万円

小規模事業者持続化補助金は、補助率3分の2(賃金引上げ特例のうち赤字事業者は4分の3)、補助上限は基本50万円です。インボイス特例で50万円、賃金引上げ特例で150万円が上乗せされ、両方の要件を満たす場合は最大250万円になります。麻酔器1台を丸ごと賄う規模ではありませんが、周辺の備品や告知とあわせて使う選択肢として押さえておくとよいでしょう。

発注のタイミングとスケジュールで失敗しないために

最後に、機器の商談が先に進んでしまうことで起きる事故に触れておきます。交付決定日前に行った発注・契約・支払は補助対象外です。採択の通知が届いただけでは事業を始められない点も同じです。麻酔器や生体モニターはメーカーの納期が読みにくく、展示会や決算期の条件提示に合わせて先に発注してしまいたくなる場面がありますが、ここで動くと補助金そのものが受けられなくなります。

スケジュールの目安も確認しておきます。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募は、締切が2026年9月30日18時、採択発表は2026年12月頃の予定です。小規模事業者持続化補助金の第20回は、申請受付開始が2026年11月5日、申請受付締切が2026年12月15日17時です。この制度では商工会・商工会議所が発行する事業支援計画書(様式4)が必要で、その発行の受付締切は2026年12月4日とされています。締切以降の発行依頼はいかなる理由でも受け付けられないため、窓口には余裕を持って相談してください。

よくある質問

麻酔器の買い替えでも補助金は使えますか

買い替えという事実だけで一律に対象外になるわけではありませんが、「今あるものを新しくする」という説明のままでは、多くの制度で対象外の書き方に該当してしまいます。省力化として申請するなら複数機器の組み合わせで負担軽減を示す、新サービスとして申請するなら提供できる診療の中身が変わることを示す、というように、目的を先に決めることが実務上の分かれ目になります。

2院で1台ずつ導入する計画は不利になりますか

不利になると決まっているわけではありません。ただし、同じ設備を並べるだけの計画は効果の説明が弱くなりやすいため、それぞれの院での役割の違いを事業計画に落とし込むことが重要です。従業員規模の判定が両院の合算になる点も、あらかじめ確認しておいてください。

リースで導入した場合はどうなりますか

制度や経費区分によって扱いが異なり、購入を前提としている制度もあります。導入方法を決める前に、検討している制度の公募要領で対象経費の範囲を確認することをおすすめします。

補助金を受け取ったときの経理や税務の処理はどうなりますか

補助金の受領に伴う会計処理・税務上の取扱いは、事業形態や年度によって判断が変わります。この点は税理士の専門領域になりますので、具体的な処理については税理士にご相談ください。

まとめ

麻酔器・生体モニターの導入で補助金を活かせるかどうかは、機器の種類ではなく、投資の目的の置き方と申請単位の理解で決まります。整理すると次の3点です。

  • 単体購入のままでは、中小企業省力化投資補助金(一般型)のオーダーメイド性の要件で外れやすい
  • 「既存機の更新」という説明では、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 革新的新製品・サービス枠の対象外の定義に当たってしまう
  • 2院体制では従業員規模が合算され、補助上限の区分や小規模事業者の判定が1院で考えたときと変わる

そして、人の医療機関向けの「保険診療は対象外」という情報を、そのまま動物病院に当てはめる必要はありません。制度は公募回ごとに要件が動きますので、投資の計画段階から公募要領と支援機関の確認を組み合わせて進めていただければと思います。

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三浦高

この記事を書いた人

三浦高/Takashi Miura

元創業補助金(経済産業省系補助金)審査員・事務局員
中小企業診断士、起業コンサルタント®、
1級販売士、宅地建物取引主任者、
融資・資金調達コンサルタント
行政書士法人V-Spirits 補助者

産業能率大学 兼任教員
2024年現在、各種補助金の累計支援件数は300件を超える。

融資申請のノウハウも蓄積し、さらに磨きを掛けるべく日々事業計画書に向き合っている。

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この記事を監修した人


中野裕哲

中野裕哲/Nakano Hiroaki

税理士法人V-Spiritsグループ代表/税理士/行政書士/特定社会保険労務士/採用定着士/ファイナンシャルプランナー/起業コンサルタント/経営コンサルタント/大正大学招聘教授

税理士法人V-Spiritsグループ代表の中野裕哲は、中小企業経営者のために、税務・会計だけでなく、採用、人事、資金繰り、融資、補助金、助成金、営業、Webマーケティング、売上導線設計まで横断的に支援する実戦型経営税理士です。

経営の悩みは、突き詰めると「人・金・売上」に集約されます。中野裕哲は、大企業人事部、人材紹介会社の採用エージェント、中小企業の財務責任者、大手不動産会社での営業、出版・Web制作による集客導線構築など、幅広い実務経験をもとに、経営者の意思決定を支援します。

【対応領域】
税理士顧問、社労士顧問、補助金支援、助成金支援、資金調達支援、採用力診断、売上導線診断、経営参謀顧問。税務・会計・決算・節税に加えて、経営分析、労務管理、社会保険、助成金、採用体制づくり、融資、補助金、事業計画、営業戦略、Webマーケティング、出版、メディア活用まで一体的に相談できます。

中野裕哲は、家業の倒産危機からの壮絶な貧乏体験を原点に、お金で苦しむ経営者をひとりにしないことを掲げています。資金繰り、採用、売上づくりの壁に対して、経営者目線で伴走します。

【主な実績】

  • 起業支援・経営支援の豊富な実績
  • 起業相談件数3,000件以上
  • 資金調達支援1000件以上
  • 大企業Webサイト多数監修
  • 商業出版著書監修約32冊(累計30万部超)

V-Spiritsグループでは、融資・補助金・金融機関対応に詳しい社内役員チームも伴走します。元経済産業省系補助金審査員・事務局員、元日本政策金融公庫支店長、元信用金庫融資担当営業などの専門家が、補助金申請、事業計画、資金繰り、金融機関対応を実務面から支援します。

税理士顧問、社労士顧問、融資、補助金、助成金、採用、営業、マーケティングまで、経営者が本当に悩む領域をワンストップで相談できます。V-Spiritsグループは、起業支援・会社設立・創業融資・補助金助成金・税務会計・人事労務・許認可・経営顧問をワンストップで支援する、起業家・中小企業向けの専門家グループです。

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